イラスト・小説投稿サイト
登録者数: 54
today: 649
total: 2184842
lion
作品閲覧
21
作:クマ紳士連絡
create
2018/10/31
today
16
total
1292
good
6
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21

クマ紳士
「君が向坂環ちゃんだね」

「……はい」

当日。私のよく使う駅を待ち合わせ場所にし、彼女を呼び出した。
私は職場を定時で上がり、はやる気持ちを抑えられないまま、待ち合わせ場所の駅へと足を進めた。
冬も近付いて来た為か、夕方になると一気に冷える。
スーツに首元だけのマフラーでは寒かったかもしれない。
そんな寒さに負けそうな私の心を溶かすかのように、駅前広場のベンチに一人の女性が腰掛けていた。
赤い長髪に、切れ長の瞳。赤を基調とした○×高校の学生服。さらには私と同じ赤いマフラー。
制服の上からでも分かる胸のボリュームと、ミニスカートから抜き出るむっちりした太もも。
横から見えるお尻のラインもとても見事で、すぐにでも触りたくなる欲求に駆られる。
肌はきめ細かく、化粧の類はしていないようだが、元々肌が白いのかシミ一つない透き通るような日本人離れしたものだ。
動画や写真で何度も見て来たが、やはり本物は違うと……私は息を呑む。

「あの……」

彼女にジロジロと無遠慮な視線を送っていると、躊躇いがちに声を出された。
掲示板によると、彼女は最初抵抗や諦めと言った態度を取るらしいが……今日の彼女はどちらでもなく、躊躇いの面が見えているように思う。
夕方過ぎの駅は人通りも多く、先ほどから私達の側を学生や会社員など様々な人々が行き交っていた。
彼女は膝の上で拳を握り、辺りに時折目を配りながらも私に問うて来た。

「あの……私、あなたと会った事ありますか? あの、サイトは……私に会った人しか……その……」

尻すぼみになっていく声。彼女自身認めたくないだろうが、あのサイトの目的は彼女への仕返し……いや復讐に近い者も混ざっている。
私怨で彼女を穢す輩ばかりで、彼女にとっても日々を過ごすのが辛かったはずだ。
そんな中、こんな40代過ぎの身も知らぬオッサンが利用し始めたら、おかしいと思うだろう。
サイトの利用者はほぼ学生らしいし、私の存在は彼女からしたら異質だ。
しかし、そうした質問に対する答えを、私はとっくに用意している。

「会っているよ。ここで別の女性と落ち合っていたら、君が勘違いしてね。私が無理やり女性を誑かしたと一方的に曰われたのさ。まあ、君と同じ学生だったから、君が勘違いするのも仕方ないんだがね」

私が早口で口にした答えに、彼女はピンと来ないようだった。
当たり前と言えば当たり前だ。私の口からの出任せなのだ。
しかし、信じて貰わねば困る。

「援助交際の相手と待ち合わせは、この場所と決めていてね。私は以前、君のお陰で一つ機会を失った。覚えていないようだが、君は口が達者だった。言葉巧みに私を否定し、相手の女性にも正論を吐いていたよ。しかし、そんな君が援交じみた事をしていると言う……このチャンスを利用しない手はない。違うかね?」

内心心臓バクバクだ。私は逆に援助交際の相手に二度騙されている。相手の方が上手だったのもあるが、肝心な所でヘタレる私は見事にお金を騙し取られた。
その失敗を彼女のせいにし、無理やり恨みの顔を作る。顔を引き締めて彼女を見れば、少し考える素振りを見せたが、

「そう……でしたか。私に身に覚えはありませんが、近い事をした覚えはあります」

この場所ではなかったと思いますが、と呟かれた言葉に余裕がなくなり、私は慌てて、そろそろ行こうと彼女を促した。
利用時間も減ってしまうと言えば、彼女は渋々と重い腰を上げ、私の後ろに付いた。
隣を歩くように言えば、これまた厳しく口をつぐみ、僅かに隙間を作って隣に並んだ。
私は嬉しくなり、彼女の手を取り歩き出した。
少し汗ばんでいた彼女の手を握り、指を絡ませると見るからに彼女の表情が強ばった。

「……」

「嫌かい? また命令してもいいけど?」

「……いえ、大丈夫です」

硬い表情のまま、彼女は僕の手を受け入れた。段々と諦めの表情に変わって行くのが分かり、私としては気まずい雰囲気が重苦しく感じた。
私は彼女と会えて、それだけで嬉しい。
動画越しの出会い。加えて夜のオカズの相手だが、勝手な妄想の中では彼女は私の恋人だ。
今日の彼女には、そんな私の妄想を叶えて欲しい。
だから、そんな渋い顔ばかりをされては萎えてしまうのだ。
一方的な思いとは分かっていても、彼女も私との逢瀬を楽しんで欲しい。

「名前で呼んでも?」

「……好きにして下さい」

彼女は全くこちらを見ようとしない。手は恋人繋ぎをしているし、行き交う人々の中には私達……彼女の容姿に目を奪われる者も少なくない。
そんな彼女を恋人として独占しなくなるのは男として当たり前の行動だと思った。

「じゃあ行こうか、環ちゃん」

手を繋いだまま歩き出す。周りの眼差しは羨望の物に変わる。なんという優越感か。
いい歳をしたオッサンが女子高生と手を繋ぎはしゃいでいる。
私は制服を着たままの彼女を連れ立っているにも関わらず、恋人気分を満喫しようとしていた。
駅の中は沢山の人でごった返ししていて、ホームを行き交う人々の何人かは私達に目を向けていた。
私は気にせず、駅内の電光掲示板に目をやり、頭の中でこれからの予定を再確認していた。

「……恥ずかしくないんですか、無抵抗の学生を連れ回して。貴方、いい大人でしょう?」

ボソリと呟かれた台詞に目を向ければ、私と目を合わせない彼女が呪詛のように漏らした言葉だった。
ともすれば私を説得でもしようとしているのかとも思ったが、違う。

「恥ずかしくないね。それに無抵抗じゃないだろ? 私はきちんと君の意志を聞いている。嫌なら、振りほどいていいよ。予約した私から、逃げ出すといい」

そう口にすると、益々彼女の顔が苦渋に染まった。

「……卑怯者。こんなことを繰り返す貴方は、本当に救いようがないですね」

手を離すこともしない彼女の精一杯の抵抗なのだろう。
こんな事とは、恐らく援交の事だろう。

「卑怯者で結構。君こそ、恥ずかしくないのかい? 毎晩別の男に抱かれて。若者の性の乱れは困ったものだね」

「ッ!? 誰が! 私はッ!!」

怒気の篭った瞳。ブラウンの瞳が鈍く輝き、つり上がった眉は彼女の感情を爆発させようとしていた。
しかし、周りの通行人の視線に気付いたのか、彼女はまた押し黙った。

口元を引き結び、苦渋の表情を作る。

……私は、彼女のあの表情(カオ)が見たい。私に、向けて欲しい。彼氏くんではなく、私に。

彼女は恐らく、私を他の男達と同じに考えている。
身体さえ許せば、後は自宅に帰れると。
無理やりそれ以上を望むなら、力で制してしまえばいいと。

私は、

「環ちゃん」

「……何ですか」

ーー彼女の心が欲しい。

「今から電車に乗るよ。ちょっと混んでるけど、我慢してね」
作品の感想はこちらにおねがいします
6
© 2014 pncr このサイト上にある画像・文章の複製・転載はご遠慮ください。問い合わせ
since 2003 aoikobeya