5月の大型連休明け――。
きらめき高校の校門では、授業を終えた生徒たちが思い思い家路へとついている。
職員室での用事を済ませた詩織は、下駄箱でローファーに履き替えると美樹原愛を待たせている場所に急いだ。
「おまたせ、メグ。先生と話してて遅れちゃった」
栗毛色の長い髪、前髪をパッツンと切り揃えた愛の隣にハヤシの姿があるのを見つけた。
茶髪のロン毛を片手でなでつけて、へちまみたいな顔でへらへらと笑っている。
「よお、詩織ちゃん!」
「どうしてハヤシ先輩がここに?」
詩織は小首をかしげる。
「あれれ、その様子だとメグちゃんから聞いてない?」
「なんの話かしら?」
「ほら、お友達に報告してあげなよ」
ハヤシが隣の愛をうながした。
愛は緊張した面持ちで詩織と向き合う。
消えそうな声で「あのね、詩織ちゃん……私、ハヤシ先輩と付き合うことになったの」と告げた。
「付き合う??」
詩織はキョトンとしている。
愛の発した言葉の意味がうまく理解できないのだ。
「あれえ、まだわからない?」
ハヤシが得意そうに補足をはじめた。
「俺とメグちゃんは恋人同士になったわけさ」
「ちょ、ちょっと待って。メグがどうして先輩と??」
「恋がはじまるのに理由なんかいらないだろ。詩織ちゃんが俺にメグちゃんを紹介してくれたおかげだよ。あれから、連絡取り合ってさぁ」
「メグ、先輩に連絡先を教えてたの?」
「う、うん……」
詩織はしまったと思った。
ハヤシ先輩の目的は自分なので、まさかメグに食指を伸ばすとは思わず油断していた。
「二人でデートをして、俺が告白したらOKしてくれたんだよね」
「冗談でしょ」
「いやいや、マジマジ」
見せつけるようにハヤシが愛の肩を抱いた。
愛は嫌がるどころかモジモジとして頬を染めた。
完全にときめきモードに入っている。
「メグ、冷静に考えて。本当にハヤシ先輩が彼氏でいいの?」
ハヤシの軽薄な人間性を知っている詩織にすれば、すんなり受け入れる気持ちになれるはずがない。
「ひどいわ……詩織ちゃん。友達なのに祝福してくれないの」
「そういう意味じゃ……メグに恋人ができるのは私もうれしいけど……でも、相手がさすがに……」
「あれえ、俺がメグちゃんの恋人だとなにかマズイの」
「マズイっていうか……」
詩織は愛を説得しようと試みる。
「わかった。詩織ちゃんは、メグちゃんに先に彼氏ができてうらやましいのかな」
思わぬ被弾に可憐な詩織の表情が一瞬気色ばむ。
「そうなの、詩織ちゃん?」
「そんなわけないでしょ、メグ!」
「きらめき高校のアイドルといっても、恋愛経験はほとんどないみたいだしさ。そういう意味ではメグちゃんのほうが大人だよ」
「ちょ……」
「ま、そういうわけで、これからはよろしく」
「よろしくって言われても」
「俺たちはいまからデートだからさ、悪いけど詩織ちゃんは一人で帰ってよ」
そう告げると、ハヤシは愛に「ささ、帰ろう」と誘った。
詩織のことなど眼中にないように置いてけぼりにする。
取り残された詩織は、二人の後姿を呆然と見送るしかなかった。
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