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番外編1
作:ブルー連絡
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2018/05/17
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 まだ南ちゃんが失踪する以前のことだ。
 私は『南風』を訪れていた。『南風』は南ちゃんのお父さんがマスターをしている喫茶店だ。
 部活がない日などは、制服姿で店の手伝いをしている南ちゃんの姿を見かけることができる。いわゆる店の看板娘で、南ちゃんを目当てに通っている男性客も多い。壁の目立つ場所には南ちゃんが新体操の大会で優勝した写真が額縁に入れられて飾られていた。
 その日は南ちゃんが1人で店番をしていた。いつもの髪型をして、橙色のTシャツに犬のアップリケのエプロン、白のプリーツスカートという服装だった。私は一番奥のテーブルに座り、コーヒーとスパゲティを注文してスポーツ新聞を広げていた。とくに読みたい記事があったわけではない。スポーツ新聞には指で小さな穴が空けてあり、そこから南ちゃんの働きぶりを観察していた。注文以外で私が南ちゃんに話しかける事はなかったし、その逆もなかった。あくまでもたまたま来店したただの客だ。
 店には他に、縦縞のユニフォームを着た勢南高校の西村がいた。西村はほぼ毎日南風に顔を出している、と南ちゃんから聞いていた。西村の目当てが何なのかは言うまでもない。顎がしゃくれて眉毛が繋がっている猿みたいな男で、この辺の高校では知られたピッチャーだ。胸元を抉るようなカーブと対戦バッターをおちょくるような駆け引きを得意にしている。今年の地区予選は須見工の新田、明青学園の上杉達也、勢南高校の西村の三つどもえの争いというのがもっぱらの下馬評だった。
 西村は入口側のテーブルに顎肘を突いて座って口にストローを咥え、カウンターの南ちゃんを幸せそうに眺めていた。ずーっとだ。ちょうど私の居るテーブルから一つ席を挟んだ反対側だった。
「南ちゃ~ん、こっちきて俺とおしゃべりしようよ」
「はー、忙しい忙しい」
「またまたぁ。お客さんこないじゃん」
「しょうがないわよ。平日なんだし」
 南ちゃんはカウンター内で洗い物の手を止めずに返事をしていた。元々南ちゃんはイケメン好きだ。西村のことなど相手にするわけがない。
 この頃の南ちゃんは覚醒剤依存がかなり進んではいたが、そういう姿を見せるのはセックスの時だけで周囲には気配すら窺わせるようなことはなかった。南ちゃんは賢いのでそういうオン・オフがとてもきっちり出来ていた。幼なじみの上杉達也でさえ何も気づいてなかったはずだ。そうでなくては明青学園のアイドル+新体操のホープは務まらないのだろう。
 西村が「今日はマスターは?」と尋ねた。
 西村はどうにかして南ちゃんの気を引こうとしきりに話しかけていた。奴にすれば私の存在など居ないに等しかったと思う。
「商店街の集まりだって」
「へぇー。そっかそっか」
「西村くんは練習に戻らなくていいの。もうすぐ試合でしょ?」
「へーきへーき。新田の須見工とやるまでは負けようがないんだしさ」
「余裕なんだ」
「その辺の雑魚とじゃ実力が違うしね。このクソ暑い中、上杉は練習かな」
「あの鬼監督、達ちゃんを潰す気なのよ!」
 洗い物の手を止めた南ちゃんの目が本気だ。いまにもカウンターを叩きそうな勢いだった。この春から明青学園には新しい監督が来て、南ちゃんはマネージャーを辞めさせられるという事件があったのだ。
「どちらにしろ俺と当たるまでの運命だけどね。南ちゃんはこの俺が甲子園に連れてってあげるよ」
「達ちゃんが負けるわけないんだから」
「まー、見ててみなよ」
「にゃろめ。憎たらしい」
「南ちゃん、アイスコーヒーおかわり」
「毒でも混ぜてやろうかしら」
「なにか言った? 南ちゃん」
「ううん。南のひとり言」
 南ちゃんがトレイにグラスを載せてカウンターから出てきた。
 プリーツスカートからすらりと伸びた生足が目を引いた。私の命令で膝上15センチ近くのミニスカートを履いていた。それをたしかめるために南風まで足を運んだのだ。
(まるでチアリーダーのスカートみたいだな。南ちゃんならチアの格好もバッチリ似合うだろうな)
 自分で指定しておきながらその短さに生唾を飲み込んだ。そのまま駅の階段などを昇れば、確実に下着が見えるだろう。しかも、この間プレゼントした黒のレースのTバックを身につけている。
 南ちゃんが西村のテーブルにコーヒーを置こうとした。
 その時、西村の視線が南ちゃんが着ているTシャツの首元に注がれているのに気づいた。
(西村の奴、南ちゃんの胸チラをおがもうとしてるな)
 Tシャツのサイズがゆるめだったので、角度的にちっぱい生乳が際どく見えたはずだ。
 南ちゃん本人はそのことにまったく気づいた様子はなかった。
「ヌフフ、先っちょが見えちゃった」
「なに?」
「いや、このアイスコーヒー美味しいね」
「いつもと同じよ?」
「こっちのこと、こっちの」
「??」
「南ちゃんってさ、普段はノーブラ派なわけ」
「……家だとつけないこともあるけど。どうして急に質問したの?」
「素朴な疑問だよ」
「素朴な?」
「そっかそっか、南ちゃんは家だとつけないのか」
「へんなの」
 南ちゃんは西村の質問の意図がわかっていないふうだ。アニメチックに首をかしげていた。
 だが、よく見るとわかるが南ちゃんのTシャツにはポチッとした陰影が浮いていた。
 西村も気づいたらしくその場所を舐めるように見ていた。
「南の顔に何かついてるの?」
 西村の視線に気づいた南ちゃんが怪訝そうに尋ねた。
「なんでもないよ、なんでも」
「むむ、なにかあやしいぞ」
「ハハハ、今日もいい天気だね」
 西村は下手な口笛を吹いてごまかしていた。
 南ちゃんは肩をすくめ、追求するのをあきらめたみたいに誰も居ないテーブルに残っていた食器類を片付け始めた。布巾でテーブルを拭いている。ちょうど西村の席に背中を向けるような格好だ。
 テーブルから横にはみ出すように身を乗り出した西村が南ちゃんのスカートの内側を覗き込むようにした。
「うおおおお、黒のTバック!!」
「えっ!?」
 西村の声に気づいた南ちゃんがハッとして振り返る。持っていたトレイでスカートの後ろを隠すようにした。
 その仕草と表情がとてもフェミニンで、ああ、やっぱり南ちゃんは男心をくすぐるのが上手いなと思った。
「西村くん、見たの?」
 まるで着替えでも覗かれたみたいに南ちゃんは眉を斜めにしていた。私の位置からだとセミロングの髪に隠れた横顔だけだが、それがみるみる赤く変わった。
「スケスケの黒、ウシシ」
「やだ……」
「すごく大人っぽくてセクシーだね」
 西村はホクホクと鼻の下を伸ばしている。まるっきりエロ猿の顔だ。
「ち、ちがうのよ、西村くん」
 南ちゃんはその場をどうにかして取り繕うとしていた。
「いいのいいの、隠さなくてもさ」
「お願いだから南の話を聞いてちょうだい」
「まさか上杉の趣味じゃ」
「達ちゃんは関係ないわよ」
 南ちゃんは声を大きめにした。だからといって中年の男にプレゼントされたなど言えるわけがない。私と南ちゃんの関係は絶対に秘密なのだ。
「そりゃそうか」
「う、うん……」
「そういうのも悪くないね、南ちゃんのイメージと違うけどさ」
「そうかな……」
 南ちゃんは困った様子で片手で前髪をかきあげていた。大人っぽい下着を褒められて戸惑っている様子だ。
「てっきり純白かと想像してたけどね。ギャップがすごい」
「ギャップって、南はべつに」
「南ちゃんって意外と大胆なんだね」
「ねぇ、西村くん……このことは達ちゃんには……」
「わかってるって。俺が上杉の奴にバラすわけないじゃん」
「良かった」
 南ちゃんはホッとした様子だ。
 その時、西村が手を伸ばしたかと思うと今度は南ちゃんのスカートの前をめくった。
「きゃああっ!!」
「うほおっ、やっぱりスケスケ」
「もうっ、西村くん何をするのよ」
 南ちゃんは今度は慌ててスカートの前をトレイと手で押さえていた。
 私の場所からは見えなかったのが残念だった。
「南ちゃんのパンチラゲットゲット」
「怒るわよ、南っ!」
「いいじゃん、減るもんじゃないんだしさ」
「ったく、調子にのって……」
 これで南ちゃんは前も後ろも西村にTバック姿を見られたわけだ。
 気を取り直した南ちゃんが食器を片付けようとすると、西村の手が南ちゃんの太ももからお尻にかけて触っているのに気づいた。まるで肌触りをたしかめるような手つきだ。
 どういうわけか南ちゃんは何も言わなかった。怒っても無駄だと思ってあきらめたのかもしれない。
(あの猿め、南ちゃんがおとなしいと思って調子こいて)
 西村が南ちゃんの下半身を好き放題触っているかと思うと、私は急に腹立たしくなった。
「ねえ、今度の日曜に俺とデートしようよ、南ちゃん」
「うーん、どうしようかな、南」
「ちょうど映画のチケットが2枚手に入ったんだよね」
「南は練習があるし……」
 南ちゃんが一瞬こちらをチラリと見た。
 私は何も気づいていないふうでスポーツ新聞をめくった。
「西村くんにはお似合いの相手がいるじゃない。ほら、勢南高校の女子マネージャーの」
「ひどいなー。俺は南ちゃんひとすじだよ」
 セミロングの髪をふわりとさせ、西村の手から逃げるように南ちゃんはカウンターの奥へ引っ込んだ。
 南ちゃんにとって勢南高校の西村にTバック姿を見られるのは死ぬほど恥ずかしかっただろう。それだけでなく下半身まで触られたのだ。西村と南ちゃんの距離が一歩近づいたと言えるのかもしれない。
 だがしばらくして私はもっと驚かされることになった。
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