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18.EP3―⑨ ~堕ちたリトグラフ~

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作者:しょうきち

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 ここは北関東にある、とある地方都市。
 東京から電車で一時間半ほど北上した先にあるこの街であるが、郊外に大型ショッピングセンターが出来て以来、駅前商店街はすっかりシャッター通りと化している。
 いや、今とあってはそれすら一昔前の話で、そのショッピングセンターが近年の不景気により経営合理化━━つまり撤退と相成ってからは、 年金暮らしの老人が時折煙草でも吸いながら散歩しているだけの、誰も顧みる事の無いゴーストタウンと化していた。
 絶望感と死臭漂うこの商店街にあって、新たな商売を始めようという奇特な者たちがいた。
 地方創生に燃えるバイタリティ溢れる新鋭気鋭のベンチャー起業家━━などであろうはずがなく、その正体はヤクザである。
 シャッター街を抜け、メインストリートから一本裏手の路地へ回ると、そこにはギラギラとしたどぎついネオン輝く性風俗店がびっしりと軒を連ね、欲望を溜め込んだ男たちの群れが行き来する風俗街が広がっている。
 この街に目を付けたヤクザは、最早何年前に営業を止めたのかもわからない古い店舗を格安で買い取ったり、場合によっては元の家主を非合法な手段で追い出しておいて、 次々と風俗店をオープンさせていたのである。
 料金的に格上のソープランドやファッションヘルスもあるが、圧倒的に多いのは廉価なピンクサロンである。風営法の縛りを受けるソープやヘルスと違い、ピンサロは飲食店許可のみで営業できるため、開店のための敷居が低いのであった。
 そんな路地裏の一角にあるピンクサロン『リトグラフ』。この店は、平日昼間は20分3,980円、17時からは1,000円上がって4,980円、20時からラストまでは5,980円(入会料、指名料は共に別途2,000円)という料金体系の格安店である。
 外からの光が入ってこない薄暗い店内は、今日もムワッとした異様な熱気に包まれている。
 フロア内では耳をつんざく様な大音量でユーロビート調の音楽がエンドレスに流れており、上部中央に掲げられたミラーボールが、睦み合う男女を密やかに、そして艶やかに彩り照らし出している。
 ところ狭しと敷き詰められたソファの上では、薄い衝立越しに男女の嬌声と粘膜を啜る卑猥な音が幾重にも響き渡っている。
 そんなソファの一角。
「はい、あーん……ンムゥッ」
 一際献身的なフェラチオで男性客に奉仕する、一人のピンサロ嬢がいる。
 肉茎を根元まで咥えこみ、上目遣いに頭部を小刻みに揺すって奉仕する。眉根を寄せ、小鼻を膨らませ、悩ましく紅唇を締め付ける。
 絶えず官能的な音色を響かせながら、口内では舌を怒張にぴっちりと巻き付ける。うっとりとした笑顔を浮かべながら、グロテスクな肉茎を心底愛おしそうにに愛撫してゆく。
 奉仕を受ける好色そうな男が、いやらしい笑みを浮かべている。スケスケのキャミソールドレスの裾を捲り上げると、スィートブルーのTバックに包まれた形のいいヒップが露になり、悩ましくフリフリと揺れる。
 そのピンサロ嬢は、男のペニスをしゃぶりあげる事が何よりの幸せといった、夢見心地な表情で奉仕に耽っていた。
 双頬をべっこりとへこませたバキュームフェラで、勃起しきったペニスを吸いたてる。
 吸引力は強くとも、頭の振り方はゆっくりであった。さっさと出して帰ってね、といったぞんざいなサービスではなく、まるで愛する男性を相手にしているかの如く真心がこめられている。強くゆっくりとペニスを吸いたてながらも、口内でチロチロと舌先を動かしていた。
 男の感じるツボをきっちり抑えた手練手管で、客の男はのけぞらずにはいられなくなった。否応なしにみるみる射精感がせり上がり、男は顔を真っ赤にして呻いた。
「オホゥッ……! アー、ヤバいっ! も、もうっ……」
「んんん……ンあっ、我慢しないで……。いっぱい出して下さいね」
「ううっ、あぁ、出るッ!」
 呻きながら出した精液を、そのピンサロ嬢は口内で全て受け止める。ニッコリと笑いながらテイッシュに吐き出すと、小刻みに震えているペニスを再び口唇にくわえこみ、その残滓を拭っていた。
「んっ……れる、れろ、むはぁ、はぁ……今日もいっぱい出ましたね。替えのおしぼりを持ってきますから、そのままで待っててくださいね……」
 そのピンサロ嬢は、吸い出した残りの精液をうっとりとした表情で呑み込むと、使用済みおしぼりの交換の為に一旦席を後にしていた。
 彼女が虹野沙希、その現在の姿である。
 きらめき高校を卒業しておよそ10ヶ月。先日19歳の誕生日を迎えたばかりである。
 調理師になる夢を叶えるため専門学校に通っていた沙希であったが、半年ほど前からはこのピンクサロン『リトグラフ』でピンサロ嬢として働いている。専門学校にはもうずっと通っていない。
 シャワーのないピンクサロンでは、精々おしぼりで拭いた程度で客の性器やアヌスを舐めたり、逆に録に洗ってない客の手で自身の性器を触らせたりしないといけない。
 沙希の仕事ぶりは献身的で、どんな不潔・不快な男が客であっても決して手を抜かずアヌスから亀頭まで丁寧にしゃぶりあげると評判であった。出勤頻度の高さも相まって、店内でも毎月売り上げ一、二位を争う人気嬢である。
 背中が大きく開いた水色シースルー地のキャミソールドレスを纏い、暗闇でも映える濃い目の化粧を施した姿はすっかり風俗嬢然としており、たまらなくエロティックである。

 休憩時間となった。
 狭く、薄暗い待機室では幾人ものピンサロ嬢達がひしめいており、常連客にメールを飛ばしたり、営業用の風俗ブログの更新に勤しんだりしている。今は17時を回ったあたりであり、早番から遅番へと切り替わる時間帯である。
 むせ返りそうな女の匂い、きつめの香水と煙草の煙とが充満した待機室内は、早番勤務を終えて帰る嬢、気だるそうに欠伸を噛み殺しながら出勤してくる嬢と、その様態は様々だ。
 沙希はほとんど毎日、早番・遅番の両時間帯にまたがるシフトで休みなく働いていた。
 控え室では、こうした早番・遅番ダブルシフトの嬢のためにデリバリーの弁当とパックのミネラルウォーターのセットが届けられている。
 沙希はそれには手を付けない。節約のために自前の弁当を持参している。ズボラな人間の多いこの業界にあっては珍しい事である。汚ならしくガツガツと仕出し弁当をかきこむ同僚ピンサロ嬢を尻目に、沙希は携帯を手に取り、メッセージを打ちこんでいた。相手は常連客などではない。
(ええと……、『シンくん、元気かな? 私も一生懸命働いてるから、また一緒に暮らせるように頑張ろうね。根性よ』と……。送信っ! ふぅ……)

 高校を卒業した後、沙希は約束通りシンと共に半同棲状態の暮らしをしていた。しかし、シンの金使いの荒さやすぐに手が出る暴力性はとどまる所を知らず、沙希は心のどこかで言い知れない不安を抱えていた。それを言えばまた殴られるかと思い、何も言えなかった。なにも言わず、もっと献身的に真心をもって振る舞えば、シンももっと穏やかで真面目な男になってくれる、そう信じて過ごしていた。やがて、乱暴な事をされたり他所の男へ沙希の身体を差し出すような非道な真似は、かなり頻度が減っていった。
 しかしそんな日々に、ある日突然ピリオドが打たれた。
「オラァ、シンは何処だっ! 居るのは分かってるんだぞっ!」
 突如沙希の自宅に押し入ってきた男は、そう言うと押し入れやバスルームを乱暴に開け放ち、隠れてやり過ごそうとしていたシンを捕まえ、乱暴に手首を捻り上げた。そのまま沙希共々『事務所』と称する廃ビルとしか思えない建物へと連れていかれ、数日間に渡り監禁を受けた。
 どうして自分が、自分達がこのような目に会わなくてはならないのか、全く訳が分からずに泣いてばかりいたが、断片的に語り聞かされたところによると、彼らは本物のヤクザであり、シンはその準構成員的な立場である。そのためシンは日常的に事務所に入り浸っていた。しかしある日、事務所の金庫から金が無くなり、調査の結果シンが犯人であることが分かったのだという。ショッキングな事実に言葉も出なかったが、沙希はその様な事情は一切聞かされておらず、シンから金銭の類が流れていたということもない。つまり完全なとばっちりで、このような扱いを受ける謂れなど一切無いのだが、本職のヤクザ者にとってはその様な事は関係なかったのである。
 監禁されて三日目の朝、最早涙も枯れ果てようとしていた頃、気付けば目の前に何か芋虫のような物体が転がっていた。大きさは人間大で、よく観察するとなにやらうめき声を上げている。その正体は、徹底的なリンチを受け、半死半生のまま放置されていたシンであった。
「ひっ……!」
 身体中にガムテープを巻き付けられ、顔は血まみれで原型を留めていなかった。周囲に溢れ落ちた血痕が、リンチの壮絶さを生々しく物語っていた。
 沙希は顔面蒼白となり、声をあげることも出来ずにガタガタと震えていた。窒息してしまいそうな息苦しさであった。
 再び男たちが部屋へとやって来た。
「こいつ、どこに埋めます? いつもの山でいいすか?」
「いや、あそこは前も行ったし、最近大雨で地盤も緩んでるからな、別の場所がいいだろう」
「じゃあ、あっちすか。遠いからカッタルイんすよねえ。帰り、ラーメン屋行きましょうよ、ラーメン屋。ナントカ屋っていう、箸が立つぐらいスープ濃いやつ」
「なんだ、ラーメンでいいのか。あそこの国道沿いのよ、回転寿司に連れていってやろうと思ってたってのに」
「え、マジすか。悩むなあ……」
 男たちは昼食をラーメンの回転寿司のどちらにするかについて本気で悩んでいるようであった。人間一人を埋める場所など、最早もののついでのようである。
 埋める……。つまりこのまま、シンも自分も、殺されて埋められてしまうという事か。沙希は恐怖した。死にたくない、殺されたくない。そう思いつつも声ひとつでないどころか、指先一つ動かすことが出来なかった。
 特に体格のいい男が、シンの身体を担ぎ上げようとした。そのとき、沙希は反射的に叫んでいた。
「お、お願い、止めてぇっ!」
 その一声に、男たちの視線が沙希へと注がれた。
「あぁ……!?」
「あっ……な、なんでも、何でもしますから、こ、こ、殺すのは許して下さい。お金なら何年かかってもっ……、どんな事をしても返しますからっ、お願いじまずっ……!」
 最後の方は最早呂律さえも回らなかった。
 それを聞いた男たちは、顔を見合わせてゲラゲラと笑った。
「ぶ……ふ……ブハハハハッ!」
「え……、ええ……!?」
「おい、いいか、お嬢ちゃん。お嬢ちゃんは殺しやしねえよ。殺したって一円にもなりやしないからな。ほんの暫く……まあ何年か、出稼ぎに出てもらう程度だよ。まあしょうがねえ、分かるな?」
 沙希はコクコクと頷いた。出稼ぎという言葉が何を指しているのか気が気でならなかったが、逆らうことは許されない。逆らえば目の前で横たわるシンと同じようになるだけだ。
「だが、こいつはダメだ。俺達にも面子ってモンがある。こいつはそれに泥を塗ったんだ。落とし前ってやつをつける必要がある。誰も通らないような山奥まで連れていってよ、きっちり息の根を止めてから深ーく穴を掘って、そん中に埋めるんだ。浅いと野犬なんかに掘り起こされちまうからな」
「そ、そ……、そこまでする必要があるの……?」
 沙希は勇気を振り絞って言った。次の瞬間殴り倒されてもおかしくない。そんな覚悟がなければ言えない台詞だった。
「はぁ~っ……」
 男は溜息をつき、後頭部をポリポリとかきながら言った。
「そんなにこの男が気になるのか? 何人もの女を食い物にしてきたこいつがよ」
「えっ……!?」
「なんだ、知らなかったのか? こいつはよ、バンドマンの卵でも居酒屋店員でもねえ。女を引っ掻けては風俗やAVに売り飛ばすのが仕事の、ホンマもんの女衒……。ハッキリ言って、人間的にはクズの部類に入る」
「そ、そんな……」
「お嬢ちゃんもこいつと付き合ってたら、遠くない内に何処かに売り飛ばされてたかもな。俺達に感謝しろよ。まあ、俺達が代わりに売り飛ばしてやるんだけどな、ブヘヘヘ」
「そ、それでも……、それでも死んじゃうのは嫌よ……。お願いします……。殺さないで……。私が……どんな事をしても、私が何倍でも働きますから……」
 沙希は泣きじゃくりながら土下座していた。
 ヤクザの男から伝えられたシンの本性は衝撃的ではあったが、シンが……幾度となく愛し合った男がこれから殺されてしまうというのは、どうしても耐え難かった。たとえ自身の命に替えても、救わなければならないような気がした。
 ぐるぐる巻きになったシンの身体を少しだけ引き起こし、ヤクザの男が言った。
「おい、シン。お前の女、お前みたいなクズのために、何でもしてくれるってよ。今時いねえよ。凄いいい子だなぁ……」
 シンの反応は無い。
「何とか言ったらどうなんだっ!」
 男の拳が、口に巻かれたガムテープにめり込んでいた。勢いのまま、ベリベリと剥がす。
「こ、殺さないで……命だけは……。ま、魔が差しただけなんれひゅ……」
 シンは折れた歯と血が混じった唾液を飛ばしながら言った。アンモニア臭が鼻につく。小便も漏らしているようであった。
「おい、聞いてたか。お前の女な、お前の分まで働いて、金返してくれるってよ。殺すのは勘弁してやる」
「ほ、本当れふかっ!?」
「言うまでもねえが、お前にも暫く出稼ぎに出てもらう。ちょうど福島の方に人手不足の現場があるんだ。そこで10年くらい働いてこい」
「あ……ありあほうごらひやふ……!」
「シン君……!」
「さあ、行くぞ。お嬢ちゃんはこっちだ」
「あっ……、シン君……」
 ヤクザの男二人が沙希の両脇を持ち、無理やり立たせられる。そのまま沙希は連れていかれる事となった。
 そしてこの時が、シンの姿を見た最後の瞬間となった。
 沙希が連れて行かされたのは、東京から電車で暫く北上した先にあるなんの変哲もない地方都市であった。東京から遠ざかる程にビルが見えなくなり、民家も少なくなって、稲刈りを終えた田んぼばかりが続いている。
 駅看板を見ても、聞いたこともないような駅名で、ここが北関東なのか東北地方なのかさえもよく分からなかった。
 駅を出ても人通りはまばらで、地方にありがちなシャッター街が広がっている。しかしその先へ連れていかれると、異様な光景に沙希は驚愕した。
 電飾に縁取られた派手な看板に、ファッションヘルスやピンクサロンの大文字。まるでこの一角だけ池袋か渋谷辺りからコピーしてきたかのような光景である。
  唖然としている沙希であったが、ヤクザの男に案内され、その中にある一つの店舗に入るよう促された。看板には、まるで米国のお菓子に使われるようなどぎつい虹色で『リトグラフ』と書かれていた。店内からは、大音量のユーロビートと、甘ったるい香料の匂いが漂ってきていた。
 
 これが約半年前の出来事である。
 おんぼろではあるものの寝起きするための寮と、連絡用にと携帯電話も与えてもらえており、表向きは健康で文化的な最低限度の生活を保証されているようにも見える。だが、仕事を休む権利は一切認められなかったし、何よりこの街にたどり着いたその日からさせられた仕事は、生きているのか嫌になる程の過酷さであった。
 そんな中辛うじて沙希が正気を留める支えとなっていたのは、毎日欠かさず最低一通は送るシンへのメッセージであった。
 最初の頃は『ごめん』とか『俺の事は忘れてくれ』とか、『死んで詫びる』とか、ネガティブな内容の返信が返って来ていたので、沙希は殊更にテンションを上げ、シンを元気付けるような内容を意識してメッセージを書いていた。
 だが、ここ10日くらいは返信が無い。
 元々返信はまばらであったが、これ程長いのは初めてだった。既読も付かなかった。
(きっと忙しくて、メッセージ見れないのね……。寂しくないよ。私も頑張るからね……)

 ピンクサロン『リトグラフ』では、夜8時以降、秘密のスペシャルタイムが解禁となる。
「さあ、スペシャルタイム、入りまぁ~す!」
 フロア内にマネージャーのアナウンスが響き渡る。
 それと同時に店内にかかっていたユーロビート系BGMが一旦止まり、代わりに流れ出したのは退廃的な雰囲気漂う、北欧系ブラックメタル調の音楽であった。
 そして、フロア内の唯一の光源であった中央上部に取り付けられたミラーボールは、BGMのチェンジと同時にフッと光を消した。フロア内の光源はほぼ皆無となり、ほとんど目の前も見えない程の暗闇に包まれる。だが、欲望にまみれた男女の醸し出す怪しげな熱気は、よりヒートアップしていた。
 暗転したフロア内。ドゥン、ドゥンと奏でられる8ビートのリズムに乗って、各ソファ上ではピンサロ嬢達が脚を開いて客の上にまたがり、妖しく腰をくねらせている。
 一般的にピンクサロンでは本番行為が許されていないが、このスペシャルタイム中において真っ暗になった店内に乗じて、一部の嬢が生挿入サービスを施しているのは公然の秘密であった。
「うああ……エロ過ぎるよこの腰遣い。お……俺、もう我慢出来ないよ!」
「アッ、駄目よっ……。そんなに動かしちゃ……」
 沙希も他のピンサロ嬢たちと同様、ソファに座る常連客の上にまたがっている。脚を広げ、対面座位の体勢でリズムをつけて、クネクネとヒップを大胆にくねらせていた。
 ドレスの裾をたくし上げ、盛り上がった股間のテントの上に乗ると、薄手の生地越しに『挿入したいっ』という強い意思を嫌が応にも感じる。そんな渇望感にも似た欲求が蜜部を通じて伝搬したのか、沙希もぬるぬると滑り良く蠢く腰で淫靡なグラインドを繰り返し、頬が生々しいピンク色に上気していく。
 男の指は深々と沙希の尻肉へと食い込んでいる。沙希の全身が、じっとりと汗で濡れていた。
「う……へへへ。い、いいだろっ、ヤらせろよ! どうせ色んな客のを咥えこんでんだろ?」
「やぁん、ダメェ。ここはそういうお店じゃないの……」
「ほら、いいだろいいだろ。みんなヤってるんだし、あんたの身体だってこんなにヤりたいってヌルヌルになってるんだからさぁ」
「んんんっ! もう、内緒よぉ……」
 男の言葉に、沙希の身体が一瞬ビクンと跳ねる。電流にも似た甘い痺れが脳髄を駆け抜けていった。
 沙希はこれまでにも幾重もの客と同様の言葉を交わしていた。手慣れたやり取りであったが、誰に見られているとも知れぬ、公衆にさらけ出されたら一発で破滅するかも知れない背徳感が程よいスパイスとなり、沙希の理性を一層ドロドロに蕩けさせてゆくのだ。
 客の男が、スラックスのホックを外しいきり立った肉棒を露出させる。
 沙希はそれを絶妙な愛撫でしごき上げると、Tバックの紐をずらして腰をひねり、自らの秘裂へと導いた。
「あ……っ……!」
 眉根を寄せ、沙希は長い睫毛をフルフルと震わせると、音楽に合わせ、見せつけるように腰を8の字にくねらせる。そうしておいて官能の高まりを煽ると、男の唇から呻き声が漏れ出す。やがて我慢できなくなった男が挿入をねだり、股間をじわりじわりとくねらせる様を満足げに見下ろすと、沙希はゆっくりと腰を落としていった。
「んぁぁ……」
 まずは亀頭だけを呑み込み、小刻みに腰を震わせる。割れ目で亀頭をしゃぶりあげるように、肉と肉を馴染ませていった。
 滴るほどに濡れた蜜壺が、男根とこすれ卑猥な音を立てる。 結合が深まるごとに、男根の固さが生々しく伝わってくる。
 店内の妖しい雰囲気と共に限界まで高まった性感は、沙希の中で否応なしに切なく燃え上がり、肉層は貪欲にペニスを飲み込んでゆく。
 蔦のように絡み付く粘膜は、沙希の意思など無関係にペニスを飲み込んでゆく。先端が子宮口まで到達した瞬間、息が止まり、沙希の肢体がバウンドした。
「あっ……はぁっ……!」
 一番奥まで呑み込むと身体を起こしているのが辛くなり、沙希は男に体重を預けて覆い被さっていった。頭部を愛おしげに掴み、髪を撫でながら唇を重ねた。
 男の手がキャミソールドレスに差し込まれ、沙希の乳首を弄り出していた。
 挿入状態で乳首を刺激されると、意思とは無関係に痺れるような快感が走り抜ける。指の間でギュムと乳首を潰されると、ピクンと腰が跳ね上がった。それが呼び水となり、腰の上下運動が始まった。ヒップを振り立て、勃起しきったペニスをしゃぶりあげる。膣壁に引っ掛かるカリの感触を楽しむようにゆっくりと引き抜き、下ろすときは一気に腰を落とす。
 客の男も顔を真っ赤にさせ、下から律動を送り込んでゆく。お互いに動きあって、性器と性器をねちっこく絡み合わせた。
 身体の芯が燃えるように熱くなり、全身の素肌から甘ったるい発情の汗が吹き出してくる。腰部の妖しいうねりがいよいよ淫らさを増してゆく。
「んアァ……んハァン」
 沙希は無我夢中になって腰を振り立てていた。汗ばんだ乳房を揺らし、身震いして快感を噛み締める。
 やがて腰を振り立てるピッチが上がってゆく。左右の乳房をもみくちゃにされ、乳首をつまみ上げられると、沙希の頭の中は真っ白になった。
「んぁぁ……いゃっ、いやいやいやっ……」
 髪を振り乱し、浅ましい程に腰を振り立てる。
 男が沙希の尻肉を抱きすくめ、ガクン、ガクンと杭打ちに入った。
 最後のクライマックスを迎え、二人の興奮はがっちりと噛み合う。呼吸をするのも忘れ、歯を食いしばる。全身の肉という肉が小刻みな痙攣を始め、自分の身体を自分で制御できなくなる。
「オオオ、オ……」
「あ……すごいっ、いいッ!」
 熱い迸りが沙希の秘奥を灼いた。
 ドクン、ドクンと白濁がせり上がり、名も知らぬ男のザーメンが子宮へと注ぎ込まれてゆく。ギュッと目を瞑ると、瞼の裏では虹色の花火が乱舞していた。痺れるような快感が両脚の間から脳天まで突き抜けてゆく。快楽に身を震わせながら沙希は、果てしない淫らな奈落へと堕ちていった。

 ほんの少し前までは野球部マネージャーとして男子達に混じり、グラウンドに咲いた一輪の花として清らかな汗を流していた沙希。
 最早その様な面影など何処にも見当たらない程に枯れ果て、腐り墜ちてしまった。
 もうあの頃の、青春の日々には戻れないのだ。
 沙希はこの破滅的な悦楽に身を任せ、堕ちるところまで堕ちて行く事に、倒錯的な快感を覚えていた。

EP3 おわり

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