私は、藤崎詩織。
黄色いヘアバンドがトレードマークの、きらめき高校に通う2年生よ。
自分でいうのもあれだけど、男子にすごく人気があるの。
いまから話すのは、6月のこと。
その日も、いつものように学校が終わってまっすぐ家に帰ったの。
「ただいまー」
家について、玄関に男物の靴があるのを見つけた。
(パパの靴だ。こんな早く帰ってるなんてめずらしい)
リビングにいくと、スーツ姿のパパがソファにすわってがっくりとうなだれていたわ。
「どうしたの、パパ。暗い顔をして」
「詩織……帰ったのか」
「帰ったのかじゃないわよ。ただいまっていったの聞こえなかったの。もしかして具合が悪いの?」
私は心配になってたずねたの。
いつもは自信にあふれてるパパが、今日はすっかりしおれてる。
病気だったら大変よ。
「じつは、仕事で大きな失敗をして」
「どんなミスなの?」
パパは外資系の企業に勤めてて、お給料もすごく高いの。
それだけ仕事のストレスも多そう。
「大事な商談で、約束の時間をまちがえて遅刻したばかりか、別の資料を持っていってしまったんだ」
「事情をよく説明して謝れば、きっと許してもらえるはずよ」
「相手先がカンカンで、二度と顔を見たくないらしい」
「そんな。ひどいわ」
「おしまいだ。自分のせいで大事な契約を失って。会社をクビになってしまう」
「……ねえ、元気を出して。だれだってミスはあるわ」
「すまない。娘の詩織にまで心配をかけて」
「ううん……パパは悪くないわ。私が学校に通えるのも、パパが毎日、家族のために働いてくれてるおかげよ。私、とても感謝してるの」
「ありがとう。お父さんの味方は詩織だけだ」
パパは顔を両手で覆ってうつむいてしまった。
そんなパパを見てると、胸が締め付けられて悲しくなっちゃう。
(なんとかして、パパをはげまさないと)
でも、どうやって……。
一旦、自分の部屋にもどって荷物を置いて、解決策を考えたわ。
いいアイディアが思い浮かばないの。
なにかないかと探していると、クローゼットの奥に去年の体育祭で使ったポンポンを見つけたの。
チアリーダーがよく応援で使う道具よ。
応援合戦で、ポンポンを両手に踊ると、男子がとても喜んでいたのを思いだしたわ。
(そうだ。これを使えば、パパもきっと元気が出るはずよ!)
私はそれを持って急いで階段を降りたの。
リビングに行って、パパの前に立った。
「……?」
私が制服姿のまま降りてきたのを、パパは不思議そうな顔をしていた。
ちなみに、私たちの学校の制服は、青色のセーラー服で、胸に大きな黄色いリボンがあるの。私がいつもしてるヘアバンドと同じ色ね。
「見てて、私がいまから元気の出る応援ダンスをするわ」
スマホを使って明るいテンポのミュージックを流して、それに合わせてポンポンを両手に踊った。
「フレ―! フレー! パーパ!!」
自慢の髪をなびかせて、ポンポンを揺らしながら、笑顔で思いっきり片足を高く上げる。
制服のスカートがめくれて、下着が見えちゃった。
私は、ほとんど白の下着しか履かないわ。たまにピンク。
(パパ、ちゃんと見てくれてるかしら?)
全力で踊りながらチラっとパパを見たら、スカートの中を食い入るようにして見つめていたわ。
(きっと、私の下着を見てるんだわ)
パパに下着を見られて、ちょっとはずかしくなった。
でも、パパを元気にするためなら、これぐらい我慢しないといけないって自分に言い聞かせたの。
「がんばれ! がんばれ! パーパ!」
私は、背中を向けると両手を腰に当てて、ゆっくりと制服のお尻を揺らした。
体育祭のときは、この振り付けで男子が大盛り上がりしていたのよ。
いまはチアガールの衣装じゃなくて、制服だけど……。
踊り終わる頃には、体が火照って薄っすらと汗がにじんでいたわ。
「すこしは元気になった?」
私は、パパの顔を見た。
鼻の下を伸ばして、すっかり元気を取り戻したような顔をしていた。
さっきまでの暗い顔がウソみたい。
「詩織のおかげでやる気がでたよ」
「よかった」
「相手先の会社に直接いって、誠心誠意、謝ってみる」
「がんばってね。また落ち込んだときはいってね。パパを助けるためなら私がなんでもするわ」
とりあえず安心したわ。
ちょっぴりはずかしかったけど、頑張って踊ったかいがあったの。
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