作者:ブルー
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かきいれどきを迎えたサイパン国際空港は、帰国便を待つ出国者でベンチの半分ほどが埋まっていた。小さな島の空港のロビーは小さな体育館ほどの広さしかない。天井からは世界中の観光客を出迎えるタペストリーが下げられていた。タペストリーには、それぞれサイパンの観光名所の写真が使われている。入国ゲートでは到着したばかりの乗客が入国審査の列を作っていた。忙しない日常から開放されなごやかに談笑している。子供づれの家族や若者だけのグループがあちらこちらに見えている。子供がはしゃいで走り回っている。スーツを着ている人間は一人もいない。みな半そでのシャツでラフな格好をしている。出発便を知らせる英語のアナウンスもどこかのんびりとして聞こえ、帰国便を待つ観光客はすっかり日焼けしていた。どこからともなくウクレレの音楽が聞こえている。
そんなリゾート気分に満ちたロビーを、ノースリーブのシャツにデニムのショートパンツを着こなした少女が颯爽と歩いていた。真っ直ぐに伸びた背中ではキューティクルな赤い髪がさらさらと揺れている。頭には黄色いヘアバンドをしていた。愛らしい瞳が生き生きと輝き、ややツンとした顔立ちをしている。まさに人形のようなという形容詞がピッタリの少女だ。英語で書かれた案内板やトロピカルな装飾のラウンジ、肌の色の異なる観光客を楽しそうに眺めていた。ときどき思い出したように肩にかかる髪を指先で払う。ふわりと髪がはためき、思春期の少女特有の甘い香りを周囲に放っている。
詩織の後ろには、照明機材や大きな荷物を担いだスタッフたちがぞろぞろと続いている。重い業務用デジタルカメラを肩に担いだ男性スタッフが詩織の前や後ろに回りこんで撮影している。すでに今回の目的であるイメージビデオ用の撮影がはじまっているのだ。主役である詩織を先頭に人ごみをかきわけて一行が進む。すれ違った男たちは振り返ってしばらく後姿を見送っていた。白人や黒人や東洋人、水着に慣れた現地人でさえ仕事を忘れて見とれている。
詩織が歩くとデニムのヒップが左右に揺れる。伸びる脚はスラリとして長く、瑞々しい肌は輝くように白い。身長は女子高生の平均よりやや高い程度だが、それでも長い手足や真っ直ぐに背すじを伸ばした気持ちの良い姿勢からもスタイルの良さがうかがい知れる。まだ完成手前だが、線の細さと誰の手に染まっていない清純さがそこにはあった。胸部は窮屈そうにシャツを押し上げ、腰はキュートにくびれている。
サーフボードを持った白人が詩織を指差して口笛を吹いていた。隣の仲間に陽気に話しかけている。二人ともかなり日焼けしていた。みな詩織がただの観光客ではないだろうとわかっているのだ。きっとどこかの国の有名なアイドルか女優だろうと。
それもそのはず詩織は今をときめくスーパーアイドルだ。日本で一番の美少女として知らぬ者などいない。本名は藤崎詩織で、都内のきらめき高校に通う現役の女子高生でもある。去年街を歩いているところをスカウトされて芸能界にデビューし、またたく間にアイドルとして絶大な人気を集めるようになった。男性の理想をそのままにしたような愛くるしい顔立ちと密かに大人びた体つき、なにより清純な詩織自身がかもし出すピュアなイメージが、芸能界にはびこるその他大勢のアイドルたちを押しのけ、熱烈な男性ファンを獲得するに至ったのだ。今では清純派アイドルとして歌やCMやドラマなど引っ張りだこの状況だ。
「どう、はじめての海外は」と一人の男が話しかけた。スタッフたちの真ん中に陣取り、アロハシャツにハーフズボン、サングラスをしていた。さっそく麦わら帽子をかぶっているのは、頭がかなり剥げかけているのを隠すためでもある。
「空港に着いただけなのに異国って感じがします。青山さんはよく来られるんですよね」
振り返った詩織が、澄んだ声で男を青山さんと呼ぶ。両手を後ろにしてクスッと笑う。
「仕事でね」と気さくに答えていた。
青山は知る人ぞ知る美少女カメラマンの大家だ。今回の企画を持ち込んだ張本人でもある。内容は単純だった。詩織を題材にした写真集とイメージビデオの両方を同時に発売したいという物だった。清純なイメージを大切にしている詩織は、それまで水着の写真はおろかグラビア撮影さえNGで通してきたのだ。あっても制服姿でたたずんでいるぐらいだ。それだけにファースト写真集とイメージDVDの両方を発売すれば、爆発的に売れるという算段があった。事務所としても大金が転がり込むだけでなく、そろそろ詩織の仕事の幅を広げたいと模索している段階でもあっただけに利害が一致していた。
青山にはカメラマン兼プロデューサーとして全権を委ねられている。事務所からも詩織に対し、青山先生の指示には絶対に従うようにときつく言い渡されている。青山は芸能界で顔の広いだけに関係がこじれることを恐れているのだ。
青山の指示を受けたカメラが、歩くたびに左右に揺れる詩織のデニムをローアングルで接近して撮影する。異変に気づいた詩織がさりげなく両手を後ろに回して隠した。
「詩織ちゃん。アイドルが隠しちゃダメだろ。これは撮影なんだよ」とすかさず青山が注意する。
詩織はしかたなく両手をどけた。なるべく意識しないように、辺りを見回して歩いている。内心、嫌だなあ、と腹立たしく思っている。いつもであれば蔑むような視線で見下ろしてきつい一言でも浴びせて注意していた。そういうきつい面も詩織にはあるのだ。学校では成績上位の優等生として教師からも厚い信頼を集めていた。
嫌なのはショートパンツの丈が短いからだけではない。衣装として着替えるように出発ロビーで渡されたその内側には、チャックの下の辺りにパチンコ玉サイズの堅い突起があり、それが出発してからずっと敏感な部位に当たって擦れていたことだ。どういうわけか微弱な電気信号を発するみたいに振動までしている。おかげで飛行機での移動中、詩織はゆっくりと休むこともできなかった。
しかも最悪だったのは、詩織と青山の二人だけがファーストクラスの座席で隣だったことだ。最初の一時間は何もなかったが、そのうち股間に当たる突起物の振動によってアソコがムズムズしてくると、それに気づいた青山によって撮影の説明をするふりをして胸や股間を軽いタッチに触られ続けていた。もちろん詩織は「やめてください」と何度も注意したが、機内で大声を出すわけにもいかず、相手が相手だけにそれ以上は強く拒むこともできなかった。芸能界にはそういうセクハラまがいの行為がよくあることを詩織もそれとなく耳にしてはいた。サインした契約書に書かれていた違約金を考えると撮影初日で企画をぶち壊すわけにもいかず、詩織に出来ることと言えば寝たふりをして無視を決め込むぐらいだった。おかげでサイパンに到着するさっきまで、股間と胸を、口では言えないような悪戯をされていた。最後にはデニムのボタンを外され、内側に侵入した青山の手が詩織の秘部を直接イジイジしていたのだ。
「そこ階段あるよ。足もとに気をつけて」
詩織は手すりに手を置いて階段を下りる。前に回り込んだカメラが詩織の下半身をアップで写した。デニムのショートパンツの中央にぐっしょりと黒いシミが出来ている。ほのかに顔も赤い。
(うわ、さっそく青山先生に悪戯されたのか)と、業務用デジタルビデオカメラを担いでいる若い男性スタッフがレンズを向けた。詩織はおくびにも見せていないが、青山に付き従うアシスタントであれば誰もが知っている。
「んーー、太陽がまぶしい」
空港を出て、まぶしい日差しを浴びた詩織が元気に体を伸ばす。「サイパン到着! 今から撮影がんばります!」と、カメラの前で明るく敬礼ポーズをした。南国のリゾート地独特の開放的なムードが詩織の周囲に満たしていた。
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