作者:しょうきち
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東京都内、私立きらめき高校。
夏休みが終わり新学期を迎え、多くの生徒たちが久方振りに集まってくるこの校舎。その屋上では、軽薄そうな下卑た笑い声が響き渡っていた。
「ブヒャヒャヒャヒャ、ウヒヒッ、ヒィーッ!」
「おいッ、そこまで笑ってんじゃねえよッ!」
購買で買ってきたホットドッグを鼻から噴き出しそうになりながら、下品な大笑いを見せている男がいる。この男、名前を早乙女好雄と言った。笑われているのは高見公人である。
二人は高校入学以来の付き合いではあるが、不思議とウマが合い、よくこうしてつるんでいる。そして、やりたい盛りの男子高校生ということもあって、最も盛り上がる共通の話題は女の話である。
好雄は無類の女好きであり、交遊範囲もやたらと広い。勉強はからきしであるものの、きらめき高校の綺麗どころの女子のデータは軒並み脳内に納められていると言われている。詩織についても例外ではなく、公人ですら知らなかった詩織のスリーサイズも好雄にかかれば丸裸であった。しかも学年が上がるごとの微妙な増減も含めて、である。
一度「どんな手を使って調べたんだ?」と聞いてみたものの、「へっへ、そいつは企業秘密だぜ」と言われ、はぐらかされていた。(好雄曰く『その気になれば生理周期やオナニーの頻度、性体験の有無だって調べられるぜ』とのことである。流石に丁重に断っていたが……)
「ヒッ、ヒッ、ヒッ……。あーっ、滅茶苦茶笑ったぜ。悪い悪い、ウヒヒヒッ……」
何一つ悪いと思ってないような顔である。
「お前な……、俺だってな……」
「いやいや、それ以上言わなくてもいいって、高見クンよぉ。何せ何年も想いを募らせてきた幼馴染みと、やっとこさSEX出来るとこだったんだもんなぁ。焦っちまう気持ち、よーく分かるぜ?」
「けっ、よく言うぜ、そう言うお前は彼女もいないクセによぉ」
「へっへ、今はいないってだけで、カノジョなんてその内またこさえてよ、ズッコンバッコンのヤりまくりだぜ。セ~フレひゃくにんでっきるっかな~っと」
「恥ずかしいから止めろっ、バカ野郎っ!」
好雄はそう言いながら腰を前に突き出し、何か大きくて丸いものを抱えながら股間をカクンカクンと前後させるような仕草を見せていた。眉をひそめる公人であったが、好雄はどこ吹く風であった。
このように常日頃から、溢れ出る品性の下劣さを隠す気がまるで無い好雄であったが、公人にとっては親友であると同時に、恩人でもある。それは何故か。
夏休み中、公人が晴れて詩織と付き合い出すきっかけとなったのは、半月ほど前に好雄が企画したダブルデートであった。
進学校であるきらめき高校の生徒は、その多くが来年は受験を控えている身であるため、思い切り遊ぶなら二年生である今年が最後の機会といえる。しかし、公人はその当てすらもなくダラダラと過ごしていた。
勿論、昔からの想い人である詩織とデートに勤しむことが出来れば最高の夏休みとなるのであろう。しかし、デートに誘うその一歩をどうしても踏み出すことができずに、ずっと足踏みしていたのである。
高校入学以来、学年一、いや校内一の評判の美少女として話題をさらっていた詩織である。当然声を掛けようとする男は、三年から一年まで枚挙に暇が無いものであったが、時が経つにつれてそのような男の数はそれなりに落ち着きを見せていった。
詩織の人気が下火になっていったという事ではない。むしろ密かに想いを寄せる男子(公人もこの中に含まれる)は更に数を増していたであろうと思われる。
詩織に対し下校やデートの誘い、愛の告白などをする男が減ってきたその理由とは、その男に求めるハードルの高さと、断りを入れる際の辛辣さが知れ渡ってきたためである。
高校入学後の数ヵ月間、イケメンスポーツマンから学年一の成績を誇るインテリまで、様々な男子生徒が代わる代わる下校途中の詩織を待ち構えていたが、その悉くが『友達に噂とかされると恥ずかしいし……』などと言われ、下校やデートの誘いをにべもなく断られたていた。
やがて、何処からともなく『藤崎詩織は男に求めるハードルがあまりにも高く、成績優秀かつスポーツ万能かつイケメンかつ話上手でないと歯牙にもかけることはない』という噂が立ち始めた。
こうなると声を掛けてくる男の殆どは余程の身の程知らずか、中身の無い詐欺師崩れの様な男ばかりである。そしてそのような男の本質を見抜く嗅覚について、詩織は誰よりも鋭かった。こうした類のろくでなしはハッキリと断らないとストーカーの如く何度も付きまとって来るため、詩織の断りかたも次第に一刀両断するようなものとなっていった。
『用もないのに、話しかけないでよ』
『あなたに話しかけられるだけで嫌なのに』
といった、辛辣な断られ文句で心をへし折られたチャラいナンパ男子が、さながら死屍累々の山の如く積み上がっていた。
公人は内心において、『俺はそうした輩とは違う。何故なら詩織と幼馴染みという、俺だけのアドバンテージがあるからだ』と、根拠の無い自信を持っていたが、詩織を下校やデートに誘ったりといった行動に移す事はできなかった。もしも他の男たちと同様の辛辣な断られ方をしたら、今まで拠り所にしていた幼馴染みという肩書きごと粉々に吹っ飛び、もう立ち直れない。そのように感じていたためである。
公人はきらめき高校入学以来、詩織とはあえて関わりを避け、ひたすらに勉学や体力作りといった自分磨きに精を出していた。全ては詩織の眼鏡に叶う男となるためである。
その甲斐あって二年生に上がる頃には、一流大学を狙えそうな程の頭脳に、インターハイ選手も裸足で逃げ出すような体力を持つ文武両道な人間となっていたのである。
一日20時間とも云われる過酷な勉強とトレーニング漬けの生活が、一年そこそこの短期間で急成長をもたらしていた。
少なくとも公人の知る限りにおいては身持ちの固い詩織ではあるが、黙っていてはいつか何処かで別の男に靡いてしまうかもしれない。公人の知らないところで詩織が別の男の腕にに抱かれるような事態は、想像するだけで心臓を掻き毟られるような想いが去来し、生きてはいられないような気分となる。そんな事態を恐れるがあまり、生き急ぐように独り努力を重ねていたのである。
一度好雄から「そんなに身体を鍛えるのが好きなら、どこか運動部にでも入ったらどうだ? 大会とかで活躍したら、結構モテるんじゃねえの?」と、言われたことがある。
それに対する公人の返答は「けっ、ゴメンだね。運動部なんか入ったら、身体鍛える暇が無くなるだろ?」といったものであった。これには流石の好雄も苦笑いである。
このようにスポーツにおいても勉強においても学年では上位10%に入る程の実力を発揮していた公人であるが、詩織に声を掛ける一歩を踏み出す事に躊躇を重ねたまま徒に時を重ねていた。気付けば二学年の一学期が終わり、夏休みに突入していた。
学校に行けば毎日会える詩織との間に何の進展も無いまま夏休みを迎えたのは痛恨の極みであった。家が隣同士のため、顔を見る機会くらいは日頃日常の中でもある。とはいえ、中々二人で話したりするような機会はなく、関係進展のチャンスとなるとどうしても見当たらないのである。
ダラダラと何事もなく過ごし、夏休みの約半分が過ぎ去ろうとしていた。唐突に好雄からの電話が掛かってきたのは、そんな頃であった。
それは、女子二人を誘って遊園地で遊ぼうという、ダブルデートの誘いであった。
公人は当初「この年になって遊園地かよ?」とブー垂れていたが、メンツを聞くや否や心境は一変した。好雄が誘った相手の片割れは公人の想い人、藤崎詩織であったのである。そうとあっては断る理由など無く、二つ返事でOKしていた。 一体どんな誘い文句で詩織を誘ったのか、特段疑問を挟む事はなかった。
ダブルデート当日。
集合場所であるきらめき遊園地に集まったのは四人。公人、好雄、詩織、それに加えもう一人この場に現れたのは、好雄の友人であるというギャル系少女、朝日奈夕子であった。赤に近い茶髪をフェミニンなボブカットにまとめた、ファッション雑誌からそのまま出てきたような髪型で、服装や小物もセンスよく纏められており、流行に聡いのがよく分かる。
「やっほ~。こんにちは、朝日奈夕子で~す。藤崎さん、高見くん、今日はよろしくね。アハッ」
「朝日奈さん、今日はよろしくね」
詩織が恭しく頭を下げる。今日の詩織の服装は、肩から上が露出するタイプの純白のワンピースで、シンプルで清楚であるがゆえに、詩織らしい魅力に溢れていた。
女子ヒエラルキーの中では超・優等生であり最上位に位置する詩織と、遅刻欠席の常習犯で赤点だらけの夕子とではあまり接点が無い筈だが、雑学も含めた趣味の範囲が広く、誰とでも話を合わせられる詩織と、流行追っかけ魔である夕子は意外にも話が合うのかもしれない。
「夕子、お前今日はよく遅れずに来たなぁ、普段は電車が激混みで~、とか言って遅刻の常習犯の癖にヨォ」
「ぶーっ、からかわないでよぉ、好雄くんっ」
「ハハハハハッ」
好雄がカラカラと笑う。後で聞いたところによると彼女は好雄と同じ中学出身の腐れ縁なのだという。好雄謹製の女子データも、一部は彼女から金銭を介してもたらされたものらしい。彼女も見た目どおりというか、それだけ顔が広いということなのであろう(それにしても、同じ女子の3サイズデータを金で売るなよ、とは思ったが……)。
「ハハッ、来てよかったろ、公人? 俺様に感謝しろよ?」
「お、おう……」
こうして集まった4人で、遊園地を巡ることとなった。多くのアトラクションは2人で入る形式で、ジャンケンで一緒に乗るペアを決めた。勿論のこと詩織とのペア組みを狙う公人であったが、幸運の神様に見放されたためか、悉くジャンケンに敗れていた。多くのアトラクションでは夕子とペアとなったり、時には好雄と組まされる事さえもあったりもした。
公人のフラストレーションがじわじわと粉雪のように積み上がってゆく中、四人は本日最後に回る予定としていたアトラクションである、きらめき遊園地最大のの目玉である大観覧車へとたどり着いた。
やはりジャンケンでペア決めをしたが、結局組み合わせは好雄―詩織ペア、公人―夕子ペアという形となった。
意気消沈するも、公人は気を取り直して夕子と2人で観覧車に乗り込んだ。たが、心中は穏やかではなかった。好雄と二人きりとなっている詩織の事が気が気でならないためだ。
表向きには夕子と観覧車内で相対し談笑しているものの、気分は上の空である。目線はちらほらと、先行して登っている観覧車へと向けられていた。
あそこでは詩織と好雄が密室の中、二人で誰にも邪魔されずに過ごしている筈なのだ。
その事実は公人の心臓を鷲掴みにしていた。喉はカラカラに渇き、胸元をかきむしりたくなるような衝動に襲われる。
「公人くーん、なによ、疲れちゃったの? 折角今日一日一緒に遊んでたのにさ、あたしとペアじゃつまんないのォ?」
「う、うわっ!?」
気付けば、立ち上がって公人の側までやって来ていた夕子が耳元まで顔を寄せ、話し掛けてきていた。柑橘系の甘酸っぱい香水の香りを感じ、ドキリとした。
先行する二人のことがあまりに気掛かりであったため、目の前まで近寄って来ている夕子に今の今まで気付くことは無かったのである。
「ハァ……ハァ……な、な……!?」
「よい……しょっと!」
「なっ、ちょ!? 朝日奈さん?」
夕子は困惑する公人に構わず、隣へと腰掛けた。
二人掛けが可能なシートではあるが、実際に大人二人が座るには狭く、夕子と身体を寄せ合って密着するような体勢となる。
丈の短いキャミソールからはチラチラとおへそが顔を覗かせており、下半身に目を向けると、デニムのショートパンツからは肉付きのよい生足がすらりと伸びていた。目のやりどころに困り、公人は生唾を飲んだ。
夕子は脚を組み替えながら、公人の腕に自身の腕を絡ませる。チューブトップブラに包まれた形のいい胸が、公人の二の腕に押し付けられていた。
「うふふっ、観覧車って、結構揺れるのよね。ねえ、腕、掴まっててもいい?」
「あ……いや、朝日奈さん、胸が……」
「うふふふ、当ててんのよ。公人クンってさ、結構体格良いよね。意外と筋肉とかあって、オ・ト・コ・ノ・コって感じ?」
「あ、ああ……。これでも鍛えてるからね」
詩織のお眼鏡に叶うためにね、と公人は胸の内で付け加えた。詩織への秘めた想いは、他の誰にも気付かれる訳にはいかないのだ。
「どれどれ、公人クンは夕子ちゃんを前にして、なーにをチラチラ気をとられてたのかなぁ?」
「うあっ!?」
夕子が身を起こし、公人の側に更にぐいと身を寄せる。殆ど頬がくっつく程に密着し、公人と目線の高さを合わせる。そうした上で真上を見上げた。目線の先には、好雄と詩織が先行して乗り込んだゴンドラがある。
「ははん……成程、ねえ……。公人クン、さっきからチラチラ見てたのは、あっちの方のゴンドラね? 好雄くんと藤崎さんの事、そんなに気になるんだぁ……」
「わ、悪いかよ……」
「うんうん、しょーがないね。魅力的だもんね、あたしよりもね」
「わ、悪かったよ。意地悪言わないでよ、朝日奈さん」
「ウフフ、いいのよ。気にしないで。あたしさ、応援してるから。ロミオとジュリエットっていうのかな、道なき道っていうの? 向こうの気持ちだけじゃなくて、世間や周りからの見る目とか、困難尽くしだと思うけど、好きになるのは自由だもんね」
「そ、そこまで言うかよ……?」
「だってさ、そんなにも好きなんでしょ? 好雄クンのこと」
「ぶほぅっ!?」
公人は噴き出しつつ、盛大にシートから滑り落ちていた。ゴンドラがぐらん、と傾いた気がした。
「きゃっ。もう、危ないわよ?」
「あ、あたた……。おい、朝日奈さんッ! 勝手に人をホモ呼ばわりするなッ!」
抗議の声を上げる公人は、強かに打ち付けた尻を擦りつつ、シートに座り直した。再び夕子と身体を密着させて座る形になったが、最早お構い無しであった。
「あれ? だってさあ、公人クンと好雄クンってさ、いっつも一緒にいるじゃん? そンでもってこう……あいつを見つめる熱の入った視線……。これは怪しい……って、恋愛マスター夕子ちゃんセンサーが、ビビビッと来たわけよ。あー、大丈夫。あたし、ホラ、理解はある方だから。こういうの、ボーイズラブって言うんだよね?」
昔々流行った、両手の人差し指を相手に向けて指差すポーズをしながら夕子が言う。
「う、ううう、頭痛がしてきたぞ……。色々間違えてるし……。いいかい、はっきり言っておくけど、俺はノーマルだよ。好雄の事が好きだなんて、そんな訳無いだろう。大体なんだよ、その恋愛マスターっての。節穴もいいトコなんじゃないの?」
「ふぅん、言ってくれるじゃない。じゃあ、ちょっと試してみる?」
「へ?」
「よっこら……しょっと。えーいっ!」
「う……ああっ!? あ、あ、朝日奈……さん?」
夕子は身を翻すと、そのまま公人の膝上にぐいと跨がった。そして両肩にそっと手を置き、両脚をシートに投げ出したのである。これではまるで、AVなどで対面座位と呼ばれるような性行為の体勢である。女体の重みをダイレクトに感じるこの体勢は、童貞である公人にとっては刺激的過ぎるところであった。
「あ、ああ……朝日奈……さん……?」
「公人クンが本当は女の身体に反応するのか、しないのか、確かめてあげる。あ、ホラ、危ないからさ、しっかりココ、持っててね」
「あ……ああ……?」
そう言って夕子は公人の両手を自身の尻へと導いた。
「やはぁん、公人クン、上手ゥん……」
(や、や、柔らかいッ! これが女の子のお尻なのか! 丸くて……弾力があって……まるでつきたての餅みたいだ。指がめりめりと食い込んでいくのに、それなのにグイグイ押し返して来るッ!)
「女の味、たーっぷりと教えてあげるわね」
「あ、あ、朝日奈さん、ま、まずいって。外から見られたら……。こんなの公然猥褻で捕まっちゃうよっ!」
「ウフフ、だーいじょうぶ。ここはある程度の高さまで来たら、地上からは何やってるかまでは見えないから。嘘じゃないわよ? 前に確認したもん」
「け、経験済みって事かい……?」
「うふふ、ひみつ」
そう言いながら夕子はペロリと舌を出し、公人の首筋に手を回す。女の香りと香水の匂いが混じり合い、濃厚なフェロモン臭を形成していた。逃げ場の無いゼロ距離で叩き込まれる女の味に、思考は麻痺し、頭がぼうっとしてくる。
「あっ……はぁん。うりうり、どーう、気持ちいい?」
夕子が面白がって、腰をぐいんぐいんと揺する。
(お、おわぁっ! き、気持ち良過ぎるッ! でも、俺、おれ、詩織に操を立ててるのにっ! 詩織以外の女の子に反応するわけにはいかないッ!)
夕子は公人の鎖骨に指を走らせたり、シャツの中へ手指を忍び込ませ、乳首をコリコリといじったりした。そんな誘惑を目を瞑り、額に汗を滲ませながら鉄の意思で堪える公人であったが、その反応は一層夕子の嗜虐心に火を付ける事となった。
「ふーん、反応しないの? 我慢強いのね。それとも、本当にホモなのぉ?」
「だから、ホモじゃないって……」
「それじゃあ、こういうのはどーう?」
夕子はキャミソールをたくしあげた。 その下に身に付けているのは、真っ赤なブラジャーただ一枚である。
「うぁ……!?」
「ねえん、公人ク~ン、観覧車ってさあ、結構揺れるよね。あたし、ちょっと酔って来ちゃッたぁ。胸が苦しいの、お願ーい。ホック外してくれるゥ?」
夕子は尻に添えられていた公人の手首を掴み、後ろ手にもっと上の方を支えるよう促す。
(ああ……うぅ……抵抗できないッ!)
公人はまるで催眠術に掛けられたかのように手を添える位置を上げてゆき、尻肉から背筋を伝い、肩甲骨の辺り、ブラジャーのホックに指を掛けさせられていた。促されるがまま、二ヶ所あるツメをパチン、と外す。するとブラジャーからはみ出た形のいい生乳が公人の眼前にプルン、と広がった。
「ウフフ、公人クン、見たことある? エッチな本とかビデオとかじゃ見られない、本物の生JK のオッパイよ」
「はぁ……はぁ……朝日奈、さん……」
衝撃であった。そもそも女体をここまで至近距離で味わうのが生まれて初めてという事もあったが、目の前数センチに突き付けられていたのは、確かに夕子の言う通り、一般に18歳以上を謳うAVやヌード写真では絶対に拝む事のできない、正真正銘16歳、美少女女子高生の生乳なのであった。
夕子はこう見えて着痩せするタイプなのかもしれない。スレンダーな身体に、丸々とした柔らかそうな半球形の乳房が膨らんでいる。頂きには薄い桜色の乳輪、そして先端にはツンと張った乳頭。
大きさは平均的な同年代女子と比べると、平均よりやや上といったところである。決して小さくはないものの、巨乳と呼ぶには少々物足りない、といったところか。しかし形の良さ、張り、肌の色艶などを踏まえると、幸か不幸か、公人にとって好みのタイプとほぼ合致する乳房であった。
「流石に鏡さんなんかには負けるけどさあ、藤崎さん辺りとは丁度同じくらいの大きさなのよね。どうよ、中々のモンでしょ?」
(詩織と、同じくらいだって……?)
その様に言われてみると、目の前に広がる乳房が詩織のそれに思えてくる。成程、好みのタイプのおっぱいに感じられる訳である。詩織のおっぱい……。どの様な形状をしているのか、乳輪の大きさはどのくらいか、張りはどうか、乳首の位置や形状はどうなのか、想像を巡らせるだけで一晩中考え込んだ事もある。
「あン、公人クン、固くなってきたわね」
気付けば海綿体に血液が集中し、息子がメリメリと膨張を初めていた。その上では今、夕子が跨がり、面白半分に腰を揺すり股間を擦り付けているのであった。
「んぁ……あゥン……! やだぁ、公人クン、えっちィ」
陰茎が勃起し、ジーンズが盛り上がる。
これ以上なく挑発的な態度をとる夕子であったが、敏感な部分を不意にノックされ、淫靡に喘いでいた。
性的興奮をダイレクトに感じさせる艶声を耳元で囁かれ、公人の海綿体に送り込まれる血液の量は、一瞬の内に増加していた。心臓がバクバクと急ピッチで働いているのが分かる。その分頭に回る筈の血液が不足したせいか、大脳全体に甘い痺れを感じ、思考回路には靄が掛かったかのようであった。
「公人クン、ゴメンね、からかったりして。ホモじゃあなかったのね」
「ま、まだ言ってるのかよォ!?」
「からかったお詫びにさ、いいコトさせてあげるから」
「な、何……?」
「ねえ、触ってみても、いいよ」
「うぇあっ!?」
目の前の乳房を触ってみたい、舐めとってみたい、といった衝動が、不意に心中に沸き起こる。正確に言えば、必死で押さえ込んでいたそうした男の本能を、嫌が応にも自覚させられていた。しかし、そのような衝動に身を任せるということは、数メートル先のゴンドラに乗り込んでいる詩織への裏切りである。まだそういった関係性に至ってはいないとはいえ、少なくとも公人はそのように考え、理性にブレーキをかけていた。
「で……でで、でも、そういうのは、彼氏とか彼女とか、そういう相手じゃないと……。普通の友達相手にさせていい事じゃないよ」
既にしている行為のレベルが言い訳出来ない程に、普通の友達相手にやっていい行為のレベルを遥かに超えている気がしないでもないが、公人はひとまず、そこに一線を引いていた。
「ふーん、結構お堅いんだ? でもね、あたしさ、今彼氏いないよ? 公人クンだってそうでしょ? ならいいじゃない。それとも、やっぱ本命はアッチ?」
夕子は斜め上に目線を向けながら言った。目線の先にあるものが詩織と好雄の乗ったゴンドラであることは、言うまでもない。
「う……」
「じゃあさ、こういうのはどう?」
「な、なに……?」
「今日ってさ、結構な猛暑日なのよね。オッパイの裏側ってさ、汗かいたままにしとくと汗疹になっちゃうのよ」
夕子はポーチから制汗シートを一枚取り出し、公人に手渡した。そして、乳房をぐいと持ち上げる。乳房の下側はじっとりと汗ばんでいた。
「そ、それで……?」
「汗、拭き取ってくれる? 友達なら汗ぐらい、拭いてくれるよね? 丁寧に、隅々まで……ネ」
(ヤバいっ、持たないっ! 我慢が、理性が……。クソッ……!)
耳元で蠱惑的に囁くその一言は、ダムが決壊するが如く公人の理性を粉々に破壊していた。
「いやぁん、公人クンっ!」
肉感的な乳房に、公人の指がめり込んでいた。下から持ち上げるように揉みしだいたり、左右から中央にむぎゅむぎゅと乳肉を寄せ上げたりした。汗を拭きとるという建前は、秒で何処かへと吹き飛んでいた。
「あうう、むむむ、むぅん」
公人は本能のままに夕子の乳肉に舌を伸ばし、乳首を吸い上げていた。生まれて初めて覚えた女体の味に、脳内の理性や常識といった概念を司る箇所が完全に狂わされていた。
「えっ……あんっ、んんんっ……上手よ、公人クン……」
技巧も何もない、本能に任せた愛撫であったが、ねちっこく乳肉を攻められた結果、次第に夕子の乳輪が紅色に染まり、乳頭が物欲しげに尖ってくる。公人の頭部を力一杯抱き締め、意思とは無関係に背筋がピンと伸びる。
「あぁ、んんんんんんっ」
「ハァ……ハァ……」
「ねぇ、ねぇ、公人くぅん……」
「な、何……? 朝日奈さん」
「さっきね、背筋を伸ばしたらほんの少しだけ隣のゴンドラの中が見えたの。丁度あたしの位置から、シートから立ち上がった時なんか、ギリギリ角度によっては見えたりもするみたいね。今はもう見えないけど」
「そ、それって……?」
「藤崎さんと、好雄くんよ。二人さあ、どうしてたと思う?」
「ど、どうって……。お喋りしたり、景色を眺めたりとか……?」
「チラッとしか見えなかったけどさ、藤崎さんね、好雄くんの足元にひざまづいてズボンに手を掛けてるように見えたなぁ。見かけによらず大胆だよね。やっぱりあれってフェ……」
「う、うわぁぁあっ! 朝日奈さん、それ以上言わないでくれっ! そ、そうだ。ゴミか何かを落としたか、服に虫でも入ったかに違いない。そうに違いないッ!」
他ならぬ自分達自身がしている行為を棚に上げての発言であった。夕子が続けた。
「ふーん……。ま、あたしは面白ければどっちでもいいけどね。そんなに気になる? 二人のこと……」
「う、うん……」
「う~ん、あ、そうだ。ちょっとしか見えなかったっていうのはウソよ。本当ははっきり見えちゃってたの。ひざまづいていたのは好雄クンの方、藤崎さんのパンティをね、膝まで下ろしてガッツリクンニしてた」
「ウソだっ!?」
「そう、ウソかもね。でもさ、本当の事なんて、確かめようがなければ、誰にも分からなくない? 好雄くんと藤崎さんが何をしてるのか、分かりようがなければ、想像するしかないのよ。そして想像するなら、面白い方がいいじゃない? Hな事、してるのかもしれないし、してないのかもしれない」
「うう……何がなんだか、分からないよ」
「うちらはうちらで、楽しもうよってこと」
公人は混乱していた。半裸の夕子の身体を愛撫しながらも、頭の中は好雄と性行為にふける詩織の事でいっぱいであった。
詩織が性行為をする。それは、勿論見知らぬ男が相手であっても心苦しいものがあるのだが、もしも相手が好雄だったらと考えると、一気に現実感を伴ってイメージが形作られる。口の中がカラカラに渇き、鼓動が激しく乱れる。先程までとは別次元の緊張感が、全身を痺れさせていた。
「キャハッ、やだぁん、公人くんのアレ、バッキバキぃ。もう、ヤりたくて仕方ないんじゃないの?」
「え……、うあ……!?」
詩織のセックス。そんな想像してはいけない事をリアルに想像しようとただけで、ペニスが痛いくらいに勃起していた。そして同時に、全身の血液が一点に集まったせいで、軽く目眩が襲いかかってきたのである。
夕子が異様な程の器用さを見せて、公人のベルト、ジーンズ、トランクスを素早く纏めて脱がす。勃起しきった男根が、唸りを上げてそそり立っていた。
「ちょ……待っ……」
「うふふふっ」
公人は夕子の目を見上げた。淫蕩な笑顔だった。太陽光が逆光となっているためか、紅く火照って見える頬の上ではくりくりとした大きな目を細めており、それは何処か昆虫を思わせる、暴力性を秘めた笑顔のように感じられた。何と言ったか、交尾後に雄を補食するような類の昆虫である。
「随分おっきくなっちゃったね。もうこのままじゃ、降りられないでしょ、観覧車」
夕子は公人の腰の上から身を下ろすと、足元にしゃがみこんだ。髪の毛を耳からかきあげる。
「おっ、おいっ……何を……!?」
「あんっ……んんんっ……」
夕子はいきり立つ肉棒の先端に愛おしげにキスをすると、唇をゆっくりとスライドさせて、一息に根元までしゃぶりあげていた。
公人は息を呑みながらも指一本動かすことが出来なかった。何か言おうと唇を震わせるも、言葉にはならず、驚愕に顔を強張らせているのみであった。
「あ、あうっ……朝日奈……さん、ダメだよ、こんな、事っ……!」
「まあまあ、折角だからさ、スッキリさせてあ・げ・る。藤崎さんみたいなさ、ああいう真面目で固そうな娘に限ってもう、スッゴいエッチな欲望を秘めてそうだよね。セックスする時とかさあ、目茶苦茶激しいフェラチオとかしそうじゃない? まあ、実際どーなのかは知らないけど」
(詩織が、詩織がフェラを……?)
公人は手のひらで眼前を覆い、天を仰いだ。その先には詩織と好雄の乗ったゴンドラがある。夕子の言葉は俄には信じられなかったが、たとえ1%でもその可能性があったら?
そう考えるだけで心が千々に乱れ、焦燥感に駆られ、心拍数が倍くらいになる気がしてくるのだ。
公人は必死に思考を逸らそうとした。しかし、目の前の夕子がそれを許してはくれなかった。口内で唾液を分泌させ、その唾液ごと男根をしゃぶり上げては、いやらしく歪んだ顔で見上げてくる。童貞の公人が耐えられる快楽の許容値などは、遥かに越えていた。
公人は顔を真っ赤に染め、滑稽なほどに身をよじり、生まれて初めて男根をしゃぶられる快楽に沈んでいった。完全に夕子のフェラチオの虜になっていた。
否。朦朧とする意識の中、目の前の女は夕子でもあり、詩織でもあった。現実と妄想が混じりあい、溶け合ってゆく。1分と経たない内に、男根は限界まで膨張し、熱い脈動を刻み始めていた。
「ウァァ、出るっ、もう出るッ」
「んフフ。いーよ、出しちゃいなよ」
「ううっ、し、しおっ、り……う、うわぁぁああーっ!」
ドクンドクンと男根が震え、温かな口内に向けて煮えたぎる欲望のエキスを余すところなく放っていた。震えているのはそこだけではなかった。五体の肉という肉が震え、公人は獣じみた悲鳴を上げながら腰を跳ねさせた。あまりの快楽と衝撃に、手足の先までもがビリビリと痺れ、口端からは涎まで垂らしながら、恍惚とした表情で意識を失っていた。
「……クン? 公人クンっ?」
「はっ!?」
「もうすぐ地上だよ。また一周乗ってるつもり?」
「えあっ!?」
寝起きでまだ意識がはっきりとしない中、反射的に跳ね起きようとした公人は、バランスを崩しシートから滑り落ちていた。尻を強かに打ち付ける。
「うっ、痛たたたたた……」
「大丈夫? もう、危ないよ」
「あれ……ここは……?」
「まだ寝ぼけてるの? もう一度だけ言うけど、もうすぐ地上まで着いちゃうよ? 起きて、公人クン」
そこはかとない既視感を感じながらも、公人はぶつけた尻と頭を擦りながらのろのろと身体を起こした。
(そうだ……服は……?)
キョロキョロと辺りを見渡す。肉棒を丸出しにしていたようか気がしていたが、痛いほどにそそり立っていた筈の勃起は治まっており、パンツもズボンもきちんと着用している。目の前に立つ夕子も同様で、着衣の乱れさえも見当たらない。
「あ、朝日奈さん……。さ、さっきのアレは……?」
「もう、何言ってんの。藤崎さん達、先に待ってるから。あたし降りてるわよ」
「あうっ、ま、待って。朝日奈さんっ!」
公人は慌てて起き上がり、夕子の後をついて観覧車を降りた。
(あ、あれは一体……!? ゆ、夢……だったってのか……?)
公人は困惑していた。あれほど濃厚で淫靡な体験が、今はまるで別次元で起きた事のように感じられた。あれほどまでに粘膜の奥深いところで濃厚接触した筈の夕子は、そのような事はおくびにも出さず、観覧車に乗る前と同じ様なサバサバとした態度であった。
射精後特有の陰嚢が縮み上がり、股間がスースーする感覚があるような気がしないでもないし、気のせいのような気もする。触って確かめれば分かるかもしれないが、流石に今それをするのは憚られた。
ジーンズの後ろポケットにイカ臭い制汗シートが押し込められている事に気づいたのは、帰宅した後、風呂場の脱衣場まで来たときであった。
昇降口の向こうでは、先行し、既に観覧車を降りていた詩織と好雄が手を振って待っていた。
好雄は笑っていた。頬の筋肉をだらしなく弛緩させて、ニヤニヤ、ヘラヘラといった表情を見せている。それだけ見ると普段通りじゃあないかという気もするが、この時は何故だか無性に、その顔を殴ってやりたい衝動に駆られた。そんな含みを感じさせる笑顔であった。
一方の詩織は、時折明後日の方を見たりしながら頬を染めてはにかみ、何かを我慢するかのように内腿を擦り合わせている。
二人の間には、一体何があったのか。
昇降口の階段を降りて行くと、好雄が声をかけてきた。
「いよォ、お二人さん。ごゆっくりだネェ」
「公人クンったら、途中で寝ちゃってさ。ちょっちご休憩? よっぽどお疲れだったみたいねェ」
夕子がからからと笑いながら応える。先程のアレは、やはり夢だったのであろうか。
「おい、よし……おわっ!? んぐぐっ!?」
好雄に声を掛けようとした刹那、好雄はいきなり公人の首を捕らえ、ヘッドロックをかけてきた。困惑していると、その体勢のまま女子二人に背を向け、公人に対しヒソヒソ声で話しかけてきた。
「(おいっ、大観覧車はどうだったよっ! 夕子とはナニしてたんだっ?)」
「(ナニって何だよ、知らねえよっ! 何もねえよっ! お前こそ、詩織とは何やってたんだよ!?)」
「(へ、へ、へ、そいつは企業秘密だぜ)」
「(お、おいっ! お前、まさか詩織と……!?)」
「(おほん。まあまあ、公人クン。いいお知らせがあるぞ。いいか、よく聞け。彼女な、お前に気がありそうだぜ)」
「(か、彼女って詩織の事か!? ま、マジかよ?)」
「(ああ、バッチリ仕込んでおいたから、帰りにでも告ってみろよ。きっとうまくいくと思うぜ)」
「 (仕込んで?)」
「(おおっと、こっちの話だよ。それより女子二人を放っておく気かよ。ホラ、夕子が訝しんでるぞ)」
お前からヘッドロックをかけて来た癖に、何を言ってるんだと思い向き直ると、夕子が隙間から覗き込もうと背伸びをしていた。
「う、うわっ!」
「なーに男二人でヒソヒソ話し込んでんの? やっぱ二人って……、ホモ?」
「「違うわっ!!」」
反射的に発した二人の返答は、見事な息の合いぶりを見せており、綺麗にハモっていた。それを見た夕子と詩織は、顔を見合わせてケラケラと笑っていた。
「さて、そろそろ解散かな」
気付けば空は赤みを見せており、時刻は夕方6時を回っていた。
「おい公人。夕子と俺、同中でさ、帰る方向は一緒だからよ。夕子の事は任せといてくれよ。お前は詩織ちゃんの事、送って行ってやりな。家、隣なんだよな?」
「よ、好雄……!」
「えー、あたしまだ公人クンと遊びたーい」
「バカ、二人にしてやんな」
「ぶ~っ」
なおも不満げな夕子を好雄が無理矢理引っ張っていき、後には公人と詩織の二人が残された。
「私たちも、帰りましょ?」
「お、おい……!」
公人はまるで心臓を射られたかのようにどきりとした。隣に立つ詩織が、異様に色っぽく感じられたからだ。朝の集合時にはまるで昔の映画女優のような、どちらかというと硬質な雰囲気を醸し出していたが、今はまるでアルコールに酔ったかのように、ひどく無防備にトロンとした目を向けてきている。
「し、詩織……!?」
「ふふ、いいじゃない? 昔みたいにさ、一緒に歩いて帰ろ?」
詩織は大胆にも、公人の腕に自身の腕を絡めた。そのまま駅に向かって歩き出す。10年前ならともかく、高校に入ってからこうして二人きりで歩くのは初めてであった。このような光景をきらめき高校の他の男子に見られたら嫉妬のあまり殺されそうである。
帰りの電車に詩織と二人で乗り込んた。座席は満杯で、吊革を握って立っていると、詩織は吊革ではなく公人の腕に掴まっていた。正面の窓ガラスを見る。公人と詩織、二人の姿が並んで映っていた。突如として訪れた幸運にニヤケる顔を止められない自分自身と、瞳を煌めかせ、頬を染める詩織の姿があった。
この笑顔、自分だけのモノにしたい。絶対に、家に着くまでに告白だ。そのような決意を強める公人であった。
最寄り駅への到着がアナウンスされると、公人は詩織の手を取って電車を降りた。降りる乗客はかなりの数で、押し潰されそうになった。そのため、はぐれないように詩織の手をしっかりと握った。指と指を絡める、所謂恋人繋ぎである。詩織の反応を見る。嫌がる素振りは全く見られない。
駅を出て、二人で歩く。互いの掌は固く握り合わせたままであった。
「懐かしいわね。こうして歩くの。10年ぶりくらいかな?」
「あの頃は、毎日泥んこになって夕方まで遊んでたよな。近所の公園で背比べとかしたりさ」
「クスクス。よく覚えてるわね。今度見に行ってみよっか? 昔はさ、幼稚園で遊んで、帰ってきてお外で遊んで、日が暮れてもこっそりお互いの部屋を行ったり来たりしてたわね」
「お互いの親にバレないように、屋根伝いにジャンプして忍び込んだりな」
「ミニ四駆にビックリマンチョコ、キン消し……。公人の部屋、色んなおもちゃがあったもんね」
「もうみんな捨てちまったよ……。あ、いや、お前があげるって言って貼っていったブラックゼウスのシール。アレはまだうちの家の柱に貼り付けられたまんまだよ。今、結構プレミアついてるらしいぜ」
「ふふ、そんな事もあったわね。いつから、一緒に遊ばなくなったのかな……」
公人は、話している内に、握りしめる詩織の手にじっとりとした汗ばみを感じていた。何かを期待している、と直感的に感じた。そしてそれは、女に言わせるのではなく、求めさせるものでもなく、公人の側から言わねばならないということも。
公人は息を呑んだ。必死に自身を奮い立たせて、言葉を継いだ。
「……なあ、詩織」
「……どうしたの、深刻な顔して?」
「今日のダブルデート、どうだった?」
「どうだった……って、楽しかった……わよ? 公人は違うの?」
「俺は……もうダブルデートはいいかな。行くなら二人きりだ。だって俺、ジャンケン弱いからさ。さっき、観覧車に乗ったときに痛感したんだよ。詩織が好雄みたいな別の男と楽しく過ごしてるのかと思うと、何だか胸が張り裂けそうになるんだ。今度行くときは、詩織と二人きりで行きたいんだ。遊園地だけじゃない。海も、山も、動物園も、プラネタリウムも、ショッピングもだ。昔みたいにさ、朝から晩まで詩織と居たいんだ」
「そ、それって……」
「す、す、好きだってことだよ……。詩織の事がさ」
「なっ、公人……!」
「お前はどうなんだよ。好雄の方がいいのか?」
「うーん、悩むなぁ。好雄くん、話してて飽きないし、色々教えてくれるのよね、色々とね」
「え……!?」
「公人も朝日奈さんと、なーにやってたのかしら?」
「おっ、おいおい……、からかうなって」
「ふふ、冗談よ。ええと、私もね……好きよ。公人」
「し、詩織っ……!」
握りしめる手と手の温度が、1℃程上昇したような気がした。
「フフッ」
「ハハハッ」
詩織が吹き出し、公人もつられて笑った。笑い合いながら、目頭が熱くなった。泣きたくなる程の幸福感というものがあるなら、多分今のこの感情がそれだった。公人は目頭を潤ませているのが恥ずかしくなり、顔から耳まで真っ赤に染めた。
「でも、もっともっと頑張って、素敵な男の人になってね。私、公人とは一緒の大学に行きたいから。一流大目指してファイトよ! じゃないと私……」
「お、おう。お手柔らかにな……」
「うん。それじゃ、帰ろっか」
こうして公人は、憧れの幼馴染みである藤崎詩織と、晴れて恋人関係になったのであった。
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