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【感想】海がきこえるⅡ(ネタバレあり)

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海がきこえるⅡ アイがあるから
作者:氷室冴子
1995年出版
新装版2023年7月

前作の続きです。
今回は女子大生になった里伽子がグラスを両手で持って口をつけてる姿が表紙に描かれている。


夏の帰省で、親友の松野との友情も復活。高知にやってきた武藤 里伽子(むとう りかこ)と3人でドライブに出かけるなど、ひさしぶりの地元を満喫する。
杜崎 拓(もりさき たく)が東京に帰ると、部屋に勝手に上がり込んで寝ている津村 知沙(つむら ちさ)の姿が・・・。

冒頭から1巻の続き。3人でドライブする姿は、これぞ青春グラフィティって感じです。
意地っ張りの里伽子が母親と和解ですよ。やっと母親の気持ちが理解できたみたい。父親の味方から母親の味方に180度転換。
それによって、高知を嫌っていた呪縛から解放されます。(この辺は1巻の最後に書いてある)要するに母親に反抗してたから、母親に無理矢理連れてこられてきた新しい土地を嫌ってただけ。
ちなみに親友の松野は京大に進学してハーレム状態になっていて、逆に拓のことを心配する余裕がある。

問題は、拓の部屋に勝手に上がり込んで爆睡していた津村知沙。
この女が曲者です。
同じ大学の3年生(拓の2つ上)でワンレン・スタイル抜群のお姉さんといった感じ。
すでに不倫男(サークルのOB)と別れて失恋状態。
他の男(拓の先輩)とリハビリで付き合っているけど、不倫男が忘れられなくて拓を連れ回す。

第三章がすごい。
タイトルは「戦争の理由を知っている」。
めずらしく里伽子に食事に誘われ、拓がプレゼントを用意(新しい服とかにバイト代をはたいて)していってみると、レストランには里伽子の父親の再婚相手の美香(事実婚)がいる。

【とたんに、それまでジャケットなんか気にも止めていなかった里伽子が、じろっと目を剥いて、ぼくを睨んだ。それに気づかせなかったおまえが悪い、といわんばかりの顔つきで、目にも表情にも張りつめたものがあった。】

この部分がすごい気にいってる。大人の美香が先に拓のジャケットが良い物だって気づいたのを、拓のせいにするところが、わがままな里伽子らしい。
1巻では「杜崎くん」「武藤」と呼び合ってたのが、いつのまにか「」「里伽子」に変わってる。

【ぼくが里伽子を好きになったのは、弱みを見せまいと虚勢を張ることで脆さがあらわになってしまう、ある種の健気さのためだったのかもしれない。
そんなことをふと思ったくらい、不謹慎なようだけれど、美香さんの隣に座ってぼくを睨んでいる里伽子は、危うい美しさをたたえていた】

完全に脳がやられとるがな。
ちなみにたまにデートはしてるけど、付き合ってるわけではない。

そのあとでひさしぶりに辛辣な里伽子が登場ですよ。母親の仇を取るかのように嫌味たっぷりにやりこめる。
そりゃー、そうっすよね。相手は家庭を壊した張本人だから。娘が根に持たないわけがない。
1巻でビンタの応酬って書いたけど、2巻は言葉というビンタの応酬ですわ。
でもね、トドメを差したのは拓だと思う。
結婚相手の娘にいわれるならまだしも、ほぼ初対面のおめーになんでいわれなきゃなんねーんだよって感じ。
レストランには津村知沙が不倫男とたまたま来ていて、それを見た里伽子が相手の男は結婚してるって看破。勘がするどい。
不倫アレルギーの里伽子が面白おかしくネタにする。
後日、津村知沙が「あのクソ生意気なコ」というほど激怒。
おそらく里伽子は、ボーイフレンド(拓)にちょっかいをかけていた津村知沙のことを元々よく思っていなかった節があり、半分意趣返しもあったかも。自分のテリトリーを荒らされたみたいな。
事情を知ってる拓は家庭のいざこざに巻き込まれたこともあり、路上で里伽子と大げんか。
怒った里伽子がプレゼントの入っていた袋を拓に投げつけ、拓が「そのブラウスも脱いでよこせよ」って逆切れする。
客観的にどう見ても拓が悪い
里伽子の味方になるべきなのに、再婚相手のことを考えたり、不倫相手と密会してる津村知沙をかばったり、おめーは誰が一番大切やねん!! と声を大にしてツッコミたい。
里伽子が「みんなの気持ちがわかるって、だれの気持ちもわからないことよ。ただの八方美人なのよ、拓」と真理を突く。その通りだと読者はみんな思ったはず。
大学での講義中に、津村知沙が「ケンカしたの? いいきみ!」って紙に書いて渡したのは笑った。

路上でけんかしてから、拓と里伽子はまたもや長い冷戦状態。
(何回目のケンカだよ)
仲直りしようと何回電話をかけても出ない。
やっと電話に出たと思ったら「そのうち私から連絡する」といってプツリ。
今度こそオワッタ臭がプンプンとする。

ある日、夜中に部屋に帰ったら電話(おそらく里伽子)が鳴っててギリギリ間に合わない。
トレンディドラマか!
そんなこんなで仲直り出来ないまま学際も終わって季節はあっというまに冬に
その間、津村知沙が不倫男の嫁の顔を見に行くのを付き合わされたりする。

そんな暇あったら、とっとと里伽子の部屋に行って土下座して謝れよ!!

このまま疎遠になって終わるのかなーっと思ってたら、土壇場でやっと拓が本気を出してくれました。
なじられる里伽子を見て、カッとなって土佐弁でまくりたてるシーンはかっこよかった。
ラストはいい意味で予想を裏切られた。
バッドエンドじゃないです
読み終えてホッとしてます。
サブタイトルの「アイがあるから」って、拓が身勝手な里伽子に振り回されても許せるのはそこに愛情があるからって意味なのかな。愛情があるから他人にやさしくできる。弱ってる津村知沙はあっさり見捨ててるし。その対比のためだったのかな。
まちがいなく青春小説の傑作です。恋愛小説といっていいのかは微妙だけど。
ぜひ本を買って読んで、拓と里伽子がどうなったかたしかめてほしい。
不満があるとしたら、登場する男がいい人しかいないw

この後、作者の氷室冴子さんは体調不良となり目立った執筆活動をされなかったそうです。
なにが悲しいって、憎たらしいぐらいに意地っ張りな里伽子に永遠に会えなくなったことです。
3巻があったら、二人が同棲するのを見れたかもなーとか、同棲してもつまらないことでケンカするんだろうなーとか想像してしまう。あと恋のライバルが現れたり。
思えば里伽子がわがままだったり攻撃的なのは、人一倍傷つきやすい性格の裏返しなのかも。いわゆる防御反応。傷つくのが怖いから先に相手を傷つける。でも、それが跳ね返ってきてやっぱり自分が傷つく。拓にだけ素の自分をときどきさらけ出して・・・。そういう姿がとてもいじらしい。
たぶん女性はまったく共感できないけど、男性にとってたまらないヒロイン。
この作品は杜崎拓と武藤里伽子の物語というより、里伽子が傷つきながら少しずつ大人になる姿を杜崎拓を通して見つめる話だと思う。
もし杜崎拓が側にいなかったら里伽子は悪い男に捕まって、それこそ一番嫌悪している不倫の泥沼にハマってボロボロになってそう。全体を通してどっちに転ぶかわからないような危うさがあり、それがいい緊張感を生み出している。

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