スポンサーリンク
スポンサーリンク

12.女子の友情

アクセス数: 1716

作者:しょうきち

<< 前 欲望きらめき文化祭(12/20) 次 >>

      1

 文化祭一日目が終わった。
 より正確な表現を用いれば、文化祭一日目の営業時間が終了した。きらめき高校の文化祭では夕方17時になった時点で例外なく、全ての模擬店の営業終了が定められているのである。
 勿論3ーAのJKリフレも同様だ。
 お散歩途中だろうがマッサージ途中だろうがすべて終わらせ、宣伝・受付担当の男子生徒も接客担当の女子生徒も教室へと戻ってゆく。教室の後片付けと、本日の講評を兼ねたクラスミーティングを行うためだ。
 クラス全員が集まっているところに、扉を開けて好雄が入ってきた。
 教壇に立った。これから本日の総括を行うのである。
「よお。みんなお疲れさまっ。今日の売り上げ、中々好調だったぜ、明日もよろしくな!」
「はいは~い、好雄くん」
「ん、なんだ夕子?」
「うちらみんなさ、一日通して結構頑張ったんだけど、なんかないの? ホラ……」
「ん、なんだ? 王子さまのキッスか?」
「……バカっ!」
 好雄がキスするような仕草を見せ、夕子が鼻息を荒げて怒ってみせる。漫才めいたやりとりに教室内ではどっと笑いが起きた。
「嘘だよ夕子、冗談だって! ……ほらよっ、じゃぁ~ん!」
 好雄は懐から三枚の封筒を取り出した。
「このとおり! 本日の売上貢献ベスト3の女子には、特別ボーナスで金一封を出すぜ! 一応秘密だから、教師や他のクラスの奴には絶対言うんじゃねえぞっ! 」
 女子の間にどよめきが走った。
 夕子などは自身が売り上げトップと確信しているのか、この時点で飛び上がらんばかりの喜びぶりだ。
「好雄くぅ~ん、男子にはボーナスはないんですかぁ~?」
 おどけて言うのは高見公人である。お調子者っぽく、若干夕子の物真似風に見せているのが周囲をイラつかせる。
「ねぇよ」
 好雄がピシャリと言い放つと、教室内には失笑と共に冷たい風が通り抜けた。
 残念だが当然である。
「ええと、気を取り直して……。それじゃあ今日の売り上げランキング、三位から順に発表するぜ。……まず三位は、如月さんだ。さすがクラス委員長、貢献度もバッチグーだぜぇ!」
 未緒の名が呼ばれた瞬間、女子の間では困惑に似たざわめきが起こっていた。
 というのも、女子カーストの中にあって未緒は、たまたま誰もやりたがらない図書委員や学級委員を務めているだけの、教室の端で本ばっかり読んでいる地味な陰キャ女子━━といった扱われ方をしているからである。
 カースト上位の女子などは特に、未緒には負けるわけがないとたかをくくっていたに違いない。
 だが、そのような見方は適切ではないことを好雄は知っていた。
 一度妹にも協力してもらって未緒の髪型をいじってみたことがある。
 眼鏡を外し、野暮ったい二つ縛りをほどいてオーソドックスなストレートにしてみたらあら不思議、あの藤崎詩織にも比肩する程の(とまで言うのは多少の贔屓目もあったかもしれないが)正統派美少女に仕上がったのである。
 未緒は「これが、私……?」と困惑した表情で鏡をと好雄とを交互に見ていた。「おお、髪型ひとつですげぇ美人になったな、如月さん。まるで舞台女優みたいだ。街を歩けばきっとモテモテだぜ」と褒めてやったたのだが「モテるだなんて……そんなのいいのに。早乙女さんの意地悪……」と、ぷいっと顔を背けてしまっていた。
 頬から耳まで真っ赤に染まり、どう見ても喜んでいるように見えたのだが……。
 好雄は女心は複雑である、と思うことにした。
「ほいよ、如月さん。ありがとな、明日も頼むぜ」
「はい、明日も頑張ります……」
 前に出て壇上に登った未緒がのし袋を受けとると、公人がパチパチと手を叩いた。それを皮切りにクラス全員が未緒に向かって拍手した。
 どうも未緒はこういった表彰に慣れていないのか、頬が赤く染まり、嬉しさを滲ませていたものの、最後まで控えめな態度は崩さなかった。
「じゃあ次な、二位はええと……夕子。朝日奈夕子」
「ほ~い、あたしね」
「んだよ夕子、もっと嬉しがれよ」
「あたし、これでも結構気合い入れて頑張ったんだけど……。テレビじゃケバいおばさんが二位じゃ駄目なんですかとか言ってたりもするけどさあ、やっぱり一位がよかったなあ」
「まあ、そうブー垂れるなって。実際夕子はよく頑張ってくれたよ。一位と二位の差はメッチャ僅差でさ。今日ラストのお客さんでギリギリ逆転だったんだよな」
「ふ~ん、そーなんだ……」
 セーラー服美少女戦士のコスプレの、超ミニプリーツスカートをぴろりと翻した。白く伸びたむっちりとした太ももが実に眩しい。実際、男なら誰でもむしゃぶりつきたくなるくらい魅力的である。公人などは鼻の下を伸ばし、そばに立っていた詩織に太ももをつねられているくらいだ。
 では、そんな夕子を抑え売り上げ一位となった女子は……。
「じゃあ一位を発表するぜ。一位はなんと……B組からの助っ人、運動部のアイドル、虹野沙希さんだぁっ!」
 好雄の宣言とともに、教室内では興奮とどよめきが同時に渦巻いた。興奮の元は主に男子で、どよめきはの元は女子である。
 最近では面と向かって言うものはいないものの、沙希に対し理不尽なまでの反感を抱いている女子はいまだ少なくない。
 壇上に登った沙希は、そんな嫉妬と猜疑心の入り交じった視線を浴び、ひどく居心地が悪そうであった。
「あ……あのっ、わたし……いいです、それ。A組の皆で分けてください。他所の━━B組のわたしがそれを受けとるなんて、なんだか申し訳ないです……」
「ちょっ、虹野さん……?」
 沙希はのし袋を好雄に突き返してしまっていた。
 クラス内にざわめきが広がる。その中には一部の女子からの「どーせ体売ってんでしょ……」「ハッ、便器がぶりっ子かよ」といった陰湿かつ醜悪なものもあった。
(ま、まずい……)
 好雄は焦った。
 根も葉もない中傷とは言い切れず、確かに真実を突いていたりもするから一層よろしくない。
 このボーナスを餌に明日はもっともっと熱く、激しく競争心を煽り抜き、ノールールで━━それこそ全員が裏オプも辞さない程━━限界まで競って欲しいのだ。ここで冷めた空気になってしまっては元の木阿弥である。
 そんな澱んだ一触即発めいた空気の中、教壇をバンッと叩く音が鳴った。夕子であった。みんなの視線が夕子に集まった。
(おいっ……夕子、お前なにやって……)
(いいから、あたしに任せて)
 夕子は好雄を退けると、沙希に向かってピシリと人差し指を伸ばした。
「虹野さんっ、今日は負けちゃったけどね、明日はA組の意地にかけても絶対に負けないわよっ! それまでその袋はあなたに預けておくわ! 首を洗って待ってなさいっ!」
「おいおい、ゆ……」
「んんっ……臨むところよ! 迎え撃つわ。根性よっ!」
 好雄の突っ込みを待たずして、沙希がガッツポーズを決めて力強く夕子に応えた。手にはのし袋を握りしめている。
 夕子の機転は劇的にハマった。なんだかんだ運動部の空気に親しみがあるだけあって、こうした熱血ノリな空気にはついつい乗ってしまうらしい。
 公人がパチリパチリと柏手を鳴らした。釣られて好雄が、そして他のクラスメイトたちへと拍手は伝搬していった。
「ちなみに明日もボーナス出るからよ、みんな頑張ってくれよな! 今日ベスト3に入らなかった子も気を取り直して頼むぜっ!
明日のも含めた総売上次第じゃボーナスはもっと色つけるから、期待しといてくれよな!」
 こうして、なんとか文化祭一日目は成功裏に納めることができた。たが、好雄にとっての真の本番はこれから始まるのである。
 明日を迎えるまでにやらねばならないことが目白押しであった。

      2

 夕子と沙希の対決宣言によって3ーAが大きな盛り上がりを見せていた頃、教室の片隅には一人密かに屈辱を噛み締める女子がいた。
 『きらめき高校のスーパーヒロイン』藤崎詩織その人である。
 はじめは不本意であったものの、決まってしまった以上はクラスのためにも全力を尽くすことに決めた詩織は、この一ヶ月、接客のいろはを学んだりマッサージのツボについて学んだりと様々な努力を積み重ねてきた。だが、その努力が報われることは無かった。あれだけ頑張ったのに、三位にさえも入らないとは……。
 詩織はこれまで真面目一辺倒に生きてきた。
 元々比較的裕福な家庭に生まれ、ルックスにも恵まれ、勉強もスポーツも、音楽や芸術といった分野においても努力すれば大抵思い通りのことができた。方程式に数値を入れれば自動的に解が導き出されるように、正しい努力は正しい結果をもたらすと18歳のこの歳まで信じて生きてきたのである。
 だが、そんな自信は無惨にも打ち砕かれた。
 何かを本気でやろうとしたにも関わらず上手くいかず、結果に結び付かないというのは、詩織にとって生まれてはじめて経験する状況である。

      3

 帰宅途中。
 詩織の足取りは重かった。
 先程のショックが尾を引いていた為だ。
 その隣では、美樹原愛が沈痛な面持ちの親友を心配そうな目で見ている。
「ねえ、詩織ちゃん……。あんまり気にしない方がいいと思うよ。今日はたまたま……一日目だし、きっとまだ調子が出てなかったんじゃないかな?」
「メグ……」
「明日またがんばろ? 詩織ちゃん……」
「ありがとね、メグ……」
「ダメだな、そんなんじゃ。このままじゃあんた、明日も負けるぜ?」
「なっ……あっ!?」
 いつの間に近づいてきたのか、詩織と愛の間には男が後ろから割り込んでいた。
 好雄である。
「よ、好雄くんっ!? どっ、どうしてそんな事が分かるのよ……!」
「キリがないからさっきは三位までしか言わなかったけどよ、今日の売り上げ、如月さんに次ぐ四位は美樹原さんだったんだよね。今日はお疲れさま。明日もよろしくな……って、それだけ言いたくて……言いそびれちまって追っかけてきたのさ。頑張ってくれたのに、ごめんな」
「す……すみません、早乙女さん。わたしなんかに……」
 好雄がニカッと歯を見せて笑う。
 愛もつられてはにかんだような笑みを見せ、ぺこりと頭を下げた。
 だが、納得いかないのが詩織である。
「メグが……メグが、四位……?」
 男子に絶大な人気を誇る沙希や男慣れしてそうな夕子あたりはともかく、如月未緒などもそうだが、あまりこういった男の相手が得意そうに見えないタイプの女子の後塵をことごとく拝した事に、詩織は少なからぬショックを受けていた。
「ちなみに藤崎さんは五位だよ。ただし、売上額で言えば如月さんと美樹原さんとは僅差だったけど、その下ははっきり言ってダンチだぜ。さらに予言するけどよ、明日は今日よりもっともっと売り上げが伸びていくぜ。このまんま同じようにやってたら、明日は美樹原さんはおろか他の女子にも抜かれるよ。圧倒的にな。断言してもいい」
「なっ、な……どうしてそんな事が言えるのよっ!」
「フフン、理由だったら美樹原さんがよ~く知ってるぜ。なあ、美樹原さん?」
「メ、メグが……? ど……どうしてそんな事が分かるのよ。ほら、何か言ってよ。メグ、メグ……?」
 視線が集まる。愛はふるふると震えながら、詩織と好雄から目線を外した。
「ど、どうしたっていうの? メグ……?」
「ハハハッ、美樹原さんは恥ずかしがり屋さんみたいだから、代わりに俺が説明してやるよ。美樹原さんはな、いや、美樹原さんだけじゃないぜ。売り上げ上位の女子はな、みんな裏オプションで稼いでるんだよ」
「う、裏オプション……? いったい何を……」
「分からないか? 要するに、隠れて手コキやフェラでヌイてやる代わりに、スケベな客から通常料金とは桁違いのカネを貰ってるっていうことだよ。なっ、美樹原さん?」
「な、な……なっ!? そ、そんな事……常識的に考えて許される訳ないでしょっ!? ねえっ、嘘でしょメグ!? 好雄くんが出鱈目言ってるだけよねっ!?」
 愛は視線を落とし、雨に濡れた子犬のように全身をふるふると震わせていた。長い睫毛が揺れている。
 沈黙が何より雄弁に答えを語っていた。
「メグ……」
「美樹原さん、ここはひとつ親友の詩織ちゃんに話してみせてくれよ。今日のJKリフレ でお客さんにどんな事をしてきたのかってさ」
「早乙女さん……あのっ、わたし……」
「そういうのはいいからさ、早く話せよ」
「はっ、はい……」
 愛は肩を震わせながら、滔々と語りだした。
「あっあのっ……そ、それではお話します……。私がお相手したお客さんはお昼前くらいにやって来た50歳くらいのおじさんで、お仕事は経済評論家をしてるって言ってました。言われてみれば朝のテレビで見たことがあったようかような気もしたんですけど、名前はちょっと忘れちゃいました。背が高くて、多分180センチ近くあったと思います。わたしとじゃ歩幅が全然違うので、並んで歩くのが大変でした。疲れたので休憩させてくださいって言って、使われていない空き教室に入りました。そこでスカートをめくり上げて、パンツを見せてあげたら別人みたいになってむしゃぶりついてきました。歩いてるときはずっと見上げる格好だったんですけど、ひざまづいておま○こを舐められたときは逆に見下ろす格好になって、ちょっとムクみたいで可愛いなって思いました。追加で二万払うから本番させてくれって言われたんですけど、生理だから無理ですって嘘ついて断っちゃいました。だっておじさんのオチ○チン、凄く大きそうで挿れられたら裂けちゃうかもって思ったから……。代わりに一万円でフェラしてあげることになりました。トランクスを下ろしたとき、予想以上に凄いオチ○チンが飛び出してきたので、暫くは息もできないくらい夢中で見惚れてました。硬く反り返ってて、黒光りしてて……。あんまりずっと見とれてたからか、早くしてくれって髪をグッと引き寄せられて急かされました。舌を使ってカリのくびれから、裏スジ、根元とペロペロ舐めていくと、おじさんが呻き声をあげました。オチ○チンがビクン、ビクンッて痙攣するとわたしも段々興奮してきて、やっぱり本番させてあげればよかったかなぁ……って、ちょっぴり後悔したくらいです……。わたし、不思議なことにオチ○チンをペロペロ舐めてると、触ったり触られたりしなくてもおま○こ、濡れてくるんですよね。じゅん……って、無性に欲しくなっちゃうんです。でも本番は結局しませんでした。なんでかって言うと陰嚢をやわやわ揉みながら根元まで咥えていると、我慢できなくなったのかおじさんは小刻みに腰を前後に振りだして、お口の中にドピュッて射精してきたからです。苦くてドロッとしてて、喉に引っ掛かって咳き込んじゃったんですけど、わたしは頑張って一生懸命吸いたてて、それを一滴残らず全部呑みました。あとからごっくん代として追加で5,000円貰いました……」
 一息に話し終えると、愛は頬をぼうっと紅く染めていた。
 詩織はもはや絶句である。異世界の出来事でも見ているかのように呆然としていた。

      4

「な……!」
 あの愛の口から、おちん○んとかお○んこといった卑猥な単語が飛び出てきたことにも驚いたが、更に舐めたとか咥えたとか頬を染めながら語る姿には戦慄すら覚えた。
 開いた口が塞がらない。
 両目を見開き驚愕する詩織とは対照的な様相を呈していたのが愛であった。普段のオドオドした感じから一転、眼を妖しく光らせ、自信に満ちた微笑を浮かべている。
 恥部ををさらけ出すような告白に吹っ切れてしまったのであろうか。今の愛は倒錯した興奮を覚えているようだった。
 詩織の視線は愛の唇に注がれていた。
 名前も覚えていないような男のペニスをしゃぶっていたと称するその唇は、これまでと見た目は一切変わらないのに、いやに肉厚で卑猥に輝いているように見えた。
「早乙女さん、い、言っちゃいました。恥ずかしいです……」
「ククッ、美樹原さんがそんな淫乱女子だったなんて、マジびっくりだったぜ。明日もその調子で頑張ってくれよな」
「メグ、そんな事っ……そんな事はもう絶対にしちゃダメよ! もっと自分を大切にして!」
「し、詩織ちゃん……どうして……?」
「どうして……って!? せっ……セッ……クス……とか、そういうエッチなことは、好きな人……愛し合ってる人としかしちゃいけないことだからよ」
「セックスじゃなかったらいいの? 今話したとおり、結局フェラチオしかしてないよ?」
「フェっ……フェラチオでもなんでも駄目なものは駄目よ! 当たり前じゃない。ましてお金を介してエッチなことをするなんて、不潔だわっ!」
「不潔って……。病気とか? じゃあ、詩織ちゃんの言う愛し合ってる人は絶対に病気なんて持ってないって言うの?」
「そ、それは……」
「愛し合ってる人がいなかったら、セックスしちゃいけないの? モテない男の人は? それとも、セックス自体が不潔だって言うのなら、世の中の恋愛してる人たち━━もっと言うなら、詩織ちゃんのパパとママさえもみんな不潔だって言うの?」
「うっ、そ……それは……。で……でも、そういう男の人が世の中にいるのはしょうがないけど、ここは高校で、メグはまだ子供じゃない! とにかく、そんなことしたら絶対にダメよっ!」
「……子供じゃないもん」
「えっ」
「子供じゃないよ……。わたし、先月18歳になったの。だからもう大人。自分の行動に伴う責任を自分でとれるのが大人なんでしょ? これは、わたしの意思━━自分の意思でやってる事なの」
「メグ……もっと自分を大切にして? たとえ今はいなくたって、いつか必ずメグの事を━━メグだけを好きだって言ってくれる男の人と出会えるわよ。女の子のはじめては、そういう人に捧げるものなののよ。その時まで━━その瞬間まで待ってたって遅くはないじゃない?」
 その言葉に、愛は肩をビクンと震わせた。
「詩織ちゃん……。ずいぶん古い事言うんだね。まるで昭和生まれの人みたい……。わたし、セックスなんてもうずっと前に済ませてるんだけど……。今時そのくらい普通だって」
「えっ」
「……詩織ちゃんはいいよね、いつだって男子にモテモテで。自覚してないのかもしれないけど、これまでもそうだったし、きっとこれからもそうなんでしょ? 好きなときに好きな男子を選ぶことはあっても、好きな人から選ばれず━━視界にさえも入れて貰えない。そんな気持ちなんて……一生経験することなんて無いんでしょ?」
「め……、メグ……? そっ、そんなことないわよ……。メグはとっても魅力的よ?」
 愛はふるふると首を横に振った。
「わかるもん……。わたし、どんなに思っても恋は実らない……。そういう星の下に生まれてきたの……。だって、あの人、詩織ちゃんの事……」
「メグ……」
「ごめんね……詩織ちゃん。言い過ぎた……」
「あっ……待ってっ。メグっ!」
 涙を浮かべながら、ひとり走り去っていく。詩織はただ呆然と眺めていることしかできなかった。

      5

(まさか……メグが、そんな……信じられない……)
 衝撃の事実に、詩織の頭の中はぐちゃぐちゃだ。
 金槌で頭蓋骨を割られ、更に脳みそを直接引っ掻き回されたような気分である。
 まずあの純粋無垢で性的な事柄など聞いたことさえなさそうだった愛がすでに経験済み……。まして、裏では目の下を紅く染めながら男のペニスを頬張って━━。
 その事実の衝撃度は、詩織の常識を粉々に破壊するに十分なものであった。
 膝の震えが激しくなり、足腰に力が入らない。その場に崩れ落ちそうになる。
「ようよう、スーパーヒロイン様が何ショックなんか受けてんの」
 その場に崩れ落ちそうなところを後ろから支え、馴れ馴れしく肩に手を描けてきた者がいた。好雄である。 
 詩織は震える手で肩に置かれた手を振り払った。爪を立てて手の甲をつまみ上げた。
「触らないでよ……。あなたね? 好雄くんがメグを誑かしたのね?」
 キッと睨み付ける。対する好雄はいつもの調子で余裕を崩さず、へらへらと笑っている。
「おーっ、いちちち。嫌われたもんだね。今の美樹原さんの話さ、聞いてなかったのかい? 確かに誘ったのは俺だけどさあ。俺ははじめからそういう事に抵抗なさそうな女子にしかこんな事お願いしないし、やるって決めてくれたのは美樹原さんの意思だってば。大体ずっと前から男を経験済みだとかセックス慣れしてるだとか、そんな事俺がどうこうできる訳ないでしょ。それともアレかい? その吊り上がった眉の意味は、バカにしてた親友が先に大人の階段登っちまってた事に対する嫉妬かい? コワー、女の八つ当たりは勘弁してくれよな」
「な……な……、なぁっ!?」
 額の辺りがかあっと熱くなった。
「大体さあ、いくらカマトトぶってる優等生の藤崎さんでもよお、高三、18歳ともなれば少なくない割合の女子がセックスくらい経験済みだってこと、知らないなんて言わせないぜ」
「そ、それは……そう、かも……しれないけど……。でっ……でも、それとこれとは話は別よ。学校で、まして知らない人からお金をもらってするなんて言語道断よ」
「分かってないなあ。今やってるのは文化祭だぜ? 実際に商売をやってみてよ、社会の仕組みを学ぶのが目的の催しだぜ? 知らない人からお金を貰って何かを売るなんて、あらゆるクラスがやってる事じゃないか。その中で最大限の利益を目指すのは当然の事だろ? 俺はクラスの一員として、3ーAが最も利益を上げられるように知恵を絞ってるだけさ。幸いうちの学校━━中でも我がクラスは顔面偏差値は突出して高いからね。価値の高いもの━━サービスを高い金取って売ることが、それ自体がそんなにいけないことかい?」
「でっ、でも……そんなのおかしいわ! ふ、不潔よ。病気とか……、避妊とか……」
「ふ~ん、じゃあちゃんと衛生面や避妊に気を使ってれば大丈夫なんだ?」
「そ、そういう訳じゃ……」
「大人が責任持って自由意思でやってる事なんだ。ちゃんと妊娠は勿論、病気貰ったりはしないよう避妊して、双方合意での下でしてるんであれば誰にも文句つけられる筋合いなんて無いぜ。頭ごなしにダメダメ言うなんて、自由意思の侵害、個人の選択権の妨害だ、憲法違反だぜ。それにな、実際世の中にはごまんと━━いや、それどころか何十万人とセックスワーカーがいるんだぜ。援交してる女子や主婦なんかを加えたらもっとだ。藤崎さんよ、あんたは買う側の男だけじゃあなくて、そういう女たちを押し並べて不潔で自分の頭で考える知能の無いアンポンタンだって言うのか、あーっ?」
「そ、そこまで言わなくたって……」
「藤崎さんヨォ、結局はさぁ、他の女子の事はみーんな自分より下って見下してるってことなんだよな? だからナチュラルに不潔だなんて言えるんだよ」
「ちっ、違うわっ!」
「いーや、違わないね。違うって言うなら、明日は藤崎さんもやってみなよ」
「やっ……やってみるって、何を……?」
「裏オプだよ。裏オプション」
「ばっ、馬鹿なっ! そんな事する筈がないでしょっ!」
「ふーん。ま、いいけどね。藤崎さんだって18歳を超えた立派な成人だもんな。どうするかは自由意思に任せるよ。ただ、これだけは言っておくぜ。さっきの表彰会でさ、うちのクラスの女子みんな、嫉妬心……競争心……虚栄心……、そういったものに火が付いちまったみたいだぜ。明日は絶対さ、美樹原さん達以外にも裏オプを始める女子が出てくる筈だ。そうなったら藤崎さんのランキングは今日よりもっと下がる。親友面しておきながらずうっと下に見てたあの美樹原さんにもさぁ、勝てないどころか、どんどん差が広がっていくだろうね、明日は」
「なっ……! そ、それは……」
「ま、一晩あるんだ。よ~く考えてみてくれ。きらめき高校のスーパーヒロインが一肌脱いでくれるっていうのなら、俺としちゃ━━いや、俺だけじゃないな。来てくれるお客さん、それだけじゃねえ、このきらめき高校の男達みんな大大々歓迎だろうがね、ククク……」
 ケラケラと下劣な笑みを浮かべながら、好雄は悠然と立ち去っていった。
 脳内には、いつまでも好雄の言葉がリフレインしていた。
(どうしたら……どうしたらいいの……?)
 こんなとき気兼ね無く何でも話せる親友は、もうそばにいない。
 まだまだ子供だと━━庇護すべき存在だと思っていたのに、愛は知らない内に遥か遠くへ行ってしまったかのようであった。

      6

 その日の夜。
 藤崎家、詩織の自室。
 時刻は既に夜12時を回ろうとしていた。普段ならとっくに就寝している時間である。
 しかし、パジャマに着替え、ベッドに入って何時間経ってもも目が冴えて眠れなかった。悪魔の囁きめいた好雄の言葉が、愛の嫉妬混じりの告白が、そして万全の準備をして臨んだはずのJKリフレで三位にさえ入らなかったという屈辱がグルグルと脳裏を駆け巡る。
(みんな……みんな裏オプションを……? わたしだけが、取り残されちゃってるっていうの……?)
 好雄の話はにわかには信じがたいものがあったが、現に愛があのように言うのであれば嫌が応にも信じざるを得ない。
(メグ……)
 男性経験において、愛にさえも追い抜かれているという信じられない事実。
「んっ……」
 詩織は股間へと手指を伸ばしてゆき、パジャマとショーツの上からそっと秘部を撫でてみた。
「んうううっ……」
 自分の口から出た声なのに、自分のものではないような気がした。恥ずかしさと自己嫌悪で、顔が燃えるように熱い。
 ショーツの中へと手指をねじり込ませていった。いつもこうだ。こうなるともう止まらない。麻薬のような快楽を貪るのを止められない。
 クリトリスから膣へ、刺激する箇所をより奥へ奥へ進めてゆくごとに、詩織の呼吸は荒ぶり、身を捩らせてゆく。
 詩織は脳内で、愛がセックスしている様を想像していた。
 ベッドの上では、頬を赤く染め一糸纏わぬ姿となった愛が、脚を閉じたり開いたりさせながら、小さな両手で股間を隠している。
 男がのし掛かってくる。
 男は邪魔な両手を左右に押し退けながら、愛の秘部へと顔を埋め花びらをしゃぶり回していた。粘りつくような音が立つ。
 はじめは眉間に皺を寄せ、いやいやと左右に首を振っていた愛であったが、次第に裸身がくねりだし、表情が淫らに蕩けていった。
 堅く閉じられていた左右の花びらが次第に開いてゆき、薄桃色の粘膜が露になる。そして花びらは男の唾液だけではなく、愛自身の粘膜から分泌される粘液によってトロリと濡れはじめている。
 愛は甘えた声を出し始めた。
「あ……あぁうんっ……」
「なんだい? 何をどうしてほしいのか、はっきり言ってくれなくちゃ分からないぞ?」
「いじわる……」
 アーモンドピンクの花びらに指を埋め込みつつ、クリトリスの上で手指を小刻みに震わせる。
「オ……オマ×コ……」
「んんん? なんだって? 聞こえないな。止めちゃおうか?」
「おっ、お願いですっ! 早くっ、早くオマ×コしてくださいっ! ぐちゅぐちゅになった私のオマ×コに、早くあなたのオチ×チンを入れてっ!」
 愛の口から、耳を疑うような卑猥な言葉が飛び出てきた。言いながら、脚をMの字に開くとその中央部分を見せつけるように指でいじり始めた。
 額には珠の汗が浮かんでいる。体温が急上昇するほどに興奮しているのが見てとれる。
 男がカチャカチャとベルトに手を掛け、スラックスをトランクスごと引き下ろした。細部は影かかってよく見えなかったが、勃起したペニスがぷぅんと反り返っていた。
 愛は息を呑み、期待感に満ちた表情でそれを見つめている。
「あっ……はぁぁあっ、あぁぁっ……!」
 男が愛の上にのしかかってゆく。ビッチョリと濡れた股の間に男のモノが埋め込まれてゆく。
「はぁっ……あぁぁあーっ……!」
 そこで詩織の妄想は中断した。
 絶頂の波が押し寄せてきて、頭の中が真っ白になったからだ。
 腰を弓なりに反り返らせ、宙に浮かせた腰をガクガクと震わせながらオルガスムスの衝撃を噛み締めた。
「はぁっ……はあっ……、んんんっ」
 絶頂のピークを越え、詩織は糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
 全身が汗まみれである。
 ハァハァとはずむ息を整えるのに必死で、なにも考えられなかった。
「何をやってるんだろ……わたし……」

<< 前 欲望きらめき文化祭(12/20) 次 >>

コメント

  1. pncr より:

    ついに詩織きた!
    未経験で一安心。
    美樹原さんが経験済みなのは予想通り。
    ぶっちゃけ詩織なら裏オプなくても人気すごそう。
    好雄はちょいちょいチンピラ化してますね。
    それにしても文章がうまい。
    前半のボーナス支給の場面も読みごたえがありました。もしかしてそういうお店で働いてました?
    未緒が詩織と比肩だけは納得がいきませんでしたが(笑)

  2. しょうきち より:

    ブルー様。コメントどうもです。

    お褒めいただきありがとうございます。ちなみに本話は特にそうなんですが、100%混じりっ気無しの妄想から出力されてます。

    本話で言及している未緒に関しては、ときめきの放課後で出てきた髪型チェンジエンドのビジュアルイメージとしていただければと思います。最初からあれならもっと人気出たのになーと思います。
    それでも詩織に比肩というのは言い過ぎでは・・・というのはそのとおりなのですが、本文中でも言及しているとおり、これはあくまで好雄の主観であり、ヤらせてもらった相手特有の贔屓目が含まれてるということにしといてください。

    あと、特にこれ以上語る予定のない裏設定なのですが、本作の美樹原さんは高一~高二のどこかで公人に振られてます。そのときの断り文句は「俺、詩織の事が・・・」といったものでした。失恋のショックと友情と嫉妬との板挟みになった美樹原さんは、裏で適当な男と・・・。
    という設定をしているのですが、これ以上長くなってもダレるのでカットしてます。

タイトルとURLをコピーしました