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2.公人と詩織

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作者:ブルー

 夕方前――。
 学校から帰った公人(なおと)が自室でのんびりしていると、下でチャイムの音がした
「はーい。宅配かな」
 階段を降りて玄関を開ける。
 私服に着替えた詩織が立っていた。
 襟付きのシャツにチェック柄の巻きスカート。公人を見てやさしくほほ笑む。
「こんにちは。いまひま?」
「どうしたんだよ、俺んちに」
「幼馴染が訪ねてきたのにどうしたはないでしょ」
「えーっと……上がる?」
「おじゃましまーす」
 二階へと上がる。
「ちょっとここで待ってて」
 公人は先に部屋に入ると、床に転がっていた衣類や本を片っ端から押し入れに放り込んだ。
 ゴミ箱が空なのをしっかり確認した。

「感心感心。うまく隠したみたいね」
「つーか、来るなら来るって教えろよ」
「なつかしー。子供の頃は毎日遊びに来てたわよね」
 詩織は懐かしそうに部屋の中を見回す。
 公人は勉強机の椅子に座る。
「あ、これ。小学校の卒業アルバム」
 詩織が本棚にある卒業アルバムを見つけた。
 詩織の部屋にもまったく同じ物がある。
「おぼえてる? 入学式の日に校門のところで並んで写真を撮ったったの」
「あの頃は詩織のが身長高かったよな」
「中学でいつのまにか抜かされたのよね。朝寝坊なのは変わらないけど」
「出来のいい幼馴染が近くにいると、つい自堕落な生活になるんだよ」
「むずかしい単語をつかっちゃって。教室で好雄くんとなにを話してたの」
 詩織は耳元の髪に手をやる。
 友人よりも近くて恋人よりも遠い距離感で公人を見つめる。
「べつにー。世界経済についてとか」
「男同士の秘密の相談?」
「そんなところだな」
「もしかして好きな子とかできた?」
「なんだよ急に」
「なんとなく。長いこと学校を休んでたでしょ」
「いるわけないだろ」
「ふーん、いないんだ……」
 詩織はホッとしたような顔をする。
「俺より詩織はどうなんだよ。仕事が忙しいんじゃないのか」
「期末試験があるでしょ。ドラマの撮影も終わったし、しばらくは学校に通えるように事務所にスケジュールを調整してもらったの」
「へー」
「なにもいってくれないの?」
「へーっていっただろ、いま」
「ほんとはうれしいくせに」
「べつにー。教室が明るくなった感じはするかな。みんな詩織に会えるの楽しみにしてたし」
「素直じゃないのね」
「お互い様だろ」
「べつにー。公人のマネ」
「演技は素人だな」
「ひっどーい。ドラマの監督さんに褒めてもらったのに」
 詩織は口元に手を当ててクスクスと笑う。
「CM撮影にドラマにコンサートでしょ。ほんと仕事仕事で寝る暇もなかったのよ」
 リラックスした様子で両腕を伸ばして背伸びをする。
 詩織にとってはひさびさの平穏なのだ。
「それだけ人気あるってことだろ。いいことじゃん」
「それはそうなんだけどね」
「見たよ、歌番組」
「ほんとに? 変じゃなかった? 途中の振付をミスしてたの」
「アイドルって感じだった。ヒラヒラの衣装で、俺の知ってる詩織と別人みたい」
「ファンが求めるイメージ通りに演じるのがアイドルの役目なのよ。生放送は台本があってね、進行が遅れると巻きのサインがすぐに出るの」
 詩織は右手を回してADがする巻きの動作をしてみせた。
「まるで業界人みたいじゃん」
「こう見えて業界人だし」
 詩織は倒れるように公人のベッドに寝転んだ。
「あー、疲れた。このまま寝ちゃおうかな」
「自分の部屋があるだろ」
 窓の外、手の届く距離に詩織の部屋が見えている。
「2時間ぐらいしたら起こして……?? なにかしら?」
 詩織がゴソゴソとする。
 枕の下にあった雑誌を見つけた。
(やばい!!)
 公人は焦った。
 例のアイドル雑誌を隠してあったのを忘れていた。
「これ……私の。見てくれたんだ」
 詩織は折り目のついたページを開く。
「ごめん。昨日、コンビニで見つけて」
「いいのよ。アイドルになるって決めた時点で、こういう仕事があるのもわかってたし。わざわざ買ってくれただけうれしい」
「そ、そういうもんなんだ」
「今度、写真集とイメージビデオを出す企画もあるのよ」
「清純派なのに?」
「事務所の方針みたい。新人だしNGはいえないわよ。はじめての水着撮影ですごく緊張して、いっぱい失敗しちゃったけど」
「芸能界も大変だな。詩織は要領がいいからなんでもうまくこなしてそうなのに」
 どこかのプールで、水着姿の詩織が大勢の大人たちに囲まれて撮影をしている場面を公人は想像した。
 きっと雑誌に載った写真以外にもたくさんのカットを撮ったのだろうと考える。
「どのページが一番気に入った? よかったら参考に教えて」
「プールサイドに寝そべって、右ひざを曲げてるヤツかな」
「ふーん。公人はこういうのが好みなのね」
 詩織はベッドに仰向けで寝そべり、グラビアと同じポーズをした。
 公人の方を向いて、悪戯っぽい笑みをする。
「どう? 水着に着替えてほしい?」
「バカいうなよ」
 グラビアの本人が目の前にいるのだ。
 スカートから伸びた色白い太腿を食い入るように見つめる。
 あとちょっとで下着が見えそうだ。
「すこしは大人っぽくなった?」
「う、うん……すごく色っぽい」
「公人に私の専属カメラマンをしてもらおうかしら。なーんちゃって」
 かわいらしく舌を出して詩織はからかう。
「あんまり幼馴染をからかうなよな」
 どもりながら公人は勃起した下半身を必死で隠した。

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