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1.デビュー(下書き)

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 私は、藤崎詩織。
 都内のきらめき高校に通う、普通の女のコよ。

 いきなりだけど、いますごく緊張してる。人生で一番というぐらい心臓がドキドキ。
 今日は、私のはじめてのコンサートの日なの。
 この日のために、たくさん練習してきた成果を見せないと。
「詩織、表情が堅いよ。リラックス。リハーサル通りに歌えばいいから」
「は、はい」
 ステージ裏で、マネージャーに話しかけられて、余計に緊張しちゃった。
(深呼吸、深呼吸……)
 スタッフの合図でステージに飛び出す。
 衣装は、私のイメージカラーの赤いアイドルドレス。腰のところに大きなリボンがあって、短いスカートがヒラヒラしてるわ。あと、トレードマークのヘアバンドね。
 マイクを片手にステージの中央に立って、スポットライトを浴びる。デビューシングルの『もっと!モット!ときめき』を熱唱した。
 恋する女のコの気持ちを歌詞にした、とってもステキな曲なの。私もすごく気に入っている。
 ステップを踏んで、歌の合間にアイドルスマイルを振りまく。
 会場はファンの人たちでぎっしり。
 といっても、200人ぐらいの小さな会場だけど。
 ペンライトが星みたいにキラキラと輝いてて、すごい熱気。ときどき、私の名前を呼ぶ声が飛んでる。
 みんな、私のために来てくれたと思ったら感動しちゃった。
 もっと大きなステージで歌えるように頑張らなくちゃ!
「みんな、私のはじめてのコンサートに来てくれて本当にありがとう! これからも、応援をよろしくね!」
 最後に、手を振って、お辞儀をした。
 みんな盛大な拍手をしてくれて、思わず涙ぐんじゃった。

「お疲れ。歌もダンスも、すごくよかった。ファンも大盛り上がり。100点満点の出来だ」
 控室の椅子に座って、用意してあったオレンジジュースを口にした。冷たくて美味しい。
 マネージャーが、めずらしく褒めてくれたわ。
 顔を見たら、うまくいったんだなって安心しちゃった。
「支えてくれたスタッフのおかげです。緊張して、歌いだしをミスしないか不安だったの」
「すこしミスがあるほうが、愛嬌があって人気が出る。新人賞を目指して、これからジャンジャン仕事を取るぞ」
「はい。私も、がんばります」
「来週のスケジュールだけど――」
 マネージャーは手帳を開いて、スケジュールを確認してた。

(ひさしぶりに、学校でみんなと会えそうね)
 私が、アイドルとしてデビューしたのは、1か月前。
 半年前、街で買い物をしているときに、いまの芸能事務所にスカウトされたの。
 小さい頃からスカウトはよくあったけど、全部断っていたわ。
 勉強と部活が忙しかったのもあるし、芸能界は競争がとてもはげしいでしょ。私より可愛い女のコがたくさんいるわよ。自分がアイドルとして通用するはずがないと思っていたの。
 だから、今回も断るつもりだったの。
 でも、事務所の社長さんに「ビジュアルも歌唱力も申し分ない。君なら絶対にアイドルとして成功する」と熱心に説得されて、事務所に入ることを決めた。
 やっぱり、テレビ画面で、お姫様みたいなドレスを着て歌っている姿を見ると、女のコは憧れちゃう。
 それに大好きな歌で、大勢の人を幸せに出来たら、とてもステキなことでしょ。
 事務所は、清純派路線で大々的に売り出すみたい。
 夢は、新人賞と武道館でのコンサート。ライバルは多いけど、私も、やるからにはトップアイドルを目指すつもりなの。

 芸能界に入っておどろいたのは、関わってる人の多さと、覚えることがたくさんある。
 放課後は、毎日、ダンスレッスン・ボイストレーニング・演技レッスン。ほかに業界特有の挨拶や言葉づかいまで。
 アイドルはイメージが命だから、そういうマナーや所作もとても大事なの。どこでだれが見てるかわからないし、スキャンダルは命取り。
 たとえばお辞儀でも、両手を膝において、ちゃんと腰を曲げて頭を下げるの。
 マネージャーは「この1年が勝負だ」って口を酸っぱくしていってる。
 毎年、新人がたくさんデビューするでしょ。売れないと、あっというまに忘れられるのが、アイドルの辛いところよ。
 スタッフもメイクさんとか衣装さんとか、たくさんの大人の人がサポートしてくれてる。
 いまは、厳しいレッスンに加えて、打ち合わせ、雑誌の取材、写真撮影、あいさつ回りまで。
 毎日が学校と事務所の往復で、帰るのはいつも夜遅くになるわ。

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