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1.午後の体育授業で

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作者:ブルー

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 体育の授業は、男子はサッカーで女子はバレーボールだった。
 青い絵の具を塗りたくったような空が広がり、グラウンドには明るい歓声が風に乗って響き渡っていた。
 俺は木陰に座りすこし離れたバレーコートを眺めていた。隣では好雄がプロが使うようなカメラを構えていた。「そーれ」とか「そっちいったよー」という、女子の声が聞こえる。
「暑いなー」と、好雄がファインダーを覗きながら話しかけてきた。
「ああ」
「今年も猛暑か」
「ああ」
「みんないいケツしてるよな」
「ああ」
「ブルマを発明した奴はビル・ゲイツより天才だよな」
「ああ」
 うちの体操服(女子)は白地に校章の入った体操シャツと空色のブルマで、ポリエステル100%の生地が体にピッタリとフィットしている。
 顔がそれぞれ違うようにお尻にもいろいろある。桃みたいな標準的なお尻、大きくでっぷりとしたお尻、肉が薄くて骨ばったお尻、尻えくぼが見えるぐらい締まったお尻――。
 好雄が狙うのはビジュアルがある一定の水準に達した女子のブルマ姿だけだ。
「やっらしー。好雄がまた盗撮してるわよ」
 何人かの女子がこちらを見ていた。ムカデでも見るような目をしている。
「いるよなー、ああいう勘違いブス。お前じゃないっての」
「すげえ毒舌」
「そうかぁ」
「せめてバレないようにしろよ」
「こっちからだとネットが邪魔にならないんだよ。お前も拝んどけよ。卒業したら見れなくなるんだぞ。ブルマを履いたJKのケツ、ケツ、ケツ。シャングリラだろ」
「よかったな、うちは伝統のブルマで」
「他校も羨む美少女揃いだしな」
 好雄は女子に関してウソや誇張を言わない。実際、うちの学校はビジュアルの優れた子を選んで合格させているという都市伝説まであるぐらいだ。
「ガンバレ―! 望! ナイスサーブ!!」という、女子の声。
「清川さん、今日もキレキレだな」
「スポーツ番長だからな」
「腰がくびれてて、流線型のバディ」
「そっちかよ」
「片桐さんも胸が弾んでるぜ、いつも変な英語を使うのに」
「変な英語はよけいだろ」
 清川さんの豪快なサーブを腰を落とした片桐さんが正面でレシーブした。
 あれで2人ともバレー部じゃないから驚きだ。ボーイッシュな清川さんは超高校級のスイマーで、一方の片桐彩子さんは芸術や音楽に造形が深く美術部に所属している。二人とも男子にも女子にも人気がある。清川さんの場合はむしろ同性からの人気が高いかもしれない。
 清川さんのブルマはスポーティーにキュッと引き締まってて余分な肉付きがほとんどなく、片桐さんのブルマは女の子らしくプリンとしていて柔らかそうだ。胸は片桐さんのほうが一回り大きく見える。
「あれでさばさばした性格ってのがポイント高いよな」
 さばさばしてるのは片桐さんで清川さんはどちらかというと普段は男勝りでその反面、女の子らしい一面もある。
「一番ボリュームがあるのはやっぱり鏡さんだよな」
 好雄が絶賛する鏡魅羅さんは学校一のグラマーな女子生徒で、バレーに参加せず壁に寄りかかって、私は興味ないわよとでもいうふうにめんどくさそうに髪をかきあげていた。ウェーブした紫の髪もゴージャスで見た目もかなり大人っぽい。スリーサイズは(93・61・89)。卒業後は進学せずにモデルになるらしい。彼女らしいと俺も思う。ちょっと高飛車だし。鏡さんの場合は背中越しでもゴージャスな紫の髪と肉厚のヒップラインだけで区別がつく。
 でも、好雄の本命は鏡さんでないことを俺はよく知っていた。
「いたいた、詩織ちゃんだ」
「ふ~ん、どこ」
「あそこだよ。古式さんと同じチーム」
 ほんとは好雄に教えられる前から気づいていた。
 初夏の日差しを浴びてキラキラと輝く赤い髪、トレードマークのヘアバンドをしてややあどけなさの残った顔立ち。鏡さんに負けず劣らず大人っぽいプロポーションをしている。遠目でも1人だけ芸能人が混じったように目立っている。
 なにを隠そう、詩織は俺の幼なじみだ。勉強もできてスポーツ万能で、さらに容姿も清純そのものでテレビに出ているアイドルより優れている。男子ならみんな、見つめられると目を離せなくなるような愛くるしい瞳を詩織はしている。
 よく好雄は、詩織はきらめき高校はじまって以来の美少女! と絶賛しまくっているが、学校のアイドル的存在だからしかたない。家が隣同士で物心が付く前からからいつも一緒だった俺にとっては複雑な心境だ。
「画になるよなー」
 好雄が詩織にカメラを向けてしきりにシャッターを押した。
「見ろよ、あのまぶしい横顔。天使って詩織ちゃんのことだぜ」
「あきないねえ、毎度」
「しょーがねぇだろ、ガチで可愛いんだからさ。お前も詩織ちゃんが一番だって思ってるだろ」
「俺は詩織が子供のときから知ってるからな」
 詩織の肩を持つわけではないが幼なじみの俺から見ても詩織の欠点を探す方が難しい。あえていえば、怒ると怖いぐらいか。昔、俺が他の女の子ととデートしたのを知られて三日間口を聞いてもらえなかったことがある。ただの幼なじみのくせに俺が他の女子と仲良くしていると詩織は急に機嫌が悪くなる。
(あのときは学校帰りに喫茶店でパフェをおごって機嫌を直してもらったんだっけ……)
 懐かしい思い出に浸っていた。
 レシーブの姿勢をしていた詩織が片手で額の汗を拭うと、背中まで伸びた赤い髪がさらさらと風になびいた。
「バレー部でも即レギュラーだな」
「声はかけられたみたいだけどな」
「1年のときか」
「たぶん」
「まあ、詩織ちゃんはテニス部が一番似合ってるけどさ。おっ、アタックするぞ。おっぱいが弾んでる」
 他の女子が上げたトスを、ネット際で待ち構えていた詩織がジャンプしてアタックをした。
 その弾みで体操シャツの胸が上下に揺れていた。ボールは見事に相手コートに突き刺さった。
 サッカーそっちのけで観戦していた男子から「おお~」という歓声が上がった。
 男子の視線を意識してか詩織が体操シャツを下に引っ張って下げた。
「見たか」
「ああ、ナイスアタックだったな」
「チラリと見えたお腹が超セクシー!」
「そっちかよ」
 俺は好雄の抜け目のなさにあきれていた。
 詩織はそういうスケベな目で見られることを一番嫌う女の子だ。
「撮ったのか」
「好雄様を舐めるなよ」
「やっぱりすげえよ、好雄」
「まだおっぱいが揺れてるな。90近くはありそうだよな。DかEか」
 詩織のスリーサイズは、表向き(85・57・86)ということになっていた。これは好雄が保健室に忍び込んで調べた数字だ。
 しかし、男子の間では詩織のバストはそれよりあるだろうというのは語り尽くされたエロネタだ。俺も詩織のバストは公称より大きいだろうと睨んでいた。その証拠に鏡さんの隣に並んでも詩織の胸の稜線は遜色がない。むしろウエストがキュッと引き締まっているぶん、詩織の方が大きく見えるぐらいだ。
「あの顔であの体、もはや犯罪だな」と、好雄は嬉しそうに語る。
「好雄みたいな男子に好奇の視線で見られるのが嫌なんだよ」
「ヒップラインも小ぶりなのにエロエロ」
「そうか」
「わかってないなぁ」
「好雄が変態なんだろ」
「マジで鼻血出そう」
「あんまり見てるとまた詩織に嫌われるぞ」
「あー、詩織ちゃんの巨乳を両手で掴んでモミモミしてー」
「女子なら誰でもいいんだろ、好雄は」
「みくびんなよ。詩織ちゃんのなら5万払ってもいいぜ」
「鏡さんのは?」
「1万。いや、2万円か」
「やけに落差があるじゃん」
「それだけ価値があるってことだろ。マジな話、詩織ちゃんがヌードを撮らせてくれたら10万は出すのにさ」
 俺は鼻で笑ったけど好雄にお金を払う気があるってのはマジだ。好雄は詩織をはじめとする人気の女子生徒を隠し撮りしては、ブロマイドとして他校の生徒にまで高値で売ってぼろ儲けしていた。他にも体育祭や文化祭・クラスマッチなどの様子を撮影した動画なんかもある。
「詩織ちゃんのブルマにうっすらマンスジが」
「はあ、見えないぞ」
「ここ、ここ」
「好雄だけカメラでずるいだろ」
「後で見せてやるからよ。しかし、あいかわらず無防備だな、詩織ちゃんは。大勢男子が見てるのにさ」
「気にしてられないんだろ、いちいち」
 優等生でお堅いイメージのある詩織だが、ときどき男子がどんな目で詩織のことを見ているのかよくわかっていないのではないかと思うことがある。無警戒というかガードが緩いというか。夏の泊まり込み合宿で夜にみんなで花火をしたときなど、タンクトップとショートパンツというかなりラフな恰好で現れた。脇から横乳が見えてて男子がかなり騒いでた。あと肝試しで詩織のことを狙ってた3年のヤリチン先輩とくじ引きでペアになって、怖くて先輩の腕をしがみつくようにして胸を押し当てたり。そのまま先輩と二人きりで夜の神社にしばらく消えた。とにかく詩織はそういう肝心なところで異性を意識しないことがある。
「お前からも詩織ちゃんに頼んでみてくれよ」
「ヌードモデルになってくれって?」
「謝礼ははずむぜ」
「無理無理。幼なじみっていっても家が隣ってだけだしな。下校で帰ろうぜって誘っても、一緒に帰って、友達に噂とかされると恥ずかしいし、とかいいやがるんだぜ」
「難しい年頃ってやつか」
「よせよ」
「でもさ、3年になって詩織ちゃんって雰囲気変わったよな」
「どこが」
「1年の頃はそれこそ取り付く島もないって感じだっただろ。それが物腰が柔らかくなったというか今は男子とも気楽に話してるし、土下座して頼んだら、えーーっていいながらもパンチラぐらい撮らせてくれそうな気がするんだよな」
「パンチラ? 詩織が? 夕子じゃあるまいし」
「まあ、聞けって。この間も掃除時間に詩織ちゃんがタラシと話してるのを見かけてさ。いい雰囲気だなと思ってたら、タラシが詩織ちゃんの髪に触れてやがったぜ」
 タラシはバスケ部の男子だ。ほんとの名前は鱈島で、女子にチヤホヤされてて女たらしなのでタラシと呼ばれている。
「ウソつけ。ああいう軽いノリの奴が詩織の一番嫌いなタイプだって好雄も知ってるだろ」
「マジマジ。お前はゴミ捨てに行ってていなかったけどさ」
 俺はにわかには信じられなかった。
 が、好雄がそういう心当たりがあった。
 この春、某ナンパ雑誌に詩織が載っているのを好雄が偶然見つけた。
 かなりマニアックな雑誌なので他の生徒には知られていないが、学校帰りの詩織が前屈みになって両手を膝に着いたポーズや、制服の胸元を寄せている写真が使われていた。キョトンとした表情でこちらを見つめていて、下校中に声をかけられてしつこくて断り切れずに取材を受けたのだろう。雑誌には粘りまくったスタッフに根負けして最終的に取材をOKしてくれた風に書いてあった。
 その雑誌は大切にとってある。詩織はそういうのに興味がないと思っていただけに俺もかなり驚いたのを覚えている。
 あと3年になって詩織の制服のスカートが短くなった。それまではせいぜい膝丈だったのが、いまでは膝上10センチぐらいだ。他はとくに変わった様子はない。昔と変わらない、清純な詩織のままだ。
「あれやるぜあれ」
「あれ?」
「今日一のシャッターチャンス!!」
 コートでは、詩織が後ろに両手の指をやりブルマの食い込みを直す仕草をした。
 パチン! とゴムの音がここまで聞こえてきそうな気がした。
「うひょーー! いろっぽっっ!!」
 好雄は身を乗り出してシャッターを切った。
「エロス満点っ! チラッと白いのが見えなかったか」
「気のせいだろ」
「チェックだ、チェック! セクシーショットゲットだぜぇ!」
「隣で騒ぐなよ」
 ちょうどこちらを見た詩織と一瞬目が合った気がした。
「詩織ちゃん、いまこっちを見たよな?」
「かな」
「やばっ、カメラを隠さないと」
「バレバレだろ」
 詩織は他の女子と交代した。スポーツタオルで汗を拭いている。親友の美樹原さんとおしゃべりをはじめた。まるで好雄のことなんかまったく気にしていないふうに見えた。
「セーフ」
「そういうときだけは素早いな」
「他の誰にどう思われてもいいけど、詩織ちゃんとは卒業するまで仲のいいクラスメイトでいたいからな」
「殊勝というか無駄な努力というか」
「お前もこいつのおかげでオカズをゲット出来てるだろ」
 それを言われると俺も返答に困る。
「卒業まであと1年だからな。残り少ないチャンスを逃す手はないだろ」
「まるで甲子園を目指してる高校球児みたいだな」
 好雄の可愛い女の子にかける情熱は本当にすごいと思う。それは俺も認める。知識もプロ並みだと思う。ただ学校のいろんな場所に小型カメラを仕掛けるのはやりすぎだと思う。
「なあ」
「なんだよ」
「詩織ちゃんって処女なのかな」
「アホか」
 俺はマジメに答える気も起きなかった。
 詩織はまだ誰とも付き合ったことない。これは幼なじみの俺が保証できる。
「だけどよー、詩織ちゃんぐらいイケてる子で処女ってありえるか? 高3で。
 どっかで経験してたりして。たとえばLINEで知り合った大学生にあっさりとさ」
 その一言にかなりドキリとした。
「雑誌のこともあるしな」
「あれはなりゆき上だろ」
「チヤホヤされたらまんざらじゃないだろ、詩織ちゃんも。おまけにあの体だぜ?」
「じゃあ、逆に聞くけど詩織がホイホイついてく女の子に見えるか?」
「もしかしてだよ、if」
「それこそファンタジーだね」
「なに熱くなってんだよ」
「好雄がありもしないことをいうからだろ」
「でもよー、よく聞くだろ? 女子は年上の男と初体験を済ませるって。あの虹野さんでさえサッカー部の先輩に食われたわけだし」
 好雄はさらりと言った。

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