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2.二人で朝まで

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作者:しょうきち

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 気配のした方向、部屋の出入口辺りを見やるリューネが見たのは、目を点にして佇むマサキの姿であった。
 マサキは言葉もなく呆然とその場に佇み、進むことも戻ることも出来ずにいるようであった。口をパクパクとさせ、何やら言葉を発したそうに見えるも掠れた呼吸音だけが響く。
「まっ、マサキ……!?」
「リ、リューネ……。おま、おまっ……な、何やって……何やってん……」
「まっ、マサキ……!? え、えっと……こ、これは……その……」
「い、いや、言うなっ! 何も言わなくていいっ! 俺……その……、け、け、携帯返しに来ただけだからなっ! 勝手に入って悪かったけどよ、俺の事呼んでる声が聞こえたから……。と、ともかくっ、何も……何も見てねえからなっ!? そ、そ、そ、それじゃ……な? な?」
 返しにきた携帯を床に放り落とし、踵を返し部屋を後にしようとするマサキ。
「ち、ち、ちょっ、ちょっと!?  マサキ、待ってぇっ! お願いお願いお願いっ! い、い、行かないでェっ!」
 マサキが立ち去るよりもリューネの動きは早かった。バネ細工のように飛び起きたリューネは、光の矢のような速度でマサキの後頭部にフライング・クロスチョップを決めていた。
「ぐえっ!?」
 直撃を受け、マサキはもんどり打ってその場に倒れた。リューネはすかさず扉を閉めると、尚も無言で去ろうとしているマサキを羽交い締めに捕らえた。
「お、お願いよっ! 行かないでっ、誰にも言わないでっ! マサキィっ!」
「お、落ち着けっ、リューネっ! 誰にも言わねえし、今見たことは忘れるからっ! 見なかった事にするからっ! だから手を離せっ! 服を着ろっ! そ、それに背中っ……、色々当たって……、あ……いや、それ以前に、首がっ! 締ま……いや、極まるッ!? ぐえっ……」
「あ……? マサキ、マサキっ!?」
 全裸のまま後方からマサキを羽交い締めにしたリューネであったが、夢中で全力を出していたためか、彼女の持つあまりの怪力のためか、マサキの首が締まる……を通り越して、極まっている事に気づかなかったのである。マサキの頸骨がミシミシと音を立てていた。生命の危機に比べれば、マサキの背中に87センチの美巨乳が押し当てられている事などは些細な事であった。
「ぎゃあっ!? マサキ……? マサキぃっ!? 死なないでぇっ!?」 
 頸骨と頸動脈(そして他にも色々)を圧迫された結果、マサキの意識は瞬く間にブラックアウトしていた。
 リューネは気絶したマサキの身体を抱え、なるべく動かさないようにベッドに寝かせた。自身はとりあえず、タンクトップを下ろし、ベッド隅に転がっていたパンティを履いた。

「はっ!?」
「あっ、起きた? 大丈夫? マサキ……その、さっきはごめんね……」
「ああ、いてててて……。おいっ! いきなり無茶苦茶な事してきやがってっ!」
「マサキ、ごめん……」
「い、いや、謝ってくれるならいいんだよ。そ、それより、その……」
「あ……ごめん。重かった?」
「い、いや、重くはねぇけど、そこじゃねえ」
 リューネは四つん這いでマサキの上に覆い被さるような体勢でその顔を覗き込んでいた。マサキの眼前には豊満な谷間がぐいと突き付けられているような格好となる。
 しかしマサキは理性を振り絞り、リューネの肩を押し戻すとベッド上に座らせた。
「あー、その、とりあえずなんだ。え~っとよ……」
 突如背後より襲撃を受け絞め落とされた事より、眼前に突き付けられたワガママで暴力的な谷間より、脳裏をよぎるのはその前、そしてその際リューネがしていた行為であった。しかも、ご丁寧にマサキの名を何度も口走りながら、である。
 ここまでの光景を目の当たりにし、超奥手で朴念仁なマサキにも、リューネがどのような想いを自身に向けているのかをはっきりと理解するに至っていた。言うなれば、愛の告白をされた以上の気恥ずかしさであった。
「あー、ええと、気にすんなよ。勝手に入ってきた俺の方だって悪かったし、よ」
「引いた……?」
「い、いや、引かねえよ。ま、驚きはしたけどよ。生理的なモンだし、そういう気になっちまう事だって、あるよな? ほ、ホラ、女のシモの事はよく分かんねぇけど、男だって定期的に出すモン出さねぇといけねぇし、そういうモンなんだろ?」
「う、うう~っ……。あ、あのさ、マサキも時々さ、一人でしたり……するの?」
「んなっ!? 言わなきゃダメかよ?」
「あたしだって誰にも見せたこないトコ見せちゃったんだからさ、それくらい教えてよ。ね?」
「う……わ、分かったよ。まあ、時々な。週二、三回、とかかな」
「ね、ね、それってさ、あたしの事考えて、想ってくれてたりするの?」
「ばっ!? そんな事するかよっ!?」
「何でよ? あたしって魅力ない?」
「そ、そんな事ねえよ。でもな、男ってよ、不思議と本当に好きな相手はオカズにはしねえモンなんだよ」
「えっ!?」
「あっ……!」
 マサキにとって痛恨の一言であった。これでは愛の告白をしたも同然である。
 リューネはマサキの手を取り、碧眼をうるうると輝かせた。
「ね、ね、ね、もう一回言って、もう一回っ!」
「うるせえな、今のはアレだ、言葉のアヤだっ! 忘れろっ!」
「ぶーっ。……あ、じゃあさ、言わなくて良いから、態度で教えてくれればいいよ。ホラ」
 そう言うとリューネは、目をつむり唇をマサキの眼前に突き出した。
「マ、マジにするのかよ?」
「いいから、ホラ、来てよ……」
「う……」
 マサキはやや逡巡したが、やがて観念したようにリューネに唇を合わせていった。
 これが二人のファースト・キスである。
「ん……、あん」
「う……。変な声、出すなよ」
「あ、あのね、マサキ……」
「んだよ、まだ何かあんのか?」
「マサキさえ良ければなんだけど……。あたし、その……」
「まどろっこしいな、はっきり言えよ」
「あ、あの、今日、OKだから」
「何がだよ?」
「……もう、ニブいんだから。今夜あたしのバージン、マサキにあげてもいいって事よッ!」
 そう言うとリューネは、タンクトップに手をかけ、上着を脱ぎ去ろうと試みた。しかし、すんでのところでマサキの手が、慌ててそれを押し留めていた。
「う、うわあっ!? リ、リューネっ、早まるなっ!?」
「どうして? あたしがマサキの事好きで、マサキも好き。いーじゃない?」
「うう……違……いや、違わねえけど、いきなりだなっ!? タイミングとか、雰囲気とかってモンが……そのよ」
「んもう、女の子みたいな事言わないでよ。声、裏返ってるよ? ひょっとして、緊張してるの?」
「ん、んな事ぁねぇよ。リューネ、お前こそ声、震えてるぜ?」
「そ、そう? じゃあさ、震えないように押さえててよ。マサキの唇でさ」
 そう言うとリューネは、マサキの首に腕を回し、もう一度唇を吸いにいった。
 唇がチュッと触れる程度であった先程のキスと異なり、今度は舌を使ってなぞるように唇を味わう、大人のキスである。
 長い長い接吻を終え、リューネは唇を剥がした。唇と唇が癒着したように繋がり、ペリペリと音を立てているような気がした。
「……っぷ。……あ、あのよ、俺だってその、経験がな……。上手く出来るか分かんねえけど、それでもいいか?」
「大丈夫。アタシ達二人で協力し合うんだから、きっとうまくいくわよっ!」
 リューネは両腕をクロスさせると、改めて裾に手を掛けて、タンクトップを切符良く脱ぎ捨てた。形のいい87センチの美巨乳がプルンとあらわとなる。やや小さめの乳首は桜色に紅潮し、これから始まるめくるめく初体験への期待と緊張に震えていた。
「マサキ……おいで……こっちに来て……」
 リューネはベッドに仰向けに寝転び、マサキの腕を引いた。自然と押し倒される格好となる。引き込んだ掌を、自らの乳房の上に置いた。そのまま見つめ合い、沈黙が流れる。
「あ、あのさ、マサキ。もっと色々しても……いいんだよ?」
「い、いや、気恥ずかしいって言うか、何て言うか……。お前とこういう事すんのが未だに信じらんねえって言うか……よ」
「あ、あたしだってそうだよ。でもさ、マサキ、結構あたしのおっぱい触った事あるじゃん? ムッツリ?」
「リューネ……そりゃお前が押し付けて来たのが殆どだろっ!? 誰がムッツリだっ」
「あれ、そうだっけ? じゃあさ、今はもっとこう……マサキの好きなように、してよ」
 マサキが掌に力を込め、激しく乳を揉み始める。高密度の筋繊維に支えられた、ピンと張り詰めたバストが寄せ上げられてグニャリと歪んだ。それでいて、指から力を抜けば、強靭な弾力で直ぐ様元の形へと戻ろうとするのだ。
「や……あんっ!」
 リューネの口からは、生まれて始めて出すような色っぽい艶声が自然と漏れた。体温が上がり、汗が滲み、白い素肌が真っ赤に染まってゆくように感じられた。
「うわ……すげえ弾力……。ゴムボールみてぇだ。それなのに表面はつきたての餅みてぇに柔らけえ……」
「んんっ……あっあっ……待って……。乱暴にされると痛い……」
「わ、悪ィ。つい夢中になっちまって」
「ううん、いいのよ。でも優しく、ね」
「ああ……」
「あ……あっ……」
 マサキの指は、親指と人差し指でリューネの乳房の頂点、乳首を摘まみ、残った指でバストを揉み上げていた。
 優しい愛撫に嫌が応にも性的興奮は高まってゆき、リューネの吐息は荒くなっていった。マサキにされるがままにバストをこねくり回されている。グッと握り込んだ右手の第二関節辺りを噛み締める事によって、今にも叫び出したくなる気持ちを抑えていた。
「あ……ああ……んんんっ!」
「乳首……固くなってきたぜ。感じてるのか、リューネ?」
「うう……恥ずかしいから言わせないで……」
「舐めてもいいか?」
「うん……。あ、でも、汗臭いかも……」
「気にしねえよ」
 乳首をペロリと舐められ、吸われた。唾液と汗とでびしょびしょになった部分をレロレロと舐め転がされている。
(うあ……無茶苦茶気持ちいい……。一人でするのと全然違う……)
 ショーツ越しに秘部を撫でられた。
 気付けば中央部は汗と愛液で染みができていた。
「あの……マサキ。続き、お願い。最後まで……」
「いいんだな、本当に?」
 リューネは無言で頷いた。ショーツを脱ぎ、いつものトレードマークてまあるリストバンドとバンダナ以外は身につけない、生まれたままの姿となった。
 両脚を開かれた。マサキはリューネの両脚の間に陣取っていた。これから何が起こるのか考えるだけで不安と期待に無茶苦茶になりそうである。
(あたし、今どんな顔してるのかな……?)
 マサキが股ぐらにぐいと顔を寄せ、秘所を至近距離から覗き混む。
 先程数メートルの距離から一瞬見られただけで大騒ぎしていた箇所を、今は数センチの距離でまじまじと見られていた。
(は、恥ずかしい……。あんまり見ないでっ
……)
 顔から火が出そう、とはこの事である。
「あたしの……あそこ……。変じゃない?」
「ああ。本とかビデオとかで見たのより、お前のがよっぽど綺麗さ。こうして顔を埋めたくなるくらい、な」
 そう言うとマサキはリューネの股関に顔を埋め、蜜部にヌチュヌチュと舌を這わせ始めた。
「ふぁぁんっ!? うぁんっ! ダメっ!」
 リューネの懇願も意に介さず、マサキの舌は上から下に、右から左へ這っていく。
 恥ずかしさに爆発しそうになっていたが、それを凌駕する未知の快感が電撃のように全身を貫いていた。
「マサキ、ね、お願い。来て……」
 マサキがゴクリと息を呑んだ事が、リューネにも分かった。
 マサキは衣服を乱暴に傍らに脱ぎ捨てると、痛そうな程に屹立した股間の切っ先を溶けたバターを回しかけたようになっている秘部へと突きつけた。そして、ゆっくりと体重をかけた。
「よ、こう……かな? あ、少し入ったぞ。その、痛かったら言えよ?」
 リューネは夢中になってウンウンと頷いた。夢にまで見たソレを与えてくれる歓喜に歓喜に総身が震え、何だか分からないが涙がポロポロと溢れてきた。
「お……おっ……う……」
「はあっ……。ああああ~っ!」
 ゆっくりと時間をかけ、マサキの男根がリューネの体内へと入っていく。少しずつ肉と肉が馴染み、結びついてゆくのが分かる。
 マサキが上体を被せてきた。リューネは両腕を伸ばし、マサキを抱きしめた。 硬いものがめりめりと、閉じられていた肉壁をこじ開けてゆく。指などでは到底到達できなかった深奥が開拓されてゆく。
「うぁあ!? いっ!?」
「おい、大丈夫か?」
 返事はせず、代わりに唇を重ねた。ビックリしちゃっただけたから、お願い、続けて、というサインである。
 舌と舌を絡ませ合った。
 小刻みに動く舌と舌に呼応するように、男根の切っ先と膣口がせめぎ合っている。
 出し入れされるそれに、濡れた花びらがまとわりついている。止めどなく蜜液が溢れだす。初めてだというのに、子宮、即ち女の本能を司る器官が、外部からの訪問者をぐいぐいと受け入れているのがわかる。
 改めて、マサキの事が好きなんだなあ、と実感する。
 本能と言うか遺伝子とでも言うのか、理性や思考といったレベルとはもっと違う次元で身体が求め、受け入れたがっている。
 痛みはある。確かにあった。しかし、破瓜の痛みを帳消しにするほどの大量に分泌物された快楽物質が、脳天から足指の先まで走り抜けている。
(もっと……もっと来てェッ……!)
 ミリミリと埋め込まれてゆく男根が、遂に奥まで到達した。
 そしてマサキが腰を回転させ始めると、リューネにはもう、余計な事を思考する余裕は無くなっていた。
「うぁっ!? あっ……!」
 両手をジタバタとさせ、マサキの身体をペタペタと触ったり、シーツを掻きむしったりした。目の前のマサキはリューネの手をそっと取り、自身肩から背中の辺りにしがみつくよう促した。促されるまま背中から肩へと回した両手に、ぎゅうっ、と力がこもった。手足を無茶苦茶に振り回すことが出来なくなった代わりに、リューネは髪を振り乱した。本能のままに唇や首筋、耳といった目についた処を片っ端から吸った。
 全力で五体をフルに、使った事の無い筋肉まで動員して動かした結果、全身からは一気に熱い汗が吹き出てくる。見上げればマサキも額に汗が滲んでいる。しかし、一番熱くなっているのは手でも脚でも顔でもなく、今リューネの中に出入りしている器官と、それを受け入れている器官であった。
 愛し、愛されている実感があった。
 マサキは額をこつん、とぶつけ、まっすぐに熱い視線を注ぎ込んできていた。今の自分は発情しきっていて、どれ程淫らに乱れた顔をしているのか想像もつかない。目の前にある緑色の瞳を覗き込むと、泣いているのか笑っているのか定かではない、くしゃくしゃになった女の顔が映っていた。
 恥ずかしくなって視線を逸らし、顎をマサキの肩に乗せた。そうしておくと繰り返し打ち付けられる男根に意識を集中できて、快感に身を任せられるような気がした。
 上に覆い被さるマサキとは、互いの全身がグチャグチャのドロドロに溶け合ったような気がして、それでいて一番深く溶け合っている箇所では、熱いマグマがグツグツに煮えたぎっているのだ。
「はぁ……はぁ……、んっ……、何か、何か来ちゃう!?」
 背筋がピンと張りつめ、身体の一番深いところで爆発が起こった。五体の肉という肉が痙攣し、自分の身体でないかのように言うことを聞かなくなっていた。
 一人でするのとはまるで次元が違う。リューネは本能と共に喉の奥から絞り出された言葉を、半狂乱になって叫んでいた。
「んああっ……いっ……イクッ!」
 リューネはちぎれそうな程首を振り、夢中でマサキにしがみついた。身体中が痙攣していた。無重力の宇宙に一人、ひっくり返って投げ出されたような感覚を味わっていた。そんな中でもマサキの視線だけは確かに感じられた。
 全てが未知の感覚であったが、唯一確かに感じられるマサキの体温を頼りに、夢現の中から現実空間の境目くらいまでは戻ってきていた。
「お、おい。大丈夫かよ……」
「マサキ……好き……好きっ……。大好きぃ……。もっと……もっとしてェ……」
 朦朧とし、うわ言のように繰り返すリューネの言葉に、マサキは抱擁を強めた。以前、デカいとからかわれた尻肉を今、ムンズと握りしめられている。
 身体はもう、何かのスイッチが入ってしまったかのように絶頂を求め、頭の天辺から足の指先までもが発情の汗にまみれていた。
「マサキぃ……。もっとぉ……」
 リューネが懇願すると、マサキはすぐに望みのものを与えてくれた。
 渾身のストロークで中央を真っ直ぐに貫く。一打一打突いてゆくごとに密着感が強まり、身も心も一つになってゆく。
「わりぃ、そろそろイキそうだっ」
「ね、ね、お願いマサキ……。中に出してっ!」
「リューネ……リューネ……。うあっ、出るっ! イクぞっ!」
「はああああんッ!」
 ドクンドクンと脈打つモノから、熱い生命の迸りが膣内へと発射されていた。
 リューネは全身全霊、無我夢中でマサキに しがみつき、一滴も溢すものかと身体の一番奥深くでそれ受け止めていた。
 大量のソレを注ぎ込まれる中、耐え難い程の快感物質が子宮の奥から全身に走り抜け、リューネは半ば半狂乱で身をよじった。身体中の肉という肉が歓喜の痙攣を起こしていた。
 気付けば隣でマサキが息を弾ませていた。
 激しい呼吸音を重ね合わせながら、リューネは手を伸ばした。おずおずと重ねた手を、マサキが握り返してくれる。
 リューネはマサキの胸板へ頬を寄せた。
「ね、あのさ……」
「何だよ、リューネ」
「お、お願いがあるんだけど……」
「何だよ、これ以上何も出ねえぞ」
「んーん、違うの。もう一回して欲しいとかって訳じゃなくて、あ、あのさ」
「んだよ、まどろっこしいな」
「その、さ、アタシ達……こういう関係になっちゃった訳だしさ、あ、あたしの事……ちゃんとその、こ、こ、恋人にしてくれちゃったりとか……する?」
 やや癖のある金髪をくりくりと指で弄びながら、恐る恐る言った。声が震える。リューネにとって、その言葉を紡ぎ出すには勢いで押し切ったセックスの誘いよりもハードルの高いものであった。
 しかし、マサキの返答は無情にもリューネの淡い期待を覆すものであった。
「……ダメだ」
「……そ、そっかぁ。あーあ、ダメだね、あたし、自分勝手で、ワガママで……」
 期待していた。でも駄目だった。こんなことになるなら、あえて結ばれようとせず、ずっとつかず離れずの関係を保っておけばよかったのかな、とは思う。
「う……う……」
 胸が傷んだ。しかし、この痛みは世界で一番欲しい人からつけて貰った痛みでもあるのだ。
(……泣いちゃダメっ! 例えフラレちゃっても、今日の事は一生の思い出に……)
「後な、前にやったオリハルコニウムの塊な。アレ、俺に返してくれよ」
「んっ……、はぁっ!? ちょっ、流石にそれは酷いんじゃない!? 一回寝たくらいで彼女ヅラすんなって言うならともかくっ、マサキに貰ったせめてもの思い出さえも残したくないって言うのっ! そんなにあたしの事嫌いなのっ!? 酷いわっ!」
「わわっ、待てっ。早とちりすんなよ。お前も一緒に行くんだよ。ベッキーのトコに、サイズ測りに」
「はぁ、どういう事?」
「あのくらいの大きさなら、丁度二人分くらい削り出せるだろ?」
「ええと……、どういう事?」
「ああ……もう、察し悪いな。単刀直入に言うぜ。作ってもらおうぜ。指輪だよ、指輪。お前と俺の、ペアのやつ」
「そ、それってまさか……」
「もう恋人じゃねえよ。えーと、嫁、いや、女房? いや、ちゃんと籍入れる前だし、婚約者……かな? まあ、その、今は恋人でも何でもいいや。お前の好きなように言ってくれていいぜ」
「ま、マサキ……?」
「あー、その、俺もこの通り口下手だからよ、その、遊びで付き合ったりとかは出来ねえし、したくねえ。本当なら勢いでヤっちまう前にちゃんとケジメを付けて言わなきゃ……いや、言えなきゃいけなかったんだけどよ……。あー、いや、愛してるって言ってくれたのは、お前の方からだもんな。もっと早く、それに応えてやってれば話は早かったんだよな。あー、とにかくっ、リューネ。そのよ、これは、お前さえよければなんだが、俺と……よ、その、ええと『結婚を前提』ってやつで、付き合ってくれねえか?」 
「ま、マ、マサキぃっ……! 夢みたい……」
「俺だって正直、自分で言ってて現実味がねえなって気はしてるけどよ、これは現実だ。好きだぜ、リューネ。お前の事が、好きだ」
「う……ぅ……う、嬉しいよーっ! うわぁぁぁぁあん」
 先程はあれほど決して流すまいとしていた涙が、滝のように溢れ出してきていた。
 リューネは返答の代わりに、ベッドに仕込まれたスプリングの反動を利用し、マサキに向かって猛烈な勢いで跳び跳ねた。額から顔面にゴツンとぶつかる。マサキがベッドから落ち、仰向けにゴロンと倒れたが、リューネは額の痛みも、マサキの鼻からトロリと流れ落ちる鼻血も気にせず、マサキに全身全霊で抱きついた。そして、全力の抱擁とキスの嵐を降らせた。
「あたたっ……!? お、おいっ!?」
「んんーっ、好きっ! 大好きよッ!」
 この後の二人であるが、リューネが無理矢理押し倒す勢いのままに二回戦に突入し、結局朝方近くまで盛り上がったのは言うまでもない。

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