イラスト・小説投稿サイト
登録者数: 45
today: 204
total: 2067137
lion
作品閲覧
【アンケート実施中】 向坂環の相手は誰がいいですか?
3
create
2017/12/22
today
1
total
1363
good
6
1 2 3 4 5 6

「……そんな……久寿川さん、みんな……」

私は王を自負する兜の男に連れられ、近くの森へと進んだ。

タカ坊とこのみが力無く歩く中、私だけがこの男と同じ馬に乗り、楽をするというのは……とてつもなく歯痒い気分だった。

しかし、そんな私の悔しさなど比べ物にならない……信じたくない現実を見せつけられた。

私達がキャンプ場として使っていた建物が無残にも壊され、焼けた草木の匂いが辺りに漂う。

さらには十数名の女性が両手両足を縛られ、吊し上げられていた。

小牧姉妹も、るーこちゃんも、イルファ達メイドロボ、笹森さん、このみのお友達も、草壁さん、十波さん……まーりゃん先輩や春夏さんまで……!

「……向坂さん、河野さん……ごめんなさい。留守を、守れませんでした」

そう謝罪したのは、侍の袴衣装がはだけ、ボロ布を纏ったかのように変わり果てた姿の久寿川さんだった。

あれほど美しかった金の髪が所々煤け、肌には切り傷がたくさん見えていた。

二刀の刀を使っていたはずの武器は見えず、どこか虚ろな目を私達に向ける。

局部はかろうじて隠れてはいたが、彼女の衣装は殆どその役割を果たしてはいなかった。

そんな彼女達を馬に跨る甲冑に身を包んだ数十人の者達が取り囲む。

「……我が皇よ。ここに巣を作っていた雌共を捕らえました。首輪も既に全ての雌に付けております」

そう告げたのは、黒い馬に跨り、捕らえた久寿川さんを吊し上げていた黒い甲冑の騎士だった。

こちらもご丁寧に鬼のような兜を目深に被り、顔は見えない。

禍々しい錨の付いた長槍を馬の蔵に取り付け、私達を捕らえた白い兜の男に報告していた。

私は悔しさで胸が張り裂けそうだった。

キャンプ場に待機していた皆は、全員がボロボロだった。

タカ坊や私達が居なくても、必死に抵抗したのだろう。最後まで諦めず、あんな姿になるまで、必死に……!

……なのに、私はなんだ? ″たかが″腕一本射抜かれ、このみを庇うだけで精一杯。

守るべきはずのタカ坊に守られ、さらには捕まった相手の馬に同乗し、私だけ……何もされていない。

完全に格下と侮られ、彼女達に取り付けられた首輪すら……私は取り付けられていない。

私には、その価値すら無いと言うのか?

レベルリセットした私は、確かに一番レベルが低い。

今の私が抗っても、きっと自体は好転しない。

……こんな時まで、私は冷静であろうとしている。感情のままに、いっそ暴れてしまえれば、どれだけ楽だろう。

「? 皇よ、背に乗せている雌は何者です? 何故、首輪も付けず放し飼いにしているのか?」

黒い兜の騎士……くぐもった声だが、こちらは女性のようだった。

白い兜の男から、後ろに跨っている私やタカ坊、このみに視線を向ける。

どうやら黒い兜の女が目を向けているのは、首輪の部分だけらしかった。

「これか。コレは余の玩具よ。後で闘技場に放り込もうと思うてな」

……闘技場?

先ほどから、牧場やら闘技場やら好き勝手な事を言われている。

家畜のような物言いをしているのは確かだが、どうやら私だけ皆と使い道が違うのは確かなようだった。

「闘技場へ? ソレを、ですか?」

黒兜の女は訝しげに首を傾げる。私に無遠慮な視線を向けていたかと思えば、鼻で笑われた。

「皇よ。失礼ながら、その雌はこの中で最も弱き獣かと。慰みものにするならば別ですが、放り込んでもすぐに死ぬでしょう。

であれば、牧場で飼って母乳でも出させて置くのが無難と愚考しますが?」

「ッ!?」

私は咄嗟に胸元を隠してしまった。黒い兜の女は、私の胸を見て母乳でも出させると言った。

私の使い道を好き勝手に言われても、全く反論出来ない。

私一人ならまだしも、ここで歯向かえば皆の命は無いかもしれない。

私一人が弄ばれて済むのなら、幾らでも構わない……そう思った。

が、

「たわけ。コレは一番の獣よ。爪を隠して、研いでおる。慰みものにして、牙を折るのは簡単だが……闘技場に放り込んだ後でも遅くはあるまい。

死ねばそれまで。コレは戦場で散るのが本望だろうて」

……勝手なことをッ!

何度目だろうか、私は悔しさで歯噛みする。下唇を噛み、血液が流れた。

身体中が沸騰して、怒りで腸が煮えくり返りそうだ。

私はただ、皆と一緒に現実世界に帰りたいだけ。その為ならば、傷つく覚悟も出来ていた。

だが、戦場で死ぬのが本望だなんて……考えた事もない。

「……その雌が、ですか? 皇よ、私にはやはり只の雌畜生にしか見えませぬ。一度試してもよろしいですか?」

言いながら黒い兜の女は、馬を降りて黒い長槍を片手に構えた。

皇と呼ばれている男は、楽しげに声を抑えながらも笑っていた。

肩を震わせながら、私に降りろと命じて来た。

「貴様も真面目な奴よ。大方、余に恥をかかせるわけには……などと考えたのであろう? いや、貴様自身の目が曇っているのを信じたくないだけか?」

馬から降りた私から、男は距離を取る。

私の正面には、1mを有に超える長槍を構えた女が対峙していた。

馬に乗ったままの方が圧倒的に有利なはずなのに、わざわざ私と同じ土俵に立った。

なるほど、確かに生真面目な相手のようだ。なら……。

「一つ約束して。もし私が貴女を倒したら、皆を解放して。私は好きにしていいから」

私は腰の刀を抜き放ちながら、正面の相手に約束を取り付けようとするが、

「……知らぬ。貴様には万に一つも勝ちは無いが、その約束は我には出来ぬ。主の所有物は、主によってしか、その処遇を決められぬ」

盾は無い。最初に襲われた時に、捨てて来てしまった。

思った通りの答えは返って来たが、やはり勝ち目は無いだろう。

私が勝てるなら、キャンプ場に居た皆が負けるはずがない。

私はこの中で、一番レベルが低いのだから。

「なら、アナタに誓わせるわ。私が勝ったら、皆を解放して。アナタも、私が勝てるわけないと考えているでしょう? なら、それをひっくり返せば、アナタの目が曇っていたと言うこと。

見世物が欲しいなら、私一人で充分なはずよ」

首だけを動かし、私の後ろで見物を決め込もうとした男に問いかける。

ここまで大見得を切る所を見せれば、きっと彼らなら乗ってくる。

私達を家畜同然に見ているような人達なら、見下して当然の相手。

私がどれだけ吠えようが、所詮叶わぬ夢と馬鹿にして誘いに乗ってるくるはずだ。

私が必ず勝てる保証など、微塵も無いが……最悪、死なば諸共の手もある。

私が生きて勝つ必要は……無い。

「……約束して。私が勝ったら、皆を解放すると。この黒い兜の人相手なら、私に勝ち目はない。そうでしょう?

けれど、もし勝てたなら……皆を解放して。充分に見世物としての価値はあるはずよ」

繰り返し告げる。後ろの男より、正面の女が切りかかって来ないか不安だった。

口をきつく引き結び、私の戯れ言が終わるのを待っているようだった。

表情は兜のせいで見えないが、主の前で侮辱されるに等しい台詞を続けられているとでも感じたのかもしれない。

目の前の彼女に注意しながらも、男の言葉を待つ。口約束でもいいから、言質を取りたかった。

私の言葉に、僅かな希望が欲しい。傷つき、身も心もボロボロな皆と無謀と分かっていながらも戦わなければ行けない自分自身を奮い立たせるために……!

と、白い鬼のような仮面をした男が突然、くぐもった笑い声をあげた。

「……いいだろう。貴様が勝てば、貴様以外は解放してやる。しかし、一つ間違いがある。余は、″貴様が負けるとは思っておらん″」

……なんですって?

思わず、耳を疑う。この男は、私よりレベルの高い皆を倒した彼女が私に勝てないと言った。

兜越しに相手の目を見ようとするが、よく分からない。

この状況でそんな台詞を吐く意味……なぜ嘘を付く? 現実的に見て、私が勝つ保証なんて、一握りもないはず。

敵であるこの男が、どうして私を評価しているのか?

「……皇よ、その認識は間違いだ。この醜い赤毛。家畜同然の雌豚は、我が槍で指し貫かれ、朽ちるでありましょう。

八つ裂きにしても構いませぬな?」

……構えた!

なんて気迫だろうか。腰を低くし、左手に槍を構えながら鋭い眼光が私を既に射抜いていた。

長槍の間合いに一度入れば、彼女の宣言通り、私は貫かれてしまうだろう。

私も背筋を伸ばし、曲がりなりにもこの世界で身に付けた自己流の剣術の構えを取る。

しかし、本来であれば左手には盾を構え、右手の剣と合わせて攻防一帯で戦うのがファイタークラスの戦い方だ。

両手に剣を持ち、正眼の構えを取る今の私のスタイルは侍のバトルスタイルに近い。

……けれど、侍のクラスであれば私は最終的に″二刀″で戦う。防御捨て身の攻撃特化。私の侍クラスの戦い方は、敵を寄せ付けず、切り伏せる高速の連撃。

戦い方は頭にある、が……今の私では体が追い付かない。

レベルリセットは、私の身体を鈍く、重くしてしまう。

「構わぬ。死ねばそれだけの存在であった、結果が全てよ。しかし、ゆめゆめ忘れるな。余は、″貴様では勝てぬ″と言った事を」

繰り返し告げられた言葉に、黒い兜の彼女からの威圧感が増す。

まるで憎悪とも取れるような視線を感じ、今にも襲い掛かって来そうな重圧がピリピリ伝わってくる。

「……貴様……我が皇に何をした? まさか″側室″を狙っているのか? 貴様如き豚が。貴様なぞ、誰の子か分からぬ子を宿し、浅ましく腰を振る売女にも劣る。

ただの家畜。それ以外の何者でもない」

「私はッ! ーーッ!?」

反論しようと口を開いた刹那。

黒い甲冑の女がその身体を一歩、力強い踏み込みで私との間合いを詰めて来た。

5m以上は離していた間合い。それを彼女は、一瞬で詰め、1m以上はある長槍を深く深く腰深に構え、まるで天を突くかのように……全身を使って私の方へと刺し穿って来た。

「……死ね」

嘆息に告げられた言葉。

その台詞通り、彼女の槍は一直線に私の胸元へと差し迫る。

二の句など、言っている暇はない。

「~~ッ!!」

歯を食いしばり、私は持っていた剣を……甲冑の女へ、投擲した。

「……ッ!?」

完璧に相手の間合いだった。私の剣筋では、槍の間合いには届かず、また防ぐ事も払う事も出来ない。

ならばと、私は相手の首を狙って剣を投げた。

苦し紛れの一手に過ぎないが、狙いは誤っていない。

一直線に投擲された刃は、そのまま行けば鎧の合間をぬって……彼女の首筋に突き刺さる。

同時に私の身体も刺し穿たれるが、構いはしなかった。

「ちっ!」

女は、槍を横薙ぎに祓った。私の投げた剣は虚しく打ち上げられ、宙を舞う。

私の打ち上げられた剣を視線で追っているのが分かった。

ーーやはり、彼女は私を見下している。

武器さえ無ければ、得物を失った相手など、取るに足らないと……″私″から、目を離した。

私は、一瞬足りとも、目を逸らしたりしない。

ーーそこが、私と彼女の違い。

恐らく武勲を上げ、自らに絶対の自信を持っているであろう彼女。

ささら達を圧倒し、また、私の力を見定めた彼女。

あの皇と呼ばれる男に、私に勝てないと言われ、さぞ悔しかったのだろう。

さぞ頭に来たのだろう。

ただただ私を圧倒し、さっさと力を指し示す事しか考えていない。

真っ直ぐ過ぎる戦い方。

ーーそれが、アナタの″敗因″。

「ーーッ!? 貴様ッ!?」

私は彼女の祓った槍を掴み、左足を軸に右足を力の限り……蹴り払った。

黒い甲冑越しに、彼女の身体を蹴り飛ばす。

不意の衝撃に耐え切れず、彼女の身体が僅かに浮く。

槍を手放してくれたのは、幸運としか言えない。

それほどに彼女の身体は重く、今の私では大したダメージにはならないはずだ。

私はその槍の切っ先を彼女へと向け、短めに持ち替え、そのまま彼女へと差し迫る。

「ーー舐めるなッ!」

彼女が叫ぶと同時、左右の黒い手甲部分から……鈍い輝きを放つ刃が現れた。

私の突進を読んでいたかのように、私の両手に深々と突き刺した。

「……ッ!」

槍を持っていた手が震える。痛みから、槍を手放しそうになる。

あと少しと言う所で、私の突進は止められ、両手に深々と突き刺さった刃は……私の二の腕を貫通していた。

恐ろしく長い隠し刃だ。刃先が絖っている所を見ると……毒でも塗られているかもしれない。

「貴様……! よくも皇の前で、私に無様な姿を晒させたな! 死ね!死ね死ね死ね!」

私の両腕をそのまま切り落とすつもりなのだろう。彼女の両手に力が篭もり、隠し刃を段々と私の中へと突き進ませる。

……どうする? どうすれば、ここから切り替えせる?

私の両腕は、すでに死んだ物として扱っていい。

槍を手放していないのは奇跡に近い。自分の出血を見る限り、もはや致死量だろう。

段々と身体が重くなり、足にも踏ん張りが効かなくなってきた。

目の前がぼんやりと見え、正面の黒い兜に覆われた女の濁った瞳だけが見える。

きっと私は血の気の引いた顔で、相手を睨みつけている。

皆は……皆はどうしたのかしら? やっぱり敵わなかったと、私を見放したかしら……。

ぼんやりとし始めた思考では、もはやここからの逆転の策を思い付けなかった。

段々と垂れ下がる両腕を見て、相手がほくそ笑むのが分かった。

「さあ、死ね! 腕の次は腹、次は足、胸! 最後は首を撥ねてやる! 皇の前に首を晒すがいい!」

血走った眼は、私を見ているのか……それとも、別な物を見ているのか……もう分からない。

上から押さえつけるように貫いた刃を、さらに私の二の腕に沈ませる。

指先の感覚が効かなくなってきた。

私は、もう……。

「……めだ! ……マ姉! ……めるな!」

……誰? 誰かの声が……?

知らず、意識を手放し掛けていた。いや、勝負自体を諦めかけていたのだ。

「タマ姉ッ!! ダメだッ!! 諦めるな!!」

ーータカ坊ッ!?

聞こえた声。届いた言葉に、意識がハッキリと戻った。

折れかけた心が、彼の言葉で立て直る。

守るはずの存在に、いつも助けられる。救われる。

子供の頃、ガキ代将だった私の背中を付いて来て、引っ張り回した。

言うなれば、お気に入りのおもちゃの感覚だった。

それが、一度……たった一度……私を救ってくれただけで……私の見方は変わった。

ただのお気に入りから、変えのきかない……何よりも大切な存在へと。

「何をほざいてる!? 貴様も殺すぞ! この雌豚を始末したら、次はッ!?」

タカ坊にも苛立ちを覚えた兜の女が、金切り声を上げる。

彼の方へと一瞬、視線を向けたのをーー私は見逃さなかった。



ーー槍を、手放す。


「!?」

だらん、とぶら下がった私の両腕から彼女の刃が僅かに抜ける。

お互いの力同士がぶつかり合っていたから、深く深く突き刺さっていた。

だから、こうして一方だけの力が加わっていれば、彼女は僅かにだがバランスを崩す。

そこにーー


「ーーふッ!!」

体勢を変え、私は右肩の鎧部分を相手の頭に叩きつけた。

金属通しが当たり、耳鳴りのような不協和音が鳴り響く。

「ッ!? くっ、あっ……?」

ーー鎧通し。侍クラスの時に身に付けた技の応用だ。

兜越しに相手の脳を揺さぶるよう、神経を直接狙う。

それほどダメージはなく、すぐに立ち直るだろう。

しかし、私にはその一瞬の隙があれば充分だった。


「ーーッ!? 貴様ッ!?」

相手の身体を押し倒し、鎧の隙間から晒された相手の喉元へ……″刃″を突き立てる。

「我ァァァッ!? ぎ、Gizaまぁァァァッ!? こ、ごぼず! ごぼず!ごぼずぅぅぅぅぅぅぅッ!!」

もがき苦しみながら、彼女もまた両腕の隠し刃を私の腹に向けて何度も突き刺してきた。

抉るように、払うように何度も何度も切り裂かれた。

私の身体は、もはや見る影もないだろう。

私にはそんな余力は無く、ただただ全体重を掛けて、彼女の喉元へ″刃″を突き立てるのが精一杯。

……あれ? 私、ナニを……突き立ててるんだっけ? 私、武器なんて……持ってないのに……?

もう自分の行動が、殆ど理解出来ていない。けど、もうどうでもいい事だ。

私達の周りは鮮血だらけ。殆どが私の血だ。とっくに身体の感覚なんてないし、私は彼女に寄りかかる格好をしているはず。

……勝ったわ。これで、タカ坊達は解放される。私一人の命で救われるなら……皆が無事なら、それで……。

手放し掛けた意識。私は消えゆく意識の中、皆の無事だけを祈っていた。

しかし、その最中。






「化物……」







誰かの呟いた、その台詞だけが耳に残った。

今まで他の声や音なんて聞こえなかったのに、何故かその声だけがハッキリと……私の耳まで届いた。

私と彼女、どちらを指しているのか?

はたまた、私達二人を指す言葉だったのか……今ではもう、分からない。
作品の感想はこちらにおねがいします
6
© 2014 pncr このサイト上にある画像・文章の複製・転載はご遠慮ください。問い合わせ
since 2003 aoikobeya