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1.泡に消ゆ放課後~ねっ本番しよ~

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作者:しょうきち

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『美は、幸福を約束するものにほかならない(スタンダール フランスの小説家、1783~1842)』
 ただそこにいるだけで、男は息を呑むほどに見惚れ、女は嫉妬の炎を燃やす。そういった、常人とは次元の違う美しさを備えた人間が、世の中には稀に存在している。
 だがこうした人間の多くは、詰まるところ本人が自意識過剰なだけであったり、狭い世界しか知らないがための一過性の人気だったりでしかない。成長するに従い世の中の広さを知り、過剰な自信は失われていくものである。
 しかし、そうした種類の人間の中にあって、成長して尚も美しさへの自信を失わずに、より光輝いていく人間が稀にいる。こうした限られた人間が、芸能人やモデル、俳優といった、美しさを売りにしたスポットライトを浴びて輝く職業を目指すことになる。
 このような世界で活躍するには、努力では埋められない才能を持っていることを絶対条件として、更に限られた椅子を奪い合う熾烈な競争に勝ち抜くことが必要条件となる。
 生き残る事が出来る人間は、唯一無二の個性や特技を持っていることであったり、裏方も含めた多くの人間に愛される人徳を持っていることであったり、美しさ以外にも何かしらを持っているものだ。
 美しさ以外には何も、モラルすら持たず、どんな手を使っても輝く世界を夢見ていたいと感じる人間の中には、自らの肉体を権力者へ差し出すことによって栄光への階段を登ろうとする者さえもいる。
 死して屍を拾う者は無く、こうした仁義無用の熾烈な椅子取りゲームの敗者が、どのような末路を辿るのかは定かではない。
 また、たとえ狭き門を潜り抜けた勝者であっても、その栄光は永遠のものではない。未来永劫輝き続ける美貌などというものは、この世には存在しないためだ。
 そして誰しも時の流れには逆らえず、やがて個人の持つ美貌はいつか衰えて行く中、人生は果てしなく続いてゆく。
 そのような人生は、果たして幸せなのか。それは、当人のみしか分かり得ない事なのだろう。

 きらめき高校、屋上、昼休み。
 下駄箱に入れられていたラブレターによって呼び出された女子生徒と、呼び出した男子生徒が相対するという、青春真っ盛りの高校におけるありふれた光景が繰り広げられていた。
「鏡さん……、俺と…… 、俺と付き合ってくれないか?」
「ハァ? 貴方、何様のつもり? 鏡をよく見て出直す事ね」
「ああっ、ちょっと待ってよ……」
「あああまた鏡さんに告白した男が撃沈したぞオッ! 今月に入って13人目だァっ!」
「フン、ちょっと美人なくらいで。どこがいいんだか、あんな女」
 屋上の物陰から、向かい側の校舎から、様々な方角から固唾を飲んで様子を見守っていた生徒たちが、一斉にざわめき出していた。
 男子生徒の告白に対し無慈悲な断りを入れた少女は、きらめき高校二年、鏡魅羅という名前であった。彼女は女子高生離れした美貌やスタイルを備えており、また、それを明白に己の武器と自覚している種類の人間であった。
 校内を歩けば、非公式ファンクラブの男達が周りで群れを為す。放課後や昼休みには、僅かな望みに一縷の望みを託し、告白を試みる男子生徒が後を立たない。
 また、ただ教室で座っているだけの姿でさえ、その美しさは常に浮かべている眠たげでアンニュイな表情とも相まって、遠くから眺める者達に溜息をつかせる程であった。
 そのあまりの美貌やゴージャスな雰囲気から来るカリスマめいた人気に、彼女のことを『きらめき高校の女王様』と呼ぶ男子生徒も多い。
 しかし、一部にしか知られていないことではあるが、彼女には七人姉弟の長女として甲斐甲斐しく弟たちの面倒を見る、母子家庭の長女という一面があった。
 派手な容貌から、放課後や休日は繁華街で男を侍らせているようなイメージを持たれがちであるが、魅羅は毎日寄り道すらすること無く、まっすぐに帰宅している。下の弟を保育園へ迎えに行ったり、弟達と遊んであげたり、家族の夕食を作ったりと忙しいためだ。
 父親が亡くなり、シングルマザーとして働かなければならない母親に代わって、 鏡家の家事全般は魅羅がこなさなくてはならないのである。
  生来のプライドの高さから、こうした事情を他人に話すことは決して無く、魅羅の家庭環境や私生活ぶりを知る人間は極々一部に限られていた。
 そういった事情がミステリアスさの演出に一役買っており、魅羅はより一層、多くの男子生徒からの崇拝を受けることになってゆくのであった。

 ある日の放課後、鏡家の台所。魅羅は弟たちの夕食の準備をすべく、エプロンを締め、台所でフライパンを振るっていた。
「さて……と。今夜はパスタにしようかしら」
 熱したオリーブオイルで、細かく切った唐辛子と潰したニンニクを炒めていく。
 ニンニクの香りが立ってきたように感じられたら、 刻んだオリーブの実、アンチョビー、 カットしたミニトマトを加えて炒めてゆく。そして、隣のコンロで茹でていたパスタのゆで汁を加えて掻き回す。
 こうして出来上がったパスタソースに茹でたてのパスタを加え、手早く混ぜていく。すると、唐辛子とニンニクが乳化した、食欲を誘う香ばしい香りが台所一杯にに広がる。
 『プッタネスカ』あるいは『娼婦風スパゲッティ』等と呼ばれるパスタ料理の完成である。
 魅羅は出来上がったパスタをを大皿に盛り付けると、上の弟達を大声で呼んだ。
「割ーっ、明ーっ、晩御飯出来たわよ。皆で食べるのよ。 ……お姉ちゃん、お仕事行ってくるから、後はお願いね」
「ねえちゃん……」

 鏡魅羅という女には、決して他人に知られてはいけない、もう一つの顔があった。
 日も落ち、世の労働者達が仕事を終えて帰宅を始める時間帯。魅羅は制服を脱ぎ、ボディコン・ワンピースに着替え、ハイヒールを履いてレディースバッグを携える。そしてきつめの香りの香水をつけて化粧を整え終わると、化粧台の前には何処からどう見ても立派な商売女が座っていた。
 そして魅羅の脚は、くたびれた狭い自宅を発ち、ネオン輝く夜の繁華街へと向かう。
 目的地は繁華街の更に奥深くにある。
 昭和の時代から変わらぬ街灯が、道端の吐瀉物をどんよりと照らす。汚れた大人が金の力で腐った欲望を吐き出すために存在している、決して子供は立ち入ってはいけない、夜の場末にひっそりと存在している風俗街。
 魅羅の脚が向かう先は、そんな街の一角にあるソープランド『aquarium』であった。 古ぼけた建物に、どぎついネオンサインが輝いていた。
 とある事情により、魅羅は一年と数か月程前からこの店でソープ嬢として働いていた。
 入れ替りの激しい風俗業界、この店においては、魅羅は既に古株の部類である。
 言うまでもなく18歳未満の人間は勤務どころか入店すら出来ない施設であるが、そのあまりにも大人びた容姿から、魅羅の実年齢が16歳である事を看破する同僚ソープ嬢は一人もいなかった。そして入店に際しては、ここでは店長にしか知られていない、隠された事情があった。

 この現代日本にあってソープランドとは、金の力で男が女とセックスをすることができる唯一の場所である。(ファッションヘルスにおける基盤行為、援助交際のような個人売春等、例外はいくらでも挙げることが出来るが、ひとまずここではそう規定させていただきたい)
 そして、ソープランドはその料金やサービス内容から「格安店」「大衆店」「高級店」の三種類にランク分けがなされている。
 諸説あるが、60分~90分程度のコースにおいて、概ね料金総額が2万円以下なら格安店、3~5万円程度なら大衆店、それ以上なら高級店といった区分である。
 出口の見えない不況が長年蔓延している現代社会にあって、風俗店は多様化が進んでいる。そのため、一口にソープランドといっても、下を見れば1万円以下の底辺ソープも存在するし、上を見れば会員制で限られた人間のみを客とする、グラビアアイドルやAV女優を配した10万円以上のソープといった代物も存在しており、その質についてはピンからキリまである。
 魅羅の勤務するソープランド『aquarium』であるが、 基本コースが90分総額6万円とやや高めで、所謂高級店とされるランクに位置する店舗であった。
 こういった高額な風俗店に通い詰める客には、二種類の人間がいる。金も時間も有り余っているものの、夜の相手をしてくれるパートナーがいないか、いてもそれに満足出来ない男。そして少ない給与を軒並み女に注ぎ込む、風俗依存症の男。このどちらかである。どちらも一人寝では埋められない性愛を求めて来店してくる事には変わりなかったが、後者はソープ嬢が仕事で見せている性愛を本心からのものであると思い込み、一方的に本気の愛情を求める余り、時にはストーカー化したりすることもある。
 そのため、多くのソープ嬢達から好まれるのは前者の客層である。
 幸いなことに、魅羅を指名したがる客には前者が多かった。並の男を寄せ付けない、高値の華を想わせる容貌のためであろうか。

「『ラミ』さん、 予約のお客様、お入りでーす」
「はーい、今行きまーす」
 ボーイからの電話を受け、待機所にある数年前の古ファッション誌を読んでいた魅羅は、プレイルームへと向かっていった。
 ここでは、魅羅は『ラミ』と呼ばれている。名前をひっくり返しただけの、簡単な源氏名だ。
 肌が透けて見える程生地の薄い、紫のキャミソール、ガーターベルトと網タイツ型ストッキング、そしてフロントに蝶柄が刺繍されたTバックショーツのセットを履く。これらがこの店における、魅羅の仕事着であった。
 魅羅の待つプレイルームの扉が開けられ、今夜の客が入室してくると、三つ指をついて男を出迎えた。
 仕事モードに入り、男を前にして跪くと、学校における凛とした女王様然とした姿とも、家で弟たちに接する慈愛に満ちた姿とも違う、オスの劣情を刺激する事しか頭にない、淫靡なソープ嬢へと身も心も変わってゆくのだ。
 魅羅は仁王立ちする男の前に跪き、脳味噌さえも蕩けるような甘い声を上げた。
「いらっしゃいませ~、○○様。嬉し~い。先週もいらしたばかりなのに、随分早く来られましたね」
 魅羅を指名する客の多くは、丁度亡くなった父と同程度の年齢であることが多い。
 今夜の客は不動産会社の社長を名乗る関西弁の恰幅のいい40代の男で、特に魅羅を贔屓にしている馴染み客のひとりであった。
 概ね月一で魅羅を指名し続けていたが、今回に限っては二週連続で遊びに来ていた。
「グフフ、少し野球賭博であぶく銭が入ってのう。全くラミちゃん様々やで。あ、ラミちゃんと言っても、プロ野球の方な」
「へえ~、すごいですね。野球のことはよく分からないですけど」
「ほう、そうか……まあええで。ほいじゃ早速、いつものヤツ、頼めるかいな」
「はい……、○○様。それでは、失礼いたします……」
 魅羅はいつもしているように、男のスラックスとトランクスをズルリと下ろした。グロテスクな逸物が空気に晒され、デロリと垂れ下がっていた。
 そして芋虫のようなそれを、18カラットのダイヤでも見つめるかのようなうっとりとした目で見つめると、舌から迎えて一息に口中に含んでいった。洗っていない陰嚢の臭いが、ツンと鼻についた。

  所謂高級店と呼ばれるランクのソープランドにあっては、よく『即即生中』と呼ばれるサービスが行われている。
 『即即生中』とは、即尺、即ハメ、生挿入、中出しを一纏めにした言葉で、これらのサービスが可能であるという事が、ソープランドにおける高級店の証とも云われている。
 言うまでもない事だが、こういった行為は妊娠や性感染症といった衛生面でのリスクが爆発的に増大する。ソープ嬢は勿論、客もである。
 こうした店で遊ぶための人としてのマナーとして、性病等を持っていない事は勿論、来店時は前もって陰部を清潔に保っておく事が望まれる。しかし、そうでないからといってソープ嬢はサービスを拒むことができるという訳ではない。
 では何故こうした行為が好まれるのかというと、それはどこまでいってもタブー破りを求めて止まない、オスとしての本能に由来する。
 あらゆる風俗店が禁じられた秘密の行為をするための場所であると言えるが、業態ごとに禁止されている行為は異なる。
 挿入の無いピンクサロンやファッションヘルスにおいて「秘密で」挿入行為を求める客は、枚挙に暇がない。
 本番の方がより快楽を得られるという点も勿論あるが、男という生物は禁じられている、より一段階上の行為を「自分だけ」許されているという優越感に弱い。
 風俗の王様、ソープランドにおいては元々挿入が可能であるが、一般的な店舗ではコンドームの装着が義務付けられている。ここでも愚かな男達は、更なる優越感を求め、禁じられている事を承知でコンドームを外しての生挿入を試みる。
 そして、凡そ性愛に関する事であればあらゆる事が許される、ソープランドの中でも高級な部類に入るこの店においては、さらに、生挿入やシャワー前の粘膜接触が許されている。
 これでも満足できず、更なる禁じられている行為を求めるとなると、生中出しで風俗嬢を妊娠させるに至るのであろうか。それとも、性風俗ですらないサービスコンパニオンに対して無理矢理強姦めいた事をしたり、素人(という設定のプロ)相手の出会い系サイト利用に走ったり、薬物使用等のアブノーマルな、人としてのモラルを踏み越えてゆく方向へ走るのであろうか。尤も、ここまで来ると性依存症と呼ばれる精神疾患の類かと思われるが。

「おほぉ~ッ! 相変わらずラミちゃんのフェラは最高やのう」
「ふぁい。はひあほうごらいはふ(ありがとうございます)」
 5センチにも満たないその逸物は、魅羅の唇や舌先で敏感な部分へ刺激が加えられていくと、口腔内でムクムクと倍以上の大きさに膨らんでいった。先端は張り詰めた風船のようにパンパンに膨らみ、喉奥まで達した。呼吸を妨げられる感覚を覚え、魅羅はンググと喘いだ。
 そして鼻を鳴らし、淫靡に蕩けきった上目遣いで男を見上げ、肉茎の表面を這う赤黒い血管に沿って、丹念に舐め上げてゆく。
 右手で男の陰嚢を絶妙な力加減で擦り上げる一方で、左手の指は自らの陰唇に差し込み出し入れする。たっぷりと唾液を含んでしゃぶり上げる口膣奉仕と、ザラザラした粘液を伴う肉壺に出し入れされる細指とが、クチュクチュ、キュッキュキュッキュと劣情を催すハーモニーを奏でていた。すると男はズルリと口膣から肉槍を引き抜き、魅羅に告げた。
「おお、ラミちゃん。フェラチオはもうええで。ベッドで一発目、ハメハメさせてぇや」
「はい……。ラミのいけないトコロに、○○さんの太くて硬いの、おハメになって……」
「ウヒヒ、ええ娘や」
 魅羅はベッド上で仰向けにゴロリと寝転び、キャミソールとショーツをベッド脇に脱ぎ捨てた。露となった胸の上では、スイカのような爆乳がツンと上を向き、乳房の内では静脈が青く透けて浮かんでいた。官能の高まりに呼応するかのように、白い肌がぼうっと熱を帯びる。
 魅羅は、雪のような肌にねっとりと汗を光らせ、切なげに白い太腿をよじり合わせていた。淫らに体をくねらせ、物欲しそうな瞳で男を見る。
「フヒヒ、ラミちゃん、今ブチ込んであげるでぇ」
「あんっ……○○さん、来てぇ……」
 男は魅羅の上に覆い被さると、柔乳を荒々しく握りしめた。桜色の乳輪が、ぷっくりと膨らんで上気する。
 すらりと伸びた両脚が、男の手で乱暴にこじ開けられる。男が剛直を秘蜜に押し当てると、いやらしく充血した扉が開いてゆく。
 男が体重を欠けて腰を進めてゆくと、灼熱の秘宮はなんの抵抗もなく、ズブズブと侵入者を受け入れてゆく。
 魅羅の艶髪が、ざわざわと揺れた。
「あ、あううっ……」
 倍近い体重を受け止め、やや苦しそうな呻きを上げたが、それは、すぐに悦楽の溜め息へと変わっていった。
「あっ……ああっ……!」
「ウヒヒ、相変わらず最高やで、ラミちゃんのオマンコは。入口はネトネトしてすんなり挿入っていくのに、奥に進めば進むほどキュゥンとザーメンを搾り取る」
「ああ……、○○さん……、○○さん……!」
 魅羅はうわ言のように男の名前を口にし、背中に爪を突き立てる。子宮を直撃する激烈な快楽が、脳を蕩けさせてゆくのだ。魅羅は両脚を男の腰部で回し、尻の後ろでガシッと組み合わせた。目を閉じ、半開きになった口から舌をクイッと突き出すと、男は舌の先端をチュウンと吸い上げた。
「ウヒィ、たまらんで! ラミちゃん、早速今日の一発目や。ラミちゃんの可愛いお豆タンに、ブチまけてイクでぇ!」
「は、はいな、あんさん……!」
 興奮のあまり、応える魅羅も頭がぼうっとして、口からは支離滅裂な返ししか出てこない。
 ピストンが一際激しさを増し、やがて男は腰を震わせ、魅羅の膣内に精液を放出していった。
 
「ふぅ……、たっぷり出たで……」
 一回戦を終え、男はベッドに腰掛けて煙草をくゆらせていた。傍らでは魅羅が跪き、今しがた精を放出したペニスを、口腔と舌を使って隅々まで綺麗に舐め回していた。
 亀頭の裏側や皮の間に付着した精液の残りを嚥下しながら、魅羅は上を見上げて言った。
「ぷは……、んっん……。何か、お飲みになりますか? ミネラルウォーターと烏龍茶、後は瓶ビールがございますけど」
「それじゃあ、烏龍茶をもらおか。年取ると、アルコール入れての二回戦はキツうての」  
「はい……。すぐお持ちいたしますので、ちょっと待っててくださいね」
 魅羅は男のこめかみにキスをすると、 バスタオルを巻いて室外とへ出ていった。冷蔵庫はプレイルームの外、廊下の突き当たりにあるためだ。
 プレイルームへ戻ってきた魅羅は、夏の終わりを思わせるような、氷がぎっしりと詰め込まれたグラスに烏龍茶を注ぎ、男の前に差し出した。溶けた氷が、カランと音を立てていた。
「それじゃ、お風呂のご用意をいたしますね」
 魅羅は、バスタブに湯を張り始め、入浴の準備を進めていった。

 ソープランドの歴史を紐解くと、かつては『トルコ風呂』『個室付き特殊浴場』等と呼ばれていた事もあり、入浴とは切っても切り離せない存在であることが分かる。
 日本国にはかつて公娼制度が存在していたが、戦後十数年頃の時代から売春防止法という法律が存在しており、売春行為は禁じられている。
 この国全体がまだ貧しく、体を売らなければ生きていけなかった女性も多かった時代、この法律はそうした女達を保護する目的で作られており、それゆえこの法律で罰せられるのは単純に売春行為を行った女ではなく、売春行為の管理者や斡旋者という法体系になっている。
 ではなぜソープランドが警察の摘発を受けることなく存在できているのか。
 それは、一応の建前として、ソープランドでは、『入浴を介助するコンパニオン女性が、たまたま客との間に恋愛感情が芽生え、個室内でセックスをしてしまった』(だから、管理売春には当たらない)というお題目が存在しているためである。(実に日本らしい、苦しい言い訳であるが)
 兎も角にも、日本の各地に存在しているあらゆるソープランドでは、必ず入浴とその介助が必須サービスとして行われている。
 ヘビー・ソープ・ユーザーの中には、セックス自体よりも入浴や洗体サービスが楽しみという者も多い。

「お風呂の準備、できましたよ」
「おお、ほうか。ほな、いこか」
 魅羅は髪をアップに纏めると、男の手を引いて浴室の扉を開けた。仕切り壁は半透明で、外から浴室内ににいる人間を見ると、シルエットとして見える。
 洗い場の中央には、座る部分の中央が凹字型に窪んだ金色のバスチェア、通称『スケベ椅子』が置かれていた。
 魅羅は中座し、男にその椅子に座るよう促した。
 魅羅はボディソープを手に取ると、両手にモコモコと泡を広げ、男の胸や肩、足腰、そしてスケベ椅子の隙間を通して股間へと、粘性の強い泡をヌルヌルと広げていった。
 男の全身に洗浄泡が行き渡った事を確認すると、魅羅は自らの肉体へとボディソープを塗り始めた。大きめの乳輪、そして形よく整えてある陰毛部分には、特に多めの泡を満たす。
「お身体、失礼しますね。んっ……」
 魅羅は中腰で立つと、男の身体へ自らの肢体を密着させていった。自らの肉体をボディ・スポンジに見立て、八の字を描くように男の身体へ擦り付けてゆく。
 そして、男の腕を股間へと引き寄せる。魅羅は妖艶な表情で男を見下ろしながら、その腕を自らの股の間に挟み込み、自らの身体をヌルリヌルリと前後に動かしていった。
  男の腕の上を、魅羅の女陰が前後に往復する事数回。魅羅は男の指を一本づつ手に取り、膣内へと挿入してゆく。これは『壺洗い』と呼ばれるソープ・テクニックである。
 
「んほぉ~っ。ラミちゃんの泡踊り、最高じゃのう。ああ、このオッパイ、たまらんのぅ。一体何カップあるねん?」
「いやん、○○様。前にも言ったじゃないですか。F・カッ・プ、ですよ」
「ウヒヒ、ほうか。でも最近ラミちゃんのパイパイ、以前よりも大きくなってきてんやないか? 毎月ラミちゃんのオッパイ揉んどるワイが言うんや。ホンマやで」
「あれ? うーん、確かに最近、ブラがきつくなってきてたかも」
「新しいの、一緒に買いに行ってあげよか。お似合いのブラ、ワイが見立ててあげるでぇ。どや、めっさセクスィーなやつ」
「あーん、ダ・メですよ。私は、今この時間だけの恋人。お休みの日は、お家で奥さんのお尻でも撫でてあげて下さい」
「かーっ、古女房のカカァなんぞ、最近は指ひとつ触れてへんわ。抱いたのなんて、何年前やろなあ……」
「○○さん……。今日はラミが、いっぱい気持ちよくしてあげますね。マットの御用意をいたしますので、ゆっくり湯船に漬かって、暖まっていて下さいね」
 これ迄の人生においてまともに男性と交際した経験が乏しい魅羅にとっては、配偶者や恋人がいるにも関わらずこういった店へ来る男の気持ちは理解できるものではなかったが、幾人もの男達の相手をしてきて気づいてきた事がある。
 それは、こうした店へ来る男達は、例外なく、心のどこかに寂しさを抱えているということである。
 恋人がいる者いない者、性的に満足できている者、いない者。この現代社会においては、誰もが満たされない寂しさを抱えているとも言える。たとえパートナーがいる人間であっても、真に満たされていると言える人間は、一体どれ程いるというのか。
 これまで一年以上ソープ嬢として働き、幾人もの男達に抱かれてきた魅羅は、せめてこの秘密の空間では、秘められた欲望を解放して欲しいと、ソープ嬢としての矜持を得るに至っていた。

「よい……しょっ!」
 男を湯船に浸からせた後、魅羅は浴室に立て掛けてある、人間二人が余裕を持って乗れる程の大きさを持ったビニール製エアーマットを倒し、洗い場に敷いた。そして、マット上部の大きく膨らんだ部分にタオルをかけた。客はここに頭を乗せ、ソープランドの醍醐味であるマットプレイを堪能することになる。
 そして魅羅は、洗面器一杯に満たしたローションをお湯で溶き、両手を使って泡立て器のように高速でかき回した。手のひらを伝い、ネバネバとしたローションが指の間から溢れ落ちてゆく。
 魅羅は、洗面器の中身をマット全面に回しかけ、自らの肉体をマットの上に投げ出した。ちゃぷん、と音が鳴る。
「はぁ……ん……」
  魅羅はマット上でうつ伏せとなり、自らの肢体を使ってマット全面へローションを塗り広げていった。尻を男に向け、カエルのように脚を開き、陰部を見せつけるようにフリフリと動かす。客の目を楽しませるための、ソープ・プレイの一環である。
 胸部と同様、年齢にそぐわない豊満さを持ち、プリンとした瑞々しい果実のような尻の中央では、赤貝のような女陰がクッパリと開いていた。果汁と混合されたローションが、陰毛を伝ってポタリ、ポタリと滴り落ちていた。
「お準備、出来ましたよ。○○様、こちらにうつ伏せになって下さいね」
「おう、ほうか。ほな、いくで」
「あ、滑るので、気をつけて下さいね」
「おうラミちゃん、すまんの。よっこい……しょっ」
 浴槽を出ようとする男に、魅羅は細腕を差し出した。ローションで滑りやすくなっていることもあり、実際割と危険なのである。
 魅羅に手を引かれ、男はマット上に身を投げ出した。ローションのたっぷり塗られたマット上にヌプンと寝転ぶと、そのままでは際限無く滑っていってしまうため、枕状に膨らんだマットの上部に手をかける。
「それじゃ、始めますね」
 マット上でうつ伏せになった男の上では、全身にローションを塗りつけた魅羅が縦横無尽にその身を這わせていく。全身にローションが行き渡り、身も心も蕩けてゆくのに、さほど時間はいらなかった。
 男はマットから滑り落ちないよう、両手でマット上部の膨らみにしがみついていた。両手が塞がって動かせないため、ここでの主導権は全面的に魅羅が握ることになる。
「おお……お」
 魅羅は妖艶に微笑むと、男に背を向けた格好で、馬乗りになって腰を沈めた。
「ふぅ……はあん……。気持ちよくしてア・ゲ ・る」
 魅羅はうつ伏せとなった男の片足を抱き上げると、自身の双乳の間にムニュリと挟み込んだ。そして、持ち上げた足の指を、一本づつ丹念に舐め回していった。
「うふん、○○様ァん……いかがですか? ラミのスペシャル・マッサージは」
「ウヒャヒャ、ラミちゃん、エロ過ぎるでぇ。そろそろハメさせてもらえんか? うつ伏せだとチンポが痛うてかなわんねん」
「ウフフ、それじゃ仰向けになりましょ。お体、起こせます? よい……しょ」
 男が仰向けとなって魅羅と向き直ると、その股間では痛い程パンパンに膨れ上がったペニスが、ひくひくと天を突かんとばかりに勃起していた。
 魅羅はペニスをそっと掴み、股で挟み込む。屹立したペニスが、女性器と太股の圧迫に包まれる。
「おいラミちゃ~ん、ここまで来て焦らせての素股か? もうハメさせてくれてもええやろ?」
「うふふ。まーだ、駄目ですよ。○○さんには焦らせて焦らせて、極上の快楽を味わってもらいますわ」
 魅羅は身体を前に倒し、男と抱き合う格好となった。そして男の手首を掴み、体重を預けると、ナメクジの交尾のように身体をヌチャリ、ヌチャリと擦り付けていった。
 男の両手が塞がっている中、魅羅は指で、舌で、唇で、敏感な部分に刺激を与えてゆく。
 その間も、パックリと開いた陰裂から覗く粘膜と、分厚く肥大した小陰唇は、男の肉棒にネットリと張り付く。その周りを柔温かい大陰唇と内腿が包み込んでいるのだ。
 男との間の空間が満たされてゆき、魅羅は性の悦びに溢れた甘美な表情で喘ぐ。
「んふぅ……はぁんっ……」
 ガクガクと身体を震わせ、魅羅の下半身は、別の生き物のように蠢き出していた。そして腰と両脚をクネらせて、男の肉棒への密着を強めていった。
「う、うほおっ。こ、これはたまらん。このままじゃ暴発してまうで」
「イヤン、○○さん。まーだまだイッちゃ駄目ですよ」
 魅羅は残酷な言葉を男の耳元で囁く。そして、男の陰茎を膝裏で挟み、先端を親指と人差し指で作ったリングで挟み込むと、その指を怪しく上下させていった。所謂膝裏コキの体制である。
 全身の密着感とローションによる滑りが相まって、激烈な快感をもたらす。魅羅は時折雁首や陰嚢に力を加え、射精に至る快感を絶妙なところでコントロールしていた。
「ぐわぁぁぁぁ、ラミちゃん、頼む。もうハメさせてくれっ!」
「ウフ。……よく我慢出来ましたね。それじゃ、イキ……ますよっ……ん、あっ、……はぁん!」
 今にも爆発しそうな程膨れ上がった肉茎を、魅羅は己の膣口へと導いた。花蜜が悩ましく弾ける。男の肉竿をヌルリと呑み込むと、肉路は次第に狭まり、茎胴をぴっちりと締め付けてゆく。襞のような隆起が、ヌラヌラと吸い付いていった。
「はぁ……はぁ、んっ……、アハァン」
 ローションで満たされたマットの上、魅羅は滑り落ちないよう器用に腰を遣い、奔放に、情熱的に男の陰茎を絞り上げていった。
 浴室内にはどちらのものとも知れぬ汗が舞い踊る。魅羅は眉根が折れ曲がり、ぽってりした唇が半開きとなってゆく。AV女優でもなかなか居ないような、悩ましげなカーブを描く腰部が卑猥に揺れる。
 蜜部は生暖かく蕩け、ペニスと癒着していた。細かなヒダヒダが奥へ、奥へと引きずり込もうと蠢く。
 早熟過ぎる肢体がバウンドし、腰部の怪しいうねりがいよいよ淫らさを増していった。
「アアアもう限界やっ! ラミ、膣中にぶちまけるでぇっ」
「ふぁっ……、あっ……、来て、来て……! 私も、ラミもイッちゃいますっ!  ああっ……!」
「うお!? おおおおおっ!」
「ああああああっ!」
 迸る白濁が魅羅の秘奥を灼いた。子宮の奥へせり上がるように、キュウン、キュウンと流し込まれていく。
 獣のようにオルガスムの熱い叫びを放ちながら、魅羅は男と共に、淫らな紅い奈落へと堕ちていった。

「……リリ……」
「……リリリ……」
「……ん……?」
『ジリリリリリリリリリリリリリ!』
「ああっ!?」
 マット上で二人、繋がったまま微睡んでいた。とても長く感じられた120分コースの時間も、気付けば残り時間15分を知らせるタイマーが鳴り響いていた。
「大変! ○○様、そろそろお時間ですわ。シャワーを浴びて、お別れの準備をしましょ」
「おお、名残惜しいが、しゃあないのう」
 改めてシャワーを浴びてローションを洗い流し、帰り支度を整える。服を着終え、男は満足げな表情でプレイルームの出口に立っていた。
 そこで魅羅が、控えめに口を開いた。
「あの……サービス料のお支払いを……」
「おう、ほうか。いくらやったかのう」
「6万円になりますわ」
「う、おお。ちいと高いのう。ワイとラミちゃんの仲やさかい、ちいと負けてくれたりせえへんかのう」
「ダメです。怖い人、来ちゃいますよ」
「うへぇ……怖。ほな、はいな。6枚ポッキリや」
 そう言うと男は、懐から茶封筒を取り出し、魅羅に6枚の一万円札を手渡した。
「……4、5、6。確かに、頂戴いたしましたわ。○○さん、また来てくださいね。ラミは、何時でも貴方の一夜妻ですわ」
「嬉しい事言ってくれるのう。ほな、またな。ラミちゃん」
「んっ……」
「ムフゥん……」
 去り際に、魅羅は別れのキスを交わした。ディープ・フェラをするように、濃厚に舌と舌を絡み合わせ、卑猥な粘液感を感じさせる。
 やがてツゥ……と糸を引かせながら唇を離すと、男は名残惜しそうに帰路に就いていった。

「フゥ……」
 魅羅は一仕事を終え、ひとりごちていた。
 ボーイに部屋の清掃を任せ、待機室で一休み中である。時刻は夜の9時を回っていた。
「輝……、鏡……、もう眠った頃かしら……?」
 魅羅が想うのは、まだ小さい下の弟たちの事であった。夜泣きも収まらない年齢で、時折熱を出して寝込む等、あまり体も強くない。
「こんな暮らし……、いつまで続けられるのかしらね……」
 処女華を散らし、毎晩のように違った男を咥え込む。このような生活に後悔が無いかと言えばウソになる。
 クラスメイトの女子達がしているような、休日に同級生の男子と街でデートを楽しむような生活は、恐らく自分には望むべくも無いであろう。
 しかし魅羅は、家族のため、父親の残した借金のため、この仕事を続けざるを得ないのであった。
 内線電話のベルが鳴った。
「次の指名……9時半からですか? ふぅ……今行きまーす」
 こうして魅羅の夜は更けてゆく。
 いつか来る、幸せな未来を信じて。

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