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2.夜に開く蕾

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作者:しょうきち

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 藤崎詩織の紹介によって高見公人との知己を得た美樹原愛であったが、積極的に話しかけたりは出来ずにいた。
 生来の引っ込み思案により思春期以来まともに異性と話した経験もない身の上では、どうしたらいいのかまるで見当もつかず、きっかけが掴めなかったためである。
 愛は不思議でならなかった。何故殆ど話したこともない公人の事が、こんなにも気になってしまうのだろうか。
 ハンサムという点では、もっと美形な男子はいくらでもいる。例えばきらめき高校理事長の孫、伊集院レイなどがそうだ。しかしどうしてか、まるで磁石の針が迷い無く北を指すように、愛の意識はいつも公人の側へ向けられていた。
 詩織と一緒に廊下を歩いている時など、時折公人とすれ違うことがある。
 そんな時、愛は公人と目を合わせるも、一旦目を逸らす。そうしておいて別れ際、ほんの少し振り返って再び公人の方を見る。すると公人と目線が重なる。きょとんとした顔で見つめてくる公人に対し、顔を赤らめ、目を伏せて去っていく愛。
 愛にできたことは、ただそれだけであった。
 そんな交流とすら言えない、ほんの小さなやり取りでしかないにも関わらず、それだけで愛の心は浮き立ち、歓喜に弾んでいた。
 
 夜、自宅。
 電気を消してベッドに潜り込むと、愛は熱い吐息を吐き出しながらそっと下着の中に指を滑り込ませた。指に絡み付く薄いヘアを掻き分け、ゆっくりとクリトリスを覆う柔らかな包皮を捲り上げる。
 身体中で一番敏感な小さな突起に、熱い血液が流れ込んでゆくのが分かる。愛の頭の中は淫らな妄想でいっぱいになり、溶け出した欲望が全身の穴という穴から溢れ出しそうになる。
「はぁぁ……」
 目を閉じると、溜息が漏れる。息苦しさを感じ、はぁはぁと呼吸が荒くなる。
 愛は唇を小さく開けたまま、指先で突起の部分を擦り上げた。きつく閉じた瞼の裏側に、花火が舞っていた。
「んんんっ!」
 太腿を捩り合わせるように締め付け、自身の手指に圧迫感を加える。小さな身体が稲妻に打たれたように反り返り、愛は一度目の絶頂に達した。

 中学生の頃、友達が持ってきた少女向けコミック雑誌を、先生に隠れて回し読みさせてもらったことがある。
 近年の少女漫画は過激化の一途を辿っており、キス止まりで終わらない過激な性描写が誌面を賑わせている。恋愛の終着駅としてSEXが描かれる事などは最早珍しくもなんともなく、最近ではオナニーやフェラチオ、果てはレイプや青姦、ドラッグ等が描写される事さえもある。
 これらの行為を始めて目の当たりにした中学当時の愛は、のけぞり、青ざめ、しばらくの間絶句していた。
 だが、しばらく経つと時の経過とともにそれらの嫌悪感は興味、関心へと変換されていった。やがて高校生となり、周囲に既に性体験を済ませた子がいることも珍しくない年代となる頃には、愛の性的好奇心は渇望と言ってもよいレベルのものとなっていた。

 現在高校三年生の愛は、隠れてこのような行為をすることが半ば習慣化している。
 ベッド上、愛はごそごそと身体を動かし、ピンク色のコットン生地のパジャマを脱いだ。そして、シルクのショーツも脱ぎ去り、全裸となった。寝るときは、元よりブラは着けていない。
 真っ白なシーツが素肌を優しく刺激する。全身がじんわりと汗ばむ。愛は指を乳房へと這わせた。
 乳房のサイズは控えめであるが、その上にはしっかりと女の形をした桜色の乳輪が広がっている。玉葱の皮を一枚一枚剥くように、そこに甘美な刺激を少しづつ加えてゆく。すると中央の突起が赤く染まり、むくむくと勃起する。
 硬くなった乳首を中指と親指を使ってギュウと潰してゆく。目も眩むような痛みが胸の奥から脳裏にかけて走り抜けると共に、股間がジワリと熱く潤みを滲ませるのを感じた。
「高見……さん」
 掠れた声で、今一番気になっている男子の名を呼んでみる。しばらく前まではこうした妄想の材料はアイドル歌手やイケメン俳優が主だったが、今の愛の頭の中は公人の事で一杯となっていた。
「あうぅ……高見、さん……」
 右手は股間に挟んだまま、左手で乳首を交互につねった。自分の手首を太股できつく締め付けながら、身体を身悶えさせる。
 妄想の中では、公人は愛の彼氏であった。
 公人の逞しい腕が、息が詰まる程に愛の身体をきつく締め付ける。首筋に公人の薄い唇が当てられる。
 首筋から耳元にかけて、白肌の上を濡れた唇が這っていった。火傷しそうなくらいの熱さだった。
「公人さん……いや、わたし……怖いの……」
 公人の事を、今度は下の名前で呼んでみる。本当は少しも止めて欲しくなんかないのに、なぜかいつもそのような拒絶の言葉が口をつくのである。
 膝がガクガクと震え、性器からはどっと熱い粘液が溢れ出す。それを中指で掬い上げ、クリトリスに擦り付ける。潤滑液によって快感は倍増する。
 愛は泣き出したいくらい感じていた。
 妄想の中の公人が、愛の乳首を口に含む。舌先でなぶり、きつく歯で噛まれる。公人の指が愛のクリトリスを荒々しく弄ぶ。
 愛は腰を波打たせていた。快楽によって意識が朦朧としていた。
 妄想がエスカレートする。愛はクリトリスを弄っていた中指にもう一本薬指を加え、すぶずぶと性器の中に沈み込ませていった。
「あぁぁ……」
 指先が愛の肉体を堕としてゆく。自身のこの指と、妄想の中の公人の指との区別が曖昧となる。もしも本当に、この指を現実の公人の指に変える事ができたなら、自分はいったいどうなってしまうのであろうか。はっきりと分かるのは、そうなったときにはもう死んでも惜しくないような快楽がもたらされるであろうという事だ。
 指を更に深々と沈ませる。
 身体が軋む。顎が上がり、両足がきつく突っ張る。歯を食い縛る。きつく閉じた瞼の隙間から、熱い涙が溢れ落ちる。
「んんん……あぁうっ!」
 性器に宛がった掌に、ドクンドクンと熱い液体が噴出していた。
 『あぁ……漏らしちゃった』と思っても、一度噴き出した潮はもう止められない。挿入した二本の指の間からは間欠泉のように一定間隔で熱い液体が吹き出し続けてゆく。
 愛は蜜部に出し入れする指の動きを止めるどころか、更にエスカレートさせていた。
「公人さん……、あぁっ……イクっ……!」
 もう一度公人の名を呼ぶと、体温が何度か上昇したような気がした。いや、実際に上がっていた。ピクンピクンと何度も身体が跳ね、視界が真っ白に染まる。
 呼吸が出来ない。水槽から飛び出した金魚のように、口をパクパクとさせながら酸素を求めた。あまりの苦しさに涙が溢れた。
  もう何もしたくない程の倦怠感に包まれているのに、それが死ぬほど心地よかった。
 意識がドロドロに溶け出し、愛は快楽の深淵にその身を沈ませていった。

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