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3.登校

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 私の通っている、きらめき高校はとても活気のある進学校なの。
 自由な校風と、自主性を重んじる伝統。部活動が盛んで、優秀な先生方に、個性的な生徒がたくさんいる。
 グラウンドには大きな樹があって、卒業式の日にその樹の下で女の子からの告白で結ばれた恋人同士は永遠に幸せになれる、という伝説がある。
 友達にはロマンチストだって笑われるけど、私は信じてるの。だって、とてもステキでしょ。

 教室でクラスメイトに挨拶をする。みんなすごく仲がいいの。
 やっぱり教室が一番落ち着く。友達とおしゃべりするのが、最高のストレス発散ね。放課後はいそがしくて遊べないけど、みんな、私の芸能活動を応援してくれてる。
 有名になれたら学校の宣伝にもなるし、私の活動を見て生徒が増えたらうれしい。

「詩織ちゃん、おはよう。今日も美人だね」
「はいはい。好雄くんがこんな朝早くに登校するなんて、明日は雪かしら」
 自分の席で1時間目の準備をしていると、好雄くんが来た。
 好雄くんは、同じクラスの男子生徒なの。お調子者で情報ツウ。クラスのムードメーカーね。校内に、私のファンクラブを勝手に作って活動してるみたい。困るなぁ。学校では、普通の生徒としてすごしたいのに。
「あいかわらずきついなぁ。それより見たよ」
「見た?」
「これだよこれ。ジャジャーン!」
 好雄くんが取り出した雑誌を見て、私は「あっ」と思った。
 週間ヤングジ〇ンプね。表紙に、私の写真が大きく載ってる。横には『話題の清純派アイドル・制服グラビア撮り下ろし』と書いてある。
「発売されてたんだ」
「教えてくれたら良かったのに。すごいじゃん、ヤンジ〇ンの巻頭カラー。新人アイドルの登竜門だよ」
「私も知らなかったのよ、いつ発売なのか。それよりダメじゃない。学校にマンガ雑誌を持ってきたりして。先生に没収されるわよ」
「堅いことは抜き。コンビニで見つけて、速攻買った。可愛いなぁ。さすがきらめき高校のマドンナ。制服姿もいいけど、ブルマ姿がめちゃくちゃ萌える」
「ちょっと、こんなところで開かないでよ」
 登校中にいつも以上に視線を感じたのは、これのせいだったのね。好雄くんたら、私の目の前で雑誌を開いた。
 体操着の私がマットに四つんばいになってお尻を高く掲げているページなの。
 こうして見ると、かなり大胆ね。自分なのに自分じゃないみたい。頬が赤らんでいて表情が艶めかしい。
(この直前に、カメラマンにブルマ越しに指で触られたのよね)
 現場での、はずかしい記憶がよみがえる。いま思うとあれもプロのテクニックのひとつなのかも。私の表情をひきだすための。
「【地上に舞い降りた天使。太陽よりまぶしい、君の笑顔。 恋のはじまりの予感!】 だってさ。こういう煽り文句はだれが考えるのかな。編集部で写真を見ながら会議してたりして。振り向きながらブルマの食い込みを直してるショットもソソられる。スクール水着姿もたまんないね。やっぱプロのカメラマンはちがうや」
「やあね。変な目で見ないで」
「変な目って、どんな目」
「知らない。私に聞かないでよ」
「これもアイドルの仕事だろ。ファンが増えるんだから喜ばないと」
「それはそうなんだけど……」
 好雄くんたら、マジックで本にサインを書いてくれって頼むのよ。
 ほんとちゃっかりしてる。
 大切なファンにはちがいないわよね。本を購入してくれる人がいるから、仕事があるわけだし。日本中のコンビニや書店で、男の人が本を手に取ってるかと思うと、ちょっと照れくさい。
「この本は家宝にして永久に保存する」
「おおげさね。今度、CDが出るから、そっちもよろしくね」
「買う買う。全財産はたいて買う」
「うふふ。あんまり無理をしちゃダメよ」

 ドアが開く音がする。
 教室の前から白髪交じりの先生が物静かな足取りで教室に入ってきた。
「ホームルームをはじめるぞ。自分の席につくように」
 好雄くんは、逃げるように自分の席に戻っていった。
 そういう時だけ、ほんとすばしっこいんだから。

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