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3.真実のところなんて誰にも分からない

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作者:しょうきち

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 再びきらめき高校屋上。
 早乙女好雄は、どこからか持ってきたホワイトボードを設置し、二重丸に縦線を引いて外周に放射状の短い線を書き加えた女性器を模した卑猥なマークや、アルファベットのWXY、やたらとリアルなキノコの絵などを書き込みながら熱弁していた。
 更に何処から調達したのかは不明だか、伊達眼鏡に白衣、両サイドが白髪のハゲかつらまで被っており、見た目は怪しい手術でも勧めてきそうなインチキ博士、とでもいった様相である。
「つまり公人。お前が未だに脱童貞出来ないのは、つまるところ早漏が原因って事だな。オウ、これは手術が必要デース」
「いや、どうしてそうなるんだよ……。大体なんだよ、その訳分かんねえ口調は……」
「なんだ、乗って来ねえのか、つまんねぇの」
 呆れる公人を見て、好雄はあっさりとダイジョーブ博士のコスプレをやめていた。ハゲかつら、白衣、伊達眼鏡をそこら辺にポイポイと脱ぎ捨てる。
「大体お前なあ、余計なお世話だってんだよ。確かにその……最後まで出来なかったかも知れないけどな、先っちょまでは挿れられたんだよ、確かにな。それで射精するところまでイッたんたからよ、実質童卒したようなもんだろうが」
「公人ちゃんよぉ……それ、言ってて虚しくならねえか?」
「う……!」
「だから、お前が初体験をちゃんと果たせるように、俺様がサポートしてやるって言ってんだよ」
「だからそんなモンいらねえって言ってんだろ。もう俺は詩織と正式に付き合ってるんだからさ、後は俺達のことは放っておいてくれよ」
「付き合ってる……ねえ……。う~ん、まあ、いいから聞け。聞くだけ聞け。もし俺の言ってることがおかしいとか、『違うだろ、このハゲーっ』とか思ったら、無視してくれて構わんからよ」
 再びハゲヅラをかぶり直して、好雄が言う。
「おいおい……、もうツッコまねぇぞ」
 うんざりしながら言う公人を無視して、好雄が続けた。
「いいか? お前の大好きな筋トレと一緒でな、恋愛も、セックスにも、段階を踏む必要ってもんがあるんだよ。腕立て伏せすらした事が無いって奴がワンアーム・ハンドスタンド・プッシュアップからやってみようなんて、土台無理な話だろ?」
「そ、それは……まぁな」
 ワンアーム・ハンドスタンド・プッシュアップとは、片手で逆立ちしながら行う腕立て伏せの事である。極めて高度な筋力とバランス感覚が要求され、言うまでもないが常人には不可能である。
「セックスも同じ様によお、ABC、つまり、キスからペッティングを経てセックスに至る段階を踏んでいくことが肝心なんだよ。特に初心者はな」
「くそっ……好雄のくせに。憎らしいけど、確かに正論だ……」
「筋トレと違うのは、お前一人の問題じゃあないっていうところだ。相手がいるっていうのが難しいところだな。詩織ちゃんとの関係だってそうさ。本当なら何ヵ月も日数をかけて、少しずつ心と身体を開発して、お互いの協力で最大級に盛り上がってからやっとこさ初めて初体験に至るんだよ。普通のカップルだったらな?」
「はいはい、悪うござんしたよ! 確かにお前の言ってる事が正論だよ! 焦っていきなり押し倒しちまった俺が悪いっていうんだろ!?」
「まあまあ、そんなに卑下するなよ。気持ちはわかるぜ。確かにウチの学校の中じゃあ最高クラスの美少女だからな、詩織ちゃん」
「おい、違うだろこのハゲ。学校一じゃあなくて、世界一だよ」
「……へいへい、ぞっこんって訳ね。まあいいや。そんなピュアな早漏童貞ボーイの公人クンに、俺様からナイスなプレゼントがある」
「な、何だよ……。お前のプレゼントなんて、どうせロクなモノじゃないだろ」
「まぁ、そう言うなって。ホレ」
 好雄が鞄から取り出し公人に渡したのは、350mlペットボトルに程近い大きさ、形状の物体であった。中程には紅白の縞模様がペイントされている。何かの飲み物かとも思ったが、上部にボトルキャップや飲み口といったものは見当たらず、代わりにシールが貼ってあった。
「何だぁ、T、E、N……テンガ? 何だこりゃ、飲み物か? それにしちゃあ何か変だぞ。どっから飲むんだ?」
「公人、ちげーよ。こいつは飲み物じゃない」
「ハァ?」
「オナホだよ、オ・ナ・ホ。いわゆるひとつの、オナニー用の器具だな。下の方を見てみなよ。包装フィルムを剥がして蓋を取ると、穴が開いてる。そこがチンポを挿入する穴だ。使ったことはあるか?」
「いや、使うどころか、現物を見たのも初めてだよ。でも、いや、まさか……これ、俺に使えっていうのか? 正気で言ってんのか?」
「モチのロンたぜ。これを詩織ちゃんのオマンコだと思ってよ、もう少しくらい持たせられる様にさ、少し特訓してみろよ」
「はあーっ? こんなモンを、詩織のアソコだと思えっていうのか?」
「まあまあ……、この俺様が色々吟味して、丁度いい感じの具合のやつを見繕ってやったんだからよ。名付けてしおりんほール。騙されたと思って使ってみなって」
「何だその、アイドル声優とか食い物にしてる悪徳ゲームプロデューサーみたいなクソいネーミング・センスはよ……」
「まぁ、こいつはやるから、何と呼んでくれたって構わんぜ。それじゃあな!」
「お、おい、好雄っ!?」
「じゃあな兄弟! 俺は先に帰るぜ。これでも俺、お前達が上手くいくようにいつも願ってるんだぜ」
 そう言って好雄は走り去って行った。
「バカヤロっ、誰が兄弟だっ、誰が。お前には妹がいるだろうがっ! ……でも、まあ、気持ちだけは受け取っておくよ。絶対使わないけどな……」
 公人の手には、好雄から押し付けられたオナホールがしっかりと握り締められていた。

 その日の夜。
 公人は自室のベットで仰向けに寝転んでいた。
(詩織……)
 思いを馳せているのは最愛の恋人、詩織の事である。好雄には言っていなかったが、あの勉強会の日以来、詩織とは一言も口を聞いていない。メールも、電話も含めてである。
 あの日、あの時、大人の階段を登り損ねたあの瞬間……。詩織の目に浮かんでいたのは明らかな失望の色であった。その深い悲しみに満ちた表情は、公人の男としてのなけなしの自信を打ち砕くのに充分なものであった。
 眼を閉じれば、瞼の裏にはあのときの詩織の表情が浮かび上がる。男として、雄としての情けない気持ちと、詩織を傷つけてしまったという気持ちがない交ぜとなり、ここしばらくは自己嫌悪に悩み苦しんでいたのである。
 そしてもう一点、公人は重大な悩みを抱えていた。
 この事はまだ誰にも言っていなかったが、あの日以来、息子が反応していないのである。
 いや、厳密に、本当に全く反応しないのか、何をやっても立たないのか、出るものが出ないのかどうかまで確かめた訳ではないのだが、少なくとも、普段なら毎朝の生理現象として起こる昂りが、ここ何日間かにおいては全く見られないのである。
 これは小6の頃に精通を迎えて以来、風邪等で体調不良の日を除いては初めてのことであった。
 もう少し本腰を入れてAVやエロ本で確かめてみようかとも思ったが、止めた。ついこの間初めて知った、藤崎詩織という最愛の女性とのまぐわいで覚えた生身の女の唇の味、柔らかな胸の膨らみ、そして淫らな熱気を孕んだ女性器の濡れ具合……。どれ一つとっても、AVやエロ本など二次元の画面を通して得られる刺激などは、最早足元にも及ばないであろう。そのようなものは見る気さえも起きないのだ。
 そして何よりもそうした他の女に欲情するような行為は、付き合う前ならいざ知らず、正式に交際を始めた今となっては詩織への精神的な裏切りのように感じられ、オナニーさえも憚られるのである。
 考え過ぎか、真面目過ぎるのかも……とは自身でも思うが、これからの二人の関係を磐石にしていくためには、再び詩織にセックスを申し込み、お互いに満足いく形で完遂する。それしかこのモヤモヤする気持ちから解放される手だては無いものと考えていた。勿論詩織が再びOKしてくれるかどうかは分からないし、場所やタイミングの問題もある。また、よしんばOKしてくれたとしても、再び事を仕損じてしまった場合は、最早二人の関係に刻まれたヒビは二度と修復される事はないだろう。そうしたプレッシャーが公人の肩に重くのし掛かった結果、性的機能不全という自縄自縛のループに陥っていたのである。
(どうすりゃ……いいってんだ……)
 ちなみに好雄から貰ったオナホは、学習机の引き出しに押し込んである。仮にその気になって使おうにも、このような事態とあっては、そもそもが用を成さないのであった。
 
「ん、何だ? 電話か……?」
 夜分遅く、そろそろ寝ようかと思っていた頃、突如公人のスマートフォンに着信があった。
「し、詩織!?」
 電話の主は詩織であった。暗く沈んでいた血が一瞬で沸き立つのが分かる。公人は即座にスマホを手に取った。
「もしもしっ、詩織か!?」
「公人……」
 電話の向こうの詩織の声は、やや上ずっているように聞こえた。
「……どうしたんだ、こんな時間に?」
「公人の声……聞きたくなっちゃったの。迷惑だった……?」
「いやっ、そんな事は無いっ! 決して」
「んんっ……! あ、ありがと、公人。あの……それで、この間の事なんだけど……」
「この間の事って、その、やっぱりアレ?」
 電話の向こうは無言であった。沈黙に耐えかね、公人が言った。
「俺さ、その……こないだの事、これでも本当に……反省してるんだよ。詩織の気持ちとか、心の準備とか、全然よく考えてなくて……。これからは無理矢理は無しだ。詩織が嫌な風に思う事は、決してしないよ。もっと時間をかけて、お互いの事をもっと分かりあった上で、お互いに自然とそういう気持ちになって、その上でしてもいいって言うならヤりたいし、まだしなくたって、出来なくたって詩織への気持ちは変わりないよ。だからこれからも、詩織と付き合って……、一緒に過ごして……頑張っていきたいんだッ!」
 詩織への思いが溢れるあまり、一息にそこまで言い終えた。が、スマホの向こう側からの返答は無かった。更に数秒ほど待つと、詩織からの返答が帰ってきた。
「ああ……ご、ごめんなさい公人。んっ……何か電波が……ちょっと聴こえづらくなってるのかしらね?」
 詩織の声色は、上ずっているというよりは何処か火照っているようにも感じられた。風呂上がりか何かなのだろうか。考えても仕方がないので、公人は詩織の次の言葉を待った。
「……ええと、それでね、私の方こそ、あれからずっと謝らなきゃって思ってたの。あの日、あの時の事、本当に私、嫌じゃなかったのよ? そりゃあ悩んだり、ここがこうだったらなって思うことはいっぱいあるけど、本当に公人の事が大好きで、あの時はしちゃってもいいかなって、心から思えたから……」
「し、詩織……!」
「だから、私が言いたかった事はね、公人に先に言われちゃったの……。私からもお願いよ。公人との仲、終わりになんてしたくないから、これからも一緒に頑張っていきましょ?」
「し、詩織ィ……!」
「それでね、もう高校生なんだし、子供の頃みたいに夜二階から忍び込むとかは流石に無理よね。だから、その……」
「な、なんだよ? そりゃあそうだろうけど……」
「そ、その……ええと、時々、夜とかね……、会いたいけど会えなくて震える時とか、愛しさと切なさと心強さを感じる事とか、あると思うの」
「なっ、何をヘンテコな事言ってるんだよ。まるで好雄のアホがそこに居るみたいだな」
「えっ……!? ど、どっ、どうしてそこで好雄くんが出てくるのよ」
「ばか、本気にすんなよ。冗談に決まってるだろ? 詩織の部屋に好雄が来る筈なんてないんだからさ」
「う……おほん。そ、そ、そ、そうよね。ええと、それで、時々ね、夜とか……その、ええと、一緒に電話でお話したりしてしたりするの。ど、どうかしら?」
「……なんだ、そんな事かよ。勿論大歓迎に決まってるだろ? そんなの夜だっていつだってOKだよ。高々そんなことを言うためにそんなに畏まらなくたっていいんだよ。だ、だってさ、その……俺は、詩織の彼氏なんだからな」
 最後の言葉は公人自身、実のところ未だに実感がなかったため、段々と声のトーンが尻すぼみになっていた。
「……そう? よかった。それじゃ、いいかしら? 公人のスマホ、何かビデオ通話アプリは入れてる?」
「……へ? LINEかSkypeなら入ってるけど……。全然使ってないから、使い方あんま分かんないぜ?」
「大丈夫よ。ちょっと待っててね」
 そう言って、詩織からの電話はプツンと途切れた。
(な、何だ? 一体何をする気なんだ?)
 つい話の流れで夜のおしゃべりでもするものだとばかり思っていたが、詩織は先程何と言っていたか、公人は正確に思い出そうとした。お話して『したりする』と喋っていたのではなかったか。
(お話して、したりして……って言ったって、一体何をするつもりだって言うんだ?)
 考えても答は見つからなかった。
 そうこうしている内に数分後、公人のスマホ上にアイコンがポンと立ち上がった。どうやらこれが、詩織からのSkypeの呼び出しらしい。
 公人はそのアイコンを押下した。すると自動的にSkypeアプリが立ち上がり、テレビ通話がスタートした。そして公人の眼に飛び込んできたのは、衝撃的な光景であった。
「何……だと……!?」
「あぅ……うぅん……」
 画面の向こうに映し出されたのは、薄暗い部屋、ベッド上に一人座り込む詩織であった。先日詩織の部屋に来訪したときとはレイアウトや小物が異なり、色々と乱雑に散らかっており、まるで別の部屋かのようにも見えたが、自身の記憶に自信が持てなかったのと、あのときとは違い今は夜の帷が下りる時間帯であるためにそのように見えたのであろうと思った。
 そして、そのような小さな疑問は即座に大脳の片隅に追いやられていた。驚くべきことに、詩織が身に付けているのはパジャマだとか部屋着だとかではなく、ヘアバンドの他はブラジャー、ショーツの下着のみだったのである。白の細やかなレースをピンクのカラーショールで包み込む、フェミニンでセクシーなデザインだ。
 驚きはそれだけに留まらない。
 詩織はおもむろに右手を伸ばし、公人に向けて両脚を広げ、ショーツ越しに秘部をなぞり始めたのである。その表情は、ゾクゾクする程色っぽかった。
「あぁ……んんんっ……」
「詩織……!? い、一体何を……?」
 秘部を弄る詩織の指が上下に走り、ネチョネチョと音を立てる。その度にショーツの中央に浮かび上がる、性的興奮を感じている証である染みが、その濃さを増していった。
「公人……。見えるかしら? 一緒に……ね、一緒に気持ちいいこと、しよ?」
 公人は驚愕した。あの詩織が、清楚さを体現した女神のような存在である詩織が、こうして積極的に剥き出しのセックスアピールで誘惑してきている事も勿論であるが、そうした光景を目の当たりにする事により、先程まで独りでウジウジ悩んでいた事が嘘であるかのように、一瞬にして下半身が反応し、トランクスの下からは狂おしい程の怒張が顔をもたげていたのである。自分でも呆れるくらいの勃ち具合であった。
「し、詩織……!」
「一緒に……気持ち良くなろうね?」
 そう言って画面の向こうの詩織は、両脚をM字に広げ、見せつけるように秘部を弄る二本の指を公人の側へ向けてきた。細長い指の先端からは、熱い粘液がヌルリと零れ落ちている。そんな筈はないのだが、あの時感じた体温や、女性器の匂いまでもがリアルに感じられるような気さえした。
「公人…… 、ねえ、大きく……なってる?」
「ああ……ヤバい……。エロいよ、詩織……」
「ねぇ、お願い。公人の方も、触って見せて……」
「うう、あうううっ……」 
 公人はすかさずトランクスを下ろした。中から出てきたペニスは唸りを上げて反り返り、腹直筋をピンと叩いた。シャフトをぐいと握り締め、その様をカメラで映す。画面の向こうでは詩織が信じられないほど淫靡な表情を見せて誘っているのだ。
「公人ぉ……んっん……」
 画面の向こうの詩織が、公人の側へと寄ってきていた。カメラ手前まで顔を寄せると、詩織の顔は下側へ見切れていった。
「し、詩織……何を……?」
「そのまま……スマホ持って見てて……」
 スマホの画面には至近距離まで寄った詩織の頭部の上半分程がアップで映し出されていた。顔を下方に向けており、目線は伏せられていた。
「んっ……んんっ……」
 そうしておいて、詩織は頭を上下させ始めた。目線の先、スマホを持って仰向けで寝転んでいる公人からすれば、詩織の目線の先、画面外に見切れている箇所には、丁度公人のそそり立つペニスがあったのである。まるでここにはいない詩織が画面越しに手指、顔、そして柔らかな唇を、公人のペニスに這わせて愛撫しているかのようであった。
「硬くて……すっごく大きい……」
 丁寧にチュパチュパと音をさせながら詩織が言う。以前好雄から、エロゲーの声優は自身の指等を舐めることによってフェラチオ音を出していると聞いた事があるが、詩織も同様の方法でこのような音を出しているのだろうか、と思った。
「うぁあ……はぅあああぁん……」
 公人はだらしない声を漏らしてしまっていた。実際に握り締めているのは自身の手なのに、詩織が、あの詩織が淫猥な表情を見せなから愛撫してくれているように錯覚していた。最も敏感な男の器官に生暖かい感覚が走る。亀頭の先端を吸い立てる唇も、シャフトに這わす細長い指も、まるで詩織がそこにいるかのようにリアルに感じられた。詩織が頬をすぼめ、頭を前後に揺すると、未知の快感がペニスに訪れ、それが波打つように総身に広がってゆき、公人はしたたかに身をよじった。
 時折顔を起こし画面に映り込む詩織の表情は、頬が朱に染まり、瞳を潤わせている。唇の端に纏わせた粘液が仄暗い照明に照らされ、てらてらと光っていた。公人はそんな顔をむさぼり眺めずにはいられなかった。瞬きをこらえ、呼吸すらままならない。
 現実感はまるでない。いや、スマホ画面を通して見ているという意味で、実際現実ではないのだが、画面の向こうにいる詩織は、画像でも動画でもなく紛れもなく現実の、今そこにいる生身の女なのである。詩織の唇からちゅぽん、ちゅぽんと卑猥な音が響き渡れば、峻烈な快感が津波のように押し寄せてくるのであった。
 クチュクチュと詩織が立てる卑猥な音は、そのピッチを増していた。
「あっあっあっあっ、ううっ、詩織……出ちゃうよ……!」
「……んんっ、ダメよ。待って」
 詩織は頭を上下に揺する動きをピタリと止め、カメラ至近距離からスッと身を引いた。その表情は熱に浮かされたように火照っていた。
「イクなら……一緒に……。ねっ?」
 画面の向こうの詩織はショーツを脱ぎ始めていた。剥き出しになった股関から糸引くショーツを剥ぎ取り、ベッド上の傍らにパサリと畳んで置いていた。真っ赤になった顔を両手で隠しながら、太股をすりすりとよじり合わせる。足元がガクガクと震え、 膝立ちの体勢をとる。愛液が太股を伝い、膝上の辺りまでがてらてらと光っていた。
「ねぇ……」
 詩織は立て膝の体勢のまま再びカメラ付近まで近寄っていた。蠱惑的に、小さな声で囁く。
「好きよ……愛してる……」
「詩織……! お、俺も……」
「生で……ね、挿れて……お願い……」
 男の理性を粉々に破壊する、 最高の殺し文句であった。
 『このいきり立つ男性自身を、詩織の熱く濡れそぼった膣内に挿入したい!』 そのような気持ちが公人の思考中枢を満たした。公人は最早自身の手指だけでは到底満足する事が出来ず、より強い刺激を求めた。
『何か、何か、何でもいいからこの肉棒を包み込む肉の穴が欲しい!』そう考え、思考をフル回転させた公人の脳裏に思い起こされたものは、あの引き出しに押し込めてあったオナホールであった。公人は鼻息を荒げながら勢い良く引き出しを開け放ち、好雄が押し付けてきたあのTENGA『しおりんほール』を取り出していた。焦る手先でビニールと蓋を外し、結合口を露出させる。
「詩織、詩織っ……! もう我慢できないッ! 挿れていいか……? 早く挿入させてくれよっ!」
「やん、んん……あはぁあ……」
 詩織はベッド上で両脚をM字に立てるや、相撲の蹲踞のような大胆な体勢をとった。一瞬だけカメラに局部をぐいと押し付けるように近づけてきたと思いきや、カメラは再び詩織の顔へと向けられていた。
「んんんっ……あああっ!」
 詩織はそのまま腰を落とした。カメラに映っているのは上半身のみで局部は映っていなかったものの、可愛らしい顔を淫らに紅潮させており、抑えきれない性的興奮を抱いているのが分かる。公人もその動きに合わせて、勃起しきったペニスを『しおりんほール』へと挿入した。入り口付近はひやりとするローションの感触があったが、そこを越えると、ざらざらとした質感が余すところなくペニスを包み込んでいた。
「うぁ……あ……。詩織……は、入ったよ……」
「はぁ……はぁっ……。いっしょに……気持ち良くなろ……」
 詩織はぶるっと身震いさせると、上下運動を始めた。公人は眼尻が切れそうな程に目を見開いていた。自身のペニスが、憧れの詩織の身体を縦一直線に貫いているかのようであった。
「ああっ、いいっ!」
 詩織が腰を使いながら上半身をはだけた。ブラジャーを取ると公人の頭の中は真っ白になった。露となった釣鐘型の乳房は、一般的な女子高生からすると頭ひとつ抜けたサイズの片手では掴み切れないような量感であった。柔らかそうな生乳に直接触れられないことがもどかしかった。スマホのカメラは、そんな公人の思考を読み取ったかのように、プルンプルンと揺れる乳房の動きをトレースしていた。乳首は真っ赤に充血し、既に痛そうな程に尖っている。
「ああっ! いいっ、いいのっ!」
 詩織は可愛らしい顔を歪めて喘いでいた。まるで本当に男根を咥え込み、肉欲のままに腰を揺すっているかのようであった。ハァハァと息を弾ませ、半開きの唇を震わせ、ねっとりと潤んだ目で、カメラ越しに公人を見つめてきていた。視線と視線が絡み合い、心と心が通じあった気がした。肉と肉を通し、まるで詩織と一体化しているかのような実感があった。
「うアァ詩織、出るッ、もう出るッ!」
「あ……あぁあ……私も、私もいっちゃうよ……おくっ……んんんっ! 中に出してッ! 生が気持ちいいのッ!」
「おく? 奥がいいのか、詩織っ!? 中に、膣奥に出すぞっ! 詩織っ!」
「あぁっ……はあああぁぁん……!」
「おっ、うおおおおぉぉぉぉっ!」
 陰嚢から尿道を通じ、白い奔流がせり上がる。
 公人は雄々しい声を上げ、欲望のエキスを『しおりんほール』の中にぶちまけていた。
「はぁ、はぁあ……ふぅう……」
 長い長い射精を終えた。最後の一滴まで出し尽くした実感があった。ここ数日間溜まっていたということもあったが、おそらく過去最大級の射精量であろう。
 公人は男として生まれてきた喜びを噛み締めていた。射精後で全身が重く、今にも眠りに落ちてしまいそうであったが、気持ちは満たされていた。まるで黄金色の雲の上にゆらゆらと浮かんでいるようであった。
 うつらうつらとしている内に、気付けばビデオ通話は終了していた。詩織からは一言『おやすみ』とメッセージが届いていた。
 公人は『おやすみ。愛してるぜ』とメッセージを返した。
 返信はない。既読も付かなかった。
(詩織、もう寝たのかな……)
 カーテンを開けて、窓の外を見る。隣の藤崎家の二階、詩織の部屋は既に消灯されていた。
(ま、いいや。明日だって、明後日だって、詩織とは毎日会えるんだ。明日は早起きして、一緒に登校しようって誘ってみよう。なんてったって彼氏なんだし、それくらいいいよな。あとついでに、好雄のヤツにもお礼を言っとかなくちゃな……)
 昨日までとは違い、公人は希望に満ちた表情で眠りに就いていた。きっと明日は、もっとよい日になるに違いない。自分には心と身体を通い合わせた、最愛の恋人がいるのだから……。

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