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2.セリフ合わせ

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「インビンシブル」を発売中(note:500円)

作者:ブルー

 ステージが終わると詩織は急いでシャワーを浴び、地下駐車場に待たせてあったハイヤーにマネージャーと飛び乗った。
 車中で乾ききっていない髪にドライヤーをあて、ドラマの台詞合わせの現場へ向う。

 どういうわけか着いた先は都内でも有数の外資系高級ホテルだった。
 エレベーターを降りてドアの前に立つ。
 マネージャーは制服の胸のリボンを曲がってもいないのに直して「イイ。わかってると思うけどくれぐれも短気をおこしちゃダメよ」とだけ言い残してさっさと帰ってしまった。
 一人で取り残されて首をひねる。
 とりあえずベルを押した。
 ドアが開いて、バスローブ姿の男があらわれた。

「やあ、遅かったじゃないか。ささ、入って入って」

 チーフプロデューサーのNだ。
 待ちきれない様子で詩織の肩に腕を回して部屋に招きいれようとする。すごくなれなれしい感じだ。
 詩織はドアの外に踏みとどまって尋ねた。
「あの、どういうことですか、Nさん」と眉をひそめる。

「オカマのマネージャーから聞いてない?」
「ドラマの脚本があがったので、台詞合わせだって聞きましたけど」
「そうなんだよ。脚本は早めにお願いしますよ先生って、いつも口をすっぱくして頼んでるのに案の定これだ。現場の苦労なんかろくすっぽわかっちゃいないんだよ」
「……どうして局じゃないんですか」
「それがバラエティーのヤツら若手芸人を総動員して特番を作るって息巻いて、控え室代わりに会議室まで押さえられちゃってさ。猫も杓子もお笑いブームだろ? アイツら調子ノッテるんだよ」

 ありそうな話だと詩織は思った。
 いまは編成の時期で特番が多い。さらにドラマ不況と言われる昨今、バラエティ番組のほうが制作費も安く視聴率が稼げる。そのせいで局内での力関係はどうしてもバラエティ部門が上になる。テレビ局では視聴率がすべてなのだ。

「とにかく入ってよ。こんなところ誰かに見られでもしたらマズイよ」

 しぶる詩織の腕を引いて、半ば強引に招き入れた。
 業界にはこういったタイプの男は多い。そうでなくともヒットメーカーと呼ばれるNは一目置かれた存在であり、詩織をヒロインとして抜擢してくれた人物でもある。つまり事務所にしても詩織にしても頭が上がらないわけだ。
 
 部屋は外資系の高級ホテルということもあり広々とした落ち着いた造りになっていて、部屋の中央にはイタリア製のシックなテーブルとソファー、正面に都会のネオンを見下ろせる大きなガラス窓があった。きっと素晴らしい夜景が望めることだろう。
 だが、詩織はとても夜の眺望を楽しむ気持ちにはなれなかった。他の出演者の姿が見えなかったからだ。

「KさんやBさんはまだなんですか?」

 さらさらとした赤い髪を揺らして見回し、共演者の名前を出して尋ねてみた。台詞合わせなら当然いないとおかしい。

「なんでも他の仕事が入ってて遅れるらしいよ」
「そう、なんだ……」

 共演者全員が遅れてくることがあるだろうか? かすかな疑問が脳裏をかすめる。
 正直、詩織はNと二人きりという状況に不安を感じていた。辣腕なのは認めるが、何かにつけてボディタッチをしてくるセクハラ魔としても有名だったからだ。
 クランクイン以来、詩織もいくどとなくその被害にあってきた。この前などは撮影の合間に、実際に痴漢にあったときの撃退法を教えてあげるよなどと言われて胸をタッチされた。
 そのたびに事務所を通じて抗議してくれるよう報告しているのだが、テレビ局との関係がこじれるのを気にしてかまったく取り合ってくれない。それどころか最近ではマネージャーも見て見ぬふりを決めこんでいるようなありさまだった。

 それにしても……。
 詩織は小首をかしげる。どうしてNはバスローブ姿なのだろう? 飲んでいたのか、アルコールの匂いもする。

「こっちに来て眺めなよ。ここの夜景は評判なんだよ」
「せっかくですけど」
「夜景とか興味ない?」
「そういうわけでは……」
「残念だな。そうそう、コンサートお疲れ。大成功だったんだろ」
「はい。これもNさんがわたしをドラマに起用してくれたおかげです。ほんとうにありがとうございます」
「ハハ、あいかわらず他人行儀だな。フランクにしてくれていいんだよ」

 Nがきさくに笑いかけながら詩織の肩をマッサージする。
 無防備なうなじ越しに詩織の着ているセーラー服の胸元を覗き込んだ。
 ムンッとした胸の谷間とブラジャーがチラリと見える。Nのような男でなくともムラムラとしてくる光景だ。

「とにかくそこに座りなよ。紅茶で良かったよね」
「あ、いえ、自分で淹れます」
「いいからいいから。コンサートで疲れてるんだしさ」

 片手でNにそう制され、詩織はおとなしくソファーに座るしかなかった。スカートを押さえて足を斜めにして揃える。
 自然と目に入る位置に芸能雑誌が置かれていた。なんとなくパラパラとページをめくる。
 最新ドラマを紹介する特集記事で手がとまった。おそらくNが見ていたのだろう、角が折られていた。
 そこにはこう寸評してあった。

 ヒットメーカーのN氏による話題の恋愛ドラマ――。前評判に比べて視聴率は低空飛行を続けている。原因はヒロインに抜擢された新人アイドルの演技力不足によるものか?

 まるで詩織一人が悪者のような論調だ。世間では、教師と女子生徒の恋愛モノという二番煎じの設定と、詩織の魅力を生かしきれていない単調なシナリオが視聴率低調の主因だと言われているのに、そのことについてはまったく触れられていない。
 たしかに詩織は演技に関しては素人だし、お世辞にもうまいとは言えないかもしれない。それでも撮影を重ねるたびに手ごたえを感じていただけにこのような書かれ方はひどく悔しかった。

「どうぞ、お姫さま」
「ありがとうございます」

 詩織は隠すように雑誌を閉じた。

「冷めないうちに飲んだほうがいい。これが台本ね」

 Nが隣に座った。台本を渡す。

「いい出来だよ。これなら絶対に視聴率が取れる」

 いつも以上にNは自信げだ。詩織はさっそく目を通した。

 ――かけおちした二人は、別荘で暴漢に襲われる。

 どういうことだろう? 詩織は自分の読解能力がすっぽりと欠落したのかと思った。
 先週までの撮影では、二人は強くひかれあいながらも周囲の猛反対によって交際を認められず、かけおち同然にその土地を離れ、山深い僻地の別荘にたどり着いたところまでだったはずだ。暴漢に襲われるなどというくだりは聞いていない。寝耳に水の状態である。

「視聴率が思ったほど伸びてないだろ。逆転の秘策として、視聴者の予想を裏切るような事件を起こしてくれって先生に頼んだんだよ」

 なるほど……と詩織はうなずいた。
 たしかにこれなら視聴者の予想は裏切っているだろう。結末を見たいとテレビにかじりつくにちがいない。さすがはヒットメーカーというべきだろうか。
 それよりも気になったのは、Nの手が詩織の膝に置かれてポンポンと叩いていることだった。
 芸能界という場所柄、この程度を気にしていてはきりがないが……。

 ――詩織と恋人の男は別々の部屋に監禁される。暴漢を油断させて恋人を救うため、あえて色仕掛けを仕掛ける。

 そうト書きで書いてあった。
 詩織はつぶらな瞳をしばたかせた。色仕掛けを仕掛ける??

「二人は永遠を誓いあった真実の愛で結ばれてるんだ。
 もし恋人が監禁されたとして、詩織ちゃんならどうする? 助けたいって思うだろ。
 で、助けるにはどうすればいいか。相手は暴漢だ。腕力ではどうすることもできない。かといって隔絶された山奥では助けを呼ぶこともできない。当たり前だ。二人はかけおちしてきたんだ。となれば色仕掛けで油断させるしかない。そういう筋書きだよ」

 Nの手がさりげなく詩織の太股へ移動した。少しずつスカートへと距離を縮めている。
 ムッとして、詩織はピシャリと叩き払いたい気持ちに駆られた。

「……あの、すいません」
「ん?」
「Nさんの手が……」
「もしかして紅茶が口にあわなかったかな?」
「そうじゃなくて」
「そうじゃなくて?」

 詩織はため息をつきたい気持ちになった。
 腹立たしいばかりだが、Nを相手に本気で怒っていいものかどうか。マネージャーが別れぎわに言っていた言葉もひっかかる。
「いえ、なんでもありません」と取り繕う。ひとまず我慢して、もうしばらく様子をみることにした。

「そこを声に出して読んでみてよ」
「はい」

 視線を走らせた。

「――恥じらいに頬を染めながら暴漢の前に立って制服のスカートをたくしあげる詩織。純白の下着に暴漢のいやらしい視線が注がれる。
 暴漢、舌なめずりをして詩織に近づく。
『子供かと思ったら、案外いい体してるじゃないか』
 暴漢は指で、下着の上から詩織の秘部をいじる。
 腰をモジモジとくねらせて、わざと甘い吐息をもらす、詩織。
『ああ、私の体は好きにしてくださって結構ですから、どうか彼の命だけは助けてください』
 詩織、涙目で哀願。
『それはお前の態度次第だ。おとなしく俺の女になれば男は助けてやる』
 暴漢、凶器をちらつかせる。
『なる、なります』
 詩織、脅されて他に選択肢がないのでしかたなく相手の要求をのむ。
『それじゃあ、その証拠を見せてもらおうか』
 暴漢、詩織の秘部を刺激しながらキスを迫る――」

 そこまで読んだだけで、詩織はどっと生汗がふきだした。
 まるで官能小説のようなト書きと台詞の応酬だ。こんな脚本がほんとに許されるのだろうか。顔は異常に熱いし、心臓が発作を起こしたみたいに早鐘を打っている。
 それにNの手だ。詩織が注意しないのをいいことにスカートへと潜りこみ、脚の付け根付近の内腿をマッサージしはじめている。
 さすがに我慢の限界だった。

「手をどけてください」

 突き刺す瞳に苛立ちをにじませる。

「これはスキンシップだよ。気にしない気にしない」
「Nさんはそのつもりでも、わたしはそうじゃないんです。このさいはっきり言わせてもらいますが、すごく迷惑です」
「詩織ちゃんはまだ若いから気にしすぎなんだよ。こんなの業界だと普通だよ」
「ごまかさないでください。あと、この脚本、ほんとうに先生がお書きになったんですか?」
「もちろんだよ」
「信じられません」
「なんなら電話して聞いてみるかい? この台本は本当に先生が書いたんですか、ほんとはゴーストライターがいて別の人が書いたんじゃないですかってね。先生はいったいどう思われるかな」

 Nは携帯で電話をかけるふりをした。

「そういうつもりじゃ……」
「そう。それじゃ先を読んでみて。次は感情をこめてね」

 なんと横柄な人間なのだろう。セクハラタッチをやめる気もないらしい。
 詩織はあきれてものが言えなかった。業界の人間はみんなこうなのだろうか。それともNだけが特別なのだろうか。
 その答えが後者であることを祈らずにはいられない。
 これ以上抗議してもらちがあきそうもないので朗読を続けることにする。しとやかな声を静かに響かせた。

「『ぐへへ、育ちのいいお嬢さまの味がする最高の唇だな。まだ彼氏にも吸わせてなかったのか』
 暴漢、詩織を言葉で嬲りながら胸を揉む。
『は、はい』
 詩織、素直に答える。
『どれ、オマンコの味もたしかめてやる。唇と一緒でさぞ上品な味がするんだろうな』
 暴漢、今度はスカートをたくしあげている詩織の性器に口をつける。しこったクリトリスを刺激し、ジュルジュルと卑猥な音をさせてしゃぶる。
『いやあ、だめえ、そんなところ舐めないで!!』
 詩織、はじめて経験するクンニリングスに激しく動揺する」

 セクハラタッチを続けていたNの手が、詩織の膝を左右に開かせることに成功した。脚を閉じ合わせて頑強に抵抗していたが、あまりのしつこさに詩織が根負けしたのだ。
 ここぞとばかりにスカートの奥に手を差し伸ばし、まるで朗読する文章のくだりにあわせて興奮を煽るようにショーツの上からじっくりと刺激する。

 詩織は唖然としていた。まさかこんなに堂々とセクハラタッチをしてくるとは思ってもみなかったのだ。
 ソファーの背もたれに身を沈めるようにして、膝を大きく開いたふしだらなポーズで、いままで誰にも触らせたことのなかった股間をまさぐられながら感情をこめて朗読を続けようとする。

(困ったわ……Nさん酔ってるのかしら……)

 両手で台本を持って赤くなった顔を隠した。意識すまいと思うほど意識してしまう。どうしてこんなことになってしまったのだろう。やけに喉が渇いて、生唾を飲み込んだ。

「『オラ、じっとしてろ。すぐに気持ちよくしてやるぜ』
 暴漢、ドスを効かせて脅す。舌先を詩織の性器にねじ込み、本格的にほじくる。
『だめ、やめてぇ……おねがい』
 詩織、しだいに感じてくる。ついには性器を舐めてほしそうに腰をやや突き出すポーズをする。
『気持ちいいならオマンコが気持ちいいですと正直に言ってみろ』
 暴漢、詩織の乳首と性器を同時に責める。
『い、いえません』
 詩織、大きく首を左右に振る。
『言わないと向こうの部屋に行って恋人の男を殺すぞ』
『待って。言います……詩織のオマンコ、男の人に舐められてすごく気持ちイイです!』
 詩織、脅されて泣きながら大きな声で破廉恥な言葉を発する。
 目の前が真っ白に染まって果てしないエクスタシーへと登りつめる――」

 読み終えると、詩織は大きく息を吐いた。
 台本を閉じる。ほんとうにめまいがしてひたいに手を当てた。いけない、こんな演技できるわけがない! と確信した。
 そもそも詩織はキスシーンでさえNGなのだ。事務所にもそう伝えてあるし、純愛ドラマだと聞いたからこそヒロイン役を引き受けたのだ。

「できません!」

 Nの手を振り払って立ち上がると、詩織はするどい眼差しで正面から見据えた。
 きっぱりと伝える。あきらかに反旗を翻した態度だ。

「どうしたの、とうとつに」
「こんな撮影お受けできません」
「どうしてかな」
「読むだけでも苦痛なのに……わたしには絶対無理です」

 いまにも帰りだしそうな勢いで立ち上がった詩織を、Nは慣れた様子で腕を引いて座らせた。あらかじめ見越していたようになだめにかかる。

「できるできないの問題じゃない。役を引き受けた以上、プロとしてしなくちゃいけないんだよ」
「こんな脚本、最初にお話をいただいたときにはありませんでした」
「そうさ、最初には予定になかったよ。だけど状況が変わったんだ。このままじゃ僕だけじゃなく、ドラマにかかわったスタッフ全員の立場が危ない。まさか最終回に主役が降板なんできないだろ。それこそ前代未聞のドタキャンだ」
「だけど」
「詩織ちゃん。詩織ちゃんには何が足りないか考えたことはある?」
「なにを」
「いいから答えて」

 詩織はあからさまに不機嫌な顔をした。「……経験」とだけ短く答えた。
 Nは「それもある」と早くも雄弁な口ぶりだ。

「君に足りないのは、経験と、見る者を驚かせる大胆な演技と、チャンネルを合わせた視聴者を手放さない色気だよ。とくにM1層は可愛いアイドルのお色気シーンに弱いからね」

 さきほど読んだ芸能雑誌にも似たようなことが書いてあった。ヒットメーカーと呼ばれる男の言葉だけにことさら重みがある。
 詩織に反論の余地はなかった。

「立ってごらん。このシーンの練習からしよう」
「え……。いま、ですか?」
「そうだよ。明後日には撮影だからね。役者もまだ到着しないみたいだし、僕が暴漢役を引き受けるよ」

 そんな……と、詩織は暗い表情をした。

「どうしても……しないとダメなんですか?」
「明日、ドタキャンの記者会見でも開くなら別だけどね、全国放送で」
「記者会見だなんて……」

 詩織の表情がかげりを帯びた。降板できるものであればすぐにでも降板したいと憂う。
 だが、それではこのドラマを楽しみにしてくれている視聴者やファンの期待を裏切ることにもなってしまう。それは詩織にとって不本意だし、なんとしても避けたかった。なによりここで進むのをあきらめてしまっては、アイドルを続けるにしてもしないにしても中途半端になってしまい、この先また同じような壁にぶつかったときに前に進めなくなる気がした。

 静かに立ち上がった。子犬のように震える指先でスカートの端を握りしめる。どうしてもたくし上げることができない。

「どうしたお嬢ちゃん、大切な彼氏は助けたくないのか」

 すでに暴漢役のつもりなのだろう、Nが野卑た口調でせせら笑う。詩織の臀部をパシンと叩いた。

「ああ……これでいいですか……」

 か細い声をしぼって、気品ただよう横顔に向ける。ゆっくりたくしあげた。
 引き締まった下腹部にキュートなおヘソ、バラの刺繍の入った純白の下着があらわになる。詩織の清楚なイメージにピッタリのとても上品なショーツだ。
 つややかな若さにあふれた肉付きの良い真っ白な太股。女子高生らしくはちきれそうな肌肉が発達していて、清純でありながらその肉体は成熟手前の女であることを強くうかがわせる。
 さきほど卑猥なト書きを読んでいるときにセクハラされたせいで、ショーツの中央がじっとりと濡れていた。
 うぶな詩織は自分の肉体に起きつつある重大な変化にまったく気づいていない。

(フフ……あれぐらいで濡らすなんてかわいいじゃないか。よっぽど興奮してたんだな)

 詩織の知らないところで、Nの本性がとぐろを巻いている。
 舌なめずりをした。まさに台本に書いてあるとおりだ。
 ローファーから頭の先まで、制服のスカートをたくしあげている美少女アイドルの全身を舐めるように観察した。詩織のような女の子には白いハイソックスがとてもよく似合う。

「子供かと思ったら案外いい体してるじゃないか」

 腰を上げると横から詩織が動かないよう肩を抱く。空いているほうの腕を伸ばして、指先をショーツの中央、恥骨下にあてがった。こねくるように刺激した。

「あ、いや……ダメ……」

 やり場のない憤りに視線を伏せる。
 顔をうつむかせると、繊細な前髪で表情を隠して小さくうめいた。
 スカートをたくしあげている指先が悲哀に凍えている。経験のない恥ずかしさに身もすくむ思いなのだ。逃げたくても肩を掴まれているのでそれもできない。

「詩織ちゃん。次の台詞」

 Nが耳元に囁いて詩織に次の台詞をうながす。
 同時に息を吹きかけて、肩がビクンと動いた。
 揃えた二本の指先を縦に動かし、少女の体に火をつけるように摩擦した。

「くっ、はっ……っっ」

 詩織の膝が小刻みに動きはじめた。かなり感じている様子だ。
 いくら真面目で清純といえど詩織だって体は女だ。興味もあれば性欲だってある。こんなふうに淫靡な文章を朗読させられたり、立場を利用して悪戯されれば感じないはずがない。
 むしろ真面目だからこそ性の知識に乏しく無防備で、抵抗力が弱いとさえいえる。
 ましてやいまは緊張していたコンサートが大成功に終わったばかりで、その興奮の余韻がさめきっていない。世間知らずの美少女アイドルを落とすのにこれ以上の日があるだろうか。

(ファンのためにとコンサートを頑張ったのがあだとなるわけだ)

 肩を押さえていた手を下にずらし、セーラー服の膨らみを掴んだ。ゴムボールを握るようにして優しく揉む。
 衣擦れの音がして、男の腕の中で詩織はいやいやと体を小さく揺すった。

「ふあ、んんっ……ああ、私の体は好きにしてくださって結構ですから、どうか彼の命だけは助けてください」

 白いヘアバンドに飾られた赤い髪を揺すって、首ごと頭を斜めにする。
 まぶたをしっかりと閉じ合わせた詩織は、秀麗な眉を弛ませて眉間に悩ましげな溝を作り、桜の花びらのような唇を食い縛るように噛みこんでいた。
 清楚な顔立ち全体がほんのりと上気している。清純だからこそできる性に翻弄されつつある可憐な美少女の表情だ。

 Nが「いいよ、その表情。ほんとに感じてるみたいだ」と耳元にはやしたて、手をショーツの上から中に忍び込ませた。
 淡い恥毛のかげりを通過して、直接女の部分に触れる。火照った性器全体を手の平で連撫した。

「だめぇ!」

 ギョッとした詩織が慌てふためいて膝を閉じ合わせて力を入れるが、防ぎきることはできなかった。手が完全にショーツの内側に潜って蠢いている。
 顔を隠していた肉芽を探り当てると、そこを集中的に転がしはじめた。

「あっ、あっ、指と止めてください」

 細切れの声を発して、たまらずスカートをたくしあげていた手を放す。その場に崩れそうになるのをNのバスローブを掴むことでなんとかこらえた。
 腰を引いて抗う。膝がひとりでにガクガクとして、クリトリスを弄られるのがこんなに気持ちいいということを、詩織ははじめて知った。それまで自分の体にそんな場所があるとは想像さえしていなかった。

「それはお前の態度次第だ。おとなしく俺の女になれば男は助けてやる」
「なる、なります」
「それじゃあ、その証拠を見せてもらおうか」

 詩織の顔を向けさせる。はやくも潤んだ瞳で切なげに見あげている。
 そのまま唇を奪おうとするが、「いやっ!」と叫んで顔を背けた。押し寄せる性感に意識が流されかけても、キスは断固拒否なのである。

「演技だよ、演技」
「はあ、っはあ、演技でも嫌なものは嫌です」
「彼氏、助けたくないの? もしほんとにそういう場面に遭遇しても詩織ちゃんは自分の唇を優先するのかい?」

 手首を掴んで押さえ、不意打ちに唇を奪った。舌をねじ込む。

「……ムゥゥ!! ンッ、ンンッーーー!!」

 いきなりのことに両目を大きく見開いて驚いて、何かを発しようと喉を震わせる。逃げ振りほどこうとジタバタ暴れだした。

「往生際が悪いな」

 肩を抱き寄せるように体を密着させて、ねじ込んだベロで詩織の唇を割り開く。
 ヌルヌルと口腔を縦横無尽に舐めまわし、さらに奥へと進駐し、怯えて隠れるように避難していた舌先をからかいかげんにねぶった。舌先でぬめらせてもてあそぶ。舌の裏側や歯茎の横、甘くて新鮮な味わいのする唾液をわざと音をさせてすすり、頬の内側までネトネトにねぶる。
 トドメの唾液を流し込むと、あきらめの表情をして詩織は静かに飲み下した。

「ンッ、ンク、ンクッ…はあ、はあ……」

 呼吸を荒げて、気まずそうに視線を泳がせる。

「どう、経験してみるとたいしたことじゃないだろ?」
「んっ、ああっ、フウ、ンム」
「詩織ちゃんは特別なセンチメンタリズムを持ってるかもしれないけど、こんなの握手と変わらないよ。
 ほら、口を開けてごらん」
「ふあ、ンア、アアッ」
「舌も動かして。そう、そうだ。なんだ、やればできるじゃないか」
「あ、はあ、ふぅ、ふぅ」
「唇で僕のベロを挟むようにして吸ってみて。それが終わったらベロの形に沿って舐めるんだ」
「はむぅ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅぅ……ハア…ン、ンア……ペロ……ペロ……」
「いいよ。すごくいいよ。その調子で続けてごらん」

 セクハラプロデューサーによるキスのレクチャーがはじまった。
 詩織は胸にしこりを感じながらも逃走の機会を掴めずにいる。抱き合うようにしてライバル美少女たちも羨む美貌をうわむかせて哀愁の瞳であらぬ方向を見つめ、これは演技だと自分に言い聞かせて危険な口付け行為に没頭する。悲壮な決意で役になりきろうとしているのだ。

(笑わせてくれるじゃないか。いまどきキスだけで泣きそうな顔をする女子高生がいるか?)

 詩織の下着に指を引っ掛けて脱がせにかかる。
 狼狽した詩織は、そくざに両手でショーツを押さえた。
 脱がそうとするNの手と、脱がされまいとする詩織の手との攻防がはじまった。

「気が散ってるようじゃ視聴者を魅了する演技はできないよ」
「ン、ア、ウムゥ、だ、だめぇ」
「さっきも教えただろ、詩織ちゃんには相手を驚かせる大胆さが必要なんだよ」
「ハウ、ウアァ、こ、困ります」
「大丈夫だよ。僕にすべて任せて」

 太股の半ばまで引き下ろした。糸を引いてショーツが純白のブリッジを形作る。
 この早業だけでもきらめき高校の男子には到底できない芸当である。

 おだやかな恥丘は、上部にだけふさふさとした若草が上品に生え揃い、大陰唇が融通の利かない詩織の性格を表すようにピッタリと頑なに閉じ合わさっている。まだ少女の面影を色濃く残した性器だ。
 はじめて受けた猥褻なレッスンにびっしょりと濡れ、愛液が膝頭までしとどに垂れていた。

「ドラマだとここで暴漢の警戒心を緩ませるために、キスをしながら恋人にも触らせていない大事な場所をいじくられて感じているふりをするんだ」

 台本に書かれた状況を説明するNが、剥いたクリトリスを指腹を使って丹念にこねくる。
 詩織はどう反応すればいいのかわからないといった様子で腰をセクシーにグラインドさせた。

「チュ、チュルぅぅ、はうっ、ううっ、ぅぁぁー」
「やっとやる気がでてきたみたいじゃないか。その表情すごくグーだよ」
「んあー、ああっ」

 クチュクチュという卑猥な水音に純情な詩織の理性がいっそうとろける。
 苦しそうに小鼻をふくらませると濡れた甘い声を解き放った。しっかりとまぶたを閉じて、たどたどしい動きでしきりに腰をくねらせながら、Nに教えられたとおりキスをしている。
 二人で伸ばし出した舌先を愛情たっぷりにねっとり触れ合わせ、ねじるようにして舌と舌の表面を絡ませる。口の中で唾液を交換して、うっとりとNを見つめながらングングと嚥下する。垂れた涎を唇で吸い取って、ペロペロした。
 ねじ込まれたベロによって喉奥までねぶられるテクニックに頭の先まで体がざわめいて、酸欠みたいに視界が真っ白になった。

「もっとだ。唾を出して色っぽく援助交際みたいに鼻を鳴らすんだ」
「んっ、あっ、ああっ、はあー、はああーん」
「だいぶエッチな声になってきた。限界まで舌を突き出して、僕の口の奥を舐めるようにしてごらん」

 Nはセーラー服の上から乳首を摘んだ。ブラジャーごと強くねじる。
 それさえも膝から崩れそうになるほど詩織の体に甘い電流が駆け巡る。

「どうした。ビーチクが気持ちいいのか」

 Nのアドリブとも本気ともつかない迫真の言葉責めに詩織の困惑は深まるばかりだ。はじらいの表情でうなずきを繰り返す。

「清純派アイドルのくせにとんでもない淫乱女子高生だな」
「はああ、んっ、んあ……ごかいです……ひどいこと言わないで」
「なにがひどいことだ」
「これは演技……っっ」
「フッ、ほんとに演技なのかな」

 両方の乳首をギュッと摘んで、手前に強く引っ張って思い切りねじくる。
 とたんに詩織は立ったまま背中を反るようにして痙攣をはじめた。美顔をしかめ唇を固く結んでビクビクと足の指先まで痺れさせる。あまりの刺激の強さに軽く達したのだ。

「なんだいまの顔は。完全にオマンコをぬらした女のアクメ顔じゃないか」
「ちっ、ちがいます」

 焦りを隠せない様子で詩織は声を荒げた。

「強情な女だ。たしかめてやる」

 Nが詩織の足もとにしゃがんだ。動けないよう腰の左右を両手でガッシリ押さえ、濡れたオマンコをしゃぶりにかかる。一気にむさぼりついた。

「いやあ、だめえ、そんなところ舐めないで!!」

 くらくらと立ちくらみがする。
 違和感を感じていた。体がフワフワとして思考にノイズが混じったようにはっきりとしないし、動悸は高鳴る一方だ。しかもNが触れただけで過敏に反応する。こんな淫らな体質ではなかったはずだ。
 秘密の場所を強引にしゃぶられ、天にも昇る気持ちになっている。

「ああ、おかしいの……Nさん……」

 ようやく自分の股間に顔を埋めているプロデューサーにそう話しかけた。襲いくる官能の荒波に声が怯えている。

「なにがだい」
「はあ、んあ、か、体が、まるでわたしの体じゃないみたいなの」
「それはきっと極度に緊張してたコンサートが大成功に終わって、余韻がさめずに体の芯がまだ興奮してるせいじゃないかな」
「はあ、はあ、はあ……ほ、ほんとにそれだけなのかしら……」
「他に理由なんて見当たらないだろ」
「でも、さっきから頭がぼんやりして……なんだかとてもおそろしいことが起きそうな気がしてこわいの……」
「心配ないよ。僕がその緊張をほぐしてあげる。体の力を抜いて気持ちを楽にしたらいい。さあ、練習を続けるよ」

 詩織は目を閉じて体から力を抜いた。自分でスカートをお腹のところまでたくしあげ、天井を見あげる。もう自分ではどうしようもできなくなって、誰かに体の熱を鎮めてもらうしかないと判断したのだ。
 その純粋な姿にNはこみ上げてくる笑いを抑えるのに必死だった。

 まずは詩織の性器全体に唾液をまぶして時間をかけて隅々まで丁寧に舐める。それからピッタリと頑なに閉じ合わさったピンク色の秘唇に沿ってベロを這わせた。
 クリを舌先に乗せて転がし、親指と親指で左右に開いた。ムリリッとして、奥から濃密なラブジュースがあふれてくる。
 狭い秘孔入り口に細めた舌先を慎重に差し込んだ。ウネウネさせて、何度も浅く穿る。
 ギューギューと縛るようにぬめっていて、詩織のそこがまだ誰にも使わせていないまっさらの新品であることが確認できた。正真正銘、本物の処女だ。

「だ……だめ、やめてぇ……おねがい」

 切迫した喘ぎをしぼりはじめる、詩織。
 腰を情熱的にくねらせて悶え、性器を舐めてほしそうに恥骨をせり出すポーズをする。
 性欲が増幅されて体が勝手にそう反応するのだ。
 Nは詩織の両乳首を制服の上から引っ張って、芽生えだした少女の性欲を煽るべく大人になりかけのオマンコをこれでもかとしゃぶった。

「気持ちいいならオマンコが気持ちいいですと正直に言ってみろ」
「いっ、いえません」

 Nが迫真の演技なら詩織も必死の形相だ。
 ひたいどころか全身まで汗ばませ、なんとか最後のラインで踏みとどまろうとする。
 しかし、妖しい雰囲気に包まれ、女の部分を遮二無二舐められていたのではいくら生真面目な詩織でもいかんともしがたく、時間とともにじりじりと追い詰められる。
 これが現実なのかドラマの設定なのか、詩織にはそれさえも見分けがつかなくなってきた。

「言わないと向こうに行って恋人の男を殺すぞ」
「うあ、あっ、ああ、はあ、んあー、待って、言います、言いますから!」
「いいか、大きな声で叫べよ。隣の部屋の彼氏まで聞こえる大きな声でよ」
「そんな、ひどい」
「つべこべいわず言われたとおりにしろ。殺されたいのか」
「んっ、んっ、んあ、ああっーー、詩織、オマンコがすごく気持ちイイの!!!!」

 赤い髪を振り乱し、ついに詩織がそう叫んだ。

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