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1.チアダンス

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 私は、藤崎詩織。
 黄色いヘアバンドがトレードマークの、きらめき高校に通う2年生よ。
 自分でいうのもあれだけど、男子にすごく人気があるの。
 いまから話すのは、6月のこと。
 その日も、いつものように学校が終わってまっすぐ家に帰ったの。

「ただいまー」
 家について、玄関に男物の靴があるのを見つけた。
(パパの靴だ。こんな早く帰ってるなんてめずらしい)
 リビングにいくと、スーツ姿のパパがソファにすわってがっくりとうなだれていたわ。
「どうしたの、パパ。暗い顔をして」
「詩織……帰ったのか」
「帰ったのかじゃないわよ。ただいまっていったの聞こえなかったの。もしかして具合が悪いの?」
 私は心配になってたずねたの。
 いつもは自信にあふれてるパパが、今日はすっかりしおれてる。
 病気だったら大変よ。
「じつは、仕事で大きな失敗をして」
「どんなミスなの?」
 パパは外資系の企業に勤めてて、お給料もすごく高いの。
 それだけ仕事のストレスも多そう。
「大事な商談で、約束の時間をまちがえて遅刻したばかりか、別の資料を持っていってしまったんだ」
「事情をよく説明して謝れば、きっと許してもらえるはずよ」
「相手先がカンカンで、二度と顔を見たくないらしい」
「そんな。ひどいわ」
「おしまいだ。自分のせいで大事な契約を失って。会社をクビになってしまう」
「……ねえ、元気を出して。だれだってミスはあるわ」
「すまない。娘の詩織にまで心配をかけて」
「ううん……パパは悪くないわ。私が学校に通えるのも、パパが毎日、家族のために働いてくれてるおかげよ。私、とても感謝してるの」
「ありがとう。お父さんの味方は詩織だけだ」
 パパは顔を両手で覆ってうつむいてしまった。
 そんなパパを見てると、胸が締め付けられて悲しくなっちゃう。

(なんとかして、パパをはげまさないと)
 でも、どうやって……。
 一旦、自分の部屋にもどって荷物を置いて、解決策を考えたわ。
 いいアイディアが思い浮かばないの。
 なにかないかと探していると、クローゼットの奥に去年の体育祭で使ったポンポンを見つけたの。
 チアリーダーがよく応援で使う道具よ。
 応援合戦で、ポンポンを両手に踊ると、男子がとても喜んでいたのを思いだしたわ。
(そうだ。これを使えば、パパもきっと元気が出るはずよ!)
 
 私はそれを持って急いで階段を降りたの。
 リビングに行って、パパの前に立った。
「……?」
 私が制服姿のまま降りてきたのを、パパは不思議そうな顔をしていた。
 ちなみに、私たちの学校の制服は、青色のセーラー服で、胸に大きな黄色いリボンがあるの。私がいつもしてるヘアバンドと同じ色ね。
「見てて、私がいまから元気の出る応援ダンスをするわ」
 スマホを使って明るいテンポのミュージックを流して、それに合わせてポンポンを両手に踊った。
「フレ―! フレー! パーパ!!」
 自慢の髪をなびかせて、ポンポンを揺らしながら、笑顔で思いっきり片足を高く上げる。
 制服のスカートがめくれて、下着が見えちゃった。
 私は、ほとんど白の下着しか履かないわ。たまにピンク。
(パパ、ちゃんと見てくれてるかしら?)
 全力で踊りながらチラっとパパを見たら、スカートの中を食い入るようにして見つめていたわ。
(きっと、私の下着を見てるんだわ)
 パパに下着を見られて、ちょっとはずかしくなった。
 でも、パパを元気にするためなら、これぐらい我慢しないといけないって自分に言い聞かせたの。
「がんばれ! がんばれ! パーパ!」
 私は、背中を向けると両手を腰に当てて、ゆっくりと制服のお尻を揺らした。
 体育祭のときは、この振り付けで男子が大盛り上がりしていたのよ。
 いまはチアガールの衣装じゃなくて、制服だけど……。

 踊り終わる頃には、体が火照って薄っすらと汗がにじんでいたわ。
「すこしは元気になった?」
 私は、パパの顔を見た。
 鼻の下を伸ばして、すっかり元気を取り戻したような顔をしていた。
 さっきまでの暗い顔がウソみたい。
「詩織のおかげでやる気がでたよ」
「よかった」
「相手先の会社に直接いって、誠心誠意、謝ってみる」
「がんばってね。また落ち込んだときはいってね。パパを助けるためなら私がなんでもするわ」
 とりあえず安心したわ。
 ちょっぴりはずかしかったけど、頑張って踊ったかいがあったの。

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