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1.街で偶然、アスナを見かけて

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作者:ブルー

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 金曜日、下校がてらに暇つぶしでPCショップに行こうと渋谷を歩いていた時のことだ。
「あれ、明日奈じゃないか」
 交差点の向かい側に学校帰りの明日奈の姿を見かけた。
 腰まで伸びた明るい栗毛色の髪、育ちの良さそうな横顔。赤いリボンタイに学校のエンブレムがあしらわれた黒に近い群青色のブレザータイプの制服姿で、ボックススカートからはいつもの白いオーバーニーソックスが伸びていた。両手で学生鞄を下げていた。
「なんだよ、用事があるんじゃなかったのか」
 学校で一緒に帰ろうと誘ったけど今日は用事があるからと断られた。
「おーい、明日奈っ!」
 こちら側から名前を呼んだ。
 でも、雑踏の騒音にかき消されて聞こえていない様子だった。
 しょうがない、こっちから行って驚かせてやるかと思った時、明日奈の横に見たことのない中年男性が居るのに気づいた。
 白髪交じりで何やら親しげに明日奈に話しかけていた。たぶん40~50前後ぐらい。明日奈もそいつの方を向いてしゃべっていた。
「誰だ、あいつ。知り合いなのか?」
 なんとなく初対面ではないように見えた。不思議に思いながら眺めていると、男はどこかへエスコートするように明日奈の背中に腕を回した。制服の胸を横から持ち上げるようにムンズと掴む。そのまま2人で並んで人混みの中を歩きはじめた。
「なっ!? あのオヤジ、いま明日奈の胸を掴まなかったか!?」
 とっさに飛び出そうとした。直後にけたたましいクラクションが鳴った。
「うわっ!?」
 目の前を大型のトラックが走り抜けた。いつの間にか信号が赤に変わっていた。
「あぶねえっ、死ぬところだった」
 行き交う車に歩道の様子が隠れる。信号が変わるのをイライラと待った。
「まだかよ。SAOならひとっ飛びなのに」
 ようやく信号が青に変わると俺はダッシュで交差点を渡った。
 明日奈がいた場所に立って見渡した。
「どこに行ったんだよ、明日奈」
 右を見ても左を見ても人混みだらけで、明日奈の後ろ姿はどこにも見えなかった。
「くそっ……見失ったか」
 俺はポケットから端末を取り出すと、メッセージアプリを開いて明日奈にメッセージを送った。

<<いまどこにいる?

 しばらく待っても明日奈からの返信はなかった。
「おかしいな。端末の電源を切ってるのかな。まあ、そのうち返事があるだろ」
 あきらめて俺はPCショップに行くことにした。
 ・
 ・
 ・
 返事があったのは夜遅くになってからだった。

>>ごめん。いま気づいた。
<<おそっ
>>ちょっと立て込んでて
<<昼間に渋谷にいなかったか?
>>えっ……?
<<偶然見かけてさ
>>ああ
<<今日は用事があるとか言ってたよな?
>>親戚のおじさんと買い物に行ってたの
<<なーんだ。心配して損した
>>なによそれー!
<<いや、ちょっと気になってたからさ
>>私が他の男の人とデートでもしてるって思った?
<<ぜんぜん
>>もぉー
<<で、何買ってもらったんだよ
>>洋服
<<どうせ高いんだろうなー、明日奈の服は
>>レディだもん
<<やっぱりな
>>キリトくんこそ渋谷で何をしてたの?
<<俺はパーツを見に
>>へー
<<今度、新しいVRマシンが発売されるってさ
>>そうなんだ。たのしみー。

 メッセージアプリを閉じると、俺はベッドに寝転んだ。
 いつもと変わらない様子で安心した。男が明日奈の胸を掴んだように見えたのも目の錯覚だったんだろう。
 早く新しいフルダイブ用マシンでアスナに会いたいなと、その時は軽く考えていた。

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