私は、藤崎詩織。
都内のきらめき高校に通う、女子高生よ。
いきなりだけど、心臓が飛び出しそうなほどドキドキして緊張で足が震えてる。
今日は、私にとって、はじめてのイベントなの。
いままで練習してきた成果を見せないと。
「詩織、リラックス。リハーサル通りに歌えばいいから。あと間奏の振り付けまちがえないで」
「は、はい」
ステージ裏でマネージャーに話しかけられて、よけいに緊張しちゃった。
（深呼吸、深呼吸……）
スタッフの合図でステージに飛び出す。
衣装は、白とピンクのフリフリドレス。腰のところに大きなリボンがあって、短いスカートがヒラヒラしてるわ。あと、トレードマークのヘアバンドね。
マイクを片手にステージの中央に立って、客席を見回す。
場所はデパートの屋上にある小さなイベント会場。さっきまでヒーローショーがあった。
小さな子供たちに混じって、オタクっぽい男の人がたくさん。事前の告知を聞いて集まってくれたの。
みんなの前で、デビューシングルの『もっと！モット！ときめき』を熱唱した。
恋する女のコの気持ちを歌詞にした、とってもステキな曲なの。私もすごく気に入っている。
メロディに合わせてステップを踏んで、笑顔で手を振る。
とにかく歌詞をまちがえないようにしないと。あと元気に明るく。
ファンの人たちが、名前を呼んで掛け声をしてくれてる。
「しおりーん」とか「フゥフゥ」とかいう合いの手。
あれって、みんなで打ち合わせしてるのかしら。息がピッタリよね。
すごく勇気がもらえる。
いつか、もっと大きなステージで歌えるように頑張らなくちゃ！
「みなさん、今日は私のはじめてのイベントに来てくれて本当にありがとう！ これからも、応援をよろしくね！」
ステージの真ん中でお辞儀をした。
みんな盛大な拍手をしてくれて、思わず涙ぐんじゃった。
「お疲れ。歌もダンスも、すごくよかった。ファンも大盛り上がり」
控室の椅子に座って、用意してあったオレンジジュースを口にした。
マネージャーが、めずらしく褒めてくれたわ。
緊張から解放されて、ドッと疲れが出てきた。
目標にしていた競技会で、全力を出し切った感じ。
「後ろの席まで声が届いてたかな。歌いだしで、音程がズレてなかった？ あと途中の振り付けをトチッて」
「すこしミスがあるほうが愛嬌があっていい。新人賞を目指して、これからジャンジャン仕事を取るぞ」
「はい。私も、がんばります」
「来週のスケジュールだけど――」
マネージャーは手帳を開いて、スケジュールを確認してた。
（ひさしぶりに、学校でみんなと会えそうね）
私が、アイドルとしてデビューしたのは、ほんの１か月前。
テレビの端役で１カット映っただけで、まだ大きな仕事はもらえてないんだけど。
去年の秋に、街で買い物をしているときに、いまの芸能事務所にスカウトされたの。
ちいさい頃からスカウトはよくあった。でも、全部断っていた。
勉強と部活が忙しかったのもあるし、芸能界は競争がとても激しいでしょ。私より可愛い女のコがばかりで、アイドルとして通用するはずがないと思っていたの。
だから、今回も断るつもりだったの。
事務所の社長さんに「だれからも愛されるトップアイドルに育ててみせる」と熱心に説得されて、事務所に入ることを決めた。
やっぱり、テレビ画面で、綺麗なドレスを着て歌っている姿を見ると憧れちゃう。
それに大好きな歌で、大勢の人を幸せに出来たら、とてもステキなことでしょ。
事務所は、私を清純派路線で売り出すみたい。
夢は、新人賞と武道館でのコンサート。
ライバルは多いけど、やるからにはトップアイドルを目指すつもりなの。
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