作者:しょうきち
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こうして長年過ごしてきた街を出て、鏡家は一家できらめき市へ引っ越す事となった。
中3の12月と非常に珍しい時期での転校となった魅羅であったが、住環境を変えることによって、心の傷は少しずつ癒されていった。
魅羅はきらめき市内の中学校へ転校してきて、ひとつ驚いた事がある。
それは、同じ中学生、皆恋愛に興味津々であることに変わりはないものの、既にセックスを経験済みの男女は殆どいないという事であった。
いや、もしかすると言わないだけで実際にはしているのかもしれないが、少なくともその事を大っぴらに話す者は殆どいなかった。
そのため魅羅も女子同士の会話の中では恋愛の、まして性行為のいろはなどは全然わからないという体を貫いていた。実際、キスさえも未だしたことがないのだ。
なお、日本性教育学会の調べによると中学生女子の性交経験率はおよそ5%未満。つまり20人に1人にも満たない程度であり、これはクラスに1人いるかいないかといった数字に相当する。
もう少しハードルを低くする。たとえそれがキスであっても中3女子における経験率は精々が10数%と、凋落著しい月9トレンディ・ドラマの視聴率の方がまだ高いのではないかといった数字なのである。
小中学生が当たり前のようにセックスをしている世界観は、以前まで住んでいた地域のような一般社会の常識から掛け離れた処か、エロ漫画や少女漫画のようなフィクションの中にしかないのである。
魅羅はそういった事実を噛み締め、それまでの己を恥じていた。
そして時はあっという間に流れ、魅羅は高校受験の季節を迎えた。
前の中学では真面目に勉強しているような者はほとんどおらず、魅羅もあまり偏差値が高いわけでは無かったが、残り短い中学生活、必死の受験勉強の結果、自由な校風と制服の可愛らしさが気にいった私立きらめき高校に見事合格した。
多様な生徒による豊かな個性の発揮、というモットーの下で学園を運営する、理事長の伊集院光輝氏の方針が魅羅にとって僥倖であったのかもしれない。
こうして辛い過去を振り切り、魅羅は人生の新たなスタートを切ることが出来たかに見えた。
だが、好事魔多し。魅羅の入学祝いと新制服の見立てを兼ねて、家族で繁華街にてショッピングを楽しんでいたところ、鏡家に最大の悲劇が起こった。
86歳の老人が運転する自動車が、アクセルとブレーキを踏み間違え、交差点で信号を待っていた鏡家一同に向かって、赤信号を無視して猛烈な勢いで突っ込んで来たのである。
いち早く気付いた魅羅の父は、咄嗟に妻子達を突き飛ばした。魅羅や母親、弟たちは難を逃れたが、自身が逃げ切る事は叶わなかった。
金属柵を破壊し、縁石を乗り越え、歩道部分に侵入して尚も速度を一切緩めないその暴走自動車は、百キロ近い速度で魅羅の父を撥ね飛ばした。
魅羅の父の体は、一瞬で数十メートル先まで吹っ飛ばされ、昔の西部劇映画等でよく見られたタンブルウィード(輪状になって転がってゆく枯れ草)のように転がっていった。
父がなす術無く吹っ飛ばされてゆく瞬間は、まるで白黒映画のスローモーションのように感じられた。
街灯にぶつかり動きが止まったときには、既に首や手足があり得ない方向へと曲がっていた。即死であった。
『嫌ぁっ! 父さぁぁ ーーーーん!!!』
繁華街に、魅羅の絶叫がこだました。
鏡家は、突如として一家の大黒柱を失うという悲劇に見舞われた。
しかし、残された者たちはそれでも人生を続けて行かねばならない。魅羅の母親が意気消沈しながらも気丈に取り仕切り、葬式は近親者のみでしめやかに行われた。
(父さん……ほら、頑張って合格した、きらめき高校の制服だよ。生きている間に……見せてあげられなくてごめんね。私達家族のこと、天国で見守っていて……。ううっ……)
魅羅は、届いたばかりでおろし立てのきらめき高校制服を着用し、涙ながらに葬儀に参列した。
優しかった父を突如失ってしまった喪失感は、如何程であろうか。
父の死後の様々な整理を進めていく中で、漏れ聞こえてきた話がある。
車を運転していた老人は、元ナントカ省だかナントカ院だかの所長を務めていた人間で、更に何か凄い勲章まで受けているという上級国民であるのだという。魅羅の父親を含む複数の人間を死傷せしめたにも関わらず、警察からの忖度によって逮捕さえもされない。そして、この事故によって当人も足に怪我を負っているのだが、超豪華特別VIP専用病室で悠々自適の入院生活を送っており、一般人は面会することもできない。
そのため、保険会社の人間も容易に接触することもできず、賠償金や保険金の支払いについては今後交渉が難儀し、支払われるまでにはかなり時間がかかりそうなのだという。
しかし何より、たった一人の父親を失った海よりも深い悲しみに沈む魅羅にとっては、このようなどうでもいい話は全く記憶に残らなかった。
そして父の葬儀が済んだ後、魅羅の母が取りかかったのは父の経営していた鉄工所の倒産処理であった。
代表者兼主要工員の父が亡くなっては、もはや工場を畳む以外に道は残されていない。
改めて経理状況を確認して始めて分かったことだが、昨今の世界同時多発的不景気の煽りを受けていた所為で、鉄工所の経営は非常に厳しい状態であり、いつ倒産しても不思議ではない状況だったという事であった。
ここ数年は、最後の頼みであった中小企業助成金も打ち切られ、メイン銀行からは貸し剥がしの慮き目に遭っていた。
昨年、この未曾有の危機的状況を打破する乾坤一擲の手段として、近隣の商工会が集まり冬季五輪種目のボブスレーで使用されるそりを複数の町工場の力を結集して作成するという一大プロジェクトが発足していた。魅羅の父も参加し、成功に向けて尽力していた。
しかし、発起人でもあるプロジェクトリーダーの男が実はとんでもない詐欺師で、なけなしの協賛金は全て横領されていた。
そして横領された金は全て遊興や愛人へのプレゼントに使われ、結局一円たりとも帰ってこなかった。
無論このような状況下で開発されたそりを使用する国など、日本を含め世界中どこにもおらず、それ以前に試作品は大会規定のレギュレーションさえも満たしていないというお粗末な出来であったため、計画は完全に頓挫していた。
こうした大変苦しい状況、そして元々7人の子供たちを抱えていることもあって、辛うじて銀行への債務は残らずに倒産処理は済んだもののもはや鏡家には貯金が無く、家計は非常に苦しいものとなっていた。
そして中学の卒業式を終え、きらめき高校への進学を控えていた春休み。
「ふう……今日はキャベツが30円安く買えたわ。業務スーパー、様々ねぇ……」
魅羅は節約のため、隣町のスーパーまで買い物に行き、そして自宅へと戻って来たところである。
父が亡くなり、魅羅はこれまでにも増して家の事を手伝うようになった。気丈に振る舞う母ではあったが、魅羅の目にはやはり無理をしているように映っていた。
容姿にあまり自信を持つことのできない魅羅にとって、母親は何よりの自慢であった。
清楚でありながらも女としての魅力に満ち溢れており、ボディ・ラインといい美貌といい、言われなければとても40過ぎとは思われないであろう。魅羅も性徴に伴い体型は母に近づいてきたが、その美貌まではとても追い付ける気がしない。
父の生前、一度魅羅は「どうして母さんはそんなに綺麗なのに私はブスで、男の子にもモテないのかしら?」と聞いてみたことがある。
すると母は「魅羅も心から好きになれる男の子が出来れば、自然と綺麗になれるわ。恋は女を綺麗にするのよ」と答えた。
「父さんみたいに?」と聞くと、「親をからかうんじゃありません」と、手にしていたお玉で額をコツンと叩かれた。
魅羅は、そんな母の事が大好きだった。
父の死後、ほんの少し、注視しなければ分からない程であるが、母はふっくらとしていた頬の肉が少し削げ落ち、目も少し窪んでいるように見えた。
魅羅はそんな母を、そして苦しい家庭を支えようと考え、家事の多くを母に替わって出来るように尽力していた。
(高校に入ったら、バイトでも始めようかしらね……)
そんな事を考えながら玄関のノブに触れた瞬間、何か言い知れない不穏な気配を感じた。家を出る際、確かに閉めたと思っていた鍵が開いていた。
(あれ、私、カギ開けたまま出たのかしら。それとも割か明辺りが早引きでもしてきて、カギを閉めずにいたのかしら? それなら、ちゃんと言っておかないと……)
訝しんでいると、家の奥、居間の辺りから、何やらくぐもった艶声が聞こえる。それが母親のものであることに気付くのに、時間はかからなかった。
焦燥を覚え、急いで屋内へ入ると、見慣れないクロコダイル製の皮靴が目についた。
買い物袋を玄関先に取り落とし、音の聞こえてくる元へと急ぐ。すると、チュパン、チュパンと淫汁にまみれた肉と肉がぶつかり合う音がリズミカルに聞こえてくる。
勢いのままに居間の襖を開けると、父の遺影が飾られた仏壇の前で、魅羅の母親は2人の男に囲まれ、バック・スタイルで膣穴を犯されると同時に前の口膣も剛直に貫かれていた。
「うぅ……、 んむぅん……」
「ヒヒッ、ババァと馬鹿にしてたがねぇ、中々味わい深いじゃねぇか」
「フム……情熱を秘めた肉体……おうっ」
「か、母さんっ!?」
「み、魅羅っ!? 嫌ァァアッ!」
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