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2.過去編①~はじめての抽(チュウ)~

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作者:しょうきち

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 『教育格差』という言葉がある。
 テレビをつけると偉い学者や評論家のセンセイ達が、『あらゆる子供達には無限の可能性がある』などと美しい文句を並び立てているが、実際のところそんな訳はない。
 親の学歴や職業、育った地域……。子供にはどうすることもできない生まれもった環境によって受けることの出来る教育には歴然たる格差が生じている。
 とりわけ多くの子供たちが公立小中学校へ通う義務教育の年代においては、一見そうとは見えない中で、同年代間における格差はじわじわと広がってゆく。
 同じ都内にあっても、上を見ればクラスの8割が名門私立中の受験を志す、名門『公立』小学校という意味のよくわからないものが存在しているような地域があれば、下を見れば小学校で学級崩壊、中学では毎日ガラスが割られ、高校に至っては男子は万引きや恐喝で、女子は妊娠でみんな退学していき、その後男は鳶職に就くかヤクザになり、女は若くして出産離婚を繰り返し、その果てに夜職に就いてゆく……といった、ウルトラハードな人生を歩む者が珍しくもなんともないような恐るべき地域も実在している(そして多くの場合、その子供も似たような人生を歩む)。
 このように、都内における大体何処でも電車1本で行けるような近傍のエリアにあっても地域、とりわけ学区ごとの格差は顕著で、その影響は後々の人生まで及んでいる。
 これが教育格差と呼ばれるものの正体である。

 鏡魅羅が生まれ育った地域も、こうした格差社会の谷間とされるエリアであった。
 主に港湾作業員や工場労働者といったあまり裕福ではない家庭が居を構えており、親も教師も受験熱はあまり高くない。
 小学生の通学路の脇で、簡易宿泊所に寝泊まりする日雇い労働者がワンカップ酒を片手に路上で寝転んでいる。そういった街である。
 そして、この街で育ってきた子供たちは義務教育を終える中学3年の終盤となってさえ、その多くは真面目に受験勉強に取り組んでいない。
 基本的に皆特に目的意識もなく、あまりレベルの高くない最寄りの高校へと惰性で進学してゆくからだ。
 そうした事情もあって中3の秋、この時期の中学生、とりわけ女子が最も関心を抱いている事は、好きとか嫌いとか最初に言い出したのは誰なのかしら、といった恋愛模様なのである。
 放課後、秋風吹きすさぶ校舎裏。
 15歳の誕生日を迎えた魅羅は、長い睫毛と寂しそうな目が特徴的な、女子生徒の中でも一番人気を誇るイケメンである今井良樹を下駄箱へ忍ばせた手紙によって呼び出していた。
 校舎の窓や物陰からは、出歯亀根性を丸出しにした生徒たちが密かに固唾を飲んで見守っている。
 やって来た良樹を前に、はにかみながら魅羅は言った。
「良樹……くん。あなたの事が……好きなの。私と付き合って欲しいのよ。お願いよ……」
(ハァ? お前みたいなデカ女が……本気かよ?)
 高校以降において鏡魅羅という女を初めて知った者からしたら信じられないかもしれないが、この当時の魅羅は自身の魅せかたをまるで理解しておらず、男子達からの人気は甚だ宜しくなかった。
 有り体に言えば、ブス扱いされていた。
 バストサイズに併せて一回り大きな制服を着ている為か、実際よりもかなり太めに見られることがままあり、自信無さげに丸まった背筋、あまり整えられていない眉やくしゃくしゃの髪型など、決してその容姿は磨かれたものとは言えなかった。
 しかし、男子と変わらない程の長身(魅羅の身長は167センチ。15歳男子の平均身長とほぼ同じ)に中学生離れしたグラドル並みの巨乳、長い睫毛に哀愁を帯びた潤んだ瞳と、素材の持つポテンシャルは見る人が見れば見抜けるものであったかも知れない。
 だが、所詮は中学生。そうした慧眼を持つ者は、少なくともこの中学には一人も居なかった。
 周りの女子達がそうしているように、魅羅も過去に何人かの同級生男子へ告白を試みたことがあったが、結果は全て撃沈であった。
 しかし、この日の結果は違った。
 良樹は魅羅の全身を舐めるように見回し、一考の後、口元を歪ませながら答えた。
「ふーん、いいよ。付き合ってやるぜ」
「本当に!? 嬉しい……」
 恋は盲目というが、この時の魅羅は、これから待ち受ける怒濤の未来に全く気づいていなかった。
 
 魅羅と良樹、二人の付き合い方は毎日の登下校を一緒に過ごす程度の微笑ましいものであった。
 魅羅は生まれて初めて彼氏が出来た事に、心踊らせていた。
「姉ちゃん、何か良いことあった?」
「ウフフ、ひ、み、つ」
 良樹の事は家族の誰にも話してはいなかったものの、彼氏が出来たという優越感と共に歩く通学路は目に写るもの、肌で感じられるもの全てに彩りが得られたように感じられた。
 しかし、一週間が経過したところでそれは起こった。
「良樹くん、今日も一緒に帰りましょ?」
「鏡、今日はちょっと一緒に来て欲しいところがあるんだ」
「え、なにかしら?」
「こっちだ」
「え? ちょっと、良樹くん!」
 良樹が鼻息を荒げる中、強引に手を引かれ連れられて行った先は、普段立ち入る事の無い旧校舎の体育館であった。来年度に取り壊しが決まっており、今は部活動でも使われていない。
 良樹は奥にある扉を開け、魅羅とともにその中にある小部屋へと入っていった。
「ここは……?」
「用具室さ。ここなら今日は誰も来ない」
「どうして……?」
 魅羅が疑問を投げ掛けるよりも素早く、良樹は床に敷かれた体育用マットの上で土下座をしていた。
「頼む鏡ぃッ! 今日ここで、ヤらせてくれっ!」
「ええっ!?」
「仲間内で童貞なの、もう俺だけなんだよ。どうせ付き合ってればそのうちヤることになるんだし。ゴムだってちゃんとつけるから。な? い、いいだろ?」
「え、ええ。そんなに言うなら……」
「……しゃあっ!」
 正直なところを言うと、魅羅自身も心のどこかでこうなる事を期待していた節があった。
 魅羅の通うこの中学では、中3の夏休みが終わる頃には経験済みのクラスメイト女子は約半数に登る。さらにヒエラルキーの高いイケてる女子グループにあっては休み時間になると、「どこそこのラブホテルが安くて使いやすい」といった会話や、「どこ大の合コンにお呼ばれしてお持ち帰りされちゃったの」といった会話を繰り広げており、更に一部では『ホ別苺』『ゴ有F無』等といった、魅羅には最早理解不能な謎ワードが飛び交っているという状況であった。
 また、先日ニュースで、国連ナントカ委員を名乗る謎の人物が『日本の女子学生は30%が援助交際をやっている』などと述べたと話題になっていたことがあった。
 それを聞いたクラスメイトの女子達(イケてるグループ)は、「30パーセントぉ!? そんな少ないワケないじゃん!」などと、ゲラゲラ笑っていた。
 彼女らの中では、童貞や処女が許されるのは小学生までらしい。
 未経験の魅羅はこういった状況に焦りとコンプレックスを抱いており、そうした話が始まると、いつも顔を赤くして頭を垂れていたのである。
 そして、いざこのような機会が訪れた。いささかの不安はあったが、こうした女子特有の不毛なマウント合戦に辟易していた魅羅はこの淫らな誘いに乗ることにしたのであった。

「あっ……、ふぅん……」
 二人以外誰もいない体育用具室の中では、悩ましい男女のあえぎ声と、粘膜を啜る卑猥な音が響き渡っていた。
 ピチャリピチャリと音を立てているのは、良樹の舌が魅羅の秘唇をしつこく舐め回す音である。
「駄目……。良樹くん……恥ずかしいわ……」
 体育用マットの上、二人とも学生服を着たまま、良樹は魅羅のプリーツスカートの中に顔を埋めていた。下着は脱がされ、靴下の辺りに辛うじて引っ掛かっていた。
 互いに処女と童貞。いささか大胆過ぎる愛撫ではあったが、良樹はアダルトビデオやアングラ雑誌で仕入れた知識を実践するべく、初めて見る女性器の味を存分に味わっていた。
「すげぇ……鏡、どんどん溢れてきてるぜ」
「イヤっ……言わないで……」
 キスすらまだしていない、やっと出来た彼氏の顔先に、整えられていない陰毛や露になった性器を晒す。その恥ずかしさは言うに及ばず、魅羅は顔から火が出るような思いで愛撫を受け入れていた。
 クラクラと気絶しそうな感覚に襲われながら、それでもねっとりと花蜜が溢れ出す。
 焼けつくような羞恥が、実は甘美な快楽と隣り合わせであることを魅羅は生まれて初めて思い知らされていた。
 そしていよいよ良樹が学生ズボンを下ろす。トランクスを下げると、狭い場所に押し込められて出口を求めていたペニスがピィンと元気に反り返っていた。先端はピンク色にてらてらと光っている。
 ぎこちない手つきでコンドームを装着すると、良樹はいよいよ童貞を卒業すべく、魅羅の真上に伸し掛かり腰を繰り出す。
 そして、結合部を探し求め、先端を割れ目に擦り付ける。
「うりゃ、うりゃ。……あれ、全然入らないぞ……?」
「良樹くん……、もう少し下……。あ、違……、そっちはお尻の穴よ」
 童貞ならではの試行錯誤を繰り返すも、中々上手くいかずに焦れた。魅羅はおずおずとペニスの先端を手に取り、そっと膣口へと導いた。
 そして、良樹が体重をかけて腰を進めていく。ミチミチと音を立て、きつい小孔が少しずつこじ開けられていった。
「い、痛……」
「我慢しろよ、鏡」
「で、でも……怖いわ。ちょっと待って、ねぇお願いッ」
「いいから我慢しろよ。その内気持ち良くなってくるからさ」
「ヒ、ヒイッ……」
 痛みと恐怖から、魅羅は己の意思と無関係に体を上へ上へと寄せていった。やがて跳び箱にゴツンと頭をぶつけ、これ以上体を引くことが出来なくなると、良樹は魅羅の肩口を押さえ付け、荒い息を吐くと共に一気に楔を埋め込んでいった。
「鏡、あともう少しだから我慢するんだ。いいね?」
 そう囁く良樹の目は、サディスティックな興奮にギラギラと輝いていた。
 魅羅の濃い目の眉が苦しげに折れ曲がる。白い喉がカラカラと乾き、小鳥のように震えていた。
 やがて良樹のペニスが根本まで収まった。童貞を卒業した感動に、うっとりと目を閉じる。
「動かないで……。ねぇ良樹くんお願いよ、じっとしてて……」
 心細げな瞳を震わせて懇願する魅羅を無視して、良樹は激しいピッチでストロークを開始する。鮮血にまみれた粘膜の感触と、一人の少女を自らの手で女に変えたという征服感が良樹を突き動かしていた。
 快楽の唸りを洩らし、良樹は腰を前後させ、魅羅の膣肉をぐりぐりと抉り取る。
「これがセックス……。オナニーとは全然違うっ! アァ……へへっ、マジ堪んねぇよ!」
「うぐゥゥウッ……あっ……、ああっ……!」
 魅羅は突かれる度に横隔膜が押され、自分の意思とは無関係に漏れる淫声に戸惑いを覚えていた。これが男の手によって、女に変えられていくという事か。
 そして良樹は、陰嚢の奥から込み上げるような射精感の高まりを感じた。魅羅の中からペニスを引き抜き、急いでコンドームを外す。
「ウゥ、鏡……、出すぞッ!」
「え!? ちょっ……んんーっ!?」
 下半身を激しく痙攣させ、しごき上げた肉竿の先端からは、魅羅の顔面めがけて大量の精液が発射された。
 ドピュッ、ドピュッと絶え間なく放たれる迸りは、魅羅の前髪や睫毛だけではなく、制服までも汚していった。
「むうっ、ケホッ……、ハァ……ハァ……ん、むぐっ!?」
 息も絶え絶えで放心していた魅羅の唇に、気付けば今しがた精液を発射し終えた逸物が無理矢理ねじ込まれていた。
 理解しがたい汚らわしい行為に困惑と抗議の目線を向けていると、良樹は魅羅に畳み掛けるように言い放った。
「セックスが終わったら、最後は必ずこうしなきゃいけないんだよ。ビデオでも皆こうしてたぜ。だから鏡、隅々まで舐めて綺麗にしろよ。簡単だろ? おしゃぶりだよ、おしゃぶり。お前の末の弟みたいにすればいいんだよ」
 弟の事まで持ち出してくる良樹には流石に少々ムッとしたが、性知識も浅くこれが初体験で心の余裕も無かったために、良樹の言葉を疑問に思う余地が魅羅の中に残されていなかった。
 初めて出来た彼氏に嫌われたくないと思うがゆえ、魅羅は良樹に言われるがままに肉竿や雁首の裏側からこびりついた精液を吸い出し、そして嚥下していった。
 唇元にまとわりつく陰毛や、喉奥にへばりついて込み上げてくる精子の匂いは、魅羅の眉根を凄艶に歪ませた。
「……けほ、けほっ……」
「ふぅーっ……、スッキリしたぜ」
 ぎこちないお掃除フェラではあったが、満足げに魅羅の口膣から柔らかくなったペニスを引き抜いた良樹は、重ねられた体育マットの上に座り込み、煙草をふかしていた。
 魅羅は心ここにあらずといった表情で、淡々とこびり付いた精液をハンカチで処理していた。
「おい、ちょっと待てよ鏡。まだ拭くんじゃねぇよ」
「え……でも、シミになっちゃうわ」
「まぁ待てよ。ほんのすぐだよ」
 良樹は携帯電話を取り出しカメラを起動した。続けて精液まみれの魅羅の顔に自らの頬を寄せると、カメラを自分たちへと向けた。
 そして良樹が手元を操作すると、パシャリとシャッター音が鳴り、ツーショット写真が携帯電話に記録された。
「ヒヒッ、俺たち二人の初体験。その記念写真だよ」
「良樹くん……。誰にも……、誰にも見せちゃ駄目よ」
「へへッ、分かってるってば」
「良樹くん……。私、帰る。今日はなんか……疲れたわ」
「そうか、じゃあな。鏡」
 この日、魅羅は良樹と交際を始めて以来、初めて一人で帰宅した。

「お帰り、魅羅。遅かったわね。晩御飯、もう出来てるわよ」
「ただいま、母さん。今日は……いい。何だか疲れちゃった」
「あら、そう……。ラップしておくから、明日の朝チンして、ちゃんと食べるのよ」
「うん……」
 魅羅が憔悴しきって自宅に帰ったとき、母親は使用済みの哺乳瓶を洗っているところであった。鏡家は七人姉弟の大家族で、一番下の鏡はまだ乳飲み子である。
 魅羅の母親は七人もの姉弟を育てているためか、しっかり者の長女である魅羅の事はおざなり気味となっていた。
 注視していれば同じ女として魅羅の異変に気付いていたかもしれないが、生まれて日も浅い末子である鏡の授乳やおむつ替え等を24時間態勢でこなしつつ、他の弟達の世話や家事をしている中では、そのような余裕は皆無であった。
 身体中が痛み、未だに股の間に何かが挟まっているような違和感が抜けなかった。
 そのまま自室に戻り、制服のままベッドに倒れ込むと、意識は深い泥の中に飲み込まれていった。
(何も……何も考えられないわ)
 彼氏との初体験を果たした魅羅であったが、これから良樹との関係はどのように変わってゆくのか。中学生らしい甘酸っぱい関係には戻れず、ただ肉欲を追及してゆくだけの関係となってしまうのか。
 初めてのセックスの際、良樹が突如としてサディスティックに豹変したことも不安を加速させた。果たしてこれが、本当に自分の望んでいる事であったのか。
 魅羅には最早、何も分からなかった。
 嵐のような官能の波が過ぎ去り、冷静さを取り戻した頭で考えようとしてみたが、答えは夢の中でも出なかった。
 翌朝になっても痛みと違和感は未だに拭えなかった。シャワーを浴び、低血圧で働きの鈍い胃袋に暖め直した昨日の夕食をまとめて流し込むと、魅羅は学校へと向かった。
 いつもの良樹との待ち合わせ場所に来てみたが、待てども誰も来ず。遅刻しそうになったので、結局一人で登校した。

「おはよう……ん?」
 教室の扉を開けると、何とも言い様の無いような違和感を感じた。
 いつものように一ヶ所に固まって談笑している男子達は、教室に入ってきた魅羅を見るなりニヤニヤと歪んだ笑みをこぼしていた。
 数グループに別れて談笑している女子達は、ある者たちは嫌悪感に満ちた瞳で魅羅を見据え、またある者たちは男子グループと同じような目で魅羅の事を見ていた。
 魅羅が困惑していると、下卑た笑いを噛み殺し、もう耐えかねるといったような風情で男子グループの一人が言い放った。
「おい鏡、良樹のヤツのザーメンは美味かったかよ? ハハッ」
 その一言で、魅羅は全てを理解した。
 怒りと絶望でわなわなと震えていると、近づいてきた女子グループの一人がいきなり魅羅の頬を張り、続けて憤怒の表情で捲し立てた。
「この泥棒猫ッ! あんたみたいなデブス女、どうせすぐに振られるって思ってたから良樹クンのこと盗られても黙って観てたのに、童貞食っちゃうとかマジで最低っ! しかも校内でヤるとか、どんだけヤリマンビッチなのよ、あんたは!」
「…………っ!」
 明らかな逆恨みであった。例の写メを見せつけながら捲し立てた女子生徒は、以前より学年一のイケメンである良樹に思いを馳せていた。魅羅は知る由も無かったが、こうした女子生徒は片手で数えきれる人数では無かったのである。
 それとは別に、男性経験が豊富で日頃から大学生や社会人の彼氏を取っ替え引っ替えしている女子グループがいたが、彼女らは特に何を言うでもなく、魅羅の事をニヤニヤしながら遠巻きに眺めていた。
 そして肝心の良樹であるが、この場に姿が見当たらない。魅羅が辺りを見回すも、この日、遂に最後まで良樹が姿を見せることは無かった。
 魅羅の記憶は、ここから暫くぷっつりと途切れることとなる。この日この後、どの様に過ごしたのか、どの様にして家に帰ってきたのかについては全く思い出せなかった。
 そして、帰宅後はショックのあまり自室に引きこもっていた。良樹からの連絡は一切無かったし、まして魅羅から連絡を取ろうという気にはとてもなれなかった。
 そもそも、良樹とは恋人・彼氏と呼んでいい関係であったのか。ただ肉欲を発散するためだけの爛れた精液便所としか思われていなかったのではないか。
 そのような男の本性を見抜けず、一生に一度の処女華を捧げてしまった自分が憎らしい。自分を産み、これまで育ててくれた両親や弟達には、最早顔向けも出来ない。
 果てなき自己嫌悪は、魅羅の心を奈落へと続く螺旋階段のようにどこまでも蝕んでいった。
(もう、死んじゃいたいわ……)
 こうしたただならぬ状況に、魅羅の母親は学校へ事情を何度も問い合わせたが、答えは「生徒間のトラブルにつき、当校はは一切関知しておりません」の一点張りであった。
 魅羅を問い詰めても黙して口を開くことは無く、母親の焦燥は加速していった。
 そして録に飲まず食わずのまま3日間が経過した日の朝、母親は魅羅のいる居室の扉を遠慮がちにノックした。
「魅羅……、魅羅……。学校で一体何があったの? お母さん何があっても怒らないから、話してごらんなさい?」
(ごめん母さん……。言えない……言いたくないわ……)
「魅羅……あのね……」
「魅羅、言えないなら、何も言わなくていいんだぞ。父さんも母さんも、いつだって魅羅の味方だ」
 魅羅の母の言葉を遮って言葉を投げ掛けたのは、魅羅の父親である。
 普段は小さいながらも鉄工所を経営しており、朝から晩まで忙しく働いているのだが、ただならぬ様子の娘を案じ、この日は仕事を休みとしていた。
「やはりあの中学で、言えないような事があったんだよな? ……よし、母さん。いい機会だ、皆でここから引っ越さないか?」
「あなた!?」
「実はな、前から考えていたんだ。やはりこの街は治安が悪く、子供たちの教育にも良くないからな。なあに、こっちは自営業だ。仕事の方は父さんがこっちに通えば、なんの問題もない」
「そ、そういう事なら……。でもあなた、一体何処に引っ越すつもりなの?」
「ああ、それは……」
「それは……?」
「きらめき市だ。何年か前に宅地開発が進められていて、都内のどこへでもアクセスが利く。それに治安も割といい」

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