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5.夕子の告白

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作者:しょうきち

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      1

 テーブルの上には、もはや氷すら無くなった空のグラスが二つ並んでいた。
 事を終えた後は、二人とも裸のまま抱き合い、しばらくの間まどろんでいた。いつまでもこうしていたいと、夢のような時間をたゆたっていた。
 だが……。
「……へくしっ! ううっ……、おい夕子、この部屋ちょっと冷房効き過ぎじゃねぇか……? このままじゃ風邪引いちまうぞ?」
「好雄くん……」
 夕子がぼんやりした顔で身を寄せてくる。まだほのかに頬がピンク色に染まっており、その表情はびっくりする程愛らしかったが、心を鬼にして引き離した。
「だーっ、いーから服着ろっ、服っ! 寝惚けてんじゃねぇっ! 風邪引くだけじゃねえぞ、店員が見回りに来ちまっても知らねぇぞっ!」
「ん……もう、わかったわよ……。もうちょっとさぁ、ホラ、ムードとか……大事にしてほしかったんだけど……」
 夕子は気だるそうに頭をポリポリと掻いている。
「俺とお前との間で、そんなもんあるかよ」
「ひっどぉーい……」
「お互い様さ。いつも人を振り回しやがってよう」
「……ぶっ!」
「ぶっ……ふははははははっ!」
 お互いに声をあげて大笑いした。
 ひとしきり笑いあうと、あっちこっちに転がっているお互いの服をかき集めた」
「おーい夕子。お前のパンツ、こっちにあったぞー」
「んもー、汚さないでよね。乱暴に投げ捨てるんだから……。あっ、好雄くんの靴下片方だけしかないよ。もう片方見なかった?」
「あー、サンキュな。もう片っぽはこっちにあるぜ」
「ほーら、投げるから取ってねー」
「のわーっ、頭にっ!? いきなり投げんなぁっ!」
 お互い着替え終わると、部屋の中央にあるソファに二人並んで、肩を寄せあうようにして座った。中央正面にある大モニターではチープなプロモーション映像がエンドレスに流れていた。
「なあ、夕子……さっきの話だけど……」
 夕子と手を重ね合わせる。夕子も握り返してきた。
「あっ、今聞いちゃう、それ?」
「当たり前だろ。気になって今夜は八時間しか寝られそうにねえよ」
「それ、普通じゃん……」
「で、どうなんだよ。結局お前って、やっぱ経験あんの?」
「うっ……」
 夕子は涙目になっていた。
「お、おいおい……。いや、そこまで嫌なら話さなくてもいいけどよ……」
 夕子は首を横に振った。横目で好雄の方を見つめてきた。
「いや、聞いて。話したいの、好雄くんになら……」
「夕子……」
「あれは、去年の夏だったかな━━」

      2

 結論から先に言ってしまうと、やはりというか、夕子は非処女であった。だが処女喪失に至る過程は、風俗(しかも本番禁止のファッションヘルス)で童貞を捨てた好雄に負けず劣らず、ろくでもないものであった。
 今から一年近く前、まだ処女だった頃の夕子は毎日遊んで回っていた。それ自体は今でも昔でも変わらないのだが、高校二年ともあれば中学時代と比べてもやりたいことが山のようにあり過ぎる。行きたいところ、欲しいもの、やりたいこと、それら全てをやり尽くすためには、先立つものが全く足りていなかったのである。
 夕子は悩んだ。悩みに悩んだ末に、知り合いから紹介されて始めたのが、マッチングアプリで知り合った相手と食事をしたりデートをしたりして対価をもらう、所謂パパ活であった。世間でこれだけ話題になっているし、噂ではみんなやっているという事だし、それならあたしにも出来るかも、という軽い気持ちだった。
 年齢をごまかしてアプリにプロフィールを登録すると、びっくりする位次から次へと男からのメールが飛んできた。夕子はその中から比較的紳士的そうな男と連絡を取った。相手は40代の会社員、極々普通のおじさんであった。結果、拍子抜けするくらいあっさりと金を得ることができた。食事をするだけで三千円である。女子高生というブランドの強力さをまざまざと思い知った。
 楽勝じゃん、と思った。
 だが、このときはまだ知らなかった。
 普段見えているようで見えていないというだけで、世の中は女を食い物にする事しか考えていないクズ男で溢れかえっているという事を━━。

      3

 パパ活界隈では「#大人」「#サポ」といったタグをプロフィールに付けている女子がうじゃうじゃおり、それらは援助交際、つまり金銭を介したセックスの誘うサインである事は何となく察しがついていたが、夕子はなるべくそうした界隈には近寄らずに純粋に食事とトークで稼いでいた。遊んでると思われがちで、言えば大抵びっくりされるのだが、この当時はまだ処女であったためである。
 だが、パパ活に慣れてくるに従って、本来あった筈の警戒心や危険への嗅覚といったものが知らず知らずの内に薄れていった。
 中年親父とのお食事にも飽きてきた頃、夕子が次に手を出してみたのはギャラ飲みであった。
 所謂パパ活をしていた時よりも若い世代を相手どる事が多く、その相手の多くは港区のタワーマンションに住んでいるような、エリートサラリーマンやボンボン大学生といったところである。
 元々盛り上げ上手で、アルコールにも強い方だった夕子は界隈で人気者となっていった。飲み食いして騒いで一回6,000円(別途交通費付き)。いい商売である。
 そんなある日の事、いつものようにギャラ飲みの誘いを受けて、夕子は港区にあるタワーマンションへと足を運んでいた。相手は一應(いちおう)大学の医学部で、ラグビー部に所属する四人組なのだという。筋骨粒々で遊び慣れていそうなイケメン揃いだったことによるちょっとした下心も警戒心を鈍らせた一因であった。
 そこで事件が起こった。後に知ったことだったが、軽めの酒だと思って飲んでいたグラスには、知らない内に高濃度のアルコール飲料を濃縮した錠剤、通称スピリタスカプセルを混ぜられていたのである。前後不覚となった夕子はタワマンの部屋の奥にあるベッドルームで寝かされていた。
 そこに優男風のイケメンがやってきた。先程まで飲んでいた四人の内の一人である。意識も回復してきたので「ありがと、そろそろ帰━━」と言おうとしたが、言葉が出てこなかった。男が無理矢理唇を奪ってきたからだ。唖然としている暇もなく、乱暴に口をこじ開けられ、舌が裂けそうな勢いで吸いたてられた。
「んっ……ふ」
 野獣のようなキスだった。
 そのままベッドに押し倒され、服も下着も剥ぎ取られた。男は夕子の脚をM字に割り広げ、クンニリングスを開始した。相手が体育会系のイケメンだったこともあって、不覚にも感じてしまった。唾液を滴らせ、花びらをベロベロと舐め回してきた。
「あふっ……うぅうん……」
 荒々しくも情熱的な舌使いに、夕子は総身をのけぞらせて喘いでいた。舌が動く度にシーツを握りしめて乱れた。体の一番深いところが疼き、淫らに潤み、粘液が溢れだしていった。男は音を立ててそれを啜りあげながら花びらをしゃぶり、舌先で中をかき混ぜ、肉芽を執拗に舐め転がしてきた。
「ああっ、ダメっ、そんなにしたらっ……!」
「ウヒヒ、感じまくってる。エッチな娘だね、夕子ちゃん」
 このとき夕子は異様に興奮していた。今にして思えば、であって最早確かめる術は無いのだが、飲み物にはスピリタスカプセル以外にも性感を増幅させる媚薬のようなものが混ぜられていたのかも知れない。
 男が誰も触った事のない膣内へと、舌をねじ込んできた。夕子は何かがこみ上げてくるのを感じた。わけもわからずにいやいやと首を振ったが、手綱を緩めてはくれなかった。
(なにこれっ! なにこれっ! なにこれぇぇっ!?)
  夕子は大きく身体をのけ反らせた。次の瞬間、体の芯がビクンと痙攣したかと思うと、頭の中が真っ白になった。意識が天に昇って突き抜けていき、その次にはふうっと空から落ちてゆくような感覚を味わった。

      4

 頭はまだ朦朧としていたものの、朧気ながらも身体の感覚が戻ってきた。
 そして、触らずとも分かった。シーツがぐっしょりと濡れている。水をこぼしたわけでも汗で濡れた訳でもない。
「夕子ちゃん、気づいたかい?」
 男は全裸だった。股間には隆々と男根がそそり勃っている。太く、黒々と反り返ったそれは、異様に生々しくどくどくと脈を打っていた。生まれて初めて見たそれに、夕子は頬をひきつらせ目を見開いていた。
(これからあたし、犯されちゃうんだ……)
 処女であっても流石にそのくらいの察しはついた。だが、不思議とセックスへの嫌悪感はなかった。ただ、こんなに太いものが果たして本当に体内に入るのか、その痛みだけが気がかりであった。
 男が顔を近づけてきた。
「触ってみるかい?」
 夕子は顔を真っ赤にさせながらうなずいた。促されるがままに身を起こし、恐る恐るそれを手に取った。
 想像以上に固かった。先端の鈴口からは、わずかに透明の液が溢れていた。
「それがこれから、夕子ちゃんの中に入るんだよ。いいね?」
 拒むことは最早考えられなかった。熱に浮かされたようにうなずくと、男は夕子の両脚を割り広げてきた。そして、ペニスを手に取るとその先端を誰も侵入したことのない花びらの合わせ目に当てがった。
「あああっ!」
 ゆっくりと入ってきた。最初はそれを押し返すような抵抗感を自分でも感じた。
「うぉおっ、マジきっつ! こんだけ濡れてんのにさぁ、ひょっとして夕子ちゃんって処女?」
 夕子は顔を真っ赤にさせながら首を縦に振った。死ぬほど恥ずかしく、顔に火がついたように熱かった。
 だが、男のものは無意識の抵抗反応に抗い、襞を掻き分けるようにゆっくりと奥へ進んでいく。
「いっ……痛ぁっ!」
 夕子は声をあげた。
「我慢しろよ。すぐに気持ちよくなるから」
 男根が奥まで入ってきたのを感じた。先端が子宮の入り口に当たる。
 ひりひりと火傷したような痛みが下腹部全体を覆っていた。
(こっ、これが気持ちよくなるなんて……ウソでしょ!?)
 なにも考えられない。痛みと衝撃、そしてとまどいに涙を溢れさせながら、下半身が焼けるような感触を味わっていた。
 男はしばらくじっとしていた。
 そのまま数分ほど経過したであろうか、徐々に痛みがやわらいできて安堵の溜息を漏らすと、それを皮切りに男が腰をローリングさせ始めた。
 まだ痛みはあるけれど、クリトリスを舐められたのとは別種の疼きが、擦れあう襞から沸き起こってきた。むず痒い感覚だった。
 挿入されたまま唇を吸われ、耳をかじられ、舌を唇でしごかれる。痛みは快感へと変換されてゆき、夕子はペニスから五体の隅々まで伝わってくる快感の大渦に身を投じていた。
「あっ、ああっ……!」
 もう夕子の口から漏れる声は、破瓜の痛みに泣く声ではなく、悦びに身を任せて喘ぐ声でしかなかった。声をあげる度に、自分を覆う何かが剥がれ落ちてゆくような感覚だ。
「あっ……ああっ! スッゴいっ!」
 夕子は最初の痛みはすっかり忘れてしまったかのように、部屋に響き渡る程の大声で喘いでいた。
「オオオッ! イクぞっ!」
 男のモノが夕子の中でビクビクと震えたかと思うと、引き抜かれ、夕子の上にドピュッと白濁を放出された。
 白い腹で生暖かい精を受けた。夕子はドロリと溢れ落ちてゆくそれを呆然と眺めていた。
(これが精液……、これが……、セックス……!)
「じゃあね、夕子ちゃん」
「えっ」
 男は満足そうな笑みを浮かべると、夕子の上から離れた。そしてベッドルームを後にしていった。
 身を起こそうにも金縛りにあったように身動きひとつすることができず、夕子ははしたなく脚をガニ股に広げたまま、ベッド上で呆然と仰向けに寝転んでいた。 
 初めて男を受け入れた部分は男根の影を抱くかのようにパックリと開いたままで、ひくひくと蠢いている。シーツには破瓜の印である赤い染みがついていた。
(ああ……あたし、処女じゃなくなっちゃったのね……)
 涙は出なかった。
 現実感があまりなかったということもあり、身体に受けた衝撃に比べ胸の内、情動めいた部分が追い付いてきていなかったためである。

      5

「んん……っ!? え……えええっ!?」
 双眸をきゅっと閉じていた夕子がガサゴソといった音に反応して目を開けると、気づけば全裸の男が夕子に覆い被さろうとしていたところであった。先程初体験の相手となったイケメンとは別の男である。ぼうっとしていた為に気づくのが遅れた。
 標準~やや細目の体型だった先程の男とは違い、腹がでっぷりと出た所謂アンコ型体型をしていた。分かりやすくいうと、ラグビー部というより相撲取りに近い体型であった。
「えっ、やだっ、なになにっ!?」
「次は俺の番だ、動くなよ。夕子ちゃん」
 いやいやと身を捩っていると両肩を押さえつけられ、身動きを封じられた。体格による圧迫感が物凄かった。男は興奮と期待のためか火照っているようで、全身が朱色に染まっている。眼はギラギラと血走っていた。股間には想像を絶するほど大きなものが隆々と屹立している。
「そら、いくぞっ」
「あっ……、待っ……!」
 男はいきり立った肉棒をまだ先程の余韻覚めぬ、ヒクヒクと開ききったままの夕子の膣口へと突き立ててきた」
「ぁあああっ!」
 男は乱暴に夕子を犯し抜くと、今度は胸の辺りに大量の精液を放出した。
 その後も入れ替わり立ち替わり男がやってきて、最終的には全員に一回ずつ犯された後で帰された。
 口止め料も兼ねてということであろうか、渡されたチップは目の玉が飛び出るような額であった。

      6

「━━ってな事があったのが、去年の夏頃だったかな? そのときは意外と何とも思わなかったのよ。どうせ皆いつかどこかで経験するんだし、お金までもらえて超ラッキーって。でもね、不思議なことにしばらくしたら空しくなってきたの。あたしってなにやってるんだろー、ってね。急に涙なんて流しちゃったりして、なんだか大事なものが心からポッカリ抜けちゃったような気がしたの。暫くはオキニのバンドのライブを見に行っても、旅行とかに行っても何しても全然楽しくなかった。そんなときよ、三年に上がって、たまたま知ってる顔が横に座っててさ、思い出したの。中学の頃はお金なんか掛けなくたって、みんなで学校ブッチしてパアッと騒げば、どんな事だって忘れられた。そのくらい楽しかった。そんな頃の事をね。それで、超久しぶりに好雄くんの事を誘いたくなっちゃったのよ。こんな事誰にも話した事もなかったけど、誰かに聞いて欲しくてたまらないっていうか、そーゆー感じ?」
「そ、そうだったのか……。な……何て言うか、辛かったな……」
「ん、色々あって吹っ切れたし、それはまあいいんだけど……」
「夕子……」
「信じてくんないかもしれないけど、あれ以来セックスなんて一回もしてないのよ。好雄くんにあげちゃったのが、セカンド・バージンってやつになるのかな?」
「夕子、お前……」
 話通りならセカンドじゃなくて五回目だろ、という言葉はさすがにぐっと呑み込んだ。
「ふふ、汚れた女だって、軽蔑した? バカな女だなって……」
「い、いやっ、そんな事しねぇよ! ……ああ、そうか……お前、それでさっきは……!」
 つまりこういう事だ。
 売った買ったの違いはあれど、セックス初体験という一生に一度の大事なイベントを金で取引してしまったというところにシンパシーを感じてしまったという事だ。
 笑わない……いや、笑えないわけである。
 夕子とのセックスは単に性欲を吐き出すだけのものだった初体験のときとは違う、もっと精神的な満足感、もっと言うと充足感があった。肉体的には出しきって精も根も尽き果てていたが、明日への活力と言うか、生命力みたいなものが体の芯から沸き起こってくるのを感じた。言い過ぎかもしれないが、はじめて本当のセックスを味わうことができた気がした。
 夕子にしてもそうであろうか。きっとそうであると信じたい。隣に座る彼女がやけにキラキラと輝いて見えるのは、単に身体を重ねた贔屓目だけではないのだろう。本当かどうかは分からないが、俗に言うところの、心から気持ちいいセックスをした後は女性ホルモンの大量分泌によって肌艶がよくなる、というやつだ。
「そういう訳でさ、あたし、昨日まではセックスっやつが嫌で嫌でしょうがなかったんだけど、なんか今のでスッゴいスッキリしたっていうか……、セックスってめっちゃ凄いって思ったっていうか……。えーと……とにかくあんがとね、好雄くん」
「夕子……」
 好雄は夕子を見つめ返し、手をぎゅっと握った。感謝したいのはこちらの方である。抱き締めて、キスしてやりたいくらいである。自分に出来ることなら、何だって彼女のためにしてあげたいとさえ思えた。
「……あっ!」
「ど、どうしたの? 好雄くん?」
「……夕子、話してくれてサンキュな。ところでよ、俺にもさ……誰にも話してない秘密があるんだ」
「え、なになに……?」
 好雄は夕子に〈ヒヤシンス〉での一部始終を話した。勿論、罰金を背負わされた話、風俗スカウトをしなくてはならなくなった話も含めてである。夕子の表情はひきつっていた。
「━━という訳で、土日までに最低でも一人、女の子をスカウトしていかないとまずいんだよ……。夕子、お前、さっきは風俗の仕事に興味あるような事言ってたよな? もしよかったら、面接だけでも受けてみてくれないか? 嫌だったら後からすぐに辞めちまってもいいからさ。お前くらいしかこういう事頼めそうな知り合いがいないんだよ……」
 横目で夕子をうかがうと、上気した頬をこわばらせていた。
「好雄くん……」
「ゆ、夕子っ、スマン! やっぱ今の無し、忘れてくれっ!」
「いいよ」
「へっ?」
「いいよって言ったの。あたしね、前から結構こういう仕事向いてるんじゃないかなーって思ってたの。やっぱお金だっていっぱい欲しいし」
「ゆ、夕子……!」
「あーあ、あたし、どんどん悪い子になってくみたい。好雄くんのせいだよ。責任とってよ」
「バカ。お前が悪い子なのは前からじゃねえか」
「そういえばそうだったね。でも、好雄くんが悪い男だったのも前からじゃない?」
 夕子はクスクスと笑っている。
(あーあ、かなわねぇもんだな……)
 女のしたたかさというものをまじまじと見せつけられ、好雄は嘆息した。

      7

「ふーん、なかなかよさそうなの連れてきたじゃねえか」
 夕子を〈ヒヤシンス〉に連れていくと、上田だけではなく、これまで好雄をゴミのような目で見ていた店長までもが誉めてくれた。
 ルックス、スタイル、そして愛嬌といい、夕子は人気嬢になれそうな要件を十分に備えているようだった。話はトントン拍子に進んだ。給料も待遇も、おおむね夕子が納得いくものであったようだ。唯一不満げだったのは、HPや写メ日記などで大っぴらにPRできない事のようだ。だがまあ、現役女子高生であることもさることながら、そもそままだ18歳の誕生日すら迎えていないので、それは流石に仕方のないことなのだろう。雇用自体に多大なリスクを伴っているのだから。
 夕子が本格的に〈ヒヤシンス〉で働くようになってからも、夕子との付き合いは続いた。
 「あん時の客がね……」「本番強要マジウッザ……」といった愚痴を吐き出すため、よくカラオケやゲーセンなどの憂さ晴らしに付き合わされたためだ。そのくらいのフォローは必要だと思った。たが、単に遊ぶだけでは終わらないのが、朝日奈夕子という女であった。
 二人きりで遊びに行くと、その終着駅は夕子の家だったりカラオケボックスだったりラブホテルだったりもするが、つまるところ彼女に求められているのはセックスであった。
 本番禁止の店で性的サービスを提供するということは、全身を淫らな汗とローションでまみれさせ、精液を手や口などで受け止めるということである。性感を高めるために変態めいた痴態を演じたりもするし、時にはイッた振りをしたり、実際にイかされる事もある。そういう事を一日に何度も繰り返していると、次第に身体の奥底に疼きが溜まってゆき、どうしても生身の男根が欲しくてたまらなくなるときがあるのだという。イク寸前まで局部をいじられながら無言でペニスを挿入されそうになったことも一度や二度ではない。だが、未成年で性風俗店で働いておきながら本番サービスまでさせているとあってはアウトを超えたアウトである。悪魔の囁きをグッと堪えると、後には解消しきれない溜まりに溜まった性欲だけが残されるのであった。
「なんていうか、セックスフレンドってやつ? ……になるのかな、うちらの関係って……」
 事後、夕子が何か物欲しげな表情でぽつりと漏らしたことがある。
 直接言わないまでも、言いたい事はなんとなく分かる。
 お互いの尻の穴さえ見たような関係を結んでおいて尚こうしていじらしい仕草を見せる彼女は、たまらなく可愛いかった。
 だが風俗で働くようになって以降、以前から激しかった夕子の金遣いは加速度的に荒くなっていた。元々有り余るエネルギーをぶつける先を探してあらゆる遊びに手を出しているような女であるため、金銭的にもそうだが体力的にも好雄はもちろんのこと、並みの男ではついていけないのである。
 こうして肉体関係を結んでいるとはいえ、とてもではないが正式に交際などした日には身が持たないであろう。
(とはいえ、夕子のほうからちゃんと告ってきたらまあ……考えてやらないでもないけどな……)

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