きらめき高校のグラウンドの横には、新しく建てられたクラブハウス棟がある。
鉄筋コンクリート製の3階建てで、シャワー室や道具置き場、室内トレーニング場の他、主に運動部の部室が入っている。
その一角に詩織の所属している女子テニス部の部室がある。
雑用で練習に遅れた詩織は、自分のロッカーに荷物を入れる。
スポーツバッグから洗いたての白のポロシャツに、きっちりとした折り目の入った白のテニススカートを取り出す。ポロシャツは襟と袖口部分がピンクになったデザインで、運動しやすいよう吸湿性と伸縮性がある。
セーラー服のリボンをほどいて、首から上着を脱いだ。指でスカートのホックを外す。白の下着姿になった。
急いでテニスウェアに着替える。テニススカートの下には、ヒラヒラの飾りがデザインされたピンクのアンダースコートを履いた。
テニスルックの詩織は、青春という言葉がぴったりのさわやかさがある。
放課後になると、テニスボールを追いかける詩織のアンチラを一目拝もうと多くの男子たちがコートを囲むほどだ。
シューズに履き替えて、ラケットを手に部室を出る。
ドアの外でハヤシとばったりと出くわした。
「先輩!? びっくりした」
「あれェ、詩織ちゃん。いまから練習?」
へちまみたいな顔でヘラヘラと笑っている。学生ズボンからワイシャツを出しただらしない格好で、ハヤシも男子テニス部の部員だが練習着に着替えていない。もともと詩織目当てで入部したので、部活にはたまにしか顔を出していないのだ。
「ちょっとクラス委員の仕事で遅れて。こんなところで何をしてるんですか?」
「いやぁ、メグちゃんを探してるんだけど。見なかった?」
「メグなら教室じゃ」
「おかしいな。一緒に帰ろうって約束したんだけどな。入れ違いかな」
ロン毛の頭をかきながらハヤシは横目でテニスルックの詩織をながめる。
「??」
詩織はハヤシの目線が顔よりも下の場所に注がれているのを感じる。
疑問に思いながら視線の先を追ってみると、ポロシャツのボタンを留めるのを忘れているのに気づいた。急いで着替えたせいだ。
あわててラケットでポロシャツの前立て部分を隠した。
「先輩、どこを見てるんですか!?」
キッとハヤシをにらむ。
「ごめんごめん」
「最低です」
「詩織ちゃんの胸元が色っぽくて、つい」
ハヤシは悪びれたふうもなく、今度はテニススカートから伸びた詩織の生足をながめている。
細い目が腹をすかせたハイエナのような鋭さを見せる。
「あいかわらずエロい体をしてるなぁ。アンスコ見せてよ」
「ふざけないでください。先輩にはメグがいるでしょ」
「痛たた。メグちゃんはおっぱいが残念だろ」
愛(めぐみ)は女子中学生のようなAカップだ。
推定Dカップの詩織とは比べようもない。
「ひどい。メグが聞いたら悲しむと思わないんですか」
「そういう意味じゃなくてさ」
「じゃあ、どういう意味なんですか」
「メグちゃんのことはもちろん好きだけど、おっぱいは詩織ちゃんぐらいでかいほうが魅力的だよね」
「いつも私の目の前でイチャイチャしてるくせに」
詩織は棘のある言い方をした。
とくに最近は目に余るものがある。詩織の見ている前で、密着して二人だけの世界を作り上げるので正直うんざりしている。
「あれえ、詩織ちゃん、もしかして怒ってる?」
「怒ってなんかいません。あきれてるだけです」
「そっか。俺がなんか不機嫌になるようなことをしたかと思ったよ」
「まえに私よりメグの方が女の子らしいって言ったでしょう」
「そんなこと言ったかな。覚えてないなあ」
「言いました。しっかりと覚えてます」
「きついなぁ。メグちゃんのおっぱいが、詩織ちゃんみたいに大きければなぁ」
ハヤシはため息交じりに残念そうな顔をしている。
その姿を見て、ここのところなにかと振り回されていた仕返しに、からかってやれという軽い気持ちが詩織の中で芽生えた。
「そんなに大きいかしら、私の胸」
詩織はラケットを左手に持って、右手の指先をポロシャツの前立て部分に引っかけて下に引っ張った。
アンニュイな表情を作る。
「うお、エロっ。もうちょっとで胸の谷間が見えそう」
案の定、ハヤシは必死になってポロシャツの胸元を覗き込もうとしている。
(あんなに鼻の下を伸ばしてデレデレしてバカみたい……やっぱり女子なら誰でもいいのね)
詩織は心の中で軽蔑している。
「もう少し下げて見せてよ」
「こうですか?」
詩織はハヤシのリクエストに応えて、テニスウェアの前をさらに開いた。
やや前屈みになって胸の谷間を強調する。
白いブラジャーの端がチラリと見えている。
「ヤバい。詩織ちゃん、バスト何センチなの?」
「……このあいだの身体測定だと89センチ」
詩織はもったいぶる感じで答えた。
とくに高校生になってからバストの成長が止まらないのだ。
そのせいで体育の更衣室で着替える時などは、他の女子からいつも羨ましがられる。
「マジで? もっとありそうだけどな」
「やだ、先輩近い」
身を乗り出すようなハヤシの興奮ぶりに詩織は後ずさりした。
(先輩の鼻息が荒くなってるわ……私まで変な気分になりそう)
練習時間でクラブハウスに人影はない。
自ら胸元を見せる行為に知らず知らず詩織もドキドキとしてくる。
水泳の授業などで男子のいやらしい視線に慣れている詩織にとっても、はじめての感覚だ。
「バナナぐらい挟めそうじゃん。さすがきらめき高校のアイドル」
「調子が良すぎです。メグにも同じようなことを言ってるんでしょ」
「ロリ体型のメグちゃんには絶対ムリだよ」
「じゃあ、私の方がメグより女の子らしいって認めるってことですね?」
「俺はもともと詩織ちゃん派だよ。詩織ちゃんが1番。メグちゃんはぜんぜん相手にならないね」
「ほんとですか?」
詩織の目元がほのかに赤らむ。
愛は大切な親友だが、それでも自分の方が上だとストレートに褒められると嬉しい気持ちがある。年頃の少女にとってはごく当たりまえの反応だ。
「なあ、軽くでいいから揉ましてよ」
「え、なにいってるんですか、先輩」
「人もいないし、ちょっとだけ」
詩織は返答に困る。
普段であれば毅然とした態度で拒むところだが、今日は自分がハヤシを煽っただけに強くは言えない。
気が付いたらハヤシが両手でポロシャツの胸を掴んでいた。
「ちょ、ちょっと先輩っ!?」
「やわらかい。勃起しそう」
「勝手に触らないで!!」
テニスルックの詩織は身を捩ってかわそうとする。
そのたびにさらさらのストレートヘアとテニススカートがヒラヒラと舞う。
ハヤシは詩織を壁際に追い込むようにして、ポロシャツ越しに左右の胸をモミモミと揉んだ。
ずっしりとした重みと揉みごたえのある感触が伝わる。
「へへへっ、こうして揉みたくてずっと狙ってたんだよね」
「あんっ……先輩の手が私の胸を思い切り掴んでるわ」
「もしかして男に胸を揉まれたのはじめて? あいつには触らせてないの?」
「……公人は、ただの幼なじみです」
「あっちはそうは思ってないみたいだけどな。テニスルックの詩織ちゃんはポイント高いよな」
「だ、だめぇ」
「あー、いい香り。あともうちょい」
「いいかげんにしてください」
これ以上は危ないと思った詩織はハヤシを突き飛ばすようにして距離を取った。
詩織の呼吸が乱れている。隠すようにポロシャツの胸元を手で握る。
「私……練習に行きます」
ひらひらのテニススカートを翻して、詩織は逃げるようにその場を離れた。
クラブハウスを出たところで、詩織はハヤシが追いかけていないのを確認して息を整えた。
「いきなりなんだもの、びっくりしちゃった」
火照った顔が熱い。
胸を揉みしだかれた感覚が強く残っていて、詩織の心臓はまだバクバクといっている。
ポロシャツのボタンをしっかり留めた。
詩織は他の部員がいるテニスコートへと急いだ。
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