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1.山奥の温泉宿にて1

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作者:しょうきち

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暖かな初夏の日差しに照らされながら、その日は都会の喧騒を離れ、のんびりと緩やかな山道を歩いていた。

港に面した大規模な商業都市、サラボナから北東方向に歩き始めて既に数時間、早い時間に出発したつもりが、既に太陽は中央から少し西側に傾き始めている。
サラボナを出発してしばらくの間は、さすが大都市だけに街道が整備されており、人や馬車の往来も賑やかなものだった。
しかし、先へ進むにつれて、少しずつ減少していく人の流れと比例するように、道は険しく狭くなってゆく。
街道を越え、山道に差し掛かる頃には、時折キメラやばくだんいわといつたモンスターが現れ始めるため、危険が増してくるのだ。

これらのモンスター、注意さえしていれば遅れを取ることはそうそう無いが、背後や物陰から先制攻撃を受けては堪らない。
特にばくだんいわのメガンテは熟練の冒険者にとっても脅威である。
やがて、道のりはほとんど獣道という程の険しさを見せるようになってくる。
警戒のため、私は道具袋から取り出した、サラボナで買った護身用のチェーンクロスを構え、時折草むらを払ったりしつつ先を目指していた。

その時であった。
人一人が通るのがやっとの、細い山道に差し掛かったとき、前方の岩影から何者かの気配を感じた私は、威嚇のために手にしたチェーンクロスを地面を薙ぎ払うように振るった。

「ピキャッ!」

チェーンクロスを振るった岩影から、モンスターのものとおぼしき鳴き声が上がる。
潜んでいたか!
警戒を強めつつ、声が上がった先を見やると、草むらに潜んでいた一匹のキメラがピクピクと倒れている。
他にも仲間がいるかもしれない。
この場には居なくても、放っておくとわらわらと仲間モンスターを呼ぶ可能性もある。
事実その様な種類のモンスターにひどい目に会わされたこともある。
そう思い、止めを刺すべく武器を振り上げつつ近づくと、道の向こうから紫のターバンを被った青年が出て来て、キメラの前に立ちはだかった。

「メッキー!大丈夫か」

青年は手にした杖を構えつつ、こちらに相対する。
緊張が走る。
チェーンクロスを構えたまま、相手の出方を伺っていると、意外にも青年はペコリと頭を下げてきた。

「驚かせてすみません。メッキーは僕の仲間なんです。鞭を引いてくれませんか」
「魔物が・・・仲間?」
「僕はアベル。この辺りにメッキーの弟のトビーがいるらしいんだ。メッキーと一緒に探しているんだよ」

どうやらこのメッキーと名付けられているキメラは、野良の魔物ではなくこの青年のペットのようである。
一匹一匹の魔物の違いなど、素人たる私には全然分からないが、このアベルと名乗る青年が語るところによると、魔物一匹一匹には個性があり、そんな魔物の声を聞くことにより、心を通わせる事が出来るのだそうな。
こうして様々な魔物を仲間に加え、時にはこうして荒野で戦闘経験を積ませたり護衛として連れて行ったりしているらしい。
後で知ったところによると、この青年は世界でも珍しい「まものつかい」という職業で、今も様々なモンスターを探し求めて旅をしているところらしい。
珍しい事をしている人がいるものだと思い、私は彼に頭を下げた。

「こちらこそ、いきなり攻撃してすみません」
「いや、こちらこそ驚かせてしまいすみません。もうこの辺りのキメラは殺し尽くしたし、そろそろ別の場所へ・・・・・・」

ブツブツと恐ろしい独り言を呟き、何やら考え事を始めた青年をよそに、私はその場を離れることにした。魔物のことが好きなんじゃないのか。

「そ、それでは私はこれで」

青年に別れを告げ、改めて山道を進もうとすると

「そっちはあなたの来た道ですよ!」
「おっと・・・ありがとうございます。それでは改めて失礼」

親切に指摘してくれた青年に礼を述べ、改めて別れを告げる。
見送る青年の表情は、何故か遠い昔を懐かしんでいる様に感じられた。
以前会ったことは無かったと思うが・・・。変人ではあったが、悪人では無さそうだ。 不思議な魅力を持った男だった。

青年と別れ更にしばらく進むと、山の向こうに人里が見えて来る。今回の目的地の、山奥の村である。
既に西の空が赤く染まっていた。

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