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5 見てしまった彼女

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作者:kazushi

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 撮影がある日中は食事も含めてなんだかんだとバタバタしてしまうものだが、撮影のない夜になってしまうと食事以外は、途端に手持ち無沙汰になってしまう。これがまだ撮影スタッフなら明日の準備だの打ち合わせだのでそれなりに忙しいだろうが、基本的には指示を受けて動く立場の理奈には特にやるべきことはないから尚更だ。
 ――否、やるべきことはひとつだけある。弥生にセッティングしてもらった、今夜八時の由綺との約束。それはバーベキューの時に見たアレについて、つまりは青山との関係について彼女に深く問い糾す絶好のチャンス、なのだけど――
(解ってはいるんだけど……聞きたくもない答えばかり聞かされそうって考え出したら、動くのが怖くなっちゃったのよね)
 あと一時間もすればその約束の時間だというのに、今の理奈はルームサービスでの夕食にもほとんど手をつけられないまま、ただ悶々と考え続けることしかできないでいた。ただ考え続けるだけではなんにもならないことは解っている。解ってはいるけれど動く勇気が持ちきれないのは、今日の撮影での由綺の淫靡さに圧倒されてしまったからだ。
 撮影中にバイブを嵌めていただけでも大概なのに、カメラの前で理奈を性的に襲ってくる始末だ。愛撫の仕方やキスの手管も実に手慣れていて、青山による調教具合が垣間見えるのがどうにも辛い。そこまで堕ちる前にどうにか止めることができていれば――そう悔やんでしまうこともあるが、そもそも彼女がここに来た時には既に今の状態になっていたのだから、自分になにかできていた道理はない。理奈にとっては、その事実こそがなによりもやるせなかった。
 だから、今からでも由綺のためにできることをしたい。親友を青山の魔の手から救えるなら少しくらいの恥辱も耐えてみせる。そう思っていたのだけれど――もしも由綺がそれを求めていなかったらどうすればいいのか。理奈の懸命の行為がただのお節介でしかなかったら……
 もちろん、そうではないと由綺を信じている。けれどサイパンに着いてからの変貌振りを見てしまうと、その自信が揺らいでしまっているのも事実だった。だからこそ『緒方理奈』らしくもなく、こうしていつまでも迷っているのだ。由綺から決定的な言葉を聞いてしまいたくないから。
「…………ホント、なにやってるのかな私」
 きっと、撮影初日で弥生も含めた三人にやり込められたことも影響しているのだろう、弱気の虫がらしくもなく鳴いている。この半年の冷遇ぶりは、どうやらそこまで彼女にダメージを与えていたらしい。これでは由綺の変貌振りをどうこう言えないと、口元に自嘲の笑みが浮かんだ。
 ――本当バカみたいだ。この現状を変えたくて気に食わない仕事でも我慢して引き受けたというのに、どうしていつまでも弱気を抱えてしまっているのか。こんな程度のメンタルで一流アイドル? 笑わせないで欲しい。
「情けないぞ私。頑張れ緒方理奈。こんな程度でヘタレていたら、それこそ兄さんにバカにされるんだから」
(って、元々その兄さんのせいで私は今こうなってるんだけど。ホント、兄さんにはさっさと出てきてもらって愚痴を聞いてもらわないと。この分だととんでもない量が貯まってても知らないんだから――)
 気合いを込めて頬をぴしゃりと叩く。ひりひりするその痛みで感情をむりやりにリセットさせる。我ながら乱暴で強引すぎるやり方だと思う理奈だったがそれでも効果はあったようで、さっきまでのもやもやもどこかに消えて気分もすっきりとしていた。
 そう、たとえ由綺が青山から逃げることを求めていなくても知ったことか。私が――『緒方理奈』が『森川由綺』のそんな姿を見たくない。それだけで、彼女に手を差し伸べる理由には充分すぎるだろう。
「そうと決まればまずは腹ごしらえね。腹が減っては戦はできぬって言うもの、しっかり食べておかないと」
 気分の切り替えに成功するなり体が空腹を訴えてきた――具体的には腹の虫が鳴った――ので、今まで放置しきっていた夕食を再開することにする。クリームソースのかかったパスタに白身魚のムニエルと付け合わせのサラダ、カップスープ。さすがにルームサービスだからレストランで出されるものに比べれば落ちるのは否めないが、それでも理奈には充分なボリュームだし冷めた割に味も悪くない。惜しむらくは、これを温かい状態で食べられなかったことくらいか。
(……でも、クスリが入れられてる可能性が高いモノを食べるよりはマシ。……かな?)
 本当にそんなものが入っているかは正直解らないけれど、ここに来てからの体の妙な火照りを考えれば用心しすぎるにこしたことはないだろう。
 そんなことを考えながら、あっという間にすべての料理を平らげてしまう理奈。まるで欠食児童のような勢いに少し恥ずかしくなりながら、それでも停滞していた精神状態が戻った証拠だと――そう思う余裕ができたことにほっとする。
 そこで腕時計で時間を確かめてみると、約束の時間まで十分ほどだった。いいタイミングだと思いながら、手早く歯磨きだけ済ませて部屋を出る。ついでに、食べ終わったルームサービスの食器をワゴンに載せて外に出しておく。
「…………さて、と」
 無人の夜の廊下は静かだった。なにげない呟きがよく響いて聞こえるほどに。その中を意識して足音を立てないように理奈は歩いていく。なにせ彼女の部屋と由綺の部屋の間にはなぜか青山の部屋が挟まっているのだ。万一青山に気づかれて、貴重な機会を邪魔されるわけにはいかないのだから。
「ホント、余計なことばっかりしてくれるんだから。……どうせイヤらしいことを考えてこの配置にしたんでしょうね、あの変態さんは」
 由綺は言わずもがな、理奈に対してもあわよくばと狙っていることは見え透いている。そのことを思うと部屋のドアを思いきり叩きまくってやりたいところだが、さすがにこの場は自重しておくしかない。
 そうして青山の部屋の前を無事通り抜けて、由綺の部屋の前に辿り着く。腕時計を確認すると、七時五十八分を指していた。指定時間には少しだけ早いが、誤差の範囲内だから問題はないだろう。そう判断して彼女がノックしようと手を振り上げたところで、「…………?」ドアが――なぜか――開いていたのか、中から声が小さく聞こえてくる。それも、複数の声が。
 時間をもう一度確かめたが、八時をちょうど告げたところで間違いない。弥生が指定したのも今晩八時に由綺の部屋でいいはずだ。由綺に話がいっていない――というのも考えづらい。ならば、先客が来ていてまだ居座り続けているとか?
「……まさか」
 嫌な予感がした。その予感に急かされるように、理奈はそっとノブに手を掛けて音を立てないようにドアを開き、静かに室内へ忍び込んだ。バスルームとリビングルームには人の気配はない。声が聞こえるのは、どうやら奥のベッドルームのようだ。そこに通じるドアもわずかに開いてることに気づいて、彼女は罠に誘い込まれる鼠の気分を味わいながらも、それでも動きは止めずに気配を殺しながらドアに体を張りつかせた。
 よりはっきりした声と粘着質な水音らしき音を耳に入れながら、そっと隙間から室内を覗き込む。
 そこに広がっていたのは――
「ああ、気持ちいいよ由綺。そこ、裏筋の辺りもっと舐めてくれるかな?」
「ふぁい、ご主人様。んむ……じゅぷっ……ちゅる……ぷはぁっ。……どうですか?」
「いいね。ホントに由綺はボクがして欲しいことを全部やってくれる、実に優秀な淫乱肉奴隷だよ」
 そう言いながら青山が優しく頭を撫でると、由綺は嬉しそうに咥えたチンポに舌を這わせる。そうやって全裸になった二人がベッドの上で絡み合う、そんな淫らな光景だった。
「――――、…………」
 頭が真っ白で、なにも考えられなくなる。そうなってる予測はできていたけれど、それでもいざ実際に由綺が青山のモノになっている光景を目の当たりにしたことで、理奈に与えられたショックは大きすぎた。
 そして、彼女が呆然と我を失っている間にも、二人のまぐわいは進んでいく。由綺の口からチンポを抜くと、青山はそのまま由綺をベッドに寝かせる。そして足を開いて待ち構える濡れそぼったオマンコへ、太く逞しいペニスを一気に挿入させる。コンドームをつけることもなく、生のままで。
「ああぁぁぁぁぁーーーーーーっっっっっ!!!!!」
「なんだい、もうイッちゃったのかい? ちょっと早過ぎるんじゃないかな?」
「……だって、ずっとご主人様のモノが欲しくて堪らなかったんです。そこに一気に突っ込まれちゃったら、耐えられるわけないですってば。これも、ご主人様のオチンチンが凄すぎるのがいけないんですよ」
 媚びるように言い訳する由綺の口を青山の口が邪魔するように塞いだ。そのまま淫らなピストン運動に入る男の背中に、女の腕が堪らなさそうに回される。情熱的にキスを貪りあい、強く求めるように抱きあって、ぶつけ合う腰の動きを同調(シンクロ)させるその姿は、レイプや調教というよりも恋人同士のものに近く見えてしまい、理奈はそれ以上その光景を見ていられなくなってしまった。
「あっ、あっ、ああん。スゴイ、いいのぉ。もっと、もっと突いてください。ああ、奥も感じちゃうの♪ 」
 淫らな声から逃れるようにその場から離れ、リビングルームを這うように通り抜け、そしてようやくの思いで入口に辿り着く。音を立てないように、なんて配慮はとっくに消え失せたまま、理奈は脇目もふらず目の前のノブを掴み、開いたドアから這々(ほうほう)の体(てい)で廊下へと転び出るのだった。
「……なんでっ? なんでなんでなんで? なんでなのよっ……?」
 無意識に悲嘆の言葉を口に出しながらよろよろとドアを閉めて、ようやく淫肉同士がぶつかり合う卑猥な音と由綺の喘ぎ声とが彼女から遠ざけられる。……はずなのに、今も可愛らしくもはしたない淫声が耳に聞こえてくるのは、どうしてだろうか。
 それから逃れようと廊下を這い進む理奈だったが、一部屋分進んだところで力尽きてしまう。力なくドアにもたれかかったところで、弱々しく目が閉じられた。
『――でも理奈ちゃんも青山さんに抱いてもらったら、きっと解るから。早くそうなるといいね』
 今日の撮影で、去り際に残した親友の言葉が耳に甦る。あの時はその意味を理解することを頭が拒否してしまったけれど、そのものずばりを目の前に突きつけられてしまっては理解する他なかった。……自分もそうなりたいとは思いたくもないし、そうなることを想像さえしたくないけれど。
 でも、理奈もそうなることを由綺が望んでいたとしたら――たとえば今朝の光景も意味が変わってしまう。
「あれって……つまりはそういうアピールだったってこと? 考えたくないけど、でも辻褄は合うのよね」
 生理痛がひどいからと、ピルを飲んでいると言った由綺。もしもその理由が生理痛になかったとしたら? 生で青山のチンポを受け入れていた以上、中出しもされているに違いない。だとしたら避妊の手段として使っている物を理奈に勧めた理由は? その結論を言葉(かたち)にしたくはないが、つまりはそういうことなのだろう。
「……なにやってるのよ由綺。そんなんじゃなかったはずでしょ、あなたは……」
 同じ事務所で鎬を削り合っていた頃を思い出し、彼女は思わず悲嘆に満ちた呟きを漏らしてしまう。と、小さな足音が静寂を破ったのに気づき顔を上げると、ホテルの従業員がルームサービスの食器を下げに来たところだった。
「……Are you OK?」
「Sure,I’m OK.Thanks」
 黒人の青年――蓬髪(ほうはつ)で割と美形だ――が首を傾げながら聞いてきたので、問題はないと英語で返しておく。すると彼はこちらの顔を見つめ、次いで彼女がうずくまっているところの部屋番号を確かめ、最後に廊下に置かれたルームサービスの食器を載せたワゴンに視線を移すと――意味深に嗤いながら――、「Have fun on your fuck」と言い残しつつ、ワゴンを引っ張り去っていくのだった。
「fuck、ってちょっと待ちなさいよ。もしかして、誤解されてるわけ? 冗談じゃないわよホントに」
 もしかしなくても、この部屋の主――青山が帰ってくるのを待ち構えていると誤解されたのだろうか。だとしても性的な方向をすぐに連想するのは、ちょっと飛躍しすぎではないのか。たとえ、今の彼女が本当に青山が出てくるのを待ち構えているのだとしても、セックスしているのは由綺で、それも隣の部屋でなのだから。
 ――そこまで考えたところで、ずきんと胸が痛んだ。刺すようなその痛みにうなだれると、理奈は再び目を閉じた。今はこれ以上なにも考えないように。余計なものが見(きこ)えないように。
 そうして、それからしばらくの間彼女は動かず、ただ黙って待ち続けた。
 やがて隣でドアが開く音がして、誰かが廊下に出てくる。腕時計を見ると、九時を少しだけ回っていた。
「あれ、理奈ちゃんどうしたの? あー、もしかしてボクに用事があったりしたのかな? だったらゴメンね。ちょっと由綺ちゃんと打ち合わせがあってさ。それが思いの外長引いちゃって――」
「一時間、ううんもしかしたらそれ以上かな。ずいぶんと、お楽しみだったみたいですね」
 へらへらと調子よく話しかけてきた青山だったが、立ち上がった理奈の棘の生えた声であっという間に真顔になると、やれやれと肩を大仰にすくめる。
「……なんだ、見られてたのか。それならごまかす必要もないね。そう、由綺とたっぷり愉しんできたところだよ。それで、それを見てた理奈ちゃんがボクになんの用だい? ああ、もしかしてキミも同じことを」
「私はただ由綺との約束を潰されたことに文句を言いたかっただけよ」
 二回続けて青山の言葉を遮ってみた理奈だったが、相手が予想外に苛立つ様子は見せず――それどころか――むしろ面白がる様子を見せたのは、少し意外だった。
「『約束を潰されたことに文句を言いたかっただけ』、ねぇ。それは申し訳なかったけど……本当にそれだけかい? ボクに文句を言うだけなら、わざわざ一時間も廊下で待ってる必要はないだろ? 明日に回したっていいはずだ。それなのにボクをやり過ごして由綺のところに行くわけでもなくこうして待ち構えていたってことは、なにかもっと言いたいことがあるってことだよね?」
 そしてもっと意外で腹が立つのは、青山の指摘が的のど真ん中を射抜いていることだ。……そんなに解りやすいのだろうかと、思わず彼女も渋面になってしまうくらいに。
「解ってるなら単刀直入に行きますね。――由綺には二度と手を出さないでください」
 だから、斬りつけるように要求を訴えるのにも、一切躊躇が入らなくて済んだ。
「いやいや、これは直球だね。理奈ちゃんらしいというかなんというか」
 その直球振りにさすがの青山も苦笑を隠しきれないようだったが、
「オーケー、理奈ちゃんの要求は解ったよ。でもひとつ言わせてもらうけど、ここではいそうします、なんてボクが答えると思ってるかい?」
「……もちろん、思ってないわよ。それで、どうしたら私のお願いを聞いてくれるようになりますか?」
「そうだね。理奈ちゃんが一生ボクのモノになってくれて、いつでもどこでも好きなだけハメさせてくれるなら、考えてみてもいいかな」
 余裕たっぷりにゲス全開の発言をしてくれる。対して理奈も、負けじと言い返してみた。
「成程、青山さんの要求は解りました。――それで、はいそうします、なんて私が答えると思ってますか?」
「……いいね、そうこなくちゃ。少しは歯ごたえがないとボクもつまらないし。ああ、もちろん思っちゃいないよ。ただボクが理奈ちゃんにして欲しいことを言っただけだからね」
 不敵に笑うと、青山は髪を掻き回しながら少し声音を真剣なものに変えて続けてくる。
「とりあえず誤解されてると困るから言っておくけど。ボクと由綺の関係はレイプでも脅迫でもなくちゃんと彼女の合意を得ているから、そこはちゃんと解って欲しいな。ま、間違っても恋人じゃないからセフレになるんだろうけど、それでも独身同士なんだから非難される謂われはないよね。少なくともその点で理奈ちゃんにどうこう言われる筋合いもないと、ボクはそう思うよ」
「…………」
「じゃあ、理奈ちゃんはどうするか。簡単なのはスキャンダルとしてどこかに売り込むと脅迫して、そうさせない代償としてボクらの関係を破棄させること――だけどこれは意味がないよね。どうしてか解る?」
「そんなことをしても困るのは由綺だけで、青山さんの方にダメージは行かないから……」
「ご名答。いや、もちろんボクも困ったことにはなるよ。なるけど――写真集のためと言えば一応の格好はつくし、宣伝にだってなる。実際その側面もあるから、尚更だ。だったら次は金で買収するかい? でも悪いけど、お金ならボクの方が持ってるんだ。腕力だって権力だってボクが上だし、ああ困ったな。理奈ちゃんが代価としてボクに差し出せるモノなんて、その女体(からだ)くらいしかないんじゃないかな」
 どこか芝居じみてきた男の言葉に。彼女はげんなりと顎を落とす。結局青山が求めてくるのはそれだろうと、最初から解ってはいたけれどうんざりするのは止められない。止めるべきはその行動だと、理奈は頭を働かせながら口を開いた。
「……確かに、私については青山さんの言う通りかも。でも、ひとついいですか。青山さんと由綺との関係そのものに口を挟む権利はなくても、その在り方に注文をつけるくらいはありじゃないですか? たとえば撮影の間だけでも、由綺に手を出さないようにするとか。撮影の準備だってありますし、それくらいなら青山さんも我慢できますよね。だったら、私がなにかをする必要はないと思うんですけど」
 もちろん、その関係ごと潰したいのが理奈の本音だ。ただそれが難しい以上、せめて期間限定でも行為を止めさせて、その間に由綺を説得できれば、と。そう思っての提案だったが、
「ああ、うん。理奈ちゃんがよく考えて少しでも隙を突こうとしてきたのはよぉく解ったよ。でも残念ながら、男の性欲ってのはそうそう我慢できるものじゃないんだよ。……これが普通なら、もしかしたらなんとかなったかもだけど。今回の撮影の場合、毎日『大人の女』に変わっていく姿をすぐ近くで見ているわけだからね。それも二人も。正直なところ、ボクも限界いっぱいなんだよ。今は由綺に処理してもらってるから耐えられてるけど、それを我慢しろと言われたら堪ったもんじゃないよ。別のモノは堪りまくりだけどね」
(……下ネタ、最低ね)
「だから、ボクが由綺に手を出さないようにするとしたら、代わりにボクの性欲を処理してくれる誰かが必要になるわけだけど。もし理奈ちゃんがそれを用意してくれるなら、由綺に手を出さないと誓ってもいいよ」
 含み笑いを浮かべながら、青山はそう混ぜっ返してくれるのだった。崩れないその強気ぶりに、理奈は視線を下げ諦めに近い息をこぼしてしまう。
(そうなるかもって覚悟は少しはできてたけど……結局、そうするしかないみたいね)
 時間があればもっといいアイデアが浮かぶ可能性はある。だが廊下ではいつ誰が通り掛かってもおかしくないからその余裕はなく――後日にすればいいアイデアは浮かんでも、その分青山に反撃の余裕を与えてしまう。つまり、もう詰んでしまっているのだ。おまけに青山はあくまで決定打となるその言葉を、理奈の方から言わせたいようだ。
 業腹だが、他にどうすることもできないのだから仕方ない。だから理奈はその言葉を口にした。
「だったら――私が由綺の代わりをすればいいんですね?」
「……理奈ちゃんがそれで構わないなら、ボクはもちろんOKだよ。でもいいのかい? キミがそうする理由なんてないように思うんだけど」
「理由なら――あります」
 由綺の堕ちた姿をこれ以上見たくないから。だけど、そんな理由青山には聞かせたくない。だから別の理由がいるけれど、幸いそれには心当たりがあった。……あってしまった。
『一番確実なのは毎日セックスすることだよ。そうすれば間違いなく大人のオンナになれる』
 それは一度は聞き流した言葉。従う価値なんてないと思った。だけど、理奈が由綺の役割を引き受ける理由としては相応しい。だからその言葉を使う。それ以外の理由なんて、あるはずもなかった。
「『少女から大人の女への脱皮』。今の私では、そのコンセプトを表現しきれないようなので。今以上に私が『大人の女』になるために、青山さんの協力が必要かもしれないと。そう思ったからです――撮影のために」
 そう言った瞬間、青山がとても満足そうな笑みを浮かべた。それを打ち消すように、青山よりも先に理奈は口を開く。
「了解。だったら」「ただし、」
 急げ。これだけは先に言っておかなければならない。
「ただし、由綺と違って私にはできないことがあるから、できることだけをします。それでもよかったら――青山さんの好きにしてください」
 覚悟が込められた、ただし逃げ場を作るための理奈の言葉に、青山は少しの間考え深げに目を細めて彼女を見つめていたが、やがてひとつ頷くと面白そうに口角を吊り上げる。
「できないことがあるのは残念だけど、無理を言うつもりはないからね。折角理奈ちゃんもヤる気になってくれたんだから、できないこともできるようになることを祈って、キミの言うとおりにするよ。理奈ちゃんが夜の相手をしてくれる代わりに、由綺にはこちらから手を出さない。それでいいんだろ?」
「……ええ、それでお願いします。それじゃあ話も決まったので、私はこれで失礼しますね」
 青山から言質を取った以上この場に留まる必要はない。そう判断して部屋に戻ろうとした理奈の腕を、カードキーを取り出したところで青山がいきなり掴んできた。
「話も決まったから、さっそく今からお願いするよ。明日になって理奈ちゃんにごまかされても困るからね」
 そして彼は彼女の手からあっさりカードキーを奪い取ると、素早く部屋の鍵を開けてしまい、戸惑う理奈を引きずるように部屋の中へ強引に入り込むのだった――

 6 “手コキVSディープキス+乳首イジメ+手マン”に続く

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