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7.悪魔的奸計

アクセス数: 2610

作者:しょうきち

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      1

 未緒と肉体関係を持ってから数ヵ月。
 委員会が無い日でも時たま一緒に下校するようになったし、そうした時はいつも途中で早乙女家に寄り、定期的にセックスをしている。ここ最近はそんな生活を続けていた。
 どうやら未緒とは体の相性という奴がかなり良いらしい。
 好雄としてはこれまで味わったセックスの中でもトップクラスに良かったと思えたし、未緒の方は好雄よりも遥かに感じていた様子である。それが自惚れではない証拠に、先日のセックスでは終わった後、「凄いよかったです……」「こんなの……はじめて……」などと何度も囁いてきて、 終わった後も中々好雄の身体を離そうとしなかった。
 未緒はセフレとして実に都合のいい女だった。
 半ば冗談で「お前、けつなあな確定な」と言ってみれば黙ってアナルセックスまでさせてくるたし、「おえおうさせたい」と言えば、顔を真っ赤に染めながら昼休みに体育館裏でイラマチオさせてくれた。
 彼女の側から休日デートのお誘いが来ることもある。しかし、「残念ながら俺様は忙しいのだ」とか「未緒は受験生だろ? 受験勉強頑張ってくれ」などと適当な事を言って断っていた。
 それはなぜかと言うと、週末は繁華街に出て風俗スカウトに励まなければならないからである。
 やむにやまれぬ事情から始めざるを得なくなったこの仕事であるが、慣れてくると次第に天職とさえ思えるようになってきていた。
 元々口の上手さについては定評があったし、女慣れしてきた事によってトークスキルは更に磨かれていく実感があった。例えて言うならば、レベルを上げて新たな魔物を狩るようなゲーム感覚である。ナンパした女を風俗送りにして得た金で靴や服装といった装備を整え、鍛えた技ならぬセックステクニックで骨抜きにしてゆく。そんなサイクルが上手いことハマり、得られた金は更に女の尻を追いかけ回すのに使っていく。それが楽しくなってきて、寝ても覚めても女を口説くことばかり考えていた。今日は新宿、明日は渋谷、来週は池袋━━と、若い女が集まる繁華街には足繁く通った。とにかく土日が待ち遠しかった。
 しかしそんな毎日を送っている中、とある事件が起こった。その出来事は好雄の薔薇色の生活を一変させた。

      2

「ど、どういう事っすか……?」
 好雄は〈ヒヤシンス〉の事務室で上田と対峙していた。
「どうしたもこうしたもないよ……。困ったことになった……」
 ナンパに繰り出そうとしていた夏休み中のある日、上田から呼び出しがあった。
 このところスカウトは絶好調で、先週もナンパした女を三人まとめて上田に紹介したばかりであった。都内の女子大に通う大学生三人組で、三人ともそれぞれ別の地方都市から上京してきたばかりの18歳だと言っていた。
 当初、今回突然呼び出されたのはその成果による特別ボーナスでも出るのかと思っていた。しかし、そんな淡い期待は事務所の扉を開けた瞬間の凍りついた空気で雲散霧消していた。
「上田さん、こんちわっス。どうスか? こないだの三人組。結構ルックスイケてたし、結構人気出そうなんじゃないスか? ……って、どうかしたんスか?」
「……まあ、そこに座ってくれ」
(な、何だってんだ……?)
 少なくとも特別ボーナス云々といった美味しい話では無さそうである。
 そう言われて薄汚れたパイプ椅子に座り、しばらく待っていると上田は重たい腰を上げ、淡々と語り始めた。
 曰く、先週連れてきた女子大生三人組、名前は確かリョウコ、ヒカル、マキと言ったか━━が、ホームページ用の宣材写真を撮って、入店の祝い金を払った翌日から連絡がつかなくなったのだという。三人揃ってである。
「どうやらあの三人、どうもこの界隈では悪い意味で有名な輩らしいんだよね。色々な街の風俗店を渡り歩いて、入店祝い金だけ頂いたら数日ないし早ければ初日とかでドロン。そういう事を何度もやらかして回ってる常習犯らしいんだ。名前も女子大生ってのも恐らく嘘だろう。うちのグループ会社にも注意喚起が回ってきてたんだけど、まさかあいつらがそうだなんて思わなかったよ」
 そう語る上田はかなり意気消沈しているように見えた。
「そいつぁ……ひどい話ッスね……」
「風俗って仕事はね……、実家から家出してきた子や、DVから逃れてきたような訳アリの子が生きていくための云わばセーフティ・ネットって側面もあるからね。女の子の中にはマトモな仕事をどうしてもすることができなくて、今日食べる飯代にも事欠いたり、住むとこさえ無いような場合もある。だから、ウチは入店祝いは即日現金払いでやってきたんだけど、制度のアラを突かれちゃったようなもんだね……。店長もお冠さ。損害補填しろって詰められちゃったよ。ハハハ……」
 口では笑っていたものの、目が笑っていなかった。よく見るとこめかみに痣が出来ており、口許に血が滲んでいた。
「ま、マジっすか……。大変でしたね……」
「ところで早乙女くん。他人事のような顔をしてるけど、こないだ交わした契約書の内容は分かってるよね?」
「へ、勿論じゃないすか。ええと……。紹介した女の子の売り上げの内の5%が俺の取り分、って奴ですよね?」
 一般的に風俗スカウトの仕事は時給制ではなく完全歩合制を採用している。単に女を紹介しただけではダメで、紹介したその女がきちんと働き、稼ぎ上げた売り上げ。その内10%がスカウトの取り分となる。
 仮に女がある店舗型ファッションヘルスに入店したとする。一日働いて客が三人、売り上げが5万円だとすると、まずは女と店で折半、つまり25,000円ずつを取り分ける。そしてスカウトに対しては店の取り分の中から全体の10%、5,000円が支払われる事となる。
 好雄の場合はこれが5%、2,500円である。本来の取り分より減らされている分は罰金の支払いに充てられているためだ。
 スカウト業は時給に直すとブラックもいいところだが、この収入は女が同じ店で働いている限り継続的に続いていく事となるため、指名数ナンバーワンを獲れる女や長期に渡って風俗で働くことができる女を発掘できれば取り分は指数関数的に増えていく。
「そう。だがね、下の方にこうも書いているの気づいていたかい? 『女の子が店に対し損害金を発生させた場合、その責は当該の女の子をスカウトしてきた人間が負う』とね。彼女らに対してウチの店が払った金は入店祝い金だけじゃない。宣材写真の撮影だって都内バカ高いスタジオを一日予約してプロに撮ってもらうし、衣装や備品の貸し出し、写真のレタッチ、ホームページ編集……。結構バカにならない外注費が出てるんだよね」
「そ、そんな……。い、一体いくらになるんすか……?」
「50万」
「うっ……でもまあ、頑張れば返せない額じゃないっすね。多少は貯めてたんで、なんとか……」
「ひとりにつき、だ。150万だよ。あとついでに、あいつら三人とも往復の交通費やらメシ代もツケで請求してきたんだよね。あとでしっかり働きますからーって言ってな。その分も足して、あと雑費とかを加えて、しめて合計160万」
「ゲ、ゲェッ!? そんな……」
 元々あった罰金による借金については、利子による加算もあり、元本についてはまだまだかなりの額が残っている。この状況で更に加算とは……。ほとんど倍である。好雄の稼得能力を完全に超えている。
「そういう事。さっきも言ったけど、店長もかなりのお冠でね。ちょっともう高校生が稼いで返せる額を超えちゃってる。こっちも遊びでやってる訳じゃない。家族でも親類縁者でもなんでも取れるところから取るしかない。ここはもう親御さんに肩代わりしてもらうしか……」
「ちょっ、待ってくれっ……!」
「あと、妹が居るって言ってたよね。うちの事務所のスポンサー筋に、金融関係の偉い人がいるんだ。年齢は70を超えているけど若い子、特に女子高生には目がない人でね。風俗嬢じゃない素人の子じゃないと勃たないんだってさ。その妹、彼氏はいた事あるのかい?  処女ならプラス10万付けるし、顔写真は今持ってないかな? ルックス次第では相場にプラス5万~10万プラスがついて……」
「ちょっ!? う……上田さん、冗談スよね?」
  上田はゾッとするような冷たい目をしていた。
「冗談でこういう事を言うと思うかい?」
「ひっ……!」
 好雄は背筋に冷たい汗が落ちるのを感じた。
「た……頼んます……! 妹は、妹だけは勘弁してください……! あいつ怒らせたらマジで命がいくつあっても足りないんスよっ!」
「いや、妹を売る事自体は特に構わないのか……?」
「いっ、いやっ……いやいやいや、そ、そんなことないっスよぉ……」
「ふふっ、まあ今のは半分冗談だよ。こっちだって目の前で家族が口汚く言い争うのを見たくなんて無いし、無い袖を無理矢理振らせるより、継続的に稼いでもらった方がマシだからね……」
「じ、冗談っスか……。人が悪いっすよ、もう……」
「おほん。そう、ここからが今日来てもらった本題なんだ」
「?」
「ひとつアイデアがある。これから話す事を、良く聞いてくれ」
「は、はぁ……」
「およそ一月後……早乙女くんの通うきらめき高校で文化祭が予定されてるだろ?」
「は、はぁ……。確か10月初めの週末でしたね……。かったるいんで、体よくフケようと思ってますけど」
「各クラスでそれぞれ模擬店を出すね? 早乙女くんのクラスでは何をやるか、もう決まってるのかい?」
「い、いや……まだっす。確か新学期に入って最初のLHRで決めるって事になってた筈っス……」
「よし。だったら、ひとつやってほしい事がある。早乙女くんのクラスを抱き込んで、文化祭を利用したリアルJK風俗店を開くんだ。もしクラスを抱き込むところまでうまくいったら、必要な衣装や備品はウチの店からも出そう。これなら絶対儲かる。なにせ文化祭の出店は風営法の規制の対象外だからね。よしんば儲からなくても、クラスメイトの女子達に自らの性的資本を金に替える蜜の味ってやつを骨の髄まで教えこんでやってほしいんだ。そうすれば将来風俗デビューへのハードルが下がりに下がって、労せずして気軽に面接受けに来てくれるかもしれないからね。業種はそうだな、あんまり露骨にやると即中止を食らうから、JKリフレなんてどうかな」
「ジェ、JKリフレ……っすか……? 女子高生がお客さんにマッサージしたり、添い寝したりっていう、アレ?」
「そう、そのJKリフレだ。だが、肩揉みや添い寝なんてヌルいサービスはあくまで表向きさ。本命は裏オプションだ。学校なら教員用トイレに体育用具室、実験準備室とか普段は誰も立ち入らない教室が沢山あるだろ? お散歩コースでたっぷりと太ももや胸をチラつかせてからそう言う場所に連れ込んで、いい雰囲気が出来上がってきたところで手コキやフェラチオのヌキ有りオプションを客に提示するんだ。美少女揃いで有名なきらめき高校女子がやるんだ。男だったら絶対に食いつくよ」
「やってくれませんよ、そんな事」
「やってくれるかくれないかじゃない、やらせるンだ。出来ないならこの話は終わりだ。親御さん……、妹……。取れる処から搾り取る。それだけさ」
「な……っ!?」
 語りは淡々としていたものの、有無を言わせぬ凄みがあった。
「そ、そうは言ってもそんな仕事……。うちのクラス、女子はみんな気の強いのばっかりで……」
「大丈夫さ、前に教えたろ。クラスメイトをよく観察するんだ。表向きはカマトトぶってても、売春、援交、パパ活━━そういう事を日常的にやってる、つまりこうした事をするのに抵抗の無い女子は必ず一定数いる。なにせは日本は人身売買、自動売春の天国で、女子高生は三割が援助交際してるんだからね。国連特別報告者だってそう言ってるんだ。間違いない」
「ほ……本当っスか、それ……?」
「知らん」
「知らんって……」
「早乙女くん……、どうせ同級生に何人かセフレ囲ってるんだろ? 二人か三人か……もっとかな? まずはそういう何でも言うこと聞いてくれる女にやらせればいいじゃないか。な?」
「成程……。ま、まあ、それなら何とか……」
「よし、決まりだ。女ってのは流され易いからね。二、三人も抱き込めれば充分さ。嫉妬心、虚栄心、競争心……あらゆるマウント心を巧くくすぐってやれば、必ず自分からウリをしたいって子が出てくるさ。もっと稼ぎたい、もっとチヤホヤされたいってね。今時の子が身体を売るハードルなんてさ……そんな高いもんじゃあないよ」
 こうして好雄は、一ヶ月後に迫る文化祭に当たり、その裏で恐るべき姦計を巡らせる事となったのである。

      3

 きらめき高校では、クラス委員については学期が変わるごとに選び直す事となっている。
 好雄がまず手始めに打った布石は、最も従順なセフレである未緒を二学期のクラス委員に立候補させる事であった。他にそんな面倒な事をやりたがる生徒がいないという事情もあったが、未緒は元々真面目で通っているということもあり、そこはすんなりと選ばれた。
 そして3ーAにおける文化祭の出し物を決めるLHRにおいて、司会としてそれとなく好雄有利となるよう議論を誘導させたのである。
 だが、そこまでやっても詩織との議論においては押され気味であった。正直言ってかなり肝が冷えた。ここでつまづいては全てが御破算。最後の手段として、好雄は切札を切ることにした。
 好雄は未緒に目配せして、決戦投票を急がせた。
 この投票であるが、実は事前に仕込んでおいた仕掛けがあったのである。
 投票箱は二重底となっており、好雄側への票が事前に仕込まれていたのである。クラスメイト達に違和感を感じさせないよう、未緒は上手くやってくれた。不自然さが大きくなりすぎないよう、適度に詩織への票も交えつつ、好雄をきっちりと勝たせてくれたのであった。好雄としては決選投票に持ち込みさえすれば勝ちは確定だったのである。
 その後の放棄後、ご褒美と称してたっぷりと未緒を抱いてやった。
 事後のピロートークの中で未緒にも裏オプ営業をやってほしい事を伝えると、うわごとのように「はい……、はい……」と応えた。

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コメント

  1. pncr より:

    盛り上がってきましたね。
    詩織がいつ登場するのかワクワクしてまってます。

  2. しょうきち より:

    ブルー様。コメントどうもです。
    やはりラスボスはラスボスらしく、9回裏ツーアウト、相手打者トラウト、みたいな場面で登板してもらう予定です。ご期待ください。

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