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12.気になるひとこと

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作者:ブルー

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 2時間目が終わった休憩時間――。
「……高見くん」
 か細い声がして顔をあげると、俺の席の横に虹野さんが立っていた。
 虹野さんの目の下にはクマが出来てて少しやつれたように見えた。
「古典のプリント……私、日直だから……」
「あ、ごめん。出すの忘れてた」
 俺は机の中にあったプリントを渡した。
 虹野さんは受け取ったプリントを他のプリントの上に重ねて、しばらくその場にとどまっていた。
「まだ何か」
「……すこしいい?」
「べつにいいけど」
「ちゃんと運動してる?」
「たまに部活に出てるよ。虹野さんこそ少し痩せたんじゃない?」
「ちょっとね」
「あんまり無理しないほうがいいよ」
「……最近はデートに誘ってくれないのね」
(き、気まずいなぁ)
「2年生のときはよく誘ってくれたのに」
「だって、虹野さんは小増先輩と……」
「先輩が卒業してからは会ってないよ」
「そうなんだ……ハハハ……」
 こういうときこそ好雄がいればなあと思った。
(まだワル山たちとかかわってるのかな。心配だな)
 体育倉庫で覗いた場面が重なった。
「どうしてサッカー部のマネージャー辞めたの?」
 言ったあとで今年一番後悔した。
「ごめん、余計なことを聞いて」
「ううん。いいの。……色々あっていずらくなったし」
「そうなんだ……」
「高見くんは詩織ちゃんと仲がいいみたい」
「あいかわらずだよ」
「……詩織ちゃんも私みたいになればいいのに」
「!?」
「冗談よ、ふふっ」
(うわあ、明るかった虹野さんはどこにいったんだ)
 虹野さんは口もとに笑みを浮かべて教室を出ていった。

「ねえ、沙希ちゃんと何を話してたの?」
 入れ替わるようにして詩織が俺の席にやって来た。
 昨日、詩織のオナニーを覗いたせいもあってまともに目を見れなかった。
「古典のプリントを集めに来ただけだよ」
「それだけ? 他には何か言われなかった?」
「世間話ぐらいはしたけど」
「沙希ちゃん変わったでしょ」
「うん、早くまえみたいに元気になればいいな」
「私も心配だわ」
「詩織は優しいな」
「クラスメイトだし、当然よ」
 片手を制服のリボンのところに当てて詩織は心配そうに言った。
「話は変わるけど、部屋にあったはずの私の下着が何枚かなくなったんだけど知らない?」
 俺はドキッとした。
「さ、さあ……」
「ほんと?」
「俺が詩織の下着のありかを知ってるわけないだろ」
「おかしいわ。たしかに下着入れに入れたずなのに」
「ベランダに干してて風にでも飛ばされたんじゃないのか」
「そうなのかなぁ」
 疑惑が深まる前に早く話題を変えなければと焦った。
「そうだ。詩織、新しいスニーカーが欲しいって言ってただろ? 日曜についでに見に行ってやろうか」
「えーっと……日曜日?」
 予想に反して詩織の返事は歯切れが悪かった。
 もっと喜ぶかと思っていた。
「その日はちょっと予定があるの」
 ささいな詩織の態度に俺はもしかしてと思った。
「もしかして誰かとデートするとか」
「ちがうわよ。駅前に新しく予備校が出来たでしょ」
「あれか、CMでやってる、『イマでしょ!』みたいな」
「夏期講習の体験授業があって、それに行くつもりなの」
 俺は素直にホッとした。
 よく考えれば受験生の詩織がそうたびたび先輩と会っている時間があるわけない。
「なんだ、予備校か」
「暇ならあなたも受講する?」
「どうせ詩織は難関大学コースだろ。わざわざ貴重な休みを潰してまで勉強したくないよ」
「なぁーんだ。せっかく自分のレベルを知るいい機会なのに」
 詩織はクスッと笑って、バイバイと自分の席に戻っていった。

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