私の通っている、きらめき高校は、活気があってとてもいい学校なの。
優秀な先生方に、個性的な生徒がたくさんいる。
グラウンドの端には、古くからある大きな樹があって、卒業式の日にその樹の下で女の子からの告白で結ばれた恋人同士は永遠に幸せになれる、という伝説があるわ。
私も信じてるの。
今日はひさしぶりの登校。
コンサートの準備で忙しくて、すこし休んでいた。
教室では、みんなが私の席の周りに集まって来た。
やっぱり自分のクラスは、落ち着く。
仲のいい友達といろいろおしゃべりすると、ストレスも自然と消える。
みんな、私のアイドル活動を心から応援してくれてる。
有名になったら、学校の宣伝にもなるでしょ。
私がアイドルになったのは、そういう理由もあるの。
「詩織ちゃん、今日も放課後はレッスン?」
「あ、好雄くん。ううん。一日オフなの」
「コンサート、大成功だね」
「えっ? もしかして見にきてくれてたの」
「我が校のスーパーアイドル、しおりんのデビューコンサートだぜ。赤いアイドルドレスが、すげえ似合ってた」
「やめてよ。そのいいかた。学校では、みんなと同じ普通の生徒なんだから」
好雄くんは、同じクラスの男子生徒なの。
お調子者で情報ツウ。クラスのムードメーカーね。
校内に私のファンクラブを勝手に作って活動してるみたい。
気持ちはうれしいんだけど……。
「じゃじゃーん。買ったよ、これ」
「これ?」
「今月の、どきどきアイドル塾」
好雄くんの手には、先週発売されたアイドル雑誌があったわ。
表紙には、『撮りたて、初グラビア! 期待の超大型新人が降臨!』 という文字といっしょに、私の写真があった。
青空をバックに、制服姿で、手に学生鞄を提げている。ごく普通のポーズ。
いわゆるアイドル専門のグラビア雑誌ね。内容は、すこしだけ年齢層が高め。
ちなみに、きらめき高校の制服は空色のセーラー服で、ひざ丈のプリーツスカートと、胸には黄色いリボンがあるのよ。
「だめじゃない。学校にアイドル雑誌を持ってきたりしたら。先生に没収されても知らないわよ」
開いたページには、制服姿で黒板にチョークで文字を書いてる写真。
カメラマンにいわれて、はにかんだ笑顔をしてる。
こうして自分で見ると、正直、照れくさい。
「なになに。透明感抜群の正統派美少女・藤崎詩織。年齢は17歳。スリーサイズは88・59・83で、交際経験なし。トレードマークはヘアバンド。趣味、音楽鑑賞。好きな男性のタイプは、包容力があってやさしい年上の男性!?」
「ちょっと。ここで読むのはやめてよ」
好雄くんたら、雑誌に書いてある紹介を声に出して読んだの。
「いいじゃんか。お金出して買ったんだし」
「それはうれしいけど」
次のページでは、体操服に着替えて、立ったポーズで指先で耳元の髪をかきあげる仕草をしている写真。『地上に舞い降りた天使』は、オーバーよねえ。
場所は体育館。下は、濃紺色のブルマなの。
(はあ。嫌だったな、ブルマの撮影)
衣装のサイズが小さくて、体操服もブルマもピチピチだったの。
こういうのもアイドルの仕事だって覚悟はしていたけど、やっぱりブルマ姿の写真を撮られるのは恥ずかしい。しかも、日本中の男の人に見られるわけだし。
新人アイドルが必ず通る道よ。アイドル黄金期だし、各事務所がまだ無名のフレッシュな新人を売り込むわけ。マネージャーが教えてくれた。
「これサイコー。ブルマ姿がチョーまぶしい。清純派アイドルの、ちょっぴりエッチなブルマショット!!」
「いいかげんにしないと怒るわよ」
私はほっぺたを膨らませて、好雄くんに注意した。
「へへへ、ごめんごめん。大評判で、全国の書店で売り切れみたいだよ。どこを探してもない」
「そ、そうなんだ。カメラマンの腕が良かったのね。私は指示通りにポーズをしてただけよ」
「それだけ、詩織ちゃんのビジュアルが抜群ってことだよ。芸能界を探しても、詩織ちゃんより可憐なコはいないよ。この俺がいうんだからまちがいない。美少女の中の美少女。清純なのに、エロイ!!」
こういうところが苦手なの。悪い人じゃないんだけどね……。
コアなファンだから、本気で怒りづらいし。
「記念にサインしてよ。好雄くんへってさ」
「しょうがないわね」
ちゃっかりマジックを用意してるの。
しかたないから、サインを書いた。
「やった! 我が家の家宝にするよ!!」
「来月のCDもよろしくね」
「買う買う。全財産はたいて買う!」
「あんまり無理をしないでね」
ほんと調子がいいの。
苦笑いしちゃった。
ちょうど先生が教室に入ってきた。
好雄くんは、逃げるようにして自分の席に退散してくれたわ。
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