作者:しょうきち
あの花火大会の日からおよそ半年近くが過ぎていた。
長かった高校生活ももうすぐ卒業式を迎える。愛はなんとか二流企業の内定を得ることができ、四月からは晴れて新社会人となる。
あれからというもの、公人との仲に特段進展はみられず、デートなどに誘われたりすることも誘うこともなかった。
とはいえ愛にとって最も(唯一)親しい男子である事には変わりはなく、学校で顔を会わせれば笑顔を向け合い、挨拶したり、時には少し話し込んだりもする。
けれど、それだけだ。今度の週末一緒に出掛けようとか、帰る方向も一緒だし二人で帰ろうといった話には一度もならなかった。
たが、それは詩織についても同じことが言えるようで、これは愛の勘でしかないのだが、詩織と公人の関係性も進展らしい進展を見せてはいないようであった。その理由は、恐らくは受験勉強である。
詩織と公人は学部こそ違えど、国内最高峰の難度を誇る一流大学を志望しているのだと聞いた。全国から一流の天才が集まりしのぎを削る環境に挑むとあっては、デートなどしている暇はないということらしい。
そして先日二次試験も終わり、あとは結果を待つだけ、というところが現在の状況である。
公人と詩織が揃って一流大学へ進学すれば、最早公人へ愛の手が届く余地は失くなってしまうだろう。
華やかなキャンパスライフを送る中、ごく自然な流れで付き合い始めるのだろう。そうなる前に、たとえ失恋に終わるとしても、公人へのこの気持ちに対し、せめてなんらかのケリをつけたかった。
日曜日の早朝。愛は愛犬であるムクの散歩をしていた。自宅から少し歩いた先にある近所の公園まで赴き、公園内をぐるっと回る、お決まりのコースである。
公園を出て帰ろうとしたところで、ジョギングコースを駆けてゆく公人と遭遇した。
「い、今の………、公人……さん!?」
公人はすれ違った愛に気づいていない様子であった。表情は険しく、まるで死地に赴くスパルタ兵のような空気を纏っていた。
あれは本当に公人だったのだろうか、見間違いか、人違いか何かではないだろうか……などと考えを巡らせていると、ムクがいきなりかん高い鳴き声で吠え出し、愛の後方に向かって矢のように走り出していた。
「ど……どうしたのっ。ムクっ!?」
振り返った向こう、ムクが駆けていった先には、先程すれ違った公人が倒れていた。
「なっ……公人さんっ!?」
愛は慌てて公人の元へ駆け寄った。単に転んだだけとはとても思えないほどの苦しげな呻き声を上げていた。
「うぁ……、うぅう……」
「公人さん……あっ、すごい熱……!」
愛が触れた公人の身体が熱い。手元に体温計は無いが、かなりの高熱であることが測らずとも判った。
(あぁ、あっ……、公人さん……、どうしよう……。このままじゃ……。あっ、病院! い や、今日は日曜で何処も閉まってるっ! ええと、ええと……)
愛は逡巡したが、結局、とりあえず公人を自宅まで連れていく事にした。だらんと力が抜けた公人の身体はひどく重かったが、そんな事を気にしていられないくらい必死で運んだ。
「はうっ! あっ? こ、ここは……?」
「あっ……、公人さん……」
「み、美樹原さん!? ここは何処だ……? 俺、なんでここに……?」
「あ、あの……公人さん……。私の家です……。そこの公園の前で倒れてるのを見かけて、それで……」
愛はこれまでの経過を公人に説明した。
現在の時刻は昼前、午前十一時を回ったところである。愛が倒れた公人を発見してから数時間が経過していた。
自宅へ公人を担ぎ込み、ひとまず体温計で熱を測ったところやはり発熱していた。それだけではなく右足も挫いている様子であった。自室のベッドに公人を寝かせ、家中から栄養ドリンクや冷えピタシートなどをかき集めてきたところで公人が目覚めたというところである。
なお、汗を拭くために一度服を全部脱がせたのは秘密である。
「あの、公人さん……。とりあえずこれ、飲んでください。うちの冷蔵庫にあった一番効きそうな栄養ドリンクです」
「あ、ありがと……美樹原さん」
愛が公人に渡した栄養ドリンクであるが、パッケージには『栄養ドリンク 退魔3000倍』とある。公人はそれを一息に飲み干すと、即座にベッドから起き上がろうとした。
「なっ、公人さん!? 無茶ですっ! さっきまですごい熱が出てたんですよっ!?」
「大丈夫。もう下がったよ。美樹原さんの看病と栄養ドリンクのお陰だよ」
「だからって、どうしてすぐに行かなきゃいけないんですか? もう少し休んでいけば……」
「美樹原さん……ごめん。俺、休んでるわけにはいかないんだ」
「む、無茶です……。どうしてなんですか?」
「ある人に……大事な人に、認められたいんだよ。凄い男だって思ってもらいたい。そのために、フルマラソンにチャレンジするんだよ。明後日が本番でさ、今日明日がトレーニングの最後の仕上げさ。三年間大して何もせずに過ごしてきた俺にとって、何かを成し遂げる最後のチャンスなんだよ」
「公人さん……。熱、少しは下がったみたいですけど、今は休まないと駄目です。足だって挫いてるし、無茶したらきっと悪化しちゃいます」
「でも、何かを成し遂げられないと、俺の三年間は無駄に終わるんだよ。そんなこと耐えられない」
「そんなもの……、無くたって良いじゃないですか」
「そんなものって何だよ。美樹原さん」
「そんなもの無くったって、何も無くったって……公人さんは公人さんです。公人さんの三年間は、無駄なんかじゃないです!」
「いや、無駄だ」
「公人さんは……私みたいな本当になんの取り柄も無い子とは違って、色んなことに一生懸命で、いつだって活躍してて……それに凄く格好良いじゃないですか……」
愛は感情を溢れさせ、殆ど泣きそうな勢いであった。最後の方は殆ど消え入りそうな声量である。
「美樹原さん……。でも、それじゃダメなんだ。たとえ多くの人が認めてくれたとしても……」
「どういうことですか?」
「本当に認めて欲しい、たった一人に見てもらえないと、努力も結果もなんの価値も無いってことさ」
「……その一人って、ひょっとして詩織ちゃんの事ですか?」
「美樹原さん……。俺と詩織はさ、ただの幼馴染みで……」
「……誤魔化さないで下さい」
愛は強い意思で公人を正面から見据えた。勢いとはいえある意味、最も聞いてみたくて、最も答を知りたくない質問を直球で聞いてしまったのである。結果はどうあれ覚悟を決めなければならなかった。
「……そうだよ」
愛の表情がひきつった。
「俺さ、詩織のことが、ずっと好きだったんだよ。初めて意識したのは……幼稚園の頃かな。近所の公園の木に傷を付けて背比べしたりしてさ、そのときは詩織より背丈が低くて『ちくしょ~、早く大きくなって追い抜いてやる』って思ったんだけど、それから何年経っても、背なんかとっくに追い抜いちまっても、詩織はいつも、何をやっても俺の前を走っててさ、お節介焼いてくるんだよ。で、ある時思ったのさ。『いつか俺の事を追っかけさせて、俺が逆にお節介焼いてやる』ってね。それが初恋だって気づいたとき、俺はきらめき高校の願書取りに行ってたんだ。どうしても詩織と同じ高校に行きたくてね。でもさ、どうやら駄目みたいだ。詩織のやつ、こないだのバレンタインで俺にチョコくれたんだけど、他の皆にも配ってるのと同じちっちゃい義理チョコ一個だけさ。俺のことなんて、大して特別意識も何もしてくれてないのさ。だから俺、高校最後のチャンスとして、フルマラソンを頑張ってみようって思ったんだ」
「詩織ちゃんのことが、そんなに……す、好きなんですね……」
「あ、ああ……」
やはり公人は、詩織のことが好きだったのだ。それも幼少期からの筋金入りで。そこには愛が入り込むような心の隙間などは無いように思える。この恋は、最初から勝ち目など存在していなかったのである。その事実を突きつけられ、愛の両目からは大粒の涙が止めどなく溢れ落ちていた。
「……う、ううっ。ぐすっ、あああっ。ううう~っ……」
「どっ、どうして美樹原さんが泣くんだよっ!?」
「ぐすっ、だって……だってっ、私にも好きな人がいるから……。本当に好きなたった一人に見てもらえない辛さ、分かるんです……」
「美樹原さん……」
愛はベッド上に長座する公人を抱き締めた。薄い胸板で公人の頭部を漏れ無く包み込むように、ひしりと抱き締める。
「み、美樹原……さん……」
(あ……!)
純粋な、掛け値なしの同情心からの抱擁であった。何かを求めた訳ではない。しかし、愛の目端には衝撃的な光景が飛び込んで来ていた。
今正に現在進行形で、公人の股間がムクムクと膨らんでいるのである。
愛は反射的に飛び退いた。
「あっ……」
「ご、ごめん……美樹原さん。さっきのアレを飲んでからなんか体が……。クソッ、静まれっ、このっ」
「な、公人さん……! 無茶しないでくださいっ……。私が、私が悪いんです。変なもの飲ませたから……」
愛は知る由もなかったが、公人に飲ませた栄養ドリンク『退魔3000倍』は感度増強三千倍を謳い、夜の性活を楽しみたい熟年カップルや名うてのAV男優などに人気の超・強力精力剤であった。
勿論疲労回復や滋養強壮といった効能もあるが、主たる薬効は速効性や持続力、射精量アップといった精力増強効果である。
「美樹原さん……っ!?」
愛は再び公人の頭を抱き締めた。
額と額がぶつかる程に顔を近付け、目と目を合わせた。熱はどうやら大分引いたようであるが、今度は逆に愛の方が熱に当てられていた。
「公人さん……あ、あのっ、そ、それ、何とかしないと、苦しいんですよね?」
「そりゃそうだけど、今ここでどうこうする訳にはいかないんだよ……」
「あの、お願いします……。私の事、使ってください。今だけ私の事を詩織ちゃんだと思って抱いてください。大事な人に靡いてもらえない人間同士、慰めさせてください……」
「み、美樹原さん……!? ひょっとして、君の好きな人って……」
公人の問いは途中で遮られた。愛が公人の口に自身の唇を押し当てていたからである。
「……んっ。う、うちの親なんですけど、昨日今日、この土日は旅行に出てて、今日は夕方まで帰って来ませんから……」
愛は口づけを解いて言った。
「美樹原さん………でも、俺……」
「終わったら、全部無かったことにしてもいいですから。最初で最後の、一生のお願いです……!」
「美樹原さん……!」
「公人さんは何も心配しないで。全部私のせいにしてくれていいです」
愛はもう一度唇を差し出し、キスを求めた。
顔も体も熱くて仕方なかった。自らキスを求めることで、目の前の公人に対し欲情していることをはっきりと自覚した。そして、欲情している自分自身に戸惑いを感じていたが、込み上げてくるものを抑えることができなかった。
公人がキスに応えてくれると、愛は自ら口を開いて舌を差し出した。キスが初めてなら、そんな大胆なことをしたくなったのも初めてだった。公人も驚いたようだったが、次第に小刻みに舌を動かし始める。愛も動かし返す。チロチロ、チロチロと舌が触れ合う程に、階段を一段一段登るように、どんどんいやらしい気持ちになってゆく。
着ていたブラウスとスカートを脱がされた。下着の上下だけになるとひどく肌寒く、まるで吹雪の中に裸で立っているような心細さだった。
そんな愛をベッドに押し倒し、公人は愛の両脚を割り開き、その中心へとのし掛かってきた。
「きゃっ……! な、なにを……?」
公人は愛のショーツを太股あたりまでずり下ろすと、恥毛を掻き分け、秘部を舌で舐め始めた。
「……っんんんんっ!?」
生暖かい舌の感触に、思わず声が漏れた。エッチな漫画でしか見たことのない行為に恥ずかしくてのけぞりそうであったが、羞恥を飛び越えた向こう側にはめくるめく快楽が待っていた。
ぬめぬめした生暖かい舌で、割れ目をこじ開けられ、中をかき回された。
「あっ……はっ……、んんんんんん~っ!」
わけがわからなくなるくらい気持ちよかった。同時に、自分は途轍もなく悪いことをしているのではないかと怖くなった。
「はぁ……はぁあ……」
公人がトランクスを下ろした。生まれて初めて見る勃起したペニスは、想像の10倍グロテスクだった。
(これが……わたしの中に……入る……。ほ、本当に!?)
愛は恐る恐るペニスに触れてみた。
想像よりも熱く、太く、硬くみなぎっている。赤黒くそそり立つそれに指を這わすと、時おり脈動を感じる。先端は真っ赤でパンパンに膨れ上がっており、それでいて思いの外柔らかい。
「美樹原さん……愛ちゃん。本当にいいのか? だって……きみは……」
「もう……何も言わないで。私……おかしな子なんです。どうしようもないくらいに欲しいんです……これが……。私のなかに、入れて……ください……」
目の下を朱く染め上げて、小声で囁く。
愛は口を真一文字に結び、息を飲んだ。眼を固く閉じる。
それを皮切りに、公人が腰をグッと前に突き出す。
「いくよ、美樹原さん……」
熱いものが、愛の体内に入ってきた。
それは愛の身体の内側を深々と蹂躙していった。灼熱がトロトロになった粘膜を焼いていき、誰も触れた事の無い秘奥を貫く。
お互いがお互いの身体に夢中になってしがみついた。公人は腰を振り立て、愛は甲高い悲鳴を部屋中に響かせる。
「はっあ……、あぁあぁっ……!」
愛はこの単純な行為に、早くも夢中になっていた。
公人の背中に手を回すと、激しく打ち付けられる腰の回転に併せて愛も腰を使った。半開きになった口元からはハァハァと淫らな吐息が漏れだし、身をくねらせてよがり抜く。
公人は必死の形相で、顔を真っ赤にさせて腰を打ち込んでくる。たとえ一時の事とはいえ、自分の身体がこれ程までに求められている。愛おしさと嬉しさに、愛は泣きそうになった。
公人に応えるように、全身全霊で腰を使った。
そうしていると、愛の身体に変化が訪れた。いままで感じたことの無い衝動が身体の中心、一番深いところからせり上がってくる。
何が起きているのか、これから何が起こるのか予測もできず、しかも声を上げようとしてもパクパクと口を開閉するだけで声を出すことが出来ない。パニックに陥りそうなのに、公人は勃起しきった男根を何度も何度も愛に打ち付けてくる。
(助けて、助けてっ! 公人さんっ!)
愛は半狂乱になって泣き叫んだが、声を発することができずに、ただ目の前の公人にしがみつき、髪を振り乱し、全身から淫らな汗を飛び散らせていた。
次の瞬間、身体の一番深いところで爆発が起こった。意思とは関係なしに五体が指先に至るまで激しい痙攣を開始した。
「イッ……、イクっ……!」
なぜ自分の口からそんな言葉が漏れたのか、愛にも分からなかった。それがセックスにおけるオルガスムスだということは分からないまま、途轍もない快楽の奔流に飲み込まれていた。公人に必死でしがみつき、喉を突き出してのけぞった。
それは、愛の小さな身体で受け止めるには許容量を軽くオーバーしていた。脳髄を焼く程の衝撃に耐えきれず、愛は意識を失った。
━━愛の意識がホワイトアウトしていたのは、時間にしておよそ数秒程度だったのかもしれない。意識と五感すべてを失い、全身凡てを中空に投げ出すような感覚の中では、肉と肉で繋がっている公人の温もりだけが愛の全てであった。
白目を剥いて失神していた愛を、公人が心配そうに見つめてきていた。
「……はっ!? ご、ごご、ごめんなさい。私……気持ちよすぎて……」
「だ、大丈夫?」
愛は汗だくで頷いた。手足はまだぶるぶると震え、意識はまだ雲の上にふわふわと浮かんでいるようであったが、この際、何がなんでもセックスを最後まで完遂したかった。
「来て……、続けて……ください」
注挿が再開された。今度は公人の方も腰の奥のあたりがぶるぶると震え出した。射精の瞬間が近いのだと感じた。
「公人さん……。あの……、中は……その……」
激しく腰を叩きつけている公人の動きが、一瞬止まった。
本音を言うと中に出して欲しかったが、愛は涙目で囁いた。さすがに子供ができてしまうのは困る。生むことも育てることもまだ遠い別世界のようにしか感じられなかったし、自分はともかく、まだ若く未来ある公人の人生を縛り付けてしまうのが何より申し訳ないと思った。
(でも……でも……、ああっ!)
「美樹原さん……愛ちゃんっ……、いくよ……ううっ!」
「は……はいっ!」
公人はピストン運動を止め、陰茎を引き抜くと愛の腹に押し当ててきた。そうして何度か腰を前後に動かすと、恥骨部から陰毛にかけてドロリと生暖かい液体が流れていく感覚があった。
「はぁぁ……、はぁあっ……」
「公人さん……で、出ました?」
「ん……うん……。ええと、その……」
公人が気まずそうな顔をして愛の顔を見つめてきた。それを涙目で見つめ返す愛は、なぜだか無性に可笑しくなってきてプッと吹き出した。
「……なんだよ。にらめっこなら美樹原さんの負けだぜ」
「……ぷ、ぷ、あははははっ。公人さん、変なの……。にらめっこ……なんて、ふふ……子供みたい。たった今、二人一緒に大人になったとこなのにね。変なの。あ……あはははは」
「ふっ、ははははっ。美樹原さん、すごい顔してるぜ」
愛は涙をぼろぼろと溢しながら大口を空けて笑い、涙と笑い皺で顔をくしゃくしゃにさせながら、公人と顔を見合わせていた。
公人も釣られて無性に可笑しくなり、愛と見つめ合いながら笑った。
下腹部がジーンと熱かった。
愛は処女を卒業した事を実感した。
そして同時に、初恋からの卒業を実感しなくてはならなかった。
週が明け、月曜日となった。
あの日、公人と別れる前までは確かに身体だけではなく心まで通じあってる実感があった。一度きりとは言ったが、もう一度、やもすれば何度でも求めてくれるのではないだろうか。そんな浅ましくもか細い期待を胸に抱いてしまっていた。
休み時間、たまたま廊下で公人と顔をあわせた。
「おっ、愛ちゃん。やっ、昨日はありがとね」
「は、はい……」
公人の態度は軽いもので、何事も無かったかのような、普段どおりのものであった。
(なんだったんだろ……。わたし……うっ、ううっ……)
愛は女子トイレの個室に籠ると、声を圧し殺して泣いた。公人の態度は『愛とはこれきり、一度きりで、今日からはただの友達同士に戻ろう』という意思を感じさせるものだった。
(一度きりの……夢。そう、夢を見ていただけだったのね……)
そう思わないと、この張り裂けそうな胸の痛みに全身を引きちぎられそうだった。
一度きり、最初で最後と決めていた。約束までしたのに、何故なのだろうか。どうしてこんなにも、以前にも増して、一分一秒たりとも離れたくないくらい、独占したいくらいに好きになってしまったのだろう。
後で聞いたところによると、公人はフルマラソンを完走することが出来たらしい。
だが、詩織が公人の事を結局どう思っているのか、見直したのかどうかについては、愛には最早分からなかった。知りたくもなかった。
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