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3.ちょっと待て、その病院は、大丈夫!?

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作者:しょうきち

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「いよォ、お前、あの虹野沙希に告られたんだって?」
「ちげーよ馬鹿。野球だよ、野球部」
「ふーん。お前、野球経験なんてあるんだっけ? 野球の話なんて一度もしたこと無かったじゃんか」
「……昔、少しな」
「へえ、そりゃあ意外だったな。いかにも野球部って感じどころか、エロゲの主人公みたいな髪型してるのにな」
「ほっとけ!」
  休み時間。公人と話しているのは、きらめき高校入学以来の親友(悪友?)の、早乙女好雄である。
  聞くところによると、三年生が全員引退した野球部で、虹野沙希は唯一残された野球部員として、目星を着けた生徒を片っ端からスカウトしているらしいとのことであった。
 そして、昨日公人にしたように、伝説の樹へ呼び出して野球の実力を測る、テストめいた事を繰り返し行っていた。
 しかし、晴れて誰かが野球部へ入部したという話は一向に聞こえてこない。
 勧誘の成果が芳しいものではないことは、明らかであった。
 その中でも、沙希が力強く入部を促した、公人の実力や才能は、中でも格別なものであったらしい。
「しかし勿体ねぇな」
「何がだよ」
「お前、さんざんモテたいモテたい言ってたじゃんか。 今なら野球部に入ったら、あの虹野さんと毎日がエブリデイ・オブ・ザ・デッドだぜ。毎日休み無しで虹野さんと1日5時間365日連続デートだな。ムフフ」
「お前の英語はどんな英語だよ。そりゃまあ魅力的かもしれないけど、俺はもう野球はしないことにしたんだ。実は肘が悪いんだよ」
「へえ、そうだったのか。そうは見えねえけどな。でも、肘って今は治せるんだろ。何だっけ・・・?ロボ・トミー手術だっけ?確か、巨人の桑田なんかも受けてたよな」
「お前は俺を廃人にする気かよ……。トミー・ジョン手術な。あれはリハビリも含めたら完治まで一年二年とかかるんだよ。高校野球でそんなことまで必要になったら、即引退だよ」
「ふーん。ま、でも、少しでも野球に未練があるならもう一遍診察受けてみるぐらいしてもいいんじゃねーの?」
「んー、考えとくわ」

 嘗て野球を諦めていた公人ではあったが、ここ最近野球に触れる事によって、今はまだ種火のようなものながらも、野球への熱がふつふつと涌いてきていることは否めないところであった。

「ええと……、上武医院、上武医院はと……」
 放課後、公人は中学時代にドクター・ストップの診断を受けた病院である上武医院を探し、再診を受けるべく歩みを進めていた。
 あれから丁度、2年が経過している。
「確かこの角を曲がって……、あれぇ?」
 記憶を便りに病院を探すも、そこにはテナント募集中と貼り紙の貼られた雑居ビルしかなかった。
「おかしいなぁ」
 こんなことならスマホを持ってきてナビを確認すれば良かったと、己の物覚えと土地カンの怪しさを嘆いていると、 道路の向こう側から此方へ歩いてくる、見覚えのある少女の姿が見えた。
 そして公人と目が合ったとき、少女はゆっくりと、そして妖艶に唇を開いた。
「あら、公人君、奇遇ね」
「紐緒さん!?」
 歩いてきた少女の名は、紐緒結奈。
 きらめき高校の誇る天才理系少女である。
 長めに伸ばした前髪がトレードマークで、前髪で右目を隠し、 左目はいつも鋭く相手を見据えている。
 普段、学校では夏冬を問わず白衣を羽織っているものの、今日は校外であるせいか、普通のセーラー服で歩いている。
 そのことが逆に新鮮であった。
 彼女は、何も知らなければ、街を歩いていると大抵の人がおっと振り返る程の、クール・ビューティーである。それは間違いない。
 しかし、公人は結奈が苦手だった。
 彼女は電脳部という部活動をひとりで主催し、怪しげな実験に日夜明け暮れており、校内で爆発事件を起こした事は一度や二度ではない。
 さらには、何かの研究と称して人体実験をしているという噂や、果ては世界征服を目指しているという噂すらある。
  流石にそこまでは眉唾だろうと公人は思っていたが、いずれにせよ、真っ黒な話に絶えない危険な女である事に違いはなかった。
 その様な感じなので、きらめき高校においては、彼女のことを苦手じゃない人を探す方が困難を極めるかもしれない。
 公人の緊張感を察したのか、結奈が不意に口を開いた。
「あら、緊張しなくてもいいじゃない。何も取って食おうなんて訳じゃないし」
「ひ、紐緒さんはどうしてここに?」
「大した用じゃないわ。それより貴方に、イイことを教えてあげようと思って」
「イイこと?」
「そ、イイことよ。貴方、ひょっとして上武医院に用があるの?」
「そ、そうだけどちょっと迷っちゃって。紐緒さん、ひょっとして上武医院への道、知ってるの?」
「いや、知らないわ。んー、違うわね。 もう誰も分からないと言った方が正確かしら」
「どういうこと?」
「はい。これを見てごらんなさい」
 そう言って公人に手渡したのは、一枚の新聞の切り抜きであった。
『無免許医、逮捕!』
『10年間で◯×人もの誤診か』
 結奈から手渡された新聞には、そのような見出しが大きく踊っていた。
 日付欄には、数ヶ月前の日付が打たれていた。
「何これ?」
「見ての通りよ。やっぱり知らなかったのね。少しは女の子のお尻ばかりじゃあなくて、世の中の動きも追いかけてみるといいわ」
「え、何、嫌味?」
 結奈は構わず続けた。
「で、この上武医院だけど、何年も無免許で適当な診断を下していたみたいね。この間、ある筋からその事がリークされて、ご覧の記事の通りになったということよ」
「ふうん……、そうだったのか。いや、 教えてくれてありがとう。紐緒さん」
 ある筋というのが仄かに気になったが、公人は素直に礼を言った。
「ちなみに元、上武医院の場所だけど、 場所はここよ。逮捕された後は廃業して、ここはずっと空室のようね」
「そうか、ありがとう。紐緒さん」
「ふふ……、いいのよお礼なんて。 それより貴方、虹野さんからの野球部への誘いを、一旦断りをしたものの、やっぱり野球への情熱を捨てきれなくなって、改めてドクター・チェックを受けるために病院へ来ようとしていた。これで間違いないかしら?」
「何でそこまで察しがいいのか全く分からないけど、大体その通りだよ」
「それならよかったわ」
 結奈は公人に、妖艶な微笑みを見せた。
 そして背後へ目配せし、指をパチンと鳴らす。
 直後、紫色の影が電柱の裏から飛び出した!
「ギョギョーッ」
「うわああっ」
 影か?お化けか?それとも人か?
 背後から現れたのは、頭から紫色の布を被った、ハロウィーンのお化けのような何者かであった。
 そして、謎のお化けは、両手に持った大きく広げた袋を頭から公人に被せた。視界が遮られる!
 ここで、公人の意識は一旦途切れることとなった。

「はっ!?」
 公人が目を覚ましたとき、そこは消毒液と金属パイプの硬質な香り漂う、寝台の上であった。
 レトロ感漂う、大きな振り子時計がチクタクと時を刻んでいる。
「あら、お目覚めね」
「紐緒さん!? ここは!? 一体何が?」
 公人の前には、セーラー服の上に白衣を羽織った結奈がいた。こちらがむしろ見慣れた姿であった。
「ギョギョーッ」
 その隣には、先程背後からいきなり現れた、謎の紫お化けが並んで立っていた。 
 事態が飲み込めず、目をぱちくりさせる公人に対し、結奈は淡々と説明した。
「ここは私の知り合いのオジさんが経営する病院よ。 あ、この子はゲドーくん。この病院の看護師兼アシスタント……、ってところかしらね」
「ギョギョーッ」
「オジさんと言っても親戚じゃないわよ。あ、とは云えいかがわしい関係じゃないわよ。変な想像した?以前ドイツに短期留学に行ったときに色々お世話になって、更に意気投合してね、凄く為になるお話を色々聴かせて貰えたわ。この私が尊敬する程の天才って、地球上に何人いるかってレベルなのよ。そのオジサンがね、最近日本で個人病院を開業したっていうのよ。なのに、患者がなかなか来ないっていうから……、あ、来たわね。博士」
 結奈が長々と話していると、カツカツと神経質そうな足音を立てて、奥の部屋からドアを開け、白髪の老人が公人たちのいる部屋へ入って来た。
 登頂部は禿げ上がっており、かなりの年齢を感じさせる。かなり分厚い眼鏡を掛けており、表情や目付きを伺い知ることはできない。
 そして、結奈と同様に白衣を羽織っていた。
 察するに、この病院(?)の院長だろうか。
 おもむろに、老人が口を開いた。
「ワタシ、どいつから来たダイジョーブ博士デース。貴方の悩み、解決してあげマース」
 ……無茶苦茶胡散臭い。
 公人が老人の風体に怪訝な目を向け続けていると、老人は構わず続けた。
「日本ノ文化、分かってマース。沈黙、即ち同意デース」
「ギョギョーッ」
「何でそうなる!?」
「サァ、貴方の悩みを言ってくだサーイ。何でもデキマース。おすすめハ、神カ悪魔二魂ヲ売ッタカノヨウナ超ぱわーヲ得ラレル、 すぺしゃる能力開発こーすデース」
「え……と、肘を診て欲しいだけなんですけど……」
 何か不穏すぎるワードを告げられた気がしたが、公人はその部分はあえて聞かなかった事にして、本来の目的を告げた。
「オゥ、お安い御用デース」
 ダイジョーブ博士と呼ばれた老医者は、思いの外テキパキと触診、超音波診断、レントゲンと、必要な検査項目をこなしていった。
 あっという間に検査を終えると、結奈に待合室で座っているよう指示された。
 ダッシュボードを抱えた結奈が、公人に告げた。
「検査結果が出るまで、15分くらい待っててね」
 患者は他に誰もおらず、公人にとっての体感時間は、その数倍に感じられた。
 ひたすらに不安を抱きながら待っていると、ちょうど15分程が経過したところで、再び診察室に来るよう、結奈に呼ばれた。
 診察室へ入室した公人は、今度は室内の普通の丸椅子に座り、 ダイジョーブ博士から検査結果を告げられることとなった。
 デスクには、神妙な表情の博士が座っていた。
「それで、結果は……?」
「結果ハ……、オゥ、コレハ……がらすノ肘デース」
「え!?」
「シカシ、がらすハがらすデモ、防弾仕様の強化がらすデース。タトエ銃撃ヲ受ケテモ平気デショウ。何ノ問題モ有リマセーン」
「本当ですか!? ……これで野球が、出来るっ!」
「良かったわね。公人くん。やはり上武医院の診断は、タチの悪い誤診だったみたいね」
「タダシ」
 ダイジョーブ博士が告げた。
「オホン、トハイエドモ、成長期二無理ハ禁物デース。モシ今度違和感ヲ感ジタラ、早メノ受診ヲおすすめシマース」
「博士、分かりました。何かあったら、また来させていただきます」
「ソノ言葉、覚エテオキマース」
「ギョギョーッ」
 博士の牛乳瓶の底のような眼鏡が、ギラリと光ったような気がして、ゲドーくんが両手で袋を広げる姿が見えた。
 次の瞬間、公人の意識は再び途絶えた。

「あれ、ここは……」
 再び意識を取り戻したとき、公人は元・上武医院の路地に佇んでいた。
「何があったんだっけ……。よく思い出せない……。 ま、気にしない事にしよう」
 仄かな頭痛が残るものの、公人は何事も無かったかのように家路へついた。

「さ、明日になったら、改めて虹野さんに野球部入部を申し込みに行こう」
 こうして公人は、虹野沙希率いる、きらめき高校野球部への入部を決意することとなったのであった。
 しかし、公人はまだ知らなかった。ここからは一筋縄では行かない、パワフルな野球生活が待ち受けている事を……。

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