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9.ダブルデート

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作者:ブルー

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 あの雑誌のことを本人に聞けるわけもなく何日か経った日曜日。
 朝から某大作RPGを進めていると電話が鳴った。
「はい、高見公人です」
「あっ、好雄だけど。いま暇か?」
「なんだ、好雄か……。あぁ、暇だよ」
「それじゃあさ、いまから遊園地に来てくれよ」
「なんで俺がお前なんかと遊園地に行かなきゃならないんだ?」
「まあ、いいじゃないか。待ってるからな」
 電話は一方的に切れた。
「なんて強引な奴だ。しょうがない、行ってやるか」
 あきらめて服を着替えると出かけることにした。

「はぁ……。やっと着いたよ。さあ、中に入るか」
 休日だけあって、右を見ても左を見ても子供連れの家族とカップルで大賑わいだった。
「お、やっと来たな」
 入場ゲート先の、大きなコアラ(かなり目つきが悪い)の立像がある場所に、キャップを逆向きにかぶって青と白のシャツにジーンズ姿の好雄がいるのを見つけた。
「好雄、お前なぁ、こんな所まで呼んで……。あれ、詩織に美樹原さん」
 好雄のすぐ後ろに詩織と美樹原さんが並んで立っていた。詩織はオレンジのシャツに黒のタイトスカートと黒のニーソックスのちょっと大人っぽい服装で、美樹原さんはフェミニンな若草色のブラウスにピンクのフレアスカートを着ていた。雲ひとつない快晴だった。
「寝ぐせがあるわよ。もしかしていま起きたの? うふふ」
「あの……こ、こんにちは」
 詩織が親しみを込めてあだ名で呼んでくれたのとは対照的に、美樹原さんは片手を横顔に当てて、おとなしめの声でよそよそしい挨拶をした。屋外に立っている美樹原さんを見るといまにも貧血で倒れてしまうんじゃないかと心配になる。詩織も色白だが、美樹原さんの場合は日焼けをしたことがないんじゃないかという白さだ。
「来て良かっただろう? 感謝しろよ」
 好雄がニヤッとした。俺はそういうことかと納得した。
「どうやって誘ったんだ?」
「街を歩いてたらたまたま出くわしてさ」
 詩織と美樹原さんは親友同士なので休日には2人で出かけることも多い。街で好雄とバッタリ会ったとしても不思議はない。
「制服姿もいいけど、私服姿の詩織ちゃんも格別だよな」
 好雄がヒソヒソいった。
「とくにあの太もも。絶対領域っていうんだぜ」
「知ってるし、それぐらい」
「詩織ちゃんっていつもあんなミニなのか」
 好雄のいうとおり、詩織のタイトスカートはちょっと屈んだだけで下着が見えるんじゃないかというぐらい短かった。健康的な太ももが好雄でなくとも目が行く。
「ねぇ、なにコソコソ話してるの?」
 詩織が肩にかかった赤い髪を片手で払いながらこっちを見ていった。
 いつも通り一分の隙もない完璧な笑顔だ。オレンジのシャツは胸元が窮屈そうだった。
 好雄が「2人ともモデルみたいだなって話してたんだよ」とごまかした。
「うふふ、ほんとかしら?」
「ほんとほんと」
 詩織の隣で美樹原さんが顔をカーッと赤くした。両手の指をもじもじした。
「今日は楽しくなりそうだな」
「いってくれればもっとまともな服装できたのにさ。好雄も人が悪いぜ」
「そういうなよ。それじゃ、ジェットコースターに乗ろうぜ。2人もいいだろ?」
「ええ」「うん……」

 ジェットコースターの乗り場までくると、好雄が俺の肩を叩いた。
「お前、どっちの娘と乗る?」
 俺は「詩織と乗るさ」と即答した。
 詩織に声をかけると、両手を背中に体を斜めに傾けて少し嬉しそうにはにかんだ。
 そういう男心をくすぐる女の子女の子したポーズをするのが、詩織はとてもうまい。
「ねぇ、メグじゃなくて私でいいの?」
「美樹原さんは好雄がいるだろ」
「ふ~ん。そうなんだ」
「なんだよ、その感じ」
「べつにぃ~。公人と一緒に乗れてちょっと嬉しいなって」
 ときめきモードで詩織の目もとがほんのり赤くなる。照れ隠しのつもりなの、詩織は俺の腕に腕を絡めた。
「む、胸が」
「えっ?」
「ひとり言。それよかビビりすぎてチビるなよ」
「もうっ、バカ」
 ワアアーー! キャアアアアー!!
 レールを直滑降に滑り落ちてぐるぐると目が回り、非日常的なスリルを満喫した。
 詩織も黄色い声の歓声を上げていた。乗る前はたいしたことなさそうな振りをしてたわりに、ジェットコースターが動き始めるとしっかりと安全バーを掴んでいた。
「次は絶叫マシンビビールに乗ろうぜ」
「ええ」
 俺と詩織は絶叫マシンビビール・垂直落下のフリーフォールと立て続けに人気アトラクションに乗った。
 フリーフォールでは詩織は大声で叫んで、さらさらの赤い髪が逆さになって落下していた。
「あっという間だな。ブワッて体が浮いた」
「私も体が軽くなったのを感じたわ。無重力感よね」
「女子って絶叫マシン系がみんな好きだよな」
「うふふっ、私の周りでも嫌いっていう子はあんまりいないかも? ねぇ、あっちにゴーストハウスがあるわよ。行きましょう」
「お、おう……」
「なぁに? もしかして怖いの? なーんて」
「まさか、そんなわけあるわけないだろ……」
「そうよねぇ。男の子だもん」
「ま、まかせとけよ」
 ドロドロドロ……!! ギャアアアーー!!
「ハァハァ……。一気に涼しくなった気がする」
「足下は薄暗いし、おどろおどろしいBGMが緊迫感があったわね」
「そのわりにはあんまり怖がってなかったじゃんか、詩織」
「そんなことないわよ。井戸のところでメイクしたお化けが出てきたのにはびっくりしたわよ」
「あー、あれね。なかなかの迫真の演技だったよな。好雄の奴、マジで絶叫してたし」
「うふふ、メグもそっちのほうに驚いたみたい」
 詩織は面白そうにクスクス笑った。

「あれ、メリーゴーランド」
「へぇー。本格的だな。新しくできたのかな」
 広場にアンティークなメリーゴーランドが設置してあった。白や黒の木馬がメロディーにあわせて上下に動きながらゆっくりと回っていた。
「ねぇ、乗りましょう」
「俺も? さすがに恥ずかしいよ」
「残念だなぁ。すごく素敵そうなのに」
「俺はここで見ててやるからさ。詩織は美樹原さんと乗ってこいよ」
「うーん……そうするわね。行きましょう、メグ」
 係員にチケットを見せて入場ゲートを通る。詩織は白い木馬に跨がり、美樹原さんは少し離れた馬車に乗った。
 ゆっくりとメリーゴーランドが回りはじめる。詩織は左手で棒をしっかり持って、俺を見つけて「公人く~ん。こっちよ~~」と無邪気な笑顔で片手を振っていた。
 好雄がそんな詩織を見て「すげえ楽しそうだな」といった。
「ひさしぶりの遊園地で子供の頃にかえったんだろ」
「メルヘンなメリーゴーランドがまた似合うよな」
「詩織は根っからのロマンティストだからな。いまでも校庭にある伝説の樹の話とか本気で信じてるぐらいだぜ」
「オイ! あれ見ろよ、あれ!」
「なんだよ、やぶから棒に?」
 さらさらの赤い髪を風になびかせ、ピュアなアイドルスマイルでメリーゴーランドに跨がる詩織の膝が自然と開いて、タイトスカートの奥に小さいリボンの飾りがついた純白のパンティーが見えていた。
(ゴクリ……手を振るのに夢中で、詩織の奴、パンティーが丸見えじゃないか)
「好雄くーん、こっちこっち~」
 メリーゴーランドが周回するたびに笑顔を振りまく、詩織。
 他には小さな子供しか乗っていない。木馬が上下する影響でどんどんと股が開いてタイトスカートがめくれ、絶対領域と純白のパンティーばかりに目を奪われた。
「あんなに大胆に股を開いちゃってさ。詩織ちゃんってズリネタの宝庫だよな」
 他の男性客も気づいたらしい。詩織はいい見世物になっていた。
 戻ってくると、照れくさそうにいそいそと両手でタイトスカートの裾を下に引っ張った。だが、大勢の男性客にパンティーを見られていたことには気づいていないらしく、むしろメリーゴーランドを楽しんだ感が伝わってきた。
「あなたも乗れば良かったのに」
「すごく楽しそうだったね」
「メリーゴーランドっていくつになっても楽しいわね」
「男の夢もつまってたよ」と好雄が言った。
「男の夢?」
「へへへ、詩織ちゃんは地上に舞い降りた天使だなーってことだよ」
 好雄は詩織のパンチラが拝めたもんだからご機嫌だ。

「最後に大観覧車に行こうぜ」
 最後に遊園地の名物でもある大観覧車に乗ることになった。
 好雄が隣に来て「お前、どっちの娘と乗る?」とまた聞いてきた。
 俺はどうして同じ事を何度も聞くんだと不思議に思いながらも「詩織に決まってるだろ」と返事をした。
「ジャンケンで決めようぜ」
「おい、応援してくれるんじゃないのかよ」
「いつまでもライバルに塩を送るわけないだろ」
「好雄も詩織を狙ってるのか?」
「卒業までに俺にも1つぐらい思い出をくれよ」
「よーし、負けても恨むなよ」
 熱戦の末、俺はジャンケンに負けた。
 好雄はガッツポーズをして喜んでいた。
「私は好雄くんと?」と、詩織がくびをかしげた。
「よろしくね、詩織ちゃん」
「ええ。好雄くんと観覧車かぁ」
 遊園地の目玉だけあって、たくさんのカップルが乗り場に列を作っていた。
 まず好雄と詩織が黄色いゴンドラに乗り、俺と美樹原さんはその次の赤いゴンドラに乗った。
「ごめんね、美樹原さん」
「ううん……私はべつに」
 ゴンドラはゆっくりと上昇をはじめ、園内の風景や遠くに富士山が霞んで見えてきた。
「いい景色だね」と言ったのもつかの間、もうすぐ頂上というところでいきなりガタンと音がして観覧車が止った。
 美樹原さんは落ち着いた声で「観覧車、止まっちゃったみたい」と言った。
「美樹原さんは平気なの」
「うん……」
「意外だなぁ。もっと怯えるかと思ったのに」
 向かい側に座った美樹原さんは瞬きをして俺を見ていた。
 俺は肩すかしを食らったような気持ちだった。
 それよりも心配なのは好雄と一緒の詩織のことだ。
 俺はさらに上で停止しているゴンドラを窓から見上げた。
(詩織、大丈夫かな……ああ見えて恐がりなところがあるからな)
 密室に好雄と2人きりというだけでもかなり危険だ。
 ちょうど2人の乗っている黄色いゴンドラが揺れた。
(中で何が起きているんだ?)
 しばらくするとゴンドラはゆっくりと動きはじめた。
 時間にしておよそ10分弱ぐらい止っていた。

 地上に降りると、好雄と詩織は自動販売機のところで待っていた。
(あれれ……なんだか詩織の顔が赤いぞ)
 詩織は片手を前髪に当てていた。隣で好雄がニコニコとしていた。
「詩織、大丈夫だったか? ゴンドラがとまってビビっただろ」
「うん……驚いて好雄くんにしがみついちゃった」
「なに、好雄にしがみついただって!?」
 それで詩織の顔が赤い理由がわかった。
 好雄が上機嫌なわけだ。
「しがみついたっていっても腕によ」
「くそー、ジャンケンに勝ってれば……あれ、シャツのボタンが外れているぞ。乗る前はちゃんとしてたのに」
 オレンジのシャツのボタンが2つ外れて詩織の胸元がはだけていた。
 詩織は慌ててボタンを止めた。
「止っているうちにゴンドラの中が暑くなったから」
「そうでもなかったような」
「太陽のせいよ」
 詩織の言葉がいいわけっぽい。まるで俺に隠し事をしているみたいだ。
 それに詩織の全身が汗ばんで火照っているように見えた。
「好雄、詩織に変なことしたんじゃないだろうな」
 念のため好雄に尋ねた。
 好雄はニヤッと笑って、「したら、詩織ちゃんに殺されてるよ」と返事をした。
 好雄がやけにハキハキしているのが引っかかる。
「ネ、詩織ちゃん?」
「う、うん……」
「ほらな、詩織ちゃんもそう言ってるだろ」
「……」
「そろそろ帰ろうぜ。詩織ちゃんは俺が送ってあげるよ」
 詩織がチラッと俺の方を見た。
 困った様子でうなずいた。
「わざわざ好雄が送らなくても俺が家が隣なんだし」
「お前は美樹原さんがいるだろ。女の子を1人で帰らせるつもりか」
「そうだけど」
「また今度ね、美樹原さん」
 好雄はさっさとバイバイの挨拶をした。
 まるで自分の彼女みたいに詩織の肩を抱いた。
 バス停に歩いて行く。 
 俺は腑に落ちない心境で2人を見送った。

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