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【アンケート実施中】 向坂環の相手は誰がいいですか?
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2018/05/06
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「これって……ダークロード……」

改めて自分の姿に目を配れば、両手両足に漆黒のアーマー。頭に手を翳せば、フリルの付いたメイドカチューシャ。

極めつけは背中に背負った朱と黒のマント……そして、

「この大鎌……どうして……?」

柄の先に髑髏を模した装飾。湾曲した刃は夜の闇を思わせ、鈍く青黒く輝く。

自分に何が起きているのか分からないが、クラスチェンジした事は間違いないらしい。

……そもそも私、変な服着せられてたし。一体、どうなっているの?

頭の中がまだモヤモヤする。霧が晴れたと思ったら、また濃い霧が思考を鈍らせようとしてくる。

頭の中の霧を振り払うように首を振れば、倒れ伏した無残な姿の彼と……目が合った。

「……ッ、タカ坊……私の、私のせいで……!」

首を折られ、目を見開いたまま絶命している彼の姿が視界に入り、すぐにでも駆け寄りたい思いに駆られる。

しかし、

「面白い見世物だったぞ。やれば出来るではないか。クックック……」

肩を揺らして笑い出す兜の男は、相変わらず玉座に座ったまま。

片手を翳すだけでいなされ、相手を立たせる事すら出来なかった。

そう、この男は最初から一歩も動いていない。

立ち上がりすらせず、ただ安穏と頬杖をつき、手を翳した所からこのみやタカ坊をモノのように掴んで出現させる。

今なら分かるが、何らかの魔法の一種だろう。

先ほど私の一撃を防いだのも魔法陣が現れていた。

ただ、私の記憶の中にはそんな便利な魔法は存在しないし、この男の出で立ちは戦士のソレだ。

武器らしい武器は見当たらないが、魔法だけとは考えにくい。

「やはり獣よ。どうやって我の喉笛に噛み付こうか思考を巡らせておる」

「……黙りなさい」

大鎌を垂直に構え直す。クラスチェンジした理由は分からないが、折角の機会を無駄にするわけには行かない。

皆を助ける為にも、タカ坊の敵を討つ為にも……この男が一人でいる今がチャンスだ。

兜の男とは数m離れてはいたが、今の私なら一瞬で詰め切れる間合いだ。

相手の一挙手一投足に注意しながら、間合いを詰め、一刀の間合いを推し量る。

鈍く輝く大鎌は、不気味な程に頼もしく、ずしりとした重さにも強みを感じた。

ダークロードは、侍と並ぶ『ファイタークラス』の最上位クラスだ。

言わば、私の持てる力の最大と言っていい。

侍とは違い、私はこの姿になった事はない。タカ坊がレベルリセットを行う際、私の次のクラスチェンジ先にと考えてくれていたクラスだ。

知識としてはこのクラスでの戦い方を得てはいるが、実際扱えるかは別の話。

技として繰り出す事の出来るスキルも……今の私には何にも入って来ない。

……やっぱりクラスチェンジしただけじゃ、私には何のスキルも使えない。

さっきも私は、ただ感情のままに鎌を振るっただけ。何の力も持たない鎌を振るった所で……この男は倒せない。

考えれば考えるほど、ドツボに嵌り、私の方が追い詰められているのを知る。

額を伝う汗を拭う余裕すらなく、対峙した相手から目を離さない事だけに集中した。

「どうした? 来ぬなら、こっちから動いてやってもよいぞ?」

「くっ!」

兜の男は楽しそうに片手を翳す。手の平がこちらに向けられ、私はそれだけで恐怖を感じた。

得体の知れない化物と対峙し、何をされるか分からない恐怖心が私の心を支配する。

「き、キィアァッ!!」

堪らず駆け出した。捨て身とも言える大振りな構え。

堪らず突進を選択した私に、目の前の相手は落胆の吐息を漏らした。

「……馬鹿が」

そう呟かれるのが耳に届いた瞬間だった。

ーーブォンッ! と全く警戒していなかった真横から、空気を切り裂く音が届いた。

刹那の出来事だったが、私は咄嗟に大鎌の柄の部分で腹をガードした。

「くっ、ぎぎッ! あ、いっ! 」

しかし、ガードは間に合ったモノの、防ぎ切る事は出来なかった。

敵の″槍″は私の鎌の柄を砕き、私の腹部を横薙ぎに薙ぎ払った。

私は力負けし、白銀の絢爛な壁へと身体を吹っ飛ばされ、背中から腰に掛けて稲妻のような痛みが走り抜けた。

「あっ、いっ! うっ、あ……」

背中からぶつけたとは言え、頭も軽く打ったようで……軽い目眩を起こしていた。

痛みやら目眩やらで、立ち上がる所か指1本動かす事が出来ない。

呼吸するのすら、かろうじて行えるほどの痛み。

身体中の骨が軋んでいるような気がするし、もしかしたら肋骨を何本かやられたかもしれない。

「……やはり貴様は生かすべきではない。我が皇に牙しか向かん獣」

「あ、アナタ……どうして……?」

痛みに耐えながらも、聞こえた声に顔を上げれば、私が倒したはずの黒兜の女が立っていた。

今回は馬には乗っていなかったが、相変わらずの長槍。

恐らくはその槍を横凪に払われたのだと考えた。

しかし、どうやって私と兜の男の間に割り込んだのかが分からない。

兜の男は何も予備動作を感じなかったし、彼女の気配も何も姿すら見えなかった。

いや、そもそも何故生きているのか。私が確実に……。

「うっ……おえっ!」

吐きそうになり、思わず口元を手で覆った。

こみ上げた吐き気は何とか抑えたが、脳裏に浮かんだ映像は私の心を蝕む。

……私、彼女の喉を引き裂いて……殺した、のよね。私も彼女に、お腹を引き裂かれて……。

思わず鎧で覆われた腹部を擦るが、打撃による鈍い痛みはあるが、引き裂かれた時のような鋭い痛みは感じなかった。

そもそもそんな状態なら、あんな動きを出来るはずがない。

「なんだ? 立てない所か汚物を撒き散らすのか? 貴様にはお似合いだが、皇の御前で醜態を晒すのは止めよ。これ以上規則を乱すならば、皇が何と言おうと即座に″側室″から外してやる」

「側室……? 何を言っているの?」

身体が僅かだが動くようになり、体制を少しずつ変える。

聞き返した私に、わざとらしい溜息が帰って来た。

「貴様は私を殺した。力を示したのだ。皇が生き返らせるのは、側室に入れる価値がある者のみ。貴様も私も、皇の膝元を許されたというわけよ」

淡々と告げられた言葉に顔を顰める。

殺した、生き返らせた、等と簡単に宣うがそんな奇跡みたいな事を言わないで欲しい。

確かに彼女の言う通り、私は彼女を殺したかもしれない。

でも、こうして彼女は何事もなく私の前に立っている。

私もまた、身体に傷一つない。

先程までの自分の記憶の混乱を見るに、私も彼女もこの男に暗示か何かを掛けられた可能性の方が高い。

最初から幻惑系の魔法を掛けられたのだと言われた方が納得が行く。

「側室なんて、私は知らない。そもそも私達は幻でも見せられたんじゃないの? 死者を生き返らせたり、傷を完璧に消したり、その男は出来るの?」

鼻で笑うように告げると、主を馬鹿にされた怒りからか僅かに黒兜の女が槍を構える。

しかし、男の方が淡々とした口調ではっきりと答える。

「造作もない。我は神に愛されし者。″人間″は、我一人。貴様らは余を楽しませるゲームの駒よ」

……この男、正気?

折れた大鎌に手を掛ける。柄が折れてはいるが刃の部分だけは使える。

投げつけるぐらいは出来るが、その刃が相手に届く可能性は極めて低い。

「……だったら、彼を生き返らせてみなさいよ。タカ坊を殺して置いて、私が従うわけないでしょう?」

吐き捨てるように告げる。

憎しみとも言える感情が湧き出て来る。

無残にも横たわる彼の空虚な瞳と目が合う。

彼は自分でも分からない内に、簡単に命を奪われた。

こんな訳も分からない世界で、私なんかのせいで……戦う力を持たない彼が。

守るべき、生き残るべきだった彼が……私のせいで……ッ!

「生き返らせなさいよッ! 返してよッ! タカ坊をッ! 彼は……彼がいないと……ッ!」

情けない。勝てないと頭が理解しているからか、私は瞳から溢れ出てた涙を垂れ流し、強気に出ながらも懇願している。

悔しくも、情けない感情が溢れ、止まらない。

手に力を込めながらも、足には力が入らず立ち上がる事すら出来ない。

たった一撃でねじ伏せられ、吠える事しか出来ない弱者の戯言。

悔し涙で頬を濡らすが、状況は何も変わらない。

私はこのまま何も出来ず、この男の言いなりになるしかないのか。

悔しさで頭がいっぱいで、下唇を噛み、血の味が口内に広がる。

いっそ目の前で自害してやろうかと、考えてしまった時だった。

「何を悲しむ。″人形″が一体、壊れただけではないか?」

「……なんですって……?」

吐かれた台詞に、一瞬思考が鈍る。

馬鹿にしているとまで出掛けた言葉を飲み込み、倒れた彼を注意深く観察する。

……そこで、気付いた。

「……出血が、ない?」

彼の折れた首には、よほど強く握り潰された為か穴が空いてしまっていた。

五指とまではいかないが、数箇所の指の大きさ程度の穴。

しかし、首に空けられた穴からは、赤い血が流れ出ていない。

通常であれば、首に傷でもつこうモノなら大量の出血があるはず……どうして……?

疑問を感じていると、男は兜の女にタカ坊の遺体を運んで来るように命じた。

軽々と持ち上げられた彼の遺体を、兜の女は私の目の前に運んで来た。

成り行きを見るだけの私は彼女の動きを目で追い、静かに置かれた彼の亡骸から目が離せなかった。

「……タカ坊……?」

何とか身体を動かし、タカ坊の遺体を改めて確認すると……言葉を失った。

首に空いた穴からは血どころか、何も見えない。

ただの空洞だった。しかも、片手を持ち上げた際に感じる違和感。

……軽すぎる。

幾らタカ坊が華奢な男の子だと言っても、これでは赤ん坊以下だ。

身体に少し触れて見るが、本来あるべき骨格にすら触れられず、中身が空洞のように感じた。

「……どういう事よ。タカ坊に何をしたの?」

信じられない事ばかり起きる。私は何度、正気を失い掛ければ良いのか。

現実と非現実の狭間が揺らいでいる。

「それは人形だ。生殖器持ちは珍しいのでな。作らせた」

「人形……?」

彼の頬に触れる。絶命しているのだから、当然温かみはない。

ただ肌の質感や柔らかみは同じように感じた。

これが、人形だと言うのか?

「なら、ならタカ坊はどこ? 彼に会わせて」

人形だと言われた彼。ならば本物は生きているのか、それを確かめたい。

私は当然の権利だと言わんばかりに、男に主張する。

例え断わられても、彼が何処かで無事なら助け出す。

私の胸の奥で、また希望の灯が灯った。

彼さえ無事なら、なんとでもなる。

彼さえ、居ればと。

そんな私に、兜の男は思いの外あっさりと、

「……いいだろう。会わせてやる」

告げると同時に指を鳴らす。

地面に何らかの魔法陣が現れ、すぐ様タカ坊の姿が現れた。

「タカ……坊……?」

今度現れたタカ坊は、服を着ていた。

最後に見たタカ坊と同じ、この世界の衣装。見た目には何も変化はない。

「タマ姉……?」

彼は私を見て訝しげに首を傾げたが、確実に私の名を呼んだ。

私は再会出来た喜びから、泣き崩れてしまいそうだった。

震える膝を叱咤し、彼へ歩み寄る。

タカ坊は私を見て、驚いているようだった。

何度も瞳を瞬かせては、言葉を告げられずにいる。

私はそんな彼を見て、とても居た堪れない気持ちになった。

彼はきっと不安だったに違いない。

彼を慕う彼女達が目の前で奪われ、側に居られなくなった。

パーティーのリーダーとして、彼は責任を感じていたはずだ。

「タカ坊ッ! ごめんなさいッ! 守れなくて、助けてあげられなくて……ごめん、ごめんね……」

彼の身体を抱きしめる。彼は戸惑ったようだったが、受け入れてくれていた。

このまま彼の胸の中で泣き腫らしてしまいそうだったが、

「……感動の再会か。やはりつまらぬな。見るに耐えん」

言葉通りつまらなそうに溜息を吐く男。

私は咄嗟にタカ坊を後ろへ隠すように前に出た。

「……もう彼に手を出さないで。もし手を出すと言うなら、私の全てに掛けて……アナタを倒す」

背後へ庇ったタカ坊を、片手で覆い隠しながら、反対の手で武器を握る。

兜の男は相変わらず表情は読めないが、側に立つ槍を構える女は殺気に満ちていた。

正直どう足掻いても勝てる気はしない。しかし、逃げるつもりもなかった。

タカ坊さえ居れば、私はまだ戦える。そう自分自身に言い聞かせ、胸を張る。

身体の感覚はまだ鈍く感じたが、やれるだけの事はやろう。

どうせ一度は皆の為に捨てた命。

拾った命も、タカ坊の為に散れるなら私は本望だった。

男の顔は兜に覆い尽くされ、表情は見えない。

しかし、男は突然肩を震わせ始めた。

声を押し殺し笑っているようで、私は困惑しながらも目の前の男に集中していた。

すると、

「くっくっく……貴様に手を出すなと言っておるぞ? どうする、″貴明″よ」

……たか、あき……?

突然、寒気がした。

全身の毛が総毛立つような感覚。

背中に庇っているはずの、守っているはずの、彼。

何故この男が、名前を知っているのか?

いや、そもそも何故この場面で彼の名を呼ぶのか、理解出来なかった。

……したく、なかった。

「……すみません、タマ姉は俺が躾ますので、お許しを……″我が皇″」

……ウソ……ッ!?

慌てて後ろを振り向けば、彼の手が私の胸に触れた。

『レベルリセット』

「あっ、あアッ!? タカ坊ッ!? どう、して!?」

力が吸い取られる。クラスチェンジした時の高揚感とは真逆。

身体中から力が抜けて行く。

頭の中が掻き回され、身体中に電流が走っているかのように、足の爪先まで痙攣を起こす。

目の前の景色が二転三転し、膝が笑っていた。

耐え切れず、前のめりに倒れ込む。

「あっ、あっ、あぁ……ウソ。力が、入ら、ない……」

強制的にレベルリセットされた私の身体に光が集まって行き、見ればダークロードの鎧を全て失ってしまっていた。

赤を基調とした純粋な戦士としての、私の標準装備に変わり、それは初期クラスである『ファイター』のモノだった。

レベルリセットは以前にも体験したが、これ程の痛みは起きなかった。

タカ坊が私の意思を無視して行った為か、身体が拒否反応を起こしたようだった。

最早指一本動かす事も出来ない。

「タマ姉……びっくりしたよ。まさか皇に歯向かうなんて。側室に選ばれたって聞いたから、祝福してたのに。これはきちんと躾をし直さないとね」

「タカ坊……どう、して? 何を言って……あッ!?」

髪を捕まれ、無理やり頭を上げさせられる。

信じられないのは、それをしているのが彼だと言う事。

「タマ姉、ちゃんと見て。この方は我が皇。俺達の絶対なる主だよ。タマ姉達メスは皇の盾であり、性玩具。俺達オスは皇の僕あり、メスの管理を任されている」

彼の手によって片目を無理やり見開かれ、その先にはあの男がいる。

私達を見て、兜の奥の表情が笑っているように見えた。

「か、彼に何をしたの……?」

舌が上手く動かず、意識も途切れ途切れの有様。

タカ坊の言葉は、何もかもがデタラメ。

明らかに何かをされている。

「なに、少しばかり思考をな。役目を与えねば、生かす意味はないからな。感謝せよ。大事な想い人、だろう?」

……そんな、こんなの……。

「皇よ。取り敢えず、タマ姉を預かっていいですか? 側室に入れる前にきちんと躾が必要だと思います。俺が必ず、立派なメスに仕立てあげます」

……タカ坊が、私を……こんな……。

「許す。貴様の手で、メスとして其奴を仕立てよ」

そこまで命令を降した、皇と呼ばれる人物。

何を思ったか、先程まで微動だにしなかったはずなのに玉座から立ち上がり、男は、突然獅子を模した兜を脱いだ。

隠されていた素顔は、縦長の髪を銀に染めた美麗な美丈夫だった。

瞳が合うだけで、何らかの魔力にかかってしまうかのような……不思議な力を感じた。

紫雲を思わせる、見た事もない瞳の色。

「名を刻んでおけ。我が名は、ヤハウェ……貴様らの皇である」

……ヤハ、ウェ……。それが、この男の名前……。

私は意識を手放す直前、胸の奥にこの男の名を刻んだ。

タカ坊を変えてしまったこの男を……必ず倒す。

……必ず助けてみせる。

私はタカ坊に頭を捕まれながら、屈辱の敗北の中、意識を手放した。
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