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3.図書委員の仕事

アクセス数: 1107

作者:ブルー

 放課後の校舎――。

 前が見えないほどの書籍を両手で抱えて、詩織がフラフラと廊下を歩いている。
 つんのめるようにしてバランスを崩して前へと倒れる。
「しっかり前を見て歩かないと危ないぞ」
 偶然通りがかった世原が転倒寸前だった詩織の体を支える。
 たるんだ小太りの体型。無愛想なウシガエルを思わせる顔で覗き込む。
 詩織は悲鳴をあげそうになったのをなんとか我慢した。
「えっ、あ……先生」
「気をつけろよ。芸能人が顔にケガでもしたら大ごとだぞ」
「あの……手が……」
 世原の手がちょうど詩織の胸を掴んでいた。
「おっと、スマンスマン」
「いえ、不可抗力なので」
 詩織はその場にしゃがむと、床に散乱した本を拾う。
 世原もたるんだお腹をつっかえさせながらしゃがんだ。
「藤崎は図書委員だったな」
 集めた本をまとめて抱えた。
「図書室でいいのか」
「自分で運びます」
「またコケたらどうする。担任の責任問題だ」
「すみません」
 実際、これだけの本を抱えて階段を上るのは詩織には難しい。

 図書室まで来ると、世原は本を置いて大きく息を吐いた。
 広がった額に薄っすらと汗を浮かべる。ぜい肉のついた体では、荷物を抱えて階段を上がるだけでも息が上がるのだ。
「あとは私が本棚に並べるので」
「他の図書委員はどうした。姿が見えないが」
「みんな帰ったみたい」
「藤崎一人に仕事を押し付けてサボりか」
「いままで図書委員の仕事をほとんどできてなかったので」
 もともとはクラス委員だったが、芸能活動が忙しくなり比較的負担の少ない図書委員に交代してもらった経緯がある。
 詩織はパソコンを使って返却された本の確認作業をはじめる。
 他にも延滞している本のリスト作成がある。
「手分けして並べてやるか」
「本当に大丈夫です」
「ここまで来たついでだ。可愛い生徒を見捨てるわけにいかないだろ。口が滑った。藤崎が可愛いといってるわけじゃないぞ。最近はセクハラだのパワハラだのうるさいからな」
「はい……」
「生徒がみんな藤崎みたいだったら教師の仕事も楽なんだがな。とにかく二人でやれば作業時間も半分で終わる」
「じゃあ、奥の部屋にまだ本があるので」
 親切を断るのも変な話だと、詩織は考えた。
 世原と協力して決まった場所に本を並べる。
 高校の図書室といっても教室を4つ繋げたほどの広さがある。それだけ本の種類も多い。
 本棚の高い場所は詩織が脚立に登って、世原が下で支えた。
 詩織はまったく気づいていないが、世原の視線は自然とスカートの中を覗くことになる。
 純白のショーツに包まれた、瑞々しいヒップラインに目が止まる。
「色は白か」
「なにかいいましたか、先生?」
「いや、独り言だ」
「??」
「つぎはあっちの棚か。下でしっかり押さえているから安心しろ」
「あ、はい」
 ・
 ・

「とてもたすかりました」
 すべての本を並べ終えて、詩織はお礼をいった。
「図書委員の仕事も重労働だな。上がったり下りたり、いい筋トレになる」
「そのぶん素敵な本にもたくさん出会えるし」
「藤崎はどんな本が好きなんだ」
「恋愛をテーマにした詩集とか。最近だと女性作家のエッセイとか」
「思春期の女子高生らしいな。スポーツ新聞や雑誌があれば毎日来るんだがな」
「はあ……」
 それではマンガ喫茶みたいだと、詩織はあきれる。
「藤崎は彼氏はいないのか。アイドルだしモテモテだろ」
「……いません」
「恋愛禁止だったな。気になってる男子ぐらいはいるだろ」
「とくに」
 詩織は素っ気なく返事をした。
 すでに下校時刻になっていた。
「時間も遅いし先生の車で送ってやろう」
「せっかくだけど、家まで遠くないし」
「遠慮するな。校門に出待ちのファンがいるかもしれないだろ」
「……待っててもらえますか。教室の荷物を取ってきます」
 ・
 ・

 世原の運転する車が詩織の家の前で停まる。
「ついたぞ、藤崎」
「先生??」
 膝の上に学生鞄を置いて助手席で寝落ちしていた詩織は、肩を揺さぶられて目を覚ました。
 眠たそうに目をこする。
 学校を出た時はまだ明るかったはずなのにすっかり暗くなっている。
 途中、コンビニに寄って世原がジュースをおごってくれたところまでは覚えているのだが、そこで記憶がプッツリと途切れている。
 気のせいか制服が乱れ、体がムズムズする。
「ごめんなさい……いつのまにかウトウトしてたみたい」
「おかげで藤崎の寝顔が見れた」
「やだ……変な寝言をいってませんでした」
「ぜんぜん。よだれを垂らしてたぐらいか」
「本当ですか!?」
 詩織はあわてて口元をぬぐう。
 たしかに口の周りがベトベトしていた。
「グフフ、冗談だ。人気アイドルがイメージダウンだったな」
「先生までびっくりさせないでください」
「気持ちよさそうに寝てるのを起こすのも悪いと思ってな」
「ありがとうございます。家まで送ってもらって」
 詩織は車を降りると足早に家の玄関に入った。

コメント

  1. pncr より:

    まちがって4話目を投稿してたのを修正しました。

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