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12.二人の思い出

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作者:しょうきち

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 きらめき高校、 野球グラウンド。
 高見公人は、投げ込み用のネットに向かって、一人黙々と投げ込みを続けていた。
 内、外、高め、低めと、 更にはストレートだけではなく、スライダー、SFF(スプリット・フィンガード・ファストボール)等の、一通りの持ち球を投げ分け、投球練習を続ける。 しかしこの日は、普段球を受けてもらっているパートナーである早乙女好雄が、補習授業のために昼まで来ない。そのためか、公人の投げる球も精彩を欠き、やや荒れ気味であった。
「ふう、ここらでひとつ、休憩とするか」
 一通りの持ち球を様々なコースへと投げ終えた後、 公人はベンチへと戻ってひとりごちていた。汗を拭こうと、スポーツバッグからタオルを取り出そうとすると、 スマートフォンの通知欄がテカテカと光っている事に気が付いた。
「何だろ、誰かな」
 スマホを手に取り、スリープモードを解除すると、メッセージの差出人は好雄である事が分かった。通知アイコンをダブルタップすると、好雄からのメッセージが表示された。
『悪ィ、用事が出来たから午後の練習はフケるぜ。練習、ガンバれよ!』
「あ、の、野郎~! 虹野さん来ねえからって、サボって帰りやがったな~!」
 バシィ!とスポーツバッグの中へスマホを叩き付け、公人は憤慨した。何せ、こうなると今日はずっと一人で練習を続けなければならないのだ。そうなると公人としてもモチベーションが上がらず、実の入った練習にはならないのである。
(……困ったな。俺も帰ろうかな……。いや、 このままじゃいまいちスッキリしないぞ。ああ、誰か、誰か俺の球を受けてくれる人はいないのか……)
 公人は思案に暮れていた。誰か別の人を呼ぼうにも伝手が無かった。先日引退した元主将のどえがき先輩や北先輩は、公人にとってはあまり親しくない上にそもそも連絡先を知らなかった。
 そんな中、公人の脳裏にはある人物の顔が思い浮かんだ。
(……! いたぞ、一人だけ!)
 はっと閃いた公人は、今しがたぶん投げたスマホを再び取り出し、高速でメッセージを入力した。
『火急の様だっ!』
『頼む、ウチの近所の公園に来てくれ』
 ショート・メッセージ・サービスにはそれだけ入力して送信し、荷物を纏め、公人は自宅近くの公園へと向かった。

 公園で待つこと、十数分。メッセージを送ってから30分程度が経過していた。
「アイツ、まだかな……」
 やがて、息を切らしながら走って公園へとやって来たのは、赤みがかったロングヘアをヘアバンドで纏めた美少女であった。
 公人の幼馴染みにしてクラスメイトの、藤崎詩織である。Gジャンにショートパンツと、 夏らしい活発そうな服装てある。
「ハァ、ハァ、急用だなんてどうしたの、公人」
「詩織! 急に来てもらって悪いな。これを受け取ってくれ」
「ええ……? きゃっ!」
 言いながら、公人は詩織にミットを投げて渡した。やや戸惑いながらも、詩織はそれを両手で受け取った。
「ち、ちょっと待って、深刻な様子だったから走って来たのに、話が全然見えないわ。それにどうしたの、そのユニフォームは?」
「ああ、言ってなかったっけか? これは野球部のユニフォーム。俺、また野球を始めることにしたんだ」
「ええ~っ、そうなの? 私、聞いてなかったわよ」
「虹野さんに誘われてさ。改めてメディカルチェックも受けて来たけど、肘の方は問題ないってさ」
「あら、そうだったのね。嬉しいわ。公人が野球する姿ををもう一度見れるなんて」
「何言ってんの。今日はお前がやるんだよ。好雄が帰っちまって、受ける人が誰もいないんだ」
「私、野球なんてもう何年もやってないわよ」
「昔取った杵柄って言うだろ? 詩織ならすぐに体が思い出すよ」
「もう……公人ってば……」
(何だかんだ言いながらも、バッチリやる気を見せてくれる辺り最高だぜ、詩織)
 口では不満を言いながらも、詩織は既に、実に嬉しそうに、屈伸したり肩を回したりといった準備運動を進めていた。
「それじゃ詩織、準備はいいか? 早速始めようぜ」
「オッケー、公人。でも、巧く捕れるかしら……」
「心配するなよ。始めは緩めのキャッチボールからいこうぜ。

 十球程、軽く投げて肩慣らしをした後、公人は本気の球を詩織に放った。全力ストレート、高速スライダー、SFF、スローカーブと一通りの球を投げると、詩織は初見で難なく捕球して見せた。いや、難なくというのは正確では無く、時折取りこぼしも有ることは有るのだが、兎に角後ろに逸らす事が決してないのだ。

「やっぱ、詩織は流石だな。普段受けてもらってる好雄でも、こうはいかないぜ」
「私が教えてあげた変化球だものね。何年たっても、公人の球筋は誰よりも分かってるつもりよ。それにしても好雄くんは、あんまりキャッチングは得意じゃないのかしら?」
「あいつ、ストレートならどんなに速くてもきっちりキャッチするけど、変化球になると怪しいんだよな。スライダーやフォークとかは、2球に1球はポロリするぜ」
「好雄くんは、捕手が本職なの?」
「いや、 あいつ何処でも出来るって豪語してたけど、本職は外野手だって言ってたなぁ」
「それなら大したものよ。長い目で見てあげるるべきよ。私だって昔は、公人の球を補逸しないように、相当練習したんだから」
「そう言えばそうだったよな。あの頃はありがとな、詩織」
「ほら、見て。今思い出したんだけど、こっちの樹。中学の頃、一緒に自主連してた所よ、ここ。毎日ボールを当ててた跡が、今でもくっきり」
 詩織が指差した大樹の幹には、硬球大の窪みがくっきりと穿たれていた。
「本当だ。コレ、すっかり忘れてたよ」
「あの頃は、球速も同じくらいだったのにね」
「今じゃ、俺の方が10キロぐらい速いかな?」
「言ったわね~。じゃあ次は、私のピッチングも受けてもらおうじゃない」
「おうっ、望む所だぜ!」

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