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7.時事ネタ

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作者:しょうきち

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 砂浜には、ゴルフのバンカー・ショットを放った時のような砂煙が、幾重にも立ち上っていた。
「なあ……、公人……」
「トライよぉっ! やったぁ、望ちゃん、ナイスパス!」
「どうした……、好雄……?」
「やったね、沙希。次は私から行くよっ!」
「俺、もう足腰が動かないよ……」
「ほらほら、どうしたの2人とも。さっきから足が動いてないわよっ!」
「安心しろ……、俺もだよ……」
 
 およそ、2時間程前のことである。
 普通の女子高生であれば、この場でもしボールを取り出すとすれば、それは精々がビーチバレーのボールであったかもしれない。しかし、今日この場にいるのは根性の申し子、虹野沙希であった。
 「今日はこれで遊びましょ」と言った沙希が、ショルダーバッグから取り出したのは、楕円形状のボール。すなわち、ラグビーボールであった。
 沙希の提案とは、今日は『ビーチラグビー』という競技をやってみようという事だったのである。
 ビーチラグビーとは、その名のとおり、 砂浜で行う少人数タッチラグビーである。
 本来の公式ルールにおいては5人1チームで行われる競技であるが、今日は2対2でプレイしていた。
 ジャンケンの結果、チーム分けは公人・好雄チームと、沙希・望チームとなった。
 ラグビーの基本的なルールをざっくり説明すると、攻撃側と守備側に分かれ、攻撃側は相手陣のインゴールにボールを運べば得点となる。
 ビーチラグビーが通常のラグビーと違うのは、守備側はタックルではなく、ボール保持者に対しタッチすることによって攻撃を止める事ができる点である。(細かい差異は多数あるが、ここでは割愛させていただく)
 そして、タッチによる攻撃ストップを、5回繰り返せば攻守交代となる。
 これを潜り抜けながら、攻撃側はパスやランを効果的に使い、ボールを敵陣まで運んでいくのだ。
 ビーチラグビーは、タックルがなく安全なことから、大人から子供まで男女共に幅広く楽しめるビーチスポーツである。
 愚かな野郎共2人は、この、ビーチラグビーを始めてから2~3ゲーム頃までは、2人の水着美少女を相手になんのかんので合法的にタッチ出来、組んず解れづのムフフなプレイを楽しめると思っていた。だが、次第に表情は青ざめ、そのような期待は泡となって消えていった。
 ビーチにおける砂の重さは、一般に想像されるよりも遥かに脚力を削る。
 始めの数ゲームこそまともなゲームになっていたものの、砂上における疾走の繰り返しに、公人や好雄は少しずつ動きが鈍っていった。
 鍛え方やスタミナでは圧倒的なものを誇る女子2人(特に望)に対し、男子2人がタッチどころかまともに追い付く事すら出来なくなるまでに、それほど時間はかからなかった。
(あ……、これじゃ、ダブル・デートじゃない……。只の別メニューのハード・トレーニングだぜ……!)
 そのような残酷な事実に気付いてしまったのも、無理なからぬ事である。
 やがて体力を使い果たし、生まれたてのカモシカのように、ぷるぷると両脚を震わせる公人、立つことすらできず、膝からドシャアと崩れ落ちる好雄を見て、遂に沙希は助け舟を出したのだった。
「好雄くん、公人くん、 望ちゃん、それじゃ、そろそろ休憩にしましょうか」
「ひい、ひい……や、やっと……きゅう……け……」
「お弁当もあるわよ。少し早いけど、お昼にしましょ?」
「ウヒョぉっ!  やったあ、虹弁だあっ!」
  膝をつき、突っ伏していた好雄はバネ細工のように跳ね起き、レジャー・シートの敷かれた一行の荷物置き場へと駆けていった。
「あらあら、現金なんだから。まだまだ元気、有り余ってるわね」
 
「夏場だし、簡単なものでごめんね」
 沙希が取り出したランチ・ボックスには、色とりどりのサンドイッチが納められていた。
 アメリカンクラブハウスサンド、ローストビーフサンド、アボガドサンドといった、種々様々なサンドイッチが並んでいた。それらは一見手軽に見えながらも、どれもこれも沙希の手によるひと手間が加えられていたのである。
「うまい、う・ま・い・ぞォー!」
「ほらほら、まだまだあるわよ。はい、お茶よ」
 口からメガ粒子砲でも吐き出さんかの勢いで絶賛しながらサンドイッチを口一杯に頬張るのは、好雄である。
 沙希は、それを見て満足そうに微笑んでいた。
「沙希、これ、本当に美味しいね。私さ、大会前で食事とか気を付けてるんだけど、たんぱく質中心で、しっかり考えられてる」
「えへへ、 望ちゃんにそう言って貰えると、早起きした甲斐があるわね」
 これまでは時折挨拶をする程度の仲であった、 沙希と望であったが、ここ最近の朝マラソンやビーチラグビーを通じて、すっかりとお互いを下の名前で呼び合う程の仲となっていた。これが女同士の友情である。
 
 ランチタイムを終え、海の家で買ってきたタピオカミルクティーを飲みながら、暫く全員でのんびりしていると、おもむろに沙希が立ち上がり、口を開いた。
「望ちゃん、 私達と野球部で一緒に甲子園を目指してみない? 望ちゃんなら、日本一の5ツールプレイヤーになるのも夢じゃないわ」
 望が返答をするよりも先に、タピオカを盛大に噴き出しながら公人が言った。
「ちょ、待って、虹野さん!? 何をバカな事を言ってるんだ! 清川さんは日本一の水泳選手だよ!?」
「分かってるわ。公人くん。でも、私の直感が言っているの。清川さんがもし野球をやれば、間違いなく一流プレイヤーになれる。甲子園さえも夢じゃなくなるわ」
「そりゃそうかも知れないけど、虹野さん……」
「そうだ、無茶だぜ。それに清川さんは、日本水泳連盟の指定を受けた、オリンピック強化選手だぜ。スポンサーの絡みや、契約とか色々あるんじゃないのか!?」
「……よし、いいよ。入ってあげる」
「ほら、無茶言うから清川さんだって怒って……、って、えっ!?」
「本当!? 望ちゃん、入ってくれるの?」
「ただし」
「ただし?」
「あの島まで、 私に付いてこれたらね」
 そう言って望は、海の向こうを指差した。
 指差した先には、水平線に程近い、肉眼で何とか見えるかどうかという辺りに、岩で出来た島が見えた。
 カンカン照りの太陽はいつの間にか雲間に隠れ、暗雲が空を覆い始めていた。

 挑発的な望の提案に対して、沙希は天真爛漫な笑顔で応えた。
「え~っ、本当にいいの?」
「バ……、虹野さん!?  そいつは失礼過ぎるぜ!」
「でも、望ちゃんは冗談で言ってないわよ。そうでしょ?」
「ええ、本気よ」
 そう言いながら、望は羽織っていたセーム・タオルを投げ捨て、準備運動の伸脚を始めた。タオルがハラリと砂上に落ちた。
 本気で泳ぐモードに入ったためか、 望の全身からは煙が立ち上らんが如く闘気が発散されている。
 そんな望の姿を見て、公人は思った。
(清川さん……、こりゃ大分頭に来てるか……? ……いや、違うな。なんのかんので、こういう勝負事が大好きなのかな?)
 ぐるんぐるんと両腕を振り、体を左右に捻りながら、望が言った。
「さあ、全員で泳ぐかい? それとも誰か一人が勝負する?」
「公人くん」
「……嫌な予感がするけど、何だい虹野さん」
「野球部の運命、あなたに任せたわ!」
「マジすか……」
「本当は私が責任を持って勝負しなくちゃいけないところなんだけど、その……、泳ぎはあんまり得意じゃなくて……。だから公人くん、ここは私達の中で一番可能性のある、貴方にお願いするわ。野球部の未来のために!」
「スマン、公人。俺も泳ぎはあんまり得意じゃないんだ。今回はお前に任せたぜ!」
「好雄……、お前……、逃げたな?」
 好雄は明後日の方向を向きながら、口笛を吹いていた。
「やるしかない……、か……」
「さ、準備はいいかい? 島にたどり着くまでに一度でも私まで追い付けたら、公人の勝ちでいいよ。それじゃ、行くよっ!」
 そう言うと、望は浜辺へ駆け出し、海中に飛び込んで泳ぎ出した。あっという間に公人達の視界から望の姿が遠ざかっていった。
「あ、待ってくれ、清川さんっ! うおおおおっ!!」
 沙希と好雄が見守る中、公人は猛然と海に飛び込み、望の後に続いて、視界の彼方に見える無人島を目指し泳ぎ出した。
「頑張れーっ!」
「足つんない様、気を付けてなー」
 沙希と好雄の応援が海岸に響き渡る。
 やがて、沙希たちの視界からは泳ぐ2人の姿が見えなくなっていった。
 
 そして、浜辺には沙希と好雄の二人が残された。折を見て、好雄が口を開いた。
「虹野さん、これで俺達、二人っきりだね……。折角だし、俺達二人で一緒に遊ばない?」
 好雄はこのタイミングを期に、沙希との仲を深めようとしていた。公人たちがいなくなった隙を狙った、 清々しいまでの抜け駆けである。
「そうね……、よし! 好雄くんはまだまだ元気が余ってそうだし、今日は本格的に別メニューのトレーニング、やってみよっか? まずはスプリント・ダッシュ50本ね!」
「げえっ!?」
 しかし、そうは問屋がおろさなかったのであった。ちゃんちゃん。

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