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2.Blue evening

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作者:しょうきち

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      3

 マサキ・アンドーが去っていった後、ウェンディ・ラスム・イクナートの自室。
 部屋の中に主の姿は見られず、そこにはシャワー音だけが鳴り響いていた。
(わたし……なんて事……しちゃったんだろ。マサキ……)
 バスルーム内、シャワーヘッドを立て掛け、頭から湯を浴びる。膝裏辺りまで伸びる濡れた髪を伝い、水滴が滴り落ちている。
 ウェンディは自己嫌悪に陥っていた。
 愛している筈のマサキを傷つけてしまった事。その事実は何よりもウェンディの心中に深い影を落としていた。
(マサキ、どうして私……。嫌われちゃったわね……。本の事なんて、最初から正直に話していれば……)
 後悔先に立たずとはこのことである。
 思考の袋小路とでも言えばいいのか、論理的思考を巡らせる事にかけては右に出る者のいないウェンディであるが、こうして答えの無い答えにつまづくといつまでもネガティブなスパイラルに陥るようなところがあった。
 だからウェンディは、いつだって真っ直ぐなマサキに惹かれたのである。
 自分にないものを与えてくれる。そして、自分からマサキに与えられるものがもしあれば、何だって与えてあげたいと思う。
 人はそれを、愛と呼ぶ。
 だが、今のウェンディには与える方法が分からない。いや、何が与えられるのかさえも分からなかった。
(マサキ……。今、どうしてるのかしら)
 ウェンディは唇に残る柔らかな感触を思い出していた。先程は無我夢中で勢いでしてしまったが、二年ぶり三度目のマサキへのプラーナ補給、すなわちキスを敢行したのであった。
(そういえば、前にもこういうこと、したわね……)
 何度か落ち込んだりスランプに陥ったマサキに、あえて冷たい態度を取った事がある。それは決まって、マサキの養父ゼオルートが目の前で死亡した時であったり、ラスフィトート復活未遂に際しサイバスターを動かせなくなってしまった時など、常人であれば戦いの場から逃げ出したくなるような非常事態が発生したような時である。
 そのような態度を取ってしまった後は内心気が気ではなく、マサキのフォローのために密かに先回りしてサイバスターに乗り込む等といった無茶をしたりもした。
(そうだ、逢いたいわ……。今、すぐに……!)
 ウェンディの心中に、嵐のような衝動が巻き起こっていた。
 ウェンディはシャワーを止めると、身体を拭いてバスローブだけ羽織って駆け出して行った。
(マサキ……っ!)
 逢って何をしたいといった考えがあるわけではない。
 ただ、顔を見たい。それだけである。練金学士という理性の徒として生きる自分に、このような感情の迸りが自分の中から生まれ出できた事に、ウェンディは驚いていた。
 相手になにかしてあげたいという気持ちが愛ならば、この、理性も何もなく衝動に身を任せたいという気持ちは何と呼んだらいいのか。ウェンディの明晰な頭脳を持ってしても、答えはなかった。

      4

(はぁ……、はぁ……)
 バスローブ一枚だけ羽織って駆け出したウェンディは、マサキの部屋の前で乱れた呼吸を整えていた。ノーブラなのでバスローブから溢れそうな乳房がたゆんと上下している。
 息を大きく吸い込む。肺に酸素が満たされると、脳に血液が回り、冷静な思考が戻ってくると、不安な気持ちが押し寄せてきた。
 本当にここに来てよかったのだろうか?
 マサキのためを思うなら、今は、せめて一晩くらいはそっとしておいてあげるべきなのではないのだろうか?
 ウェンディは深呼吸すると、意を決して扉を叩いた。
「あの、マサキ……。まだ起きてる?」
 返事はなかった。
(居る……と思うんだけど、やっぱり怒ってるのかしら……)
 諦めて自室へ戻ろうとしたとき、扉が僅かに開いた。
「マサキ……あっ……!」
 逢いたくて仕方がなかった筈なのに、マサキの姿を見たウェンディは心臓が止まりそうになり、言葉を発することができなかった。
 マサキは腰にバスタオルを一枚巻いただけの姿であった。
「悪ぃな、こんな格好で。丁度シャワーあびてたところでよ。どうした、ウェンディ。ウェンディも風呂上がりか?」
「ご、ごめん……。そんな格好じゃなんだし、部屋に入れてくれる?」
「お、おいっ!?」
 身体をねじ込ませるように、マサキの部屋の中へと入り込んだ。後ろ手に扉を閉める。
「わわわっ、おい……、何だってんだよ。こんな時間によ」
 言われてみれば、何故勢いに任せてここまで来てしまったのだろう。マサキに嫌われたくないから? 誤解を解きたかったから?
 否。
 ここまで来ずにはいられなかった理由は、もう自分自身の正直な気持ちに背を向けないと誓ったためである。溢れる想いを伝えたくて、いてもたってもいられなくなったためである。
「んだよ……。黙ってちゃ分からねえよ。服、着ていいか?」
 マサキはウェンディに背を向けた。
「んっ……、おい……!?」
 ウェンディはその背中にそっと寄り添い、背中にこつんと額を当てた。
「マサキ……その、さっきの事なんだけど……」
「……それなら、もう気にしてねえよ」
「悪かったと、思ってるわ……」
「じゃあ一人にさせてくれよ」
「だって……」
「んだよ……。誰にも言わねえから、さっきのはなんかの気の迷いだったってことにしといてやるよ。さあ、いいから帰ってくれ」
「マサキ、ち、違うの!」
「んだよ」
「好きなの」
「えっ….!」
「あなたのこと、好きなの。愛してるのよ」
「……話はそれだけか? それで、どうして欲しいって言うんだよ?」
「あ、あの、わたし……、ごめん……なさい。ただ、気持ちを伝えたくて……そ、それだけよ。それだけなの。それ以上、なにもないわ。じゃあねっ!」
「おい、待てよっ。ウェンディっ!」
「ま、マサキ……!?」
 立ち去ろうとする背中を、今度はマサキが抱き締めていた。ウェンディは心臓を鷲掴みにされたように動けなくなった。汗の臭いに入り交じった、濃厚な男の香りがした。
「ウェンディ……っ。やっぱ、悪い、行かないでくれっ……!」
「マサキ……!」
「俺の方こそ、ごめん。素直になれねえのは、お互い様みてえだな」
「マサキ……」
 肩から胸のあたりにかけて回された腕を、その上から押さえ込むようにして掴む。乳房にマサキの腕が触れる。
 すると、臀部のあたりに何か硬くて熱いものが触れる感触があった。
「マサキ……あ、あの、あのね。当たって……るんだけど……?」
「……うっ!」 
 振り返ろうとしたウェンディには固いものが押し付けられていた。熱く脈打つそれが何であるか、今のウェンディにははっきりと分かった。
 興奮している。欲情しているのだ。
「ま、マサキ……そ、その……!」
「め、面目ねえ……。俺、おれ……!」
「マサキ……」
 ウェンディは無言で振り返ると、盛り上がったテントにそっと手を添えた。
「あああっ、凄い……。カチンカチンよ……」
 バスタオル越しに、勃起しきった男根が脈打っている。心臓の音が聞こえそうなほど高鳴っているのに、驚くほどどこか冷静な自分がいた。
 ウェンディはバスタオルの上から、手のひらを上下にさすった。驚愕とともに目をぱちくりとさせるマサキを見つめ「いいのよ」と耳元で囁く。
 マサキは息を呑むと、ウェンディの肩に手を添え、バスローブを下ろした。純白の乳房があらわになる。緊張と興奮に、豊かな双丘が波打っている。
「す、すげえ……。ウェンディって、着痩せするタイプだったんだな」
 剥き出しの乳房にマサキの視線が突き刺さる。恥ずかしくてたまらなかった。
「恥ずかしいわ……。あんまり……見ないで……」
「悪ぃ。多分……無理だ」
「ああ……うっ!」
 マサキの手が乳房に触れる。鼻息を荒げているのが分かる。遠慮がちに下からすくい上げるような触り方で、気が遠くなりそうな程嬉しかった。下半身がかあっと熱く疼き出すのを感じた。
「ウェンディ、痛くは……ねえか?」
 マサキが心配そうに顔を覗き込んでくる。ウェンディは応えなかった。代わりに、そっと唇を重ねた。
「ん……!?」
「んっ……」 
 唾液のアーチを引きつつ、唇を離す。
 マサキの巻きタオルを下ろすと、股間が痛そうな程の盛り上がりを見せていた。ウェンディの下腹部をコツンと叩く。

『セックス』

 この瞬間、両者の脳裏には共通のワードが浮かび上がっていた。まごう事無く、これから男女間でする性的結合を始めんとする流れである。
 しかし互いにその言葉を口にするのを躊躇っていた。互いに処女、童貞ということもあって、あと一歩というところで口に出すタイミングを図りかねていた。
 無言のまま互いの身体をまじまじと見つめたり、様々な箇所を触りあったりしていたが、沈黙を破ったのはウェンディの側であった。
「ま、マサキ……そ、その、ここじゃなんだし、ベッド、いこ? このままじゃ、苦しいでしょ……?」
 年上としてマサキをリードしなければ、という気持ちもあったが、早くマサキとセックスしたいという欲が勝ったというのが正直なところである。
「う、ウェンディ、そ、その……本当にいいのか? でもよ、ええと、俺、アレ……持ってねえんだよ」
「あ、アレ?」
「ゴ……ゴムだよ。ゴム。」
「え!? あ……、ど、どうしましょう」
「どうしましょう……って言ったってよ。や、止めとくか……?」
 ウェンディは抗議の目線を向けつつ、口元を尖らせた。そして、マサキの背中に手を回し口づけた。本能に身を任せたディープキスである。鼻息荒く、唇をちゅるちゅると吸いたてる。言葉にしない代わりに、「止めないで」という思いを全身全霊で伝えた。
「っは、はぁ、はぁ……だよな。ここまで来て、止めることなんて出来ねえよな……」
(マサキ……!)
 互いに抱く欲情の炎は、もうどうしようも無いくらい燃え上がっていたのである。

 ベッドに移動し、キスの続きを始めた。
 スプリングがキィキィと軋む。五指を絡ませ合う。むさぼるようなディープキス。ウェンディは目を閉じてすらいない。マサキも同様である。互いに目を見開き、見つめあいながら舌を絡ませあった。
「ウェンディっ……! 綺麗だ……」
「や、やあん……!」
 辛うじて引っ掛かっていたバスローブを完全に脱がされる。マサキが紅潮した乳房を揉みしだいてきた。その手は緊張に震えているようであった。
 まるで自分の身体じゃないような感覚だった。乳房を一揉みされる度に胸の奥では灯が灯ってゆき、乳首のあたりは火が出そうなほど熱く、硬く尖っているのが分かった。
 最初は遠慮がちだったマサキの手つきが、次第に積極的になっていった。乳肉にズブズブと指が沈みこむ。ねっとりとした情欲にまみれた汗が吹き出す。揉まれる度に、もっと刺激が欲しくなって、身体を芯からくねらせる。
「はぁ、んんんっ!」
 マサキが乳首に吸い付くと、ウェンディはのけぞって声をあげた。白い歯を見せ、きつく眉根を寄せる。首元に一筋の汗が溢れ落ちていった。
 マサキの手がウェンディの腰回りに伸びた。今のウェンディにとって唯一残された最後の衣服、薄手のショーツに指を引っ掛けていた。
 その体勢のまま、マサキが心配そうな顔で真っ直ぐに見つめてきた。「本当にいいのか?」というジェスチャーである。
 ウェンディは息を呑んだ。心臓がバクバクと鳴っていた。この一枚の薄布を取り払うと、もう隔てるものはなにも無い。
 暫しの逡巡。
「大丈夫よ。続けて……」
 ウェンディは顔をそむけて言った。マサキの顔をまともに見ることができなかった。様々な感情の奔流が、心中を駆け巡っていた。
 マサキが改めて手を伸ばし、ショーツを脱がされた。ウェンディはこれで生まれたままの丸裸となった。
 両脚を開かれた。目の前のマサキは興奮を隠せず、爛々としたギラついた目で見つめている。自分自身でさえもよく見た事の無い箇所をまじまじと見られ、匂いさえ嗅がれているのは死ぬほど恥ずかしく、顔から火が出そうになった。
 だが、それすら凌駕する勢いで、快感が総身を震わせていた。生まれて始めて凡てをさらけ出すこの感覚は兎に角恥ずかしく、訳も何も分からなかったが、言語化するならばやはりそれは快感としか呼びようのないものであった。
「あ、あ、あ……ふぅぅ……うぅうん……」
 下腹部が熱くなっていた。気づけば発情の証左である粘液が止めどなく漏れだしていた。
「……あ!」
 最も敏感な部分に、生暖かくて柔らかいものが触れる感触があった。マサキが股間に顔面を埋めていた。
「い、いやっ……!」
 決していやでもなんでもないのに、そんな言葉が口をついて出た。大事な場所を見られ、嗅がれ、あまつさえ舐められている。本当は止めて欲しくないのにと思って哀願の目線をマサキに向けていると、本当に止めてくれなかった。
 下腹の一番深いところが熱く溶けていた。
 炙ったチーズのようにトロトロに溶けだし、止めどなく粘液が溢れ出てくる。
 発情の証左であるそれをマサキが音をたてて啜る。痺れるような快感が、ウェンディの脳天から爪先までを走り抜けていた。
「あ……ひィっ!?」
 最も敏感な、ポッチリと突き出た箇所にマサキの舌先が到達した。するとウェンディはしたたかに仰け反った。
 自身で触ることさえも憚られる箇所であるが、痛みはなかった。下準備が十分にされているためか、押し寄せてきたのは煮えたぎるような行き場のない快感だけであった。
「ねぇ、そろそろ……。あんまり……焦らさないで。……わたし、あんまり我慢できないと思うから……」
「お、おう……。いくぜ、ウェンディ……」
 マサキはそそり立つ男根を取り出し、くしゃくしゃに濡れた花園にその先端を当てがった。前戯は十分。ウェンディが切っ先を入り口へ導くと、マサキが腰をグッと前へ推し進めてきた。
「あ……っ」
 痛みや抵抗感は思っていたほどは無く、すんなりとペニスとヴァギナが結合してゆく。
「ん……あっ!」
 ペニスが胎内へ深々と打ち込まれてゆく。奥の方に到達すると、ウェンディは思わず声をあげていた。生まれて始めて感じる痛みと異物感だった。
「はぁっ、あ……んんっ!」
 下腹部を起点に、そこから脳天までを一直線に走り抜けるような稲妻がウェンディの体内を走り抜けていた。意思とは無関係に、肺から空気が絞り出される。背中が弓なりに大きく反り返る。
「あっ、はぁああぁあ……」
 ウェンディ狂おしいほどの息苦しさを感じ、思わず声にならない悲鳴をあげていた。マサキの背中に手を回し、肩甲骨のあたりに爪を突き立てる。
「はぁっ……はぁあっ……」
 太くて硬くて熱いものが、体内にがっちりと埋め込まれている。自然と熱い涙が溢れていた。涙を拭く余裕さえもなく、マサキに必死でしがみつく。
「ねぇ、わたしたち、ひとつに……なれたの?」
「あ、ああ……。全部挿入った……みてぇだ……。そ、そのよ、ウェンディ、痛くねえか?」
「大丈夫……。身体がね……ビックリしちゃったみたいなの.…。暫くこのままでいて、ね? お願い……」
「ああ……。でもよ、俺もあんまり、我慢してられねえかも……」
「マサキ……」
 マサキは結合したまま、ウェンディの肩を優しく抱き締め、じっと動かずにいる。
 まるで現実感がなく、夢を見ているような気分だった。
 だが下半身を貫く痛みとそして痛みを上回る多幸感は空想やバーチャルリアリティといった類いでは決してあり得ない程の現実感を伴っていた。頬をつねる必要は無さそうである。
 ウェンディは自身の上に覆い被さるマサキの頬をぺたぺたと触ったり、マサキの下腹部をそっと撫で回してみたり、両足をマサキの後ろですりすりと重ね合わせたりしてみた。そうしているうちに、異物感のあった結合部が馴染んでゆき、痛みは快感へと、快感はもっと深くまで繋がりたいという愛欲へと変換されていった。腰をもぞもぞと動かす。
「ウェンディ……そろそろ動いていいか? 俺、そろそろ我慢が……」
「え、ええ……。わ、私も……お願い……」
「いくぞっ……」
「!? あっ、痛たたっ……!」
「う、ウェンディ!? わ、悪ぃ。痛かったか? 止めといた方がいいか?」
「い、いえ、違うの。痛いは痛いんだけど、そうじゃなくて、その、ええと……。髪の毛が挟まっちゃって、引っ張られちゃったみたいなの」
「わ、悪ぃ。俺、慣れてなくて……」
「……マサキ、ちょっといいかしら?」
「……ん?」
「身体、入れ換えるわね。気持ち良くしてあげるから……」
「お、おい……?」
 ウェンディはマサキの首に手をかけ、繋がったままで身体を引き起こすと、その上に対面座位でまたがった。目を固く閉じ、腰を落とす。茂みの奥にある濡れた花びらに、屹立するペニスが飲み込まれていった。
「はっ、あ……ああっ!」
 腰を下ろしきると、より深々と膣内に埋め込まれたそれが、一際大きく膨らんだ感触があった。子宮口を押し上げるあまりの快楽に、総身に鳥肌が立った。
「ふ……ぁあぁん……っ!」
「うおぉ……ウェンディっ……」
 おずおずと薄目を開けると、蕩けた目で情熱的に見つめてくるマサキと目線があった。睚を開き、見つめ返すと、身体の芯がきゅんと疼いた。呑み込んだ男根が硬さを増したような気がした。
「はぁ………うぅうん」
 マサキの後ろ髪に指をめりこませ、頭がくしゃくしゃになるくらい全力でしがみついた。マサキがお尻に手を回し、むしりと掴まえる。ウェンディはもうじっとしてはいられない程の子宮の疼きを感じた。
「んっ……はんんっ……」
 ウェンディはぎこちないながらも、腰を前後に動かし始めた。結合した性器と性器が擦れあう。
「はぁ……あぁあ」
 顔を歪め、眉根を寄せながら少しずつ腰を動かす。マサキもそんなウェンディの腰を両手で引き寄せ、一定のリズムをつけて股間を突き出した。
 最初は互いにぎこちない、ゆっくりとした粘りつくようなリズムであったが、次第にグラインドのリズムがシンクロしあう。否応なしに熱がこもってゆく。愛液の分泌が止まらない。股間をしゃぶりあげるように振り立て、淫らなリズムに身を任せた。
「はぁ……あぁっ!」
 震える声が漏れ出す。顔の中心から火が出そうな程熱かった。今自分はどれ程浅ましく、淫らな顔をしているのだろうと思っても、腰振りのピッチを止めることができない。
 腰を振れば振るほど、顔だけでなく全身が熱くなってゆく。素肌が火照り、額に珠の汗が浮かび、甲高い喜びに満ちた悲鳴を上げるのを止められなくなってゆく。
「あはぁ……あうぅんん……」
 ウェンディは心の奥底から沸き起こる喜悦を噛み締めていた。瞼を開くと、そこにはマサキの顔があった。瞳孔が開き、興奮しきっているのが分かる。額をコツンと当てて、視線を絡め合わせる。グラインドの波長が互いにシンクロしてゆくことによって、あたかも二つの波が重なるかの如く、振り幅が次第に強く、激しくなっていった。
 くちゅん、くちゅんと肉ずれの音が室内にいやらしく鳴り響く。ウェンディはそれを恥じらいつつも、次第に腰振りの愉悦に溺れていった。
「あっ……、あっ……! いいのっ、凄いっ……! 届いてるうっ、いちばん奥まで届いてるうっ……!」
 ウェンディの唇からは、ほんの数時間までは考えもしなかったような、信じられないほどいやらしい声が自然と漏れ出していた。
 腰を振り立てる程に、二人きりの室内には淫らな空気が充満してゆく。目の前に見える唇に飛び付く。自ら舌を滑り込ませ、その中の舌を思う存分に舐め回し、吸い立てた。
「んっ……はぁ……れろ、んっぷ、んちゅ……」 
 そうしている内に、呼吸が苦しくなった。目の前のマサキの呼吸も荒々しげなものへと変わってゆき、喜悦に歪んだ呻き声をあげる。
「うぁ……、おぉおっ……」
 その声が、今夜のウェンディをどこまでも淫らにさせていた。激しく腰を振り立てる。あえぎ声のオクターブがひとつ上がる。
「はっ、はぁうぅぅぅぅんっ!」
「うぁぁ……やべえっ。出るっ! もう射精しちまう……!」
「マサキ……。いいのっ、最後まで……一緒に……。あはぁぁあっ!」
 マサキは顔を真っ赤にさせつつ、尻の双丘をつかんで押さえ込みながら、怒濤の連打を打ち込んでくる。ウェンディの身体が浮き上がりそうな程の勢いであった。
「うあぁ出るっ……もう出るぞっ!」
 一際激しい連打が始まった。
「マサキっ……、中に出してっ!」
 ウェンディは叫んだ。避妊はしていない。妊娠するかもという考えが一瞬脳裏をよぎったが、今はもう、この愛欲と情動に身を委ねる以外の事は何も考えられなかった。
 必死の形相のマサキが漲りを増した男根を深々と打ち込んでくる。直上に突き上げる衝撃は目も眩むほどで、頭が真っ白になる。同時に、膣内では男根が一際膨らんでいた。
 肉と肉が一体化したまま、制御できなくなったなにかが腹の奥で暴れ狂っていた。
 身体の芯から沸き起こる痙攣を制御できない。それはドクンドクンと熱い脈動を放ちながら、ウェンディ中に煮えたぎるエキスを放った。
「んんんんんん~っ!」
 ウェンディは最早声にさえならない悲鳴を上げつつ、腰を跳ねさせた。淫らな汗を迸らせ、腰だけではなく全身をビクンビクンと痙攣させながら、必死でマサキにしがみついた。マサキもしがみついてきて、冬山で遭難した時のように、生命そのものを重ねあわせた。ふたり揃って声にならない叫びを漏らしながら、身をよじりあった。
「はっあ……ううう……んんんんんっ!」
 歓喜のあまり、ウェンディは涙を流していた。ほとんど子供のように泣きじゃくっていた。
 だが、泣いていたのもほんの僅かな時間だけであった。汗にまみれた素肌をマサキと共にこすりあわせながら、ウェンディの意識は間も無く微睡みの中へと落ちていった。

      5

「……んんっ」
 朝日が差し込んでいた。
 下腹部には昨夜射精してもらった精液の、隣にはマサキの暖かみを感じ、愛するマサキとセックスを果たしたという実感が沸き起こってくる。
 目を擦りながら開くと、眼前にはマサキの横顔があった。
「お、おう……。ウェンディ……なのか?」
 マサキはウェンディの顔をまじまじ覗き込むと、安堵したかのようなため息をついた。心なしか、目の下にクマが出来ているようにも見える。
「ど、どうしたの? 顔、何かついてる?」
 マサキはなにも応えなかった。
 代わりに、ウェンディがそこに確かに居るという事を確かめるかのように、頬や髪をすりすりと撫でていた。
「マ、マサキ? あ、やだ……。もしかして、ずっと起きてたの?」
「いや、そ、その……よ……」
「……どうしたの?」
「ウェンディの寝顔見てたら、つい……な。これまで色々あったけどよ、こうして初めて一緒に寝ててもよ、まだ信じられないっつーか、本当にウェンディとせ……セックスしたのかどうか自信が沸かねえっつーか。変なこと言ってるみてえだけど、未だに現実感がねえ気がするんだよな。そんな事考えてたら、眠れなくて……」
「もう、バカね……。私はいつだってあなたのそばにいるわよ。それがずっと、ずっと前からの私の一番、唯一の願いだったんから……」
「ウェンディ……」
「こうしててあげるから、一緒に眠りましょう。今日も、明日も、これからも……」
 ウェンディはマサキの頭を引き寄せると、胸元にそっと抱いた。
「わっ……ぷ、う、ウェンディ……。俺、ウェンディの事……!」
「ふふ……マサキ、なにも言わなくていいわ。不安なときは、いつだってあなたの事を支えてあげる。楽しいことは、一緒に分かち合い ましょう。あなたのことを、愛してるわ。これからはずっと一緒よ」
「ウェンディ……。俺も、愛……して、る……」
「うふふ、おやすみ、マサキ。いい夢を……」
「ウェン……ディ……」
 乳房に顔を埋めると、次第にマサキは寝息をたて始めた。ウェンディはそんな年下の恋人の寝顔を、心の底から愛おしそうに見守っていた。
 寝顔をしみじみと眺めていると、愛おしさが胸をつく。これからは一緒に寝て、一緒に起きて、一緒にご飯を食べたりデートしたりしたい。
 それより何より先にしたい事がある。もう一度目を覚ましたら、キスをして、ハグをして、再び素肌を擦り付け合いたい。いっぱいいっぱいセックスしたい。生への喜びを、二人で精魂尽き果てるまで分かち合いたい。
 ウェンディは未来への希望に、歓喜の涙を流した。マサキの額にキスをして、ひしりと胸に抱き締めると、再び微睡みの中に堕ちていった。

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