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3 妖しい気配

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作者:kazushi

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「それじゃあ緒方理奈ちゃんのサイパン到着と撮影開始を祝しまして――カンパーイ!」
「「「「かんぱーーい!!!!」」」」
「……かんぱーい……」
 テンション高い音頭とともに、いくつものグラスが音を立ててぶつかり合う。その勢いに気押されたように、主賓であるはずの理奈はどこかおっかなびっくりの呈でグラスを小さく合わせていた。もしかしたらそれは、昼の撮影の影響があったのかも知れない。
 ――彼女を恥辱と羞恥に塗れさせた撮影が終了して。少しの休憩を間においての夕食は、先の音頭にもあったように緒方理奈の歓迎会的な名目で、ホテルの中庭を使ってのバーベキューとなっていた。
 肉と野菜が焼けるいい匂いが充満する中に混じり、アルコールの匂いも周囲に漂い始める。有無を言わさず渡されたビール(inジョッキグラス)に仕方なく口を付けていた理奈に、
「やあやあ、理奈ちゃん呑んでるか~い♪ 今日はキミの歓迎会も兼ねてるから、好きなだけ呑んでくれていいからね」
 既に酔っぱらっているようなテンションで、肩に手を回しながら青山が酒臭い息を吹きかけてくる――だけでなく彼女の隙を突くように、頬に軽いキスをかましてくれた。
「ちょ――ッ」
 咄嗟に鉄槌を喰らわそうとした理奈だったが、敵はあっさりそれを回避するとそのまま逃げるように離れていく。
(ああもう、なんなのよあのバカは――!!)
 頭の中で罵倒しながら、腹立ち紛れに手に持っていたものを一息に呷ってしまう理奈。喉を通りすぎる強烈な苦みに一層強く顔がしかめられる。
「うわ、理奈ちゃんスゴイ飲みっぷり。……そっか理奈ちゃんももう二十歳越えてるもんな。アルコールももうばっちりってわけだ。さすが。えっと、とりあえずおかわりいるよね?」
 驚いた顔で感心するように言ってくるスタッフの一人から、あたりまえのように渡されたジョッキを仕方なく受け取る。本音を言えばビールは苦いだけで呑みたくないが、それを言えば逆にビール責めを喰らいそうなので、言わずに我慢しておくことにした。
「焼けてるの持ってきたから、よかったらどんどん食べてね。足りなくなったら持ってきてあげるから、いつでも言ってくれていいよ」
「あ、はい、ありがとうございます。でも、私にそこまで気を使わなくていいですよ。皆さん、自分の方を優先してくださいね」
 一人が話しかけたのをきっかけに、若手スタッフの何人かが寄ってきて串を盛った皿を競うように渡してくる。厚意そのものはありがたいとは思うものの、さすがに人数が多すぎるしその裏に下心が見え隠れしているのが微妙だ(そう思ってしまうのは、昼の撮影で乳首と秘所が透けているところをガン見されていたからか)。なによりも、これから何日もグラビア撮影を行うアイドルにバカ食いさせてどうするのか。
(まぁ、そこまで気を配れたらもっと早く上に行けるんでしょうけどね……)
 微妙に失礼なことを考えてしまいながらも、とりあえず食べられる分だけはと串を口に運ぶ理奈。その間も話しかけてくるスタッフたちは適当にあしらいながら。そうしていく内に、話題は理奈と由綺の二大アイドルが合同でグラビア撮影という事態に対する驚きと、それに参加できる喜び及びその二人のどちら派なのかについて、といったものに変わっていく。
「――すると、ここにいるのはみんな『森川由綺』より『緒方理奈』派だからってことでいいの?」
 なんとなく髪先を指で丸めたりしながら理奈が聞いてみると、全員が自分の存在をアピールするかのようにぶんぶんと頷き返してくる。その姿を半眼で疑わしげに眺め、
「それって……本当ですか? どうせ今は私しか空いてないから私の方に来てるだけで、もし由綺に聞かれたらその時は由綺だって答えるんですよね。私もいいかげんこの業界長いから、それくらいの機微は解るんですよね」
 串に刺さった肉をわざと荒々しく食い千切りながら揶揄すると、男たちはやはりご機嫌を伺うようにその言葉を否定した上で理奈のことを口々に誉め称えてくるが、そこは聞き流した上で彼女は視線を男たちの向こうへとそっと向けてみる。
 弥生はメイクさんや衣装さんなど女性陣と一緒にいて、その向こうでは残りのスタッフ(おとこ)たちが集まって騒いでいる。そして、その中間くらいの位置で由綺が青山に捕まっている。一対一の状態で。
(ホントなら、今すぐにこの人たち放っておいて由綺のところに行きたいんだけど。……どっちにしろ今は無理そうね)
 理奈に群がっている彼らを押し退けてまで由綺の方に向かうのは、さすがに強引すぎるだろう。更に言えば昼の一件のせいで、青山に対して気後れしてしまうところもあるかもしれなくて。周りの目もあるからそこまで無茶をしないと考えれば、とりあえず今慌てて動く必要はないだろう。それなら、今は目の前の生贄を使って少しでも憂さ晴らしをしておくべきか。……彼らには申し訳ないけれど。
「それじゃあ、私のどこが好きか教えてもらえます? もし本当に私の方が好きならすぐに答えられるはずですよね?」
 足を組んで脚線美をサービスしながら、女王様の風格を見せつけてそう問い掛ける。一人ずつ返してくる答えは歌声やスタイルや顔など実にありきたりで、こんなものよねと秘かに失望していたその最後に、
「俺は理奈ちゃんの一番の魅力は、その気持ちの強さにあると思ってるかな。ほら、今日の撮影だって普通の子なら、まず青山センセイに逆らうなんてできるわけないしさ」
「……でも、結局は負けちゃったけどね」
「あれは、まぁしかたないでしょ。三人がかりで責めてこられた上に向こうにだって筋は通っていたわけだから、勝てなくてもあたりまえっていうかさ。違約金まで持ち出されたらアイドル一人じゃどうしようもないし。それでも、あんな状況なのに泣き出すこともなくちゃんと撮影を続けられたってのは、素直に凄いとは思うよ」
「あー、確かにアレは凄かったか」「うんうん、かっこよかったよね」「アレは惚れるかも」
 どこか野性味を感じさせる青年に思いがけないことを言われ、嬉しさと同時に面映ゆさを感じてしまう理奈。だから素直な反応を返すことはできずに、ついつい試すような言葉を投げ掛けてしまう。
「迷惑を掛けたのにそう言ってくれるのは私も凄くありがたいんだけど。――だったら、聞かせて。もし同じようなことがもう一度私と青山さんの間で起こった場合は、ちゃんと私に味方してくれます?」
 けれど。
「ええっと、それは……」「いやあ、どうかなぁ」「……理奈ちゃんには悪いけど、それは答えたくないなぁ」
 返ってきたのは、すべて歯切れの悪い言葉だけだった。
 ――他の面子は兎も角、言った本人にはできれば肯定して欲しかった。たとえば冬弥(だれか)みたいに。そうしてくれれば、背中を押してくれるかも知れなかったのに、と。不満を覚えてしまう彼女の肩を、不意に誰かが叩いてきた。
「いやいや、理奈ちゃん。下っ端の彼らにそこまで求めてあげないでよ。あっさりクビが飛んじゃう世界なんだから、そこまで求めるならそれ相応の御褒美がないとねぇ。それこそ理奈ちゃんを一晩自由にできるってレベルで、ようやく考えるやつがいるかな? くらいじゃないの」
「……上村カントクはどうなんです? もしそのレベルの御褒美を私が用意できたら、青山センセイに逆らって私の味方をしてくれますか? ――もちろん、もしもの話ですけど」
 振り向いて、話に割り込んできた上村にもそう問い掛けてみる。すると上村はジョッキ片手に難しい顔をしてみせると、
「オレかぁ。長年のファンとしては理奈ちゃんを一晩自由にできるってのは、確かに見逃せない御褒美なんだけど。うん、悪いけど現状ならカントクの立場を最終的には優先せざるを得ないかなぁ。もちろん、一晩だけじゃなくてそれ以上の御褒美があるなら、気が変わる可能性はゼロじゃあないけどね」
(当然、そう来るわよね。隙を見せたら一気に食らいついてとことんまでしゃぶり尽くす。どうせ最初からそのつもりなんでしょ?)
 その欲望を証明するように、上村がそれとなく一瞥するだけでそれまで彼女を取り囲んでいたスタッフたちが、潮が引くように一斉に離れていく。そうして二人きりの空間を作らせると、上村は理奈のすぐ側に腰を落ち着かせた。
「ま、それは抜きにしてもだよ。青山センセイも言ってたようにさ、いい映像(え)を撮るためにもお互いのコミュニケーションは必要なわけだから、ここら辺でもう少し仲良くなっておきたいよね。そうしたらさ、もしかしたら気が変わるかも――なんてこともあるかもだし」
 ジョッキを傾けながらニヤついた笑顔を見せてくる。その左手はすでに理奈の剥き出しの太股に乗せられていた。甘んじて平気な顔で愛撫を受け入れながら、理奈も黙って同じようにジョッキを傾ける。
 上村の餌食になる気があるわけはないけれど、今後の撮影をできるだけ円滑に進めるためにも、青山に対して少しでも牽制できるなら夜のお店でのお触り程度は許してあげよう。もちろん、それ以上は絶対にゴメンだけれど。
 そうして――
「世間的にはさ、歌手としての緒方理奈のベストパフォーマンスが音楽祭の森川由綺とデュエットした『POWDER SNOW』なのはオレも同意するけど、イコールそれが楽曲としての評価に繋がるワケじゃないよね。少なくとも『POWDER SNOW』は緒方理奈の本領を発揮してる曲じゃないでしょ。あれならまだ『SOUND OF DESTINY』の方が理奈ちゃんらしいかな。でも、オレ的にはアレも本物じゃなくて、世間的には認知度は全然ないけど2ndアルバムに入ってた『冬の月』がベストチューンだと思うんだけど、理奈ちゃん的にはあの曲の評価はどうなってるワケ?」
「え? ええと。そうね、確かにあの曲は歌ってて気持ち良かったかも」
「だよね! だよね! いやぁそうじゃないかとずっと思ってたけどやっぱり本人もそう思ってたんだよね。うんうん、解る解る。それでさ、~~~~~~。~~~~だよね、そもそも~~~~~~ないかな」
 なぜか話題は上村による緒方理奈楽曲解説になってしまっている(その間も太股や脇腹、背中などを這い回る手は止まらないのだから呆れ返るしかないが)。その熱量の強さに圧倒され、辟易と微妙な喜びとが入り交じった複雑な感情を抱えながら、理奈はマシンガントークを半ば聞き流す態勢に入っていた。
 すると、彼女のそんな態度が気に障ったのか自分のトークに飽きたのか解らないが、
「――だからアイドルシンガーとしての緒方理奈は超一流だし、オレももう一度新曲を聴いてみたいって気分もあるのは確かだけど。グラビアアイドル緒方理奈はそれに比べたら全然なってないって話だよね」
「え? きゃっ! ちょ、ちょっと、なにしてるのよ!?」
 話題を変えるなり上村はいきなり理奈の体を抱き上げると、彼の膝の上にむりやり座らせる。だけでなく、
「ウエストの細さは合格点は充分上げられるんだけど」
「ねぇなにこれ、いったいなんなのよ!?」
 腰回りに腕を回して計測するように――或いは抱きしめるように――一周させる。それから、
「バストは大きさが少し足りないかなぁ。やっぱりグラドルやるなら、85以上でDカップはないとアピールにならないしさ。理奈ちゃんは83のCカップだっけ?」
 ふざけたことを言いながら彼女の胸を服の上から乱暴に揉みしだいてくる。
「……サイズは兎も角、どうしてカップまで知ってるんです? 後、痛いのでやめてもらえますか?」
「そこら辺りは蛇の道はヘビって感じかな。OK。それじゃ、お許しが出たから優しく揉んであげよう。今回の撮影には間に合わないだろうけど、こうやって毎日揉んでれば次の撮影までにはちゃんと大きくなるだろうから一緒に頑張ろうね」
「だから誰も揉むのを許してないってば! 離してくださいっ。そもそも次の撮影なんてないから! 大きくしてもらう必要なんてないです! 勝手なこと言わないでください!」
 胸を揉む手つきが柔らかくなり、最初は痛いだけだった感触が徐々に心地良いものに変わってくる。どうも思いの外テクニックがあるらしい。――だからといって、どうなるわけでもないはずだけど。
「第一、胸の大きさなら私よりも由綺の方が小さいでしょ? それはどうなんです!?」
(由綺、ゴメンね。こんなくだらないことで引き合いに出しちゃって――)
 心の中で友人に謝罪しながら、理奈は素直な疑問を口に出した。すると上村は彼女の耳に息を吹きかける悪戯で声を出させながら、あたりまえのように答えてくる。
「由綺ちゃんは80のAでしょ。たぶんギリギリ上限のラインだけど、小さいなら小さいなりの需要があるから問題はないよ。世の中ロリコンだらけだし。だから理奈ちゃんは中途半端なんだよ。巨乳でもなければ貧乳でもない。彼女とかセフレならそれでもありだけど、グラビアの世界ではマイナーだから他に強みが必要なのに、それも由綺ちゃんに負けちゃっているからなぁ」
「――ちょっと待ってください。私が由綺に負けてるって、いったいどこがですか?」
 グラビア云々は兎も角。聞き捨てならないものが含まれていた発言に、反射的に口が動いていた。
「ずばり色気だね。理奈ちゃんも会ったときに思わなかった? ちょっと見ない間に凄く大人の色香が漂うようになっているってさ。そりゃ理奈ちゃんだってオーラや雰囲気は当然持ってるよ。でもそれは格好いいであって色っぽいじゃないんだよね。そう考えると理奈ちゃんはまだまだ大人のオンナってわけじゃないのかな」
 彼女自身への評価は兎も角として、由綺の纏う雰囲気の変化に驚いたのは確かだ。そこだけは上村の言う通りと認めてもいい――緒方理奈が負けているかどうかは知らないけれど。
「だからこの撮影で理奈ちゃんが由綺ちゃんに勝とうと思ったら、理奈ちゃんもその大人の色香を手に入れなきゃいけない。それもこの撮影が終わるまでに。そのためには、どうすればいいか解るかい?」
「…………さあ。よく解りません」
 上村の答え自体は想像がつくけれど、自分から言いたくはないのでそうごまかしておいた。
「一番確実なのは毎日セックスすることだよ。そうすれば間違いなく大人のオンナになれる。理奈ちゃんも処女じゃないだろうけど、まだ経験は少ないだろうから尚更だよ。ただ、いきなりセックスは理奈ちゃんも抵抗があるだろうからね。とりあえずはこんな風に大人のコミュニケーションを取っていくのが一番いいんじゃないかな」
 言うなり上村は、胸を揉んでいた手の片方でスカートを捲り上げると、ショーツ越しにマンスジをその指先でなぞり始めてくる。一度、二度、三度――七度目でくちゅりと水音とともに「……んっ」甘い声が漏れてしまった。明らかに一線を越えてきているが、理奈はそれでも口を結んで耐えるだけで強い抵抗を見せようとはしない。
 子役時代から芸能界で活躍してきた彼女にとって、このレベルのセクハラ行為は慣れたもののはずだった。だからそれに対する対処だって慣れきってるはず――なのに動けないのはなぜだろう。
 一つはもちろん、上村の機嫌を損ねないために我慢する必要があるということ。もう一つは今までストッパー役を果たしてくれていた兄が居なくなった――これは事務所の後ろ盾という意味でもそうだ――ということ。だが一番の要因は、もしかしたら恋と性を知ったことにあるのかもしれなかった。
 たとえば恋を知るまでは、男がどれだけ声を掛けてきてもなにかを感じることはなかった。けれど冬弥と付き合った経験がそれを変えてしまう。一度恋の喜びを知ってしまった心は、だから誰かのなにげない些細な一言でも簡単に揺れ動いてしまうようになったのだ。
 たとえば性を知るまでは、男がどれだけイヤらしいことを仕掛けてきても平然と躱すことができた。けれど冬弥と体を重ねた経験がそれも変えてしまう。一度性の悦びを知ってしまった体はそれまでと違って、イヤらしく撫で回してくる男の手をはねのけるのにも一瞬の躊躇いを覚えてしまうようになったのだ。だから、鼠蹊部を陰茎がなぞるような動きに――彼女からそれを求めることは絶対にありえないとしても――背徳的な興奮を覚えてしまっても仕方ないことだった。それに貫かれた時の心地良い快感を、彼女はもう知ってしまったのだから。
 それでも――
(どこまでも好き勝手できると思ったら大間違いだって、ちゃんと教えてあげないとね――)
 理奈の理性が簡単に欲望に屈することはない。彼女が定めたラインを越えさせはしない。
 その証拠に、上村も本当はキスまで狙っているのだろう。顔の距離も不自然に近づけてくるけれど、そこまで許す気はないからそれとなく躱しておく。そのあからさまな態度に理解を示してくれたのか、上村がそれ以上顔を近づけようとすることはなくなったけれど、代わりに指の責めが一層激しくなってしまう。
 スカートをまくり上げショーツ越しにオマンコを弄っていた指が一旦脇に退いて、ショーツの端に辿り着いたかと思うと内側に入り込んで、その奥の手入れ済みの部分の肌を直接撫で始める。大陰唇に向かってゆっくりと。一方、別の手はシャツの脇から無断侵入を始めて小さな丘に到ったところで、ブラの隙間から強引に入り込ませた指先で膨らみと乳首を弄り出した。おまけに彼女の尻の下では、硬くなった長いものが小刻みに動いて存在を主張してくる。
 ――さすがにもう、いいかげん限界だった。
「ごめんなさい、ええとその、カントク? 私、ちょっとお花摘みに行きたくなっちゃったので、離してもらえますか? ありがとうございます」
 定番の手だったが、有効ではあったらしい。これでようやく上村のイタズラから逃げ出すことができたが、呑まされすぎたのも事実なのでまずは言った通りトイレに向かうことにする理奈。お湿りを帯びた下着の処理が必要なのもあるが、そこからはできれば目を逸らしておきたい。

「……それにしても、暑いわね」
 個室で用を足し終え――当然下着の処理も済ませた――、手を洗いながら自然とそんな呟きが漏れた。
 南国特有の蒸し暑さのせいもあるだろうが、アルコールをたっぷり取らされたせいもあって体が火照ってしまっている。……間違ってもそれが上村の愛撫のせいということはない、はずだ。おそらく、きっと。
 ただ、原因がなんであっても、少し涼んでこの火照りを冷ます必要はあるはずだ。それに――
「……あの二人、いったいどこにいるのかしら?」
 由綺と青山の姿がさっきから見えなくなっているのが気がかりだ。昨日の様子を見る限り片方だけなら兎も角、二人ともとなると嫌な予感しかしない。だから早く居場所を見つけ出して、もし先程までの自分のように妙なことをされていたのなら、急いで助け出してあげなければならないのだけど。
 さすがに昨日着いたばかりではホテル内の地理もよく解らないので、当てもなくさまよい続けるしかない。
(いくらなんでも、部屋に戻ってるわけはないと思うけど……)
 そう思いながらなにかの建物の陰に奥まった狭い空間を見つけたところで、話し声が小さく聞こえてくる。
 そっと足音を立てないように近づいて、建物の壁に隠れるようにして空間を覗き込む。すると、そこには予想通り由綺と青山の姿があった。
 向かい合ってなにやら会話している様子だ。見たところ青山が悪戯している様子はないけれど、果たしてなにを話しているのか。理奈が耳をそばだてると、ちょうど青山の声がそのまま飛び込んできた。
「――さて、ちゃんと嵌めてるか確認させて貰っていいかい?」
「はい、どうぞ。たっぷり確認してください」
 意味不明なその言葉に媚びるような声を返したかと思うと、由綺はいきなりショーツを足首までずり落とし、青山に向かってスカートをたくし上げる。いきなりすぎる行動とそこに現れた光景を目の当たりにして、理奈はただただ絶句した。
 その剥き出しになった股間から、奇妙な物体が生えている。そう思えたのは一瞬だけで、よく見るとそれがワレメに埋め込まれた――振動音が響いてくることから電源が入ってるらしい――バイブだと解る。解らないのは、由綺がどうしてそんなものを嵌めているのか、そしてどうしてそれを青山に見せつけているのかということだ。
「まったく、こんなに嫌らしく咥え込んで。由綺は本当にスケベな女だなぁ」
「ダメですか? 青山センセイは、スケベな方が好きなんですよね?」
「そりゃもちろん。スケベなオンナは大好物さ。特にキミみたいなのはね――!」
 ニヤリと笑うなり、バイブを奥へと押し込んでしまう青山。瞬間、くぐもった声とともに由綺の腰がイヤらしく跳ね回る。
「それで、撮影の時はどうしてたんだい? こんな大きいのはさすがに嵌められないだろ?」
「イジワルですね。ん……知ってる、のに、んうっ……言わせるんだから……っ」
 イタズラする青山を咎めるでもなく、むしろうっとりとした目を向けながら彼女は答える。
「見つからないよう、小さな、ローターを、入れてました。いつ気づかれちゃうかなって、すごく、ドキドキ、してました」
「ああ、それはドキドキだね。でも、今もドキドキしてるみたいだけど、どっちの方が興奮したのかな?」
「んっ、それは……ナイショ、です……んんっ」
 バイブを抜き差しするのとは違う手で胸まで揉み出した青山に、由綺は声を殺そうとするだけで抵抗の様子も見せない。その様子を壁に身を隠して息を殺しながら、理奈は呆然と見ているしかなかった。
(うそ、どうして勝手にさせてるのよ。由綺、あなた青山となにがあったの?)
 そうやって彼女が思考停止している間にも、二人の淫靡なやり取りは止まらない。
「オマンコがイヤらしくバイブ飲み込んでるの見てたら、このままハメたくなったんだけど。どうかな?」
「……ダメですよ、センセイ。こんな場所でヤって声我慢できなくなったらみんなにバレちゃいます。理奈ちゃんに見つかったらどうするんです?」
「…………っ!?」
 いきなり名前を呼ばれ、全身を硬直させてしまう理奈。覗き見ていることがバレている、わけではない、はずだが。それでも怖くなって周囲を見回したところで、「…………、――――」誰かの声が聞こえた気がして、思わず全力で振り返ってしまう。
 カツッ――
 それは気のせいみたいだったけれど、代わりに物音を立ててしまった。
 しまった! と思うよりも早く体はその場所から駆け出していく。脇目もふらず。二人がこちらに気づいたかを確かめることもなく。目の前の認められない現実から逃げ出すように。
(なんで? なんでなんでなんで――どうしてあの子、あんなことしてるのよ。それも全然嫌がりもせず、むしろあんなに気持ちよさそうに……ッ!?)
 青山の卑猥な行為を由綺はすべて受け入れているように見えた。それがなによりもショックで、なによりも理解できなかったから――バーベキューのところに戻っても、由綺と青山が程なくそこに戻ってきても、彼女の頭は混乱したままなにも考えることはできないままだった――

 4 “百合バイブwithブルマ”に続く

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