作者:ブルー
新興住宅地にあるごく普通の一軒家が好雄の家だ。
両親と妹の4人暮らしで、妹の優美はきらめき高校の1年生でバスケ部に所属している。
二階にある好雄の部屋にはアイドルのポスターが貼られ、本棚にはデートスポットなどの記事が書かれた情報誌が並び、机にはデスクトップのパソコンが陣取っている。
夜、好雄がゲームをしていると着信音が鳴った。
腕を伸ばしてスマホを取る。画面を見て飛び上がった。
【LIME】に詩織からメッセージが届いていたのだ。
好雄はコントローラーを放り投げると、あわてて画面をタップした。
<<こんばんは。
顔写真のアイコンを確認する。
好雄は自分を落ち着かせるように慎重にフリック入力した。
送信ボタンを押した。
>>詩織ちゃん?
<<好雄くん、いまいそがしい?
>>まさか偽物じゃないよね?
<<どういう意味?
>>だれかのなりすましかも。悪戯で。
<<下校時はありがとうね。
<<これで信じてもらえるかしら。
>>マジで!?
>>うれしいいーー!!
>>詩織ちゃんがメッセージをくれるのはじめてじゃない?
<<そうだったかしら。
>>俺がメッセージを送ってもいつも無視じゃん。
<<最近、スマホを買ってもらったばかりで。
<<まだ操作に慣れてないの。
>>もしかして最新のiPhone?
>>めちゃくちゃ高いよね。
>>こんな時間にどうしたの?
<<ゲガのことが心配になって。
<<具合はどう? 頭はまだ痛い?
>>平気平気。
>>ちょっと腫れてるぐらい。
<<やっぱり病院で診てもらったほうが良かったかしら。
>>やさしいなあ、詩織ちゃんは。
<<時間がたってから症状が出る場合があるでしょ。
<<めまいとかない?
>>食欲もあるし、いつも通り元気だよ。
>>それより詩織ちゃんはなにしてたの?
<<ちょうど勉強が終わったところよ。
<<数学の課題をしていたの。
>>やべっ、忘れてた。
>>数学の先生ってうるさいんだよな。
<<明日、学校でノートを見せてあげるわね。
>>たすかるぅ!
>>部屋なんだよね?
>>どんな服装してるの?
<<服装?
<<普通の部屋着よ。
>>興味あるかも。
>>写真送ってよ。
<<え、いま?
>>そそ。
>>下にある画像のマークをタップして送れるよ。
<<それぐらい知ってるわよ。
<<はい。送ったわよ。
好雄は送られてきた画像をタップした。
クリーム色の壁紙をした自室で、水色のタンクトップに赤いランニングパンツをした詩織の姿がある。
お風呂上りで長い髪がしっとりとして、ヘアバンドは外している。
背後にはぬいぐるみが並んだベッドがあり、窓にはピンクのカーテンがかかっている。
にっこりとして、とてもリラックスしている様子がわかる。
>>タンクトップなんだ。意外。
>>パジャマじゃないんだ。
<<男子って、女子に対してそういうイメージがあるみたいね。
>>脚が長い。陸上選手みたいだね。
<<毎日、新体操の練習で鍛えてるおかげかしら。
<<寝る前にストレッチも欠かさないし。
<<その格好で?
>>そうだけど。
<<見てみたいなぁ。
>>人に見せるようなものじゃないわ。
>>イタタ……。
<<どうしたの?
>>急に殴られた場所が。
<<わざとらしい。
>>詩織ちゃんがストレッチしてる写真を送ってくれたら一発で治りそうなのに。
<<はいはい。
<<しょうがないわね。
LIMEに画像が送信される。
スマホを机に置いて撮影したと思われる、タンクトップにランニングパンツ姿の詩織が床に180度開脚しして、左手で右肘を掴んで肩の筋肉を伸ばしている写真だ。
新体操選手だけあり楽々と開脚している。きらきらとした笑顔で、スマホの向こう側にいるクラスメイトがいやらしい目で見ているとはつゆほども思っていない。
好雄の視線は大きく開いた美脚の、赤いランニングパンツの股間に注目している。
>>体、柔らかいね。
>>見てるこっちの股が裂けそう。
<<新体操部だもの。
<<これぐらいできないと1年生に笑われるわ。
>>思ったんだけどさ。
<<なに?
>>やっぱりやめとこ。
>>詩織ちゃんに嫌われたくないし。
<<気になるわ。
>>タンクトップの下はノーブラ?
<<ちょっと……。
>>詩織ちゃんは家だとノーブラ派なのかなーって。
>>素朴な疑問。
<<みんなそうじゃないかしら。
>>詩織ちゃんって胸大きいよね。
<<そんなことないと思うけど。
詩織のバストサイズは85センチのCカップなので、むしろ小ぶりなほうだ。
ウソでもプロポーションを褒められて嬉しくない女子などいるはずがない。
とくに新体操をしていて、普段から体型に気を使っているとなればなおさらだ。
好雄はどんなふうにいえば女子が喜ぶのか熟知していた。
>>ねえ、詩織ちゃん。
>>ちょっとだけでいいから、タンクトップの隙間から胸の谷間を見せてくれない?
<<えっ!?
>>いいでしょ。
>>一生のお願い。
<<でも……。
>>胸の谷間はべつにアウトじゃないよね?
<<アウトとセーフの意味がわからないけど。
>>危ないところを助けてあげたよね。
<<そのことは本当に感謝してるのよ。
>>今日のお礼ってことでさ。
>>このままだと気になって寝れないよ。
既読がついたまま、返信が遅れる。
好雄はスマホを握りしめてじっと待つ。
<<特別よ?
ごく短いメッセージに好雄はテンションが上がった。
ワクワクが止まらない。
しばらくすると、前かがみになった詩織が胸元を強調するように腕を寄せて、タンクトップの首元をチラ見せしている画像が送信された。
ミルク色をした、かなり控え目な谷間が見える。
よっぽどはずかしかったのだろう、照れた表情で詩織の目元が鮮やかに上気している。
「来たぞ! 詩織ちゃんの胸チラ写真!」
好雄は思わずその場でガッツポーズした。
<<どうだったかしら?
>>120点満点!
>>見えそうで見えないアングルとか、最高!!
<<よかった。うまく撮れたか自信なかったの。
>>上品で控え目な谷間がポイント高いよ。
>>いまどんな気持ち?
<<すごく顔が熱いわ。
<<好雄くんのせいよ。
>>こういう自撮り写真を撮ったのはじめて?
<<あたりまえでしょ。
<<男子とメッセージのやりとりすることもないもの。
>>ありがとうね、詩織ちゃん。
>>今晩のオカズはこれで決まりだね。
<<えっ……。
<<それってどういう意味。
>>またまた~。
>>詩織ちゃんの写真をネタにオナニーするってことだよ。
<<あのねえ……。
>>もしかして怒った?
>>詩織ちゃん??
<<怒ってないけど、あきれたわ。
<<私はいいけど、他の女子にデリカシーのないことをいったらダメよ?
<<嫌われるわよ。
>>ごめん。
>>あんまり詩織ちゃんの写真がエロ可愛いからさ。
>>つい本音が。
<<好雄くんってほんとエッチなのね。
>>ぎゃくぎゃく!
<<逆?
>>詩織ちゃんが真面目すぎるんだよ。
>>学校の男子は詩織ちゃんの写真をオカズにしてるよ。
>>体操着やレオタードの。
<<最低……。
<<不潔だわ。
>>健全だよ。
>>欲求不満を溜める方が体に毒だよ。
<<そうかもしれないけど……。
<<自分の写真がそういう目的で使われるとしたら悲しいわ。
>>詩織ちゃんはオナニーしないの?
<<えっ……。
>>しないわけないよね? 高校生なのに。
>>どれぐらいするの?
>>週に2回とか3回とか?
<<好雄くんのバカ。
<<切るわよ。
>>待って待って。
>>まだ話の途中じゃん。
<<いえるわけないでしょ。
>>どうして? 俺はいえるよ。
>>毎日、詩織ちゃんをオカズにオナニーしてるよ。
>>多い日には1日に4回。
<<うそでしょ。
>>驚いた?
>>これが男子高校生のリアルだよ。
>>好きな女子の写真なら何回でもできるよ。
<<え、えっと……。
<<なんていえばいいのかしら。
>>詩織ちゃんもべつに隠す必要なんてないよ。
>>健康な高校生はみんなしてることなんだしさ。
<<私が間違ってたのかしら。
>>週に何回?
<<……。
>>ずるくない?
>>俺は教えたのに。
<<1回……。
>>マジで?
>>詩織ちゃんもオナニーするんだ!
>>ほんとはもっと多いんじゃない?
<<知らない。
<<そろそろ寝るわね。
<<おやすみなさい。好雄くん。
詩織が会話を打ち切る。
好雄はスマホの向こう側で、耳まで顔が真っ赤になった詩織を想像した。
ベッドに入っても、なかなか寝付けないはずだと思った。
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