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1.大人の階段登れない

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作者:しょうきち

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 それは、ある夏の暑い日のことであった。
 閑静な住宅街、昼下がり。
 既に残暑と言っていい時期に差し掛かっていたものの、この日の気温は今夏における最高気温を記録しており、近所の公園からはジリジリジリとうんざりする程アブラゼミの鳴き声が響き渡っている。
 そんな中、クーラーのよく効いた室内では、10代の男女が二人きりで過ごしていた。高校生ふたり。テーブルにノートと問題集、辞書と筆記用具を広げ、カッカッカッとシャープペンシルを走らせている。
 二人は家が隣同士の、幼馴染みである。
 二人の関係性はと言うと、長らく少年側の片思いであったがこの夏より晴れて恋人同士に昇格していたところ。何もかもが初々しい、少年にとって初めての異性との交際である。
 幼馴染みという事もあり、幼稚園や小学校低学年の頃は何の気なしに行き来していた互いの部屋であったが、思春期を迎えるにつれて一緒に遊ぶことが減り、話すことが減り、自然と没交渉となっていた。
 そんな中少年は、内心で少女への想いを膨らませていたのであった。この部屋を訪れるのも約10年ぶりである。
 ただ、この日お呼ばれしていたのは、付き合い出して初めてのおうちデート……といったスイートな展開ではなかった。夏休み最終日ということもあって、宿題消化の勉強会であり、夏休みに入って以来ろくに手をつけておらず、溜まりに溜まった宿題を一つ一つ片付けていたのである。
 少女の方は夏休み開始当初から計画的に宿題を進めており、既に課題の九分九厘を終わらせている。そのため今日こうして集まった目的は、一緒に勉強するというよりは、専ら少年の方の宿題を片付けるための家庭教師役兼お目付け役といったところである。優等生である少女の教え方の賜物か、少年の分の宿題も何とか提出の目処がついてきたところである。
 先程から集中して作業に当たっているためか、二人の間に交わされる言葉は少ない。難問に頭を抱える少年が時折少女に質問すると、少女の方は簡潔かつ明晰な説明で解説する。ただし決して答えそのものを教える事はなく、あくまで解法について教える、というスタンスだ。
「いい? 円周率が3.05よりも大きいことの証明はね、マクローリン型不等式を用いて……」
 鈴の鳴るような、凛とした声色である。
 少女の方はさらさらのストレートヘアーをトレードマークのヘアバンドでまとめており、服装はキャミソールにショートパンツといったラフな部屋着である。ここが自室であることも相まって、解放感のあるリラックスした面持ちである。
 対する少年の方は鼻息の荒さを隠しきれていない。目の前の少女の服装がある種隙だらけであったためでもある。
 少女の目線がノートに向かい、身体を屈ませる度に部屋着でもあるノースリーブのキャミソールからは、見せブラの肩紐がチラリと覗かせている。それだけではない。ブラ紐の先を目で追ってゆくと、最近急激な成長を迎えているたわわなバストがこぼれ落ちそうに実っており、胸元に深い谷間を形作っているのだ。
「こ~ら、どこ見てるの? 集中しないと終わらないわよ?」
「へへっ、悪い悪い。でも、お前の教え方が上手いもんだからサクサク進むぜ。本当にありがとな」
「もう、おだてたって何も出ないわよ。さあ、もう一息よ。一緒の大学目指して、二人で頑張りましょ?」
「ああ! 勿論だぜっ」
「クスクス。現金なんだから」
 何だかんだで、少女と過ごすこの時間は何物にも変えがたい輝く宝石のような時間であった。
 いつまでもこの時間が続けば……とさえ思う。しかし、下半身に感じる耐え難い疼きを必死で抑え込みながら宿題に集中するのは困難を極めていた。素直に勉強に集中するには、彼女はあまりにも魅力的であった。
 無論この状況で欲情している事を悟られた日には勉強会など一発打ち切りの上、部屋から叩き出されてしまう事は火を見るより明らかである。少年はそうした内なる獣欲を鉄の意思で抑え込みながら勉強を続けていたのである。

 テーブル上には二つのコップが置かれており、オレンジジュースを飲み終えたグラスの縁からは、トロリと水滴が溢れ落ちている。ファンシーな絵柄が描かれたコースターが、ぐっしょりと濡れていた。
 氷が溶け、カランと乾いた音が響く。
 少年は内心の緊張のためか、無性に喉が渇いていきており、その事に無自覚であった事に今更ながら気付かされていた。
 沈黙に耐えかね、乾いた喉を満たそうとした少年と、ジュースのお代わりを持って来ようかしらと考えた少女。お互いの手が、同時にグラスに伸びていた。
 不意に、少女の手の上に、少年の手が重なった。
「あっ……」
「待っ……」
 反射的に手を引こうとした少女の細腕を、少年の手が捕らえる形となっていた。
「公人、どうしたの?」
「詩織、おれ、おれっ……」
 公人と呼ばれた男の方が息を呑み、詩織と呼ばれた少女の両肩を掴む。その仕草はぎこちないものがあり、女の扱いに慣れていない者特有の固さが見え隠れしていた。少女はそんな目の前の男の顔を、キョトンとした無邪気な表情で覗き込んでいた。
「し、し、詩織っ……」
「きゃっ、なっ、公人っ……!?」
 最早我慢の限界とばかり、公人は目を閉じ、唇を突き出す。今日は大安吉日。彼女の両親は揃って外出中。そんな千載一遇のチャンスで、ずっと恋い焦がれていた詩織と二人きり。関係を深めるまたとない機会に、公人が鼻息を荒くするのも無理はなかった。
「い、痛っ……、ちょ、公人……」
 両肩を掴む腕に力が籠る。詩織は怯えたような表情を見せて身じろぎし、眉根を寄せて懇願するように見上げていた。
「うあ……あっ!?」
 詩織の表情を見て、公人は一瞬のうちに青ざめた。もし今鏡が目の前にあれば、恐れと絶望が入り交じったような、この世の終わりを見てしまったかのような顔が映っていた筈だ。
「あっ……ああ、ごご、ごめん、詩織……。痛かったか?」
 詩織は目を伏せており、公人から表情を伺い知る事は出来なかった。やがて首を上げ、「ふぅ」と溜息をつくと、無言で首を横に振った。
「もう……。あんまり急だったから、びっくりしちゃった。その、ええと……無理矢理は嫌だけど……」
 詩織の口から続く言葉は紡がれなかったものの、頬を染め、はにかんだ表情で小さくうなづく。
「し、詩織……!」
「でも今度はちゃんと、優しくしてよね?」
「うぅ……!」
 公人は固唾を呑み、再び詩織の両肩に手を添えた。逸る気持ちを抑え、今度は細心の注意を払い、箸で豆腐をつまみ上げるような力加減で優しく詩織の肩を抱いた。
「んっ……」
 目の前には目を瞑り、アヒル状に唇を突き出す詩織がいる。プルプルと震える唇からは、リップクリームの香りが仄かに香る。
(詩織……、詩織ッ……!)
 公人はおずおずとではあるが、差し出された唇に自らの唇を重ねた。
「んっ……」
(おおっ……これがキス、これが詩織の唇……!)
 公人の胸中には驚き、興奮、感動、それらをない交ぜにした様々な感情が渦巻いていた。
 唇と唇を重ねる。それだけの、唇の奥へ舌先を割り込ませるでも、唾液を交換するでもない、キス初心者による初めてのキス。
 それなのに、それだけなのに、公人の脳裏には楽園が広がり、天使が乱舞し、音楽の授業か有名アニメかで生涯数度聞いただけのベートーベン『第9』が大音量でかき鳴らされているのである。
 時間にしてどれだけ経ったのか、一瞬のようであり、何時間もそうしていたようでもあった。互いの唇が離れても興奮が収まることはなかった。股間に熱い昂りを覚え、マグマのように蠢く衝動に身を任せ、勢いのままに目の前の少女を押し倒す。
「ちょ、あっ……!」
「し、詩織っ!」
 高級そうなカーペットに背中から倒れる格好となった詩織。その上からは呼吸を荒げ、余裕を無くした童貞男子が覆い被さる格好だ。
 詩織の穿いているショートパンツの裾からは、高校生にしては大人びた純白のショーツが顔を覗かせていた。公人は恐る恐る、そこへ手を伸ばした。目の前の詩織は、初めの内は両腕に力を込めて押し戻していたものの、僅かに逡巡する仕草を見せた後は、抵抗めいた素振りを止めて公人のなすがまま、女の敏感な箇所を乱暴にまさぐる手を受け入れていた。
(詩織……。抵抗しないのか? 詩織もこうなることを、望んでたって事だよな……? そうだよなっ、詩織ッ!)
 勢いに任せて、公人はショートパンツの中、詩織の秘部へと手を伸ばす。もうこうなると止まらない。
「あぁあ……。うぅうん……、あ……」
 詩織の反応が、次第に柔らかくなっていった。驚きや困惑といった硬質なものから、次第と緊張、期待といった感情を孕んだものとなってゆく。
「はぁ……んうん……」
 唇を噛み、何か迫り来る大波に耐えるかのように、じっと身を強張らせる。やがて唇の端から漏れる声は、これまでAVやネット動画等モニター越しにしか見たことのない、雌としてのそれとなっていった。
「はぁ……ぁあっ……」
「詩織、詩織ッ!」
「はぁ……はぁ……、んぁあぁん……!」
 公人は股間をぐいと、詩織の密部に押し付けた。
 股間には血流が集中し、ズボンを突き破らんばかりに、痛いほどに怒張が盛り上がっている。
 そんな雄性の迸りを突き付けられた詩織の蜜部は、湿り気を帯び、僅かではあるが染みを作っていた。その感触が、その匂いが、性的興奮の灯であることは、まだ女を体験したことの無い公人にも本能で分かった。
(詩織も、こうなることを望んでる……のかな? ……そうだ……、そうに違いない。ヤりたい、ヤられたい、犯されたいって思ってるんだ!)
 そのような女を感じさせる仕草は、暴走する公人を殊更に加速させた。
 詩織の両腕を広げ、細指に、自らの指を絡ませる。そうしておいて再びキスをせがんだ。
「う……っぷ。詩織ッ、詩織っ!」
「は……んっぷ。ふぁ……、あむう……んんっ!」
 漏れる吐息はお互いに荒く、今度のキスは詩織の方も拒むような仕草を見せることなくスムーズに唇を受け入れていた。
 だが、暴走する獣欲はそれだけで留まることはない。柔らかい唇をこじ開け、口腔内に舌先を間にねじ込ませる。唾液を流し込むとともに、詩織の唾液をジュルジュルと吸い込む。前歯を舐め、歯茎を舐め、お互いの舌先を絡め合う。
「……ん、あふん……。ふぅ、ふぅ、んれろ、むちゅ……んぁぁ……」
 詩織の反応が、どんどん柔らかくなる。艶色に染まった吐息が絶え間ないキスの合間に漏れる。口中が薫り高い唾液で満たされる。
「し……詩織。い、いいよな? な?」
「んんん……うむっ……んん……」
 詩織は固く目を閉じており、表情、そして胸の内を正確に伺い知ることはできない。想像するしかできないのだ。しかし、一息つく間も無いほどの絶え間ないキスの嵐を浴びせられ、表情は弛緩し、蕩け、肺から絞り出される吐息は次第に荒いものとなってゆく。もし今日この場で最後まで致すことに何らかの躊躇いがあるなら、このままの勢いで心ごと塗り潰せばいい、公人はそのように思っていた。
 真っ直ぐに見つめてくる公人に対し、詩織はしばらくの間逡巡していた。何か言いたそうに口を開き、何も言わずに口ごもる。そんな動きを何度か繰り返す。迷っているのだ、と公人は思った。やがて、詩織は首をほんの少しだけ前に傾けた。頬が朱に染まり、額からは一筋の汗が垂れていた。気恥ずかしさのためか、目線は斜め下へ向けられている。
 固唾を飲んで見守る公人。そして詩織の震える唇からは、遂に懊悩とともに絞り出すように言葉が漏れ出した。
「い、いいわ……」
 その言葉を聞いた瞬間、公人は血液が丸ごと沸騰したような気がした。全身丸ごとが蒸気となって爆発的に拡散し、天にも登り詰めるような気分であった。
「ほ、本当か……!? う、嘘じゃないよな……!?」
「バカ……。何度も言わせないで」
「し、詩織っ……!」
 公人は全身を使って詩織の身体を抱き締めた。柔らかみが伝わり、甘い匂いが鼻腔をくすぐり、脳天から爪先に至るまで甘美感に包まれる。柔らかく、ふくよかな乳房を通して詩織の心臓の鼓動が伝わってくる。まるで心臓を通して二人が一体化しているかのように感じられた。
(詩織の身体……、これが詩織の身体……。男の俺より小さくて、折れちまいそうな程華奢なのに、太股、尻、そしておっぱい……! 何て柔らかく……そして暖かいんだ……! 詩織、詩織っ……!)
 五体、五感を通じて脳髄に直接叩き込まれる藤崎詩織という女の味にによって、益々興奮は加速していた。昔からずっと恋い焦がれていた少女と想いを通わせ、結ばれる。人生のピークはいつかと言われたら、間違いなくこの瞬間であろう。そんな宝石のような瞬間であった。
 股間は熱く、今にもジーンズの厚い生地を突き破ってしまいそうな程に固く、大きくなっている。
 そんな昂りを押し付けられている詩織の秘部は、衣服越しであっても分かるほどに濡れそぼっていた。あと数枚、互いの性器と性器を隔てる被服がなければ、突き出された男性器をなんの抵抗も無く、女性器がヌルリと呑み込むであろう。
 公人は急いでジーンズとパンツを脱ぎ下ろした。ベッドに行こう、とか、綺麗だね、とか気の効いた台詞を言うだけの余裕は何処にもなかった。兎に角今、この瞬間、一秒でも早く詩織と、粘膜で、肉と肉で繋がりたい。そんな衝動が公人の肉体全てを支配していた。
 続けて詩織のショートパンツに手をかけて下ろそうとしたが、何処かで引っ掛かって上手くいかなかった。それを見た詩織は『しょうがないわね』といった表情を見せ、腰を浮かせ、溜息とともに自らショートパンツを下ろした。シルク製の純白のショーツは眩しく光輝いているように見えたが、その中央には染みが形作られていた。
「い、いくぞ……」
 公人は股間にぴっちりと貼り付いたショーツを横にずらした。白い生地の向こうから現れた陰毛は薄めでやや赤みがかっており、綺麗に整えられていた。公人は勃起しきった男根を取り出すと、濡れた花園へあてがった。
「あ、んん、ま、待って……。お願い。心の準備が……」
「ここまでさせといて、無理だよ。ホラ、見なって。我慢出来ないぜッ!」
「ま、待って、ダメっ! 公人、ちゃんとアレ、付けてっ……」
「アレ……って……、ゴムのこと?」
「そう、コンドームよ。今日はその……ちゃんと避妊しないとダメなんだから。付けてくれないなら、今日は無理よ」
「う……」
「持ってないの?」
「ご、ごめん、詩織……。で、でも、俺、ここまでしといてさあ、我慢なんて出来ねえよ……」
「もう……、しょうがないわね……」
 詩織は嘆息を漏らすと、身を起こして化粧棚の中をまさぐり、中から紙箱を取り出した。その中から取り出したモノを、一つ公人に手渡す。
「はい、コレ。ちゃんと付けてね」
 詩織が手渡してきたもの、それは中央にドーナツ状の膨らみがあるビニール製のフィルムであった。男性用避妊具、所謂コンドームである。
(さっき開けた箱、開封済みだったような……? 詩織、もしかして誰かと経験済みなのか……? 俺が知らなかっただけで、この部屋に別の男が来たことがあるのか……?)
 邪な妄想が脳裏をよぎる。
(いや、まてよ、俺と同じように、それどころか俺以上に今日、最後までセックスする事を望んでたんだとしたら? 完璧主義の詩織の事だし、避妊具の準備なんかも事前にシミュレートしてたのかも。うん、そうに違いない!)
 公人は心中に沸き起こった邪な思いを、自身に都合のいい想像で塗りつぶした。そう、今は目の前の詩織との初セックスを成し遂げる事が全てであり、余計な事で思い悩んでいる暇も余裕も無いのである。
 フィルムを切り、中のコンドームを取り出す。そして、今にも暴発しそうな愚息にクルクルと被せてゆく。
(あれ、このゴム、なんか緩い? サイズが……?)
「大丈夫? 表裏間違えないでね。ちゃんと付けられた?」
「お、おう……」
「それじゃ、いいわ。来て……」
 詩織はショーツを脱ぎ、自ら脚を広げると、公人の男性自身を両脚の中心へと招き寄せた。
 初めて生で見る女の性器は、発情の証である粘液を十分過ぎるほどに噴出している。別の生き物のようにヒクつくヒダヒダが、妖しく蠢いていた。
(くぅっ、早く、早く挿れたいッ! 繋がりたいッ!!)
 悲しいまでの男の本能に突き動かされる公人は、コンドームを被せた息子を詩織の割れ目にあてがう。そして目を瞑り、一息に腰を前に突き出す。
「い、いくぞ詩織ッ! う、ううっ!」
「んんんっ……」
「あ、あれ……?」
 目測を誤ったためか、ゴムの滑りが良すぎたためか、肉棒は収まるべき肉の穴に包まれることはなく、恥丘の上をつるりと滑り抜けていた。
「わ、悪いっ……。もう一回、お、ううっ……」
「んんっ……」
「あ、あれれっ……?」
 位置を微調整しながら二度、三度とトライを重ねるも、その度に肉棒は空しく上滑りを繰り返していた。自分で慰めるときなどとは違い、今にも暴発しそうな逸物を上手く操れなかったし、思っていたより挿入すべき場所がよく見えないのだ。
「……もう!」
「わ、悪い。次こそちゃんと……。もう少し下に……」
 焦れば焦る程上手くいかず、そんな公人を見上げる詩織の視線が心臓に突き刺さっていた。公人からは益々余裕が失われていく。
「ば、バカっ! 下過ぎるわ。そっちは違うトコよっ。もうっ……!」
「し、詩織ぃ……」
「……ホラ、こっちよ」
 涙目になりそうな公人を見かねた詩織が、公人の逸物、竿の先端近くをちょんとつまんで導き寄せる。愚息を女の入り口にしっかりとあてがわせ、更に、自ら指で入り口を左右に押し広げる。そのまま腰を前に突き出せば、今度こそ肉の穴、女体の中に入ってゆける筈である。
「これならきっと大丈夫よ。さあ、来て……」
 言われるがままに、腰を押し込む。全身の血液が沸き立ち、脳髄が焼ききれそうな程に興奮していた。敏感な亀頭部に、憧れの詩織の襞肉が絡み付いてくる。
「うおぉぉっ!」
「あぅ、うううん……」
 詩織が僅かに眉を顰める。公人との結合に抵抗心があったためではない。男の体重を受け止める圧迫感と、これから予想される痛みに耐えるための本能的防衛機構が働くためである。そしてそのまま、身体の中央、一番深いところを深々と貫く肉の棒を、覚悟とともに受け入れた。
 ━━かに見えた……。
「う、うううっ……ああっ!?」
「え、ええっ……!?」
 詩織の膣内へと歩を進めようとしていた肉棒は、先程までの硬さ、大きさが嘘のように失われ、力無く頭を垂れていた。
 互いに『信じられない』と言いたげな表情で見つめ合う。しかしこのような事態となった原因は明白であった。公人の装着していたコンドームはへにゃりと抜け落ち、詩織の下腹部の上辺りに転がっている。その先端には、ぷっくりと白い精液の溜まりが出来ていた。
 早い話が、挿入前に果ててしまったという事である。
「え……、えええ……?」
「し、詩織……。ご、ごめん……。あ、あのさ、一休みすれば回復するからっ、もう一回、もう一回トライさせてくれないかっ?」
 必死であった。情けなくも懇願する公人を尻目に、下着を履き直し、淡々と身支度を整え直す詩織。大きく息を吸い、失望の溜息を漏らしている。
「はぁーっ……、駄目よ。もうすぐパパとママが帰ってくるわ。今日はもう帰って頂戴……」
「し、詩織……、そりゃないぜっ!?」
「あと、コレ。持って帰って捨ててくれる? 万が一だけど、ゴミ袋の中から見つかって、パパやママにバレたら恥ずかしいし……」
 『コレ』とは、公人の逸物から抜け落ちた精液入りのコンドーム(と包装フィルム)、精液やら何やらを拭き取ったティッシュなどをくしゃくしゃに纏めた塊である。
 年頃の女子にとって、自宅で彼氏と性行為に及んでいるのが親バレするのは大変よろしくない、それは分かる。くるんでゴミ袋に詰めても、臭いやコンドームの包装などで感づかれてしまう可能性がある、それも分かる。
「いや、詩織、でもなぁ……」
「いいから、今日はもう帰って。ねっ、お願いよ……」
 詩織は既に身繕いを終え、辺りにファブリーズを噴射し始めている。精液臭の漂うゴミを鞄に押し込められ、公人は藤崎家を追い出された。
「だからって、この扱いはひどいじゃねえかよお~っ……」

 藤崎家前。独り立ちすくむ公人。
 あれよあれよと言っている内に藤崎家を叩き出され、茫然自失な公人の目の前を、二匹の連なった蜻蛉が横切って飛んでいった。
(オケラだって、アメンボだって、トンボさえも交尾してるってのに……。俺は、昆虫以下だってのか……!?)
 蜻蛉は何も応えない。すぐに視界から外れ、何処か遠くへと飛んでいった。
「へぇっくしょん!」
 秋風を浴び、どっぷりと精液を放ち終えた下半身が底冷えしている。
 気付けば外は夕焼けの見える時間帯となっていた。国内で多数の熱中症患者を出す程の猛威を振るっていた酷暑は、気付かない内に肌寒さすら感じさせる空気へと変貌していた。

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