作者:しょうきち
1
女子の待機場所として使われている空き教室は朝から一種独特な緊張感に満ちており、張り詰めた空気が場を支配していた。常に誰かが誰かを、猜疑心に満ちた目で見つめている。
裏オプ……、援交……。何喰わぬ澄ました顔をしておきながら、それら危険なルビコン川を渡った女子がこの中にいる。女子の多くがそうした得体の知れない噂によって疑心暗鬼となっていた。
だが、少なくとも衆人環視の中ではそれを実際に口にする者はいない。言ったが最後、戦争だ。
一方、そうした事情を抜きにしても、誰もが売り上げランキング上位に入ろうと、競争は激化していた。
昨日は夕子と沙希くらいしかしていなかったコスプレを、今日は半数以上の女子がやっている。ナース、メイド、ミニスカポリス……。好雄が調達したものを使う女子もいれば、自前のものを持ってきている女子もいる。いずれも共通している点があり、各々の性的魅力を強調するセクシャルなものであるということである。
昨日の盛況ぶりと、女子たちのやる気の高まりを見た好雄は、サービス料の値上げを決意した。新たな料金体系は、
①:肩揉みコース、1,000円。
②:腰踏みコース、2,000円。
③:お散歩コース、3,000円。
となっている。
ほぼ倍増もしくはそれ以上の値上げだが、今日来るであろう客はまだ半信半疑だったり一見さんが多かった昨日と異なり、 風俗サイトの情報を見てやってきた筋金入りの風俗マニアばかりとなる筈である。これでも安すぎるくらいだ。
また、 サービス内容そのものについても追加を行った。
標準サービスには、①~③に加えて④添い寝コース(30分)が追加となっている。価格は4,000円。延長は30分ごとに更に4,000円が加算されてゆく。
また、オプションには膝枕:1,000円、ハグ:2,000円の二つのサービスが追加された。急遽の変更であったものの、満場一致で決定となった。
そして重要な申し含みとしてもう一点、好雄は『隠れてやる分には、何が起きていても咎めない』ことを女子たちに伝えた。
パーティションの中、さらには客と二人で添い寝する布団の中、使ってない空き教室……。こうした他者の目が届かない死角において、声や匂い、避妊具等の物的証拠が見つからない限りは、売春でもなんでも黙認するということである。
こうしたルールの追加は、水面下における女子同士の嫉妬の炎に油を注ぐ一助となっていた。
昨日はまだ多少和気藹々とした空気が残っていたものの、今日の教室内では会話もほとんどない。
だが、教室の片隅にはそんな女子同士の冷戦には目もくれず、一人粛々とネイルのお手入れに興じる女子がいた。
名前は鏡魅羅。
『きらめき高校の女王様』とも呼ばれる彼女は、他の女子生徒とは一線を画した美貌とスタイルの良さを誇る。168cmの長身に93cmの美巨乳はFカップともGカップとも言われており、その佇まいは他の女子と比して隔絶した存在感を嫌が応にも見せつけてくる。
モデル並み、いや、一山いくらの読者モデル程度であれば裸足で逃げ出してしまいそうな程のそのルックスは、男子生徒の間で絶大な人気を誇り、非公式ながら一年の頃から鏡魅羅ファンクラブが存在している。
沙希同様に他クラスからの助っ人としてJKリフレに参加するよう誘われていた彼女であるが、とある事情から一日目は不参加で、今日二日目からの参加である。
ポーチからメールの着信音が鳴った。
ガーターストッキングに包まれた長い脚を 組み替えつつ、携帯を取り出す。
着信は好雄からの呼び出しであった。
メールの内容を一読し、優雅な所作で携帯をしまうと、魅羅はアンニュイな溜息をこぼしつつ立ち上がり教室を後にした。
魅羅が去った後の教室内では、誰からともなく、安堵の溜息が漏れていた。
2
『きらめき高校の女王様』として知られ、ゴージャスでタカピーな印象を持たれがちな魅羅であるが、それは彼女の持つ、さながら万華鏡のように多様な一面のひとつでしかない。
彼女は家に帰れば母子家庭かつ7人姉弟という大家族の長女である。普段から乳幼児を含む6人の弟達の面倒を見ているという、ゴージャスな容姿からすれば意外に見える程の家庭的な一面を持っていた。
一方、それさえもひとつの側面でしかない。
━━学校……、家族……。そうした表向きの顔の裏側で誰にも知られず、夜な夜な繁華街へと繰り出している。
魅羅が持つ唯一にして最大の資本━━すなわち性的魅力を金銭に還元するためである。
分かりやすく言うと、体を━━セックスを売って金を稼いでいる。こうした行為に手を染めてから、かれこれ二年以上になる。
そのきっかけは、鏡家の大黒柱である父の急死であった。
なにせ兄弟が多いので普通に慎ましく暮らしているだけでも出費は大きい。弟の給食費さえも苦しい家計状況で、少しでも稼ぎの良いバイトを探した末、たどりついたのがパパ活であった。
初めのうちは、「これで弟の給食代が払える……」と、やることも稼ぎもささやかなものであった。ネットで知り合った、父親の享年より年上の男と一時間程食事して五千円。手さえも握らせず、精々が愛想笑いをする程度である。
だが、一つ得ればもう一つ、二つ得れば三つ目が欲しくなるというのが人間の性である。
はじめのうちはまだ良かった。弟たちが後ろ指を指されることがないよう、家の食費や弟の学費関係を補填する。その程度の稼ぎで安堵したものだった。
しかし、パパ活の稼ぎで多少の余裕が出はじめると、魅羅は自分へのご褒美としてメイクやアクセサリーに気を使うようになった。
すると相手の見る目が変わってきたことに気づいた。それと同時に、魅羅の人気は爆発的に高まっていった。不相応な程の現金が溜まってゆき、次第に金銭感覚と倫理観が崩れていく。そして同時に、魅羅は隠されていた自らの魅力に気づき始める事となる。
「綺麗だね」「スタイルいいね」「大人にしてあげるよ」などと言われ続けているうちに、 やがて、ついいい気になって一度だけという約束で処女を10万円で売ってしまった。
それからというもの、魅羅のパパ活はステージが一段上がることとなった。
毎晩繁華街にくりだしては名前も知らない好色な中年親父を引っ掻け、金銭と引き換えにホテルで抱かれてくるのが日課となった。
セックスに対して、はじめの内こそ恐怖や抵抗感といったものがあったものの、すぐにそうしたものは薄れていき、3回目くらいからは相手から自分がどう見られているかを意識して意図的にエロテイックな振る舞いをする余裕さえ生まれてきた。
一晩で3万から5万。相手を見て、小金を持ってそうと思えば、多少吹っ掛けたりもする。断られたことはない。
今では街を歩くサラリーマンを見れば、どの程度金を持っているか、どう振る舞えば自分に夢中になってくれるか瞬時に読み取れるほどだ。
最早時給何百円のバイトで働くなど心底馬鹿馬鹿しいのである。
分不相応な大金を手にした魅羅は、コスメやアクセサリーに更に金をかけるようになった。
すると、元々整っていた容姿は更に磨き上げられ、繁華街を歩くだけで男たちが何人も振り返る。そういったレベルにまで達していた。
そんな美少女━━いや、年齢は兎も角、見た目においては「少」のとれた美女と言って差し支えない━━が、上目使いで「ねぇ、疲れちゃった……。ホテル……行きましょ……?」と囁くのである。
男の鼻の下がだらしなく伸び、頬がいやらしく歪み、そして財布の紐が緩むのもやむ無しであった。
3
年月が経ち、魅羅は高校三年生になった。
その容姿、スタイルは更なる磨きがかかっている。
卵形の輪郭をした小さな顔に、ペルシャ猫を思わせる気品漂う切れ長の瞳。薔薇色の唇にはリップグロスが塗られ、ぷるんと熟した南国の果実のような光沢を放っている。
そして、何より目を見張るのはそのスタイルだ。
バストサイズは高校一年の頃の90センチから、現在は93センチと一回り増大した。一見スイカかメロンでも仕込んでいるのかと思うほどパツパツに張り出しているが、襟元の隙間からチラリと顔を覗かせる深い谷間が本物であるということを見せつけてくる。
それでいて背筋から腰にかけてのラインは歪み無く綺麗な曲面を描いており、その先にあるウエストラインのくびれが際立っている。
そして弾力のありそうな肉感的なヒップは短めのプリーツスカートによって際立ち、ガーターストッキングに包まれた脚などは廊下を歩いているだけで男子生徒たちの視線を集めてしまうほどだ。
弟たちの生活費に困るような状況は抜け出したものの、パパ活はずっと続けている。
以前と変わった点として、日替わりで男をハントするスタイルから、継続的な相手の『パパ』に抱かれるようになった。
やはり行きずりで見ず知らずの相手というのは、トラブルを招く確率も高くなるという事情もある。
今日魅羅を指名してきた相手は、実は現在定期的な関係を続けている『パパ』その人であった。
4
「ふうっ、お待ちしてましたわ」
「おほおうっ、魅羅ちゃん。こうして見ると逆に新鮮だね。まるで女子高生のコスプレしているみたいだ」
「やだ、面白い事言うのね」
指定された待ち合わせ場所で、魅羅は『パパ』と合流していた。名前は蓮山吉久という。
これまでの『パパ』の中でも、特に魅羅に対してご執心な男である。
某芸能事務所の取締役を務める男で、50を過ぎた年でありながらも衰える事の無い性欲を持て余している。
魅羅と出会ったのはおよそ半年前。
この日は珍しく予定(ネットで知り合った男との援助交際)をすっぽかされて暇になり、あてもなく繁華街を闊歩していた魅羅にしつこく声を掛けてきた男がいた。それが蓮山であった。
しつこく「ねえ、君、どこかの事務所に所属していたりはしないのかい?」「芸能界に興味はない?」「君ならすぐにでもトップを取れる」などと誘われた。
こうした誘い文句でナンパしてくる男は、はっきり言って枚挙に暇がない。だが、芸能界だのモデルだの言っても、それは単なる声かけのためのフックで、実際に業界関係者であったことなどほとんど見たことがないし、よしんば本当にスカウト等であったとしても大した権力などは持っておらず、謳い文句どおり活躍できる可能性など砂浜で米粒を探すような確率だろう。
単なるヤリモクが半分、もう半分が風俗やAVといったいかがわしいスカウト━━といったところだ。
魅羅はうんざりした気持ちを胸にしまいつつ「ねぇ、今日は疲れちゃったの。そんな事どうでもいいから、ちょっと休憩できるところに連れていってくださらない?」と、瞳を潤ませ、ねっとりとした目線を向けつつ、蓮山の胸元にしなだれかかりながら囁いた。
蓮山は口許をいやらしく歪ませ、絡み付くような下卑た目線を向けてきた。多くの男が魅羅に対して向ける、お決まりのリアクョンである。
蓮山が本当に芸能事務所の重役であることと、魅羅が未成年であるどころか現役女子高生であることが分かり、お互いに驚きの目線を向けあったのは、一戦を終えた後のピロートークの中でのことあった。
そして、蓮山とは一夜の関係では終わらなかった。
改めて正式にパパ活契約を結び、魅羅は定期的に蓮山に抱かれるようになったのである。以来セックスは蓮山と━━もしくは、蓮山が命じた相手としかしていない。
肉体関係が習慣化してくると、いちいち一回ごとに金銭を受け取ったりするような事はなくなっていた。
その都度ではく、月単位で纏まった額を受け取っている。その額30万。これまでの『パパ』から貰うお手当てと比しても一線を画す破格の金額である。
今日はこうして文化祭の催しという体をとって待ち合わせてはいるものの、実のところこの二人にとっては場所と時間を変えたパパ活そのものである。
実は趣向を変えて文化祭で待ち合わせてみるというのも蓮山のオーダーなのであった。
魅羅は蓮山にもたれかかるように体重を預け、二の腕に自身の腕を絡めている。
そうして二人並んで歩く姿は、傍目には不倫中のカップルにしか見えない(事実そうでもあるが)。
だが一方、ここが繁華街ではなく学校の校舎内で、魅羅が制服姿であるというところがインモラルさを際立たせている。
「それで、魅羅ちゃん、今日はどこへ連れていってくれるんだい?」
猛禽類のような顔立ちをしているものの、今日の蓮山は少年めいた興奮ぶりを隠せないでいる。ウン十年ぶりに訪れた高等学校という非日常の空間に、ノスタルジーを刺激された為かもしれない。
ここ、きらめき高校は魅羅のホームグラウンドであるということもあって、この後の行き先は蓮山にも秘密で、魅羅が決めるという事になっていた。
「うふふっ、せっかちな事をおっしゃらないで。きっと満足いただけますわ」
「ウヒヒッ、そいつは楽しみだ」
魅羅が蓮山を伴い訪れたのは、美術準備室である。
隣の美術室では美術部の展示会が行われているものの、常人には理解しがたいガーギー風の絵画やグロテスクなオブジェばかりで見に来る人間などはほとんどいないので、人通りはまばらだ。今はどうやら展示主の美術部員すらどこかへ行っているようだ。
こうした逢い引きのような行為をやるには最適な場所である。
美術準備室には、絵画用の画材、モチーフ用の置物や、卒業生が残したとおぼしき未完成なのか完成済なのかもよく分からない作品類が乱雑に転がっている。
そんな狭い部屋の中でひときわ目を引くのは、壁一面を占めているパネルミラーである。
なぜこんなところにこんなものがあるのか については誰も知らない。ひとつだけ言えることとしては、魅羅は大して美術に興味があるわけではないが、自身の名前でもある鏡が好きなのであった。
ラブホ選びでもなるべくこのように大きなパネルミラーが備え付けられている部屋をよく選んでいる。
その理由は、自慢の美貌とボディ━━それらが汗にまみれ、くしゃくしゃに歪む姿に、屈折したナルシスティックな悦びを見いだすようになっていたためである。
魅羅の意図を察し、準備室の扉を閉めると蓮山が唇を重ねてきた。同時に、胸元に手が伸びてくる。二人の乱れる姿が大写しとなる。
「美少女揃いのきらめき高校だが、魅羅ちゃんはルックス、スタイルともに頭ひとつ抜けてるな。さっきも一緒に歩いてて、童貞臭い男子生徒が羨ましそうな目で見てたぞ」
魅羅の胸の内側に、ゾクゾクとした何かが走りぬけていった。
「あっ……んんん……」
魅羅の唇を塞ぎつつ、制服の上から乳房を撫でてくる。丸みを確かめるかのように、ねちっこく手のひらが動く。
「うんんっ……んんんっ……」
鼻奥で悶える魅羅の唇に、蓮山は舌をねじ込んでくる。舌を絡め取られ、強く吸われる。呼吸が苦しくなる。
セーラー服のリボンは外され、いつのまにか前のファスナーを下ろされていた。
黒のブラジャーがあらわになる。
魅羅が身に付けている下着は一般的なシルクやコットン等ではなく、光沢と伸縮性が特徴のラテックス製で、黒いラインが白い柔肌に食い込むように幾重にも走っている。
セーラー服の下はブラジャー部分だけではなく、その下のコルセット部分にはレザー製のストラップが巻かれており、腰のくびれを強調するかのように締め付けられている。
これらはボンデージと呼ばれる衣装だ。
蓮山の命により、ずっと制服の下に着込んでいたのである。
続けて蓮山は、ホックとファスナーを外した。スカートがその場にパサリと落ちる。
「グフフ……似合ってるよ。魅羅ちゃん……」
「アン……」
スカートを下ろし露になったのは、こちらもやはり普通のショーツではなく、ラテックス製のショーツであり、ボンデージ衣装のひとつである。
セパレートタイプの黒のストッキングが包みこむ、長い両脚があらわとなった。腰に巻いた黒いガーターベルトが、四本のストラップで肉感的なそれを吊り上げている。
「やっぱり良く似合ってる……。魅羅ちゃん、きみは天性の女王様だ……」
蓮山は魅羅の足元にひざまづくと、狂ったように鼻息を荒げながら太もも辺りにむしゃぶりつき、うわ言のようにつぶやく。
いやらしさ、淫らさを形にしたようなこの格好。初めて身に付け、鏡写しにその姿を見てみたときは愕然とした。下着、衣服というよりは女の身体を只セックスの対象としてのみ見なす、そういった存在に自身が成り果てたとしか思えなかったためである。
娼婦━━。端的に言うならそれだ。
だが、今の自分の状況を省みてみると、パパ活と称してはいるものの、一晩いくらで身体を自由にさせている、その相手に帯しより強い劣情を煽るために過激な格好や振る舞いをする。改めて自覚したというだけで、とっくに一端の娼婦に成り果てていた、という方が正確なところである。
ならば、優秀な娼婦に。いや、いっそ最高の娼婦になってやろう、と思えてきた。
「魅羅ちゃん、これも着けてくれるかい?」
そう言って蓮山が渡してきたのは、黒い光沢を放つレザー製のハイヒール、ロングブーツ、そして手袋であった。
言われた通りにそれらを身に付ける。装いは完全にSMの女王様である。
そんな魅羅に金も社会的地位も持つ、親子ほども年の離れた男がかしづき、鼻息を荒げている。餌を前にした空腹の子犬のように、今にもむしゃぶりつかんばかりの勢いだ。
なまじ仕立ての良い高級スーツを着ているだけあって、一種の異様さが際立っている。
「あ……、んんっ……」
「むふうっ、素晴らしいっ……素晴らしいよっ、魅羅ちゃんっ!」
蓮山の手が、魅羅の尻へと回される。膝立ちのまま、黒のTバックに包まれた尻肉を鷲掴みにする。
魅羅は背筋をゾクリとさせ、息を大きく呑んだ。
蓮山は女の扱いがうまかった。
本能のままにむしゃぶりついているように見えて、女の感じるポイントを的確に刺激してくる。
蓮山の手指は尻から正面側へ回ってゆき、太腿の付け根へと伸びていった。さわり、さわりと中心部へと近づいてゆく。
下半身の神経がささくれ立ったように昂っている。両脚の間が熱く疼き出し、ショーツに覆われた奥、女の部分が淫らに潤み始めていた。
5
二人の秘密の会瀬は、本格的な変態プレイへと移る。魅羅はスッと深呼吸すると、自身の中にあるスイッチをカチリと回すような感覚を覚えた。
そのスイッチには左右にそれぞれ『S』と『M』のメモリが付いており、意識すればどちらへ回すことも、強弱を調節することも可能だ。今回は目一杯に『S』側へツマミを回すような感覚である。
「今日はね、私からもプレゼントがあるの。受け取ってくださる?」
「もちろんじゃないか。魅羅ちゃん。それで、プレゼントって一体何だい?」
魅羅が蓮山に手渡したのは、ラテックス製の全頭マスクであった。目線さえも覆う構造となっており、頭に被ると口の部分だけが開けられて、辛うじて呼吸ができるような構造となっている。
「今ここで、被ってくださる?」
魅羅はサディスティックに瞳をギラつかせた。蓮山は言われるがまま、頭からそれを被った。
「ふぅっ……、ふぅ……。これでいいかい? 魅羅ちゃん」
「ええ……、いいわ……。それじゃ、ここに座って」
魅羅は部屋の隅から運んできた机と椅子を並べ、蓮山をそこに座らせた。これらは学校ではよく見る、教室で使われているタイプのものである。
「ふうっ……、ふうっ……。魅羅ちゃん、そこにいるのかい?」
視界が真っ暗であるためか、はたまたアブノーマルなシチュエーションに興奮を覚えたためか、蓮山の声色は緊張と興奮によって上ずっている。
今の蓮山は、魅羅の声や匂いを感じるだけで激しく勃起するパブロフの犬である。
椅子に座った蓮山を見下ろすように、魅羅は机に腰かけた。
眼下では哀れな中年男が滑稽なまでに不安げな表情をのぞかせていた。股間のテントがムクムクと大きさを増していた。
「こんなところで……、こんなに大きくしちゃって、恥ずかしくないのかしら?」
魅羅は注意深く、指一本蓮山に触れないように顔を近づけると、あえてことさらに怜悧な声色を作り、耳元で囁いた。
蓮山がゾクゾクと身を震わせる。
「ううおおっ……。はぁ……、はぁ……。ご、ごめんよぉ……魅羅ちゃん……」
「ちゃん……? 口の聞き方なら前に教えたでしょ? 何て言うんだったかしら?」
魅羅は爪先で蓮山の乳首の辺りをツンとつついた。
「はっ、はううううぅっ! すっ、すみませんっ! み、魅羅様っ。魅羅女王様っ!」
「先週した命令は覚えてらっしゃる?」
「もっ、勿論でございますぅっ!」
スーツの上から指をそっと股間に這わせると、その中でトロリトロリと先走りの粘液が溢れているのがわかる。命令通りオナニーもセックスもしていないのなら、実に7日分のエキスが溜まっているということになる。
「今出しちゃったらもう一週間お預けよ。分かってるわね?」
「あ……ああうぅ……」
魅羅は妖艶に微笑み、触れそうな程に顔を近づけると、長い舌を伸ばしてチロチロとマスク表面に走らせた。
このように射精欲を煽り立て、なおかつそれを我慢しなければならないという状況がこの上なく興奮を燃え上がらせるのだ。魅羅は蓮山によってそのように教え込まれていた。
「すごいわ……。これならローションなんていらないわね」
「あっあっあっ……。すっ、すみませんっ。すみません魅羅女王様」
「ほんと、はしたなくて下品よ。いやだわ、私の指までヌルヌルに汚れてきたじゃない」
スーツ越しであるため実際にはそんなことはないのだが、視界を封じられている蓮山は本気で申し訳なさそうに━━あるいは、魅羅のフェザータッチによりもたらされる快楽に抗うかのように、顔を真っ赤にさせつつ、口をパクパクとさせた。
「みっ、魅羅様、魅羅女王様っ!」
「なに? 自由に喋っていいなんて言ってないけど」
「ああうぅ……、ごっ、ごめんなさい……。みっ、魅羅様の指をっ……きっ、綺麗にっ、綺麗にさせてくださいっ!」
「綺麗にって……、どうやって?」
「なっ……舐めさせてっ、舐めさせてくださいっ!」
「バカね。なんでこの私がそんな事させてあげなくちゃいけないの」
「そっ、そんなぁ……」
「嘘よ」
「えっ」
魅羅は腕からレザー製の手袋を引き抜くと、人差し指、そして長く伸ばした爪先を蓮山の口許へと持っていった。
「歯、立てたらダメよ」
「あがっ……、あひがほうほはいあふ……!」
蓮山は歓喜の涙さえ流しながら、魅羅の細指を爪先から根本までペロペロと舐め回し始めた。
蓮山の股間はパンパンに張り詰めている。
今は魅羅が触れてすらいないその箇所は、 気を抜けば今にも暴発してしまいそうである。
無論そんなことになれば、魅羅からのきついお叱りが待っている。だが、それすらも蓮山にとってはご褒美そのものなのである。
6
「……もういいわ」
魅羅は蓮山の口から、唾液でドロドロになった人差し指を引き抜いた。
「み……魅羅様……?」
蓮山は口元から涎さえこぼしつつ、餌入れを取り上げられた子犬のように困惑した表情を浮かべている。
魅羅は蓮山のネクタイをぐいっと引いた。
「ご褒美をあげるわ。おいで……」
引き寄せられた蓮山の頭部は、机に腰掛けた魅羅の両脚の間にあった。眼前にはボンデージ・スーツに包まれた、匂い立つような女の器官が待ち構えているのだ。
「いいわよ。開けて……」
ショーツ部分の中央には縦にファスナーが走っており、下ろしきれば性器からアナルまでを露出させることができる。要するにこれは、着たまま行為を楽しむためのアイテムという訳だ。
蓮山は嗅覚と触覚だけを頼りに魅羅の股間へと顔を埋めていった。そして、口先でファスナーの先端を咥えると、ジジジ……と引き下ろしていった。女の部分が剥き出しにされた。
「まっ……、まだ触っちゃダメ。勝手に触れたらお仕置きよ」
「ふぅっ……、ふぅうう……」
鼻の穴を大きく広げ、蓮山はこの世で一番淫猥な空気を━━発情した雌の匂いを肺一杯に吸い込んだ。
「あああっ……」
思わず恥辱にまみれた悲鳴がこぼれた。
敏感な部分が空気に晒され、どちらかというと冷えるはずなのに、熱いお湯でも流し込まれたかのように、その箇所からは熱さがじわり、と広がってゆく。
陰部がいまどうなっているのか。どれほど淫らなことになっているのか、鏡を見ずともわかる。
ぐっしょりと濡れ、天井の蛍光灯の光で照らされ、卑猥な肉が濡れ光っていることだろう。ボンデージショーツに遮られていた恥ずかしい匂いが、むわりと立ち上って蓮山の鼻を悦ばせているに違いない。なにしろ両脚の間からは既に熱く粘る蜜を溢れさせている。
「ふうっ……、ふうっ……」
蓮山は夢中になって舌さえ突き出しながら熱い吐息を女陰に吹き掛ける。決して触れようとしないのは、女王様のいいつけを守っているためだ。
もっと━━。もっと刺激してほしい━━。
吹き掛けられる吐息の微かな刺激に、繊毛がちりちりと揺れる。そのもどかしさに魅羅は身をよじった。浅ましい程に身をくねらせ、ヒップを左右に揺すらせる。
焦らしているのはどちらで、焦らされているのはどちらか。
支配しているのはどちらで、支配されているのはどちらか。
表面上は魅羅に他ならないのだが、このような振る舞いは蓮山によって仕込まれたものである。蓮山の望みどおり、あるいは望む以上に女王様を演じさせられているというのは、より深い部分においては支配者と被支配者が逆転しているとも言える。
女王様を演じる上では、今は焦らして焦らして焦らし尽くさせなければならない。なんなら最後まで指一本触れさせない事すら時によってはアリである。
だが、もどかしさと気恥ずかしさの間を揺蕩う魅羅は、このとき喉元まで出かかった言葉を必死で押し止めていた。
しかし、我慢の時間は長くは続かない。
「舐めて……。い、いえ……舐めなさい。命令よ」
懇願の言葉をぎりぎりで押し止めて、辛うじて命令という体をとる。いずれにしても蓮山にとって極上のご褒美であることに変わりはない。
「み、魅羅様っ……!」
蓮山はゴクリと息を呑むと、魅羅の最も恥ずかしい箇所にむしゃぶりついた。
「えっ……、あっ……はあううぅっ!」
生温い舌がクリトリスから密部を伝い、アナル付近まで下っていった。思わず悲鳴が漏れる。
蓮山はアナル舐めが好きであった。
「むうううっ……むふうぅううっ……」
三つ揃えのスーツで固めラバーマスクを被った中年が、母親の乳房を前にした空腹の乳幼児のように、ボンデージを着込んだ女子高生のアナルにむしゃぶりついている。
「くふうぅっ……ふぅうううっ……」
魅羅はやや癖のあるセミロングの髪を左右に振り乱しながら、歯を食いしばって悶絶した。背徳感などといった言葉では表現しきれないほどインモラルな愛撫を受け、真っ赤になった顔を隠すかのように大きく仰け反った。
待ちに待った、いや、予想していた以上の刺激を与えられ、魅羅は上の口からも涎を垂らしてしまいそうになる。アナルを舐められるというおぞましくも甘美な感覚から逃れたくとも、ヒップを引っ込めることができない。左右に揺れる尻肉が、思いとは裏腹により深く舌を迎え入れてしまう。
「あうううぅっ……、はあおぉぉっ……」
ここが学校内で、文化祭の最中であるということも忘れ、はしたなく喘いでしまう。今は触れられてすらいない女陰からはぼたぼたと蜜液が溢れ落ち、アナルを中心としたヒップ全体が、蓮山の唾液とそれとで混じり合い汁まみれとなってゆく。
蓮山はさらに、アナルを舐めながら同時に女陰にも指を這わせてきた。焦らされた事により、刺激を求めて涎を垂らすかのように蜜が溢れ出ている箇所である。花びらをめくられ、内側のヒダまでめくるように指がズプズプと入ってゆく。
「はっ……、あぁああっ……!」
蓮山の指が、次第に奥まで入ってくる。
中で指を折り曲げ、ぐりぐりと蜜部を掻き回しつつ、クリトリスの裏側にあるGスポットを乱暴に刺激される。
「ああぁっ……お、おかしくなるっ! おかしくなっちゃうっ!」
魅羅の叫びが美術準備室にこだました。
鍵状に折れ曲がった指が高速で出し入れされ、舌はそれよりも早いピッチでジュルジュルと音を立てながらアナルの皺を舐め回している。
「やっ……やめっ……、あああっ……!」
最後まで声を発しきれない。滴る液がリノリウムの床に水溜まりを作る。汚してしまうと思っても、魅羅には止められない。どうすることもできないくらいの激しい絶頂がもう、そこまで迫っていた。
「イッ……イクっ! いっちゃう━━!」
魅羅はちぎれんばかりに首を振り、セミロングの髪を激しく振り乱した。
コメント
魅羅の処女が10万円はお買い得ですね。
本格的なSMはいままでになかったので新鮮です。
コメントどうもです。
うーん、今回魅羅はメインヒロインではないので、ちょっと設定を雑にしすぎたかも・・・。
実は各ヒロインは裏テーマとして様々な風俗の業態をイメージした濡れ場を描いているのですが、魅羅は女王様なんだからSMだろ、という安直な発想です。私自身SMはあんま詳しくないので、SMもどきみたいな感じになりました。
15話以降の感想はあとで書きたいと思います。
詩織のはじっくり読みたいので。