作者:しょうきち
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ソープランド『aquarium』へ入店した魅羅の周囲の時間は、驚くほど駆け足で過ぎていった。
新たに入店した新人ソープ嬢がしなければならない事、覚えなければならない事は多い。
まずは提携先の病院で性病検査(その後も定期的な検査が義務付けられる)、指名パネル用の宣材写真の撮影、そしてプレイ内容を学ぶための講習等がある。
ソープ嬢は、プロフェッショナルたる性的サービスを決して安くない金を払って来店する客へ提供するため、みっちりと決められた講習を受けて業務内容について習熟しなければ、客を取ることは許されない。
そもそも、先の見えない不景気に喘ぐ世の中にあっては魅羅のように何も知らずに風俗業界に飛び込んできたような女は割と多く、いきなり客と密室で二人きりにさせられて二時間一本勝負と言われても何をしていいのかすら分からないであろう。風俗嬢の仕事は、キャバクラ等と違い周りに併せていれば徐々に覚えられるといったものではない。そのための講習である。
その内容は、DVDによる動画(やっていることはAVと同じなのだが、 あくまで講習用なので不思議とエロくない)閲覧によるプレイの流れの習熟に始まり、客への挨拶の仕方、名刺の渡し方といったマナーに関する講習(下手な企業向けビジネスマナー研修よりも厳しく仕込まれる)、姿勢の矯正、メイクアップ、ヘアセットやスキンケア等の美容関係の講習を経てやっとプレイルームへ入室し、メイン業務たる実技講習に入る。
しかし、ここでも覚えなければならない事は多岐に渡る。部屋のセット、お風呂の準備、男性の服の脱がし方、畳み方、性病予防のための男性の身体の洗い方のコツ、マットプレイのやり方、コンドームのハメ方、処理等は最低限出来なければならない事である。ベッドメイクひとつをとっても、それこそソープ嬢を辞めてもホテルマンとしてやっていけそうな程厳しく仕込まれるのである。
そしてやっとソープランドの醍醐味、本番の本番たるセックスに関するテクニックの習得を始めることができる。
潜望鏡や壺洗いといったソープランドならではのテクニックや、マットを使った泡躍り、もちろんベッド上でのセックス・テクニックについても多種多様な客を満足させるため、様々な体位が可能となるよう厳しく仕込まれる。
ここまでの講習内容について講師(引退ソープ嬢や、ベテランの先輩ソープ嬢であることが多い。いずれにせよ昭和の昔なら兎も角、現代においては女性が講師を務めることが一般的)からお墨付きを貰えて、新人ソープ嬢は初めて客を取ることが出来るのである。素人感を売りにしている店や大衆・格安店ではそこまで厳しくなく、場合によっては一日中で面接、入店、初出勤まで一気に事が進むところもあるが、少なくともここソープランド『aquarium』ではこうした厳しい研修受講の数々が義務づけられているのである。
単にセックスが好きで、とか楽して稼げそう、といったレベルではプロフェッショナルたるソープ嬢は務まるものではない。
「うう、痛たたたた……。顎とか手首が……腱鞘炎になりそう……」
「ハイハイ。ま、やっとこさ最低限お客さんの前に顔見せしてもいいレベルに達したっていうトコかしらね。おめでとう魅羅ちゃん、今日から貴女もそろそろ口開けといきましょうか」
現在魅羅と麗の居るのはソープランド『aquarium』の一室。 面接の日から一週間が経過していた。
魅羅は体験入店以来、ずっとこの店一番のベテランソープ嬢である麗によるマンツーマン指導を受け続けていた。麗に指名が入っておらず、空いている時間帯はそれこそ四六時中である。
入店面接時はあれほど優しかった麗であったが、入店が決まって以降、魅羅への指導はスパルタ式で苛烈を極めていた。空いた時間はやたらとリアルな張り型を相手に手コキやフェラの練習、抱き枕を相手にした腰使いの反復トレーニング等を指示されており、あまり体力に自信のある方ではない魅羅にとって、体の酷使ぶりは運動部もかくやというものであった。
こうした厳しい特訓の副産物として、多少胸が大きいという程度で、まだまだ全然垢抜け切れていなかった魅羅の体型は、背筋がピンと伸び、手足や腰回りがぐっと引き締まり、女としてのメリハリが強調されたものとして少しずつ変わっていった。また、頬をすぼめ顎を酷使するフェラチオ特訓により、フェイスラインが一際シャープに引き締まってきており、一見して見える印象はぐっと違って見えるものとなっていた。
また、麗が一層の厳しさを見せたのは奉仕すべき男性客を立てる、ソープ嬢としての立ち居振舞いである。
挨拶の際の発声の仕方に始まり、名刺の渡し方やタイミング、喘ぎ声やイク演技の指導、思わせ振りに見せる目線の動かしかた、男を立てる会話術、男性客を虜にするための風俗嬢らしいファッションや化粧の仕方etc…。その内容は恐ろしく多岐に渡る。
そのどれもが求める水準が高く、厳しい指導ではあったが、魅羅は中でもファッションや化粧等の容姿に関する指導は熱心に聞いていた。これまで大家族の長女ということもあってこうしたものに興味を持つ余裕が無く、ファッション雑誌もあまり読んだことが無かった魅羅にとっては新鮮な内容であった。着ているものや化粧ひとつで別人のように変身出来、見違えるような美しさを得る事が出来るという事は、初心だった魅羅に言い知れぬ興奮をもたらしていた。
また、麗に指名が入り客の相手をする際は、時折男性客の許可を取り、特別に実際のプレイを見学させてもらったりしていた。
こうした指導をみっちりと仕込まれ続け一週間。自動車教習所で言うところの仮免許が、漸く魅羅に下ろされたというところである。
「さてと……。貴女の初めての相手として、今日は私の常連のお客さんの速水様に来てもらう事になっているわ。予約時間は一時間後。貴女がこの仕事を今後やっていけるのかどうかの実践テストってところね。粗相の無いよう、しっかりとお相手を務めて来るのよ」
「あの……、麗さん」
「なぁに、質問かしら?」
「はい。あの、先輩ソープ嬢の皆さんって、皆仕事用のお名前を使ってるんですよね。本名じゃないんですよね」
「……? そりゃそうよ。みんな源氏名……お仕事の為の名前で働いてるわよ。魅羅ちゃんだって、そうでしょ?」
「あの……私はそれ、無いんしょうか……?」
「ええっ!? あ……魅羅ちゃん、本名だったのぉ? あ、ああーっ、ゴメンね。珍しい名前だからてっきり源氏名なのかと……」
「……こういうのって、どうやって付けるんですか?」
「ええと……、そうねぇ、大抵はお店が幾つか候補を用意して女の子に選んでもらうとかが多いんだけど……。うーん、それじゃ時間もないし魅羅ちゃん、これから貴女の源氏名は『ラミ』よ。ハイ決定! 店長には私から伝えておくから」
「あ、安直っ!」
「どの娘も皆そんなモンよ。ほら、もう時間がないわ、お部屋の準備!」
「は、ハイっ」
鏡魅羅改め源氏名『ラミ』は、こうしてソープ嬢としての初仕事に望むこととなった。
魅羅は、プレイ用の個室が並ぶ廊下で初めての客となる男の来訪を待っていた。未知との遭遇に、否応なしに胸が高鳴る。
麗によって汗や湯で落ちない様に濃いめのメイクを施された魅羅は、蛹だった芋虫が羽化するように、ほんの一週間前からは見違える様にぐっと女の色香が増していた。
毛先のみカールした緩めのパーマが、しゃなりしゃなりと揺れている。
グラデーションを付けたアイシャドウ、カーラーで整えられた長い睫毛に麗しく彩られた目元が、誘うように悩ましげに伏せられていた。
紫のキャミソール・ドレスはバストの量感を強調し、白のビキニショーツからはスラリとした足が伸びている。そして、ドレスと合わせた、セクシーなレース刺繍の施された紫のニーハイストッキングは脚をより長く、魅力的に見せていた。
蕾の中に隠れていた魅羅の女としてのポテンシャルは、麗によって今、大きく華開いたのである。
魅羅にとっての口開き、即ちソープ嬢としての初客となる速水という男は、渋い色気のある声色が特徴の、舞台を中心に活動する中堅どころの俳優である。年齢は40そこそこといったところか。
俳優というだけあってスラリとした二枚目で、若い頃から数多くの浮き名を流してきた男であるが、結婚歴は無い。新人時代に先輩俳優から芸の肥やしと称した女遊びを教えられて以来、決して少なくない稼ぎを素人、玄人、同業者を問わない女遊びに費やし続けて生きてきた男である。
ソープランド『aquarium』は長年に渡って通い詰めており、麗をお気に入りとして定期的に指名するようになってからはかれこれ10年以上が経っていた。
「速水様。お待ちしておりました。本日はみ……ラミの初めてのお相手を務めていただき、ありがとうございます」
待合室より入ってきた速水に対し、魅羅は愛くるしい笑顔を浮かべながら言うと、恋人に対する仕草の如く腕を絡め、身体を刷り寄せていき、速水の頬へ挨拶代わりのキスをした。麗に教わった通りの仕草である。
「『ラミ』ちゃんだったね。麗から話は聞いてるよ。ま、初めてで緊張してると思うけど、楽にしててよ」
「は、ハイ……」
魅羅は心の中に作り上げたプロフェッショナルの仮面を、一瞬で見透かされたような気分となっていた。新人ソープ嬢は、ベテラン客に教えられて一人前となってゆくのだ。
個室に入ると魅羅は改めて正座し、丁寧に座礼を行った。そして早速プレイへと移る。
「それじゃあ、頼むよ」
恭しく座礼する魅羅を前に、速水は二人掛けソファーの真ん中にドカッと腰を下ろし、足を差し出しつつ言った。そのまま脱がせろ、というジェスチャーである。
魅羅はひざまづき、靴下を脱がせると、少し躊躇った後「お口でお掃除させてくださいね」と顔を沈めていった。
丁寧に整えられた美しい眉をピクピクとさせ、切れ長の目元を羞恥に染めて、まずは左足の親指をそのふっくらとした紅唇に含んだ。
「フゥ、フゥ、おおっ……。お作法はしっかり仕込まれてるみたいだね。若いのに大したもんだ」
速水が嘆息を漏らす間も、魅羅はまるでフェラチオするかのように口をキュッキュキュッキュとさせて足指をしごきあげたり、あるいは足指の間に舌を走らせてゆくのである。
「うふン……お、美味しいですわ。速水様のお足指……」
紫のキャミソール・ドレスのレース襟からこぼれ落ちそうなバストをプルンと揺すりながら、魅羅は速水の足指を一本一本丹念になめ尽くしてゆく。白のショーツに包まれた小高いヒップが、切なげにクネクネと揺れていた。
そして魅羅は一息深呼吸をすると、速水のスラックスとトランクスを脱がせた。アンモニア臭、そして濃厚な男性ホルモンの匂いがツンと鼻につく。
そして店の定める基本プレイである即尺の体勢へと移ろうとした。しかしトランクスの中のモノが目に入った瞬間、魅羅は驚愕した。
「……!? お、おっきい……!」
麗に渡された多種多様なサイズの張り型を見たり触ったりしごいたりした事から、初対面の相手であっても男性自身のサイズはまあこの位でしょう、という想定をして臨んでいた魅羅である。しかし、速水のソレはその想定を2回り……、いや3回り程度は上回っていた。挿入はおろか口に含むことも出来るかどうか……。
「どう? 驚いたでしょ、ソレ。俺さぁ、こう見えてもまあまあモテるんだけど、コレのお陰でどんな女とも長続きした事が無いんだよね」
下半身を露出させた速水は自嘲するように額に手を当てながら言い、そして続けた。
「だから、ここ何年かは麗としかセックスしてない……いや、もっと言うなら他の女とはヤリたくても出来ないんだよね。そんな麗から新人の相手を頼まれた時は驚いたよ。期待の新人だってね。ラミちゃん、キミにコレの相手が出来るかな?」
「い、いえ……、誠心誠意務めさせていただきますわ。でも、速水様。今この時間は私が貴方の恋人……。他の女性の事を言うのは……駄目ですよ……」
魅羅の瞳が、切なげに揺れていた。
初めは速水のような金にも女にも苦労していなさそうな男前がどうしてソープ遊びなどしているのか、どうして一人の女を愛せないのか、軽い嫌悪感すら持っていた魅羅であったが、速水の身の上話を聞いてそのような気持ちは雲散霧消し、代わりに速水への奉仕心が魅羅の胸を満たしていた。
考えてみれば当たり前の話なのであるが、ソープ通いを続ける男とはいっても千差万別である。性欲が人類共通のものである限り、女を求める事に変わりはない。そこには老若も美醜もないのである。
「確かに……、そりゃそうだ。こりゃ一本取られ……おうっ……!?」
魅羅は前髪をかき上げ、おずおずとではあるが速水の剛棒の先端を唇に含んでいた。赤黒く、暴力的なまでにオスの匂いを突き付けてくるそれは、太さが魅羅の手首程もあるのではないかという程の代物である。魅羅はそのまま舌をチロチロと動かし、尿道から流れ出るカウパー線液を桃色に濡れ輝く舌腹ですくい取る。
何度か試みようともしたが、速水の肉竿を奥まで口に含むのは顎を外しでもしない限り物理的に無理なようであった。ングングと喘ぎ、チュポンと音を立てて亀頭から唇を放すと、太竿全体を唾液まみれにさせた。更には精液のたっぷりと詰まった陰嚢に対して片方は唇で、もう片方は五本の細指で濃厚な奉仕を始めていた。
「フゥ、フゥ……、はの、ほう……れすか……、ひもひひひれふは……?(あの、 どうですか、気持ちいいですか?)」
魅羅は羞恥に頬を染め、上目使いで速水を見上げていた。今更ながらではあるが、鼻から突き抜けるオスの臭いと口腔全体で感じとる粘膜の感触は、己が今までの自分ではなく、金銭を対価に女を売る事が生業の風俗嬢へと変わってしまった事を実感させる。
そんな境遇に、幸か不幸か魅羅は適応し始めていた。
純白の半紙に墨汁を塗りたくっていくような、これまで白かったものが汚れ、真黒に塗りつぶされてゆく感覚。どこまでも堕ちていくような己に、歪んだ興奮を感じていた。
頬をへこませ、一心不乱に口腔奉仕を続けていると、魅羅の後頭部を抱え、引き寄せながら速水が言った。
「ラミちゃん、胸を見せて貰っていいかい。対面の時から思っていたけど、相当ボリュームあるよね。ラミちゃんのオッパイ」
「ムググ……は、はひはほうほはいます(あ、ありがとうございます)」
魅羅はえずきながらもおしゃぶり奉仕を止める事無くコクりと頷くと、後ろ手で器用にホックを外した。
細長い手足にアンバランスな大きさの釣り鐘型の豊乳が、魅羅の前後する頭部の動きに沿ってプルンプルンと揺れている。
速水はそれを見て満足げな笑みを浮かべた。こぼれ落ちそうな隆起を右手ですくい上げ、指が食い込む程にきつめに揉みしだく。
「ムフゥン……、ムフン……」
魅羅は高く伸びた鼻先から、甘ったるい被虐心の混じった吐息を振り撒いていた。
「それじゃあ、お体を洗わせていただきますので少量お待ちくださいね」
ひとしきりの口腔奉仕を終えた後、魅羅は衣装をたたみ髪をアップにまとめ、お風呂の準備を始めた。バスタブに湯が溜まるまでの時間は、速水の身体を魅羅の肉体全てを使って洗い上げていくのである。
洗い場に置かれたスケベ椅子を温水シャワーで暖めると、そこに全裸となった速水を座らせた。そして、魅羅はボディソープを用い泡作りを始めた。
ソープランドにおける洗体用ボディソープは、多くは業務用のものが使われており、これらは病気予防のための抗菌作用、洗浄力において市販品より強力なものがほとんどである。また、もう一点市販品のそれと一線を画す点を挙げるとすれば、それは泡立ちの良さである。
魅羅は洗面器にお湯とボディソープを出し、そこにペペローションを少量混ぜ、洗面器内を超高速で両手でバシャバシャとかき回す。こうすることによって、ソープ・プレイ向きの粘性の強く、きめの細かい泡が作られるのだ。
「それでは、お体失礼いたします。シャワーお熱く無いですか?」
「ああ、丁度いいよ」
魅羅は速水の身体にさっとお湯を流しかけると、今しがたモコモコと泡立てたボディソープをたっぷりと両手ですくった。その半分を速水の上半身に回しかけると、残りを自身の胸から下腹部へ塗り付けた。
「失礼しますね……。んっ……、んんっ」
速水の正面に膝立ちで向かい合うと、丁度頭の高さが同じくらいとなる。魅羅は速水の鎖骨辺りに両手の指を置くと情感たっぷりに見つめ合い、目を閉じてキスをした。しとやかな舌がうねり、貪欲に唾液の交換を求める。そしてキスを止めないままヌルヌルとした泡まみれになった全身を、顔を火照らせ、恥じらいながら擦り付けていく。
「んっ……、いかがですかぁ、速水様ぁン……。気持ちいいですか……?」
唇から唾液による卑猥なアーチを作りつつ、速水の耳元で囁く。
速水は返答の代わりに魅羅の首筋に吸い付くと、デロリと垂れ下がっていた逸物をピィンと跳ね上げる事によって応えた。てらてらとした我慢汁にまみれた先端が、魅羅の秘部へコツンと当たった。
「いいよ……。アァ……、いいねぇラミちゃん……」
「あ、ンンッ……」
張りのある双乳がボディソープでヌラつき、プルンと跳ねていた。悩ましく括れた腰つきは、暴力的なサイズの剛棒を大事なところへ押し当てられる度、小刻みに震え前後する。
「ひひ……。あー、極楽だよ、ラミちゃん。チンポがビクビクってなってる。ラミちゃんに精子ぶちまけたいって、うずうずしてる」
速水は魅羅の指を取り、自身の剛茎へとそっと導いて言った。細指の中で、生暖かいそれが膨らみを増していた。
「あ、ああっ……う、うれしい……ですわ」
「ほら、ラミちゃんもアソコ、ビチョビチョに濡れてるよ。こんなに気分出して。全くどうしようもない淫乱だね。セックスの事しか頭にない変態女だね、キミは」
「ごめんなさい……ラミはどうしようもない淫乱ソープ嬢です……。速水様のコレを……ハメて貰う事しか頭にない、変態女なんです……」
魅羅は速水に促されるまま、自らを貶める言葉を口にする。するとどうしたことか、被虐の泥沼にズブズブとはまり込んだように、倒錯的に理性が崩れ落ちてゆくのだ。
やがてバスタブが湯で一杯になった。魅羅はお互いの身体の泡を洗い流すと、速水の手を引いて一緒に浴槽へと入った。
「其方に頭を向けてもらえますか? ……はい、そう、楽になさって……。速水様」
魅羅が速水へ促した体勢は、バスタブのステップのついた側へタオルを敷き、そこに速水の頭を乗せる。そして両足はバスタブの反対側の淵に引っ掻けて体重を支えるというものである。
速水の胸の辺りから太股辺りまでは湯に浸かり、胴体は湯の中をゆらゆらと漂う事となる。
そして魅羅は、その速水の両足の間に身体を滑り込ませ、湯船の中で正座の体勢となった。こうすると、魅羅の太股の上に速水の背中から尻が乗る体勢となり、赤黒く勃起した速水のペニスは、水面からピョコンと飛び出て丁度魅羅の眼前に位置する事となる。
これが所謂『潜望鏡フェラ』と呼ばれるプレイの体勢であり、このままフェラチオや手コキをしたりする。
また、魅羅に限っては更なる特殊なプレイが可能でなのであった。
「ング……、んん……、プハぁ……どうですか、いかがですか、速水様ぁン……」
「おーっ、極楽極楽。いい眺めだねぇ。流石、立派なモノを持ってるだけあるねぇ」
魅羅はいきり立った赤黒い剛直を、砲弾のように重たげにぶら下がる乳房を使い両側から押さえ込んで挟み込むと、先端を唇ですっぽりとくわえる。
これは潜望鏡フェラならぬ潜望鏡パイズリ(より正確を期すなら、潜望鏡パイズリ・ フェラ)と呼ばれる体勢で、麗ですら体得出来なかった、爆乳ソープ嬢にのみ許されるソープ・テクニックである。
実際のところ魅羅のフェラチオ・テクニックはまだまだ発展途上で、男の性感帯を見つけ出し的確に攻める技術も、まだまだ麗のようなベテランソープ嬢には劣るものでしかない。しかし、それでも新人ならではの初々しさと、他の嬢では中々見られない巨乳を活かしたプレイは、速水へ征服感と体験したことのない甘美な快感をもたらしていた。
魅羅の抱き抱える二つの豊乳の間には、太く、長く、グロテスクな速水の怒張がすっぽりと覆われ、挟み込む双球を上下させる度、谷間からはパンパン膨らんだ赤黒の亀頭がニョキニョキと顔を出している。カウパー線液を撒き散らすそれを、魅羅は伸ばした長い舌を左右に振りつつポタリポタリと唾を垂らし、愛おしそうに嘗め上げてゆく。
そして魅羅は速水の事を上目遣いで見上げ、懇願するように言った。
「ネェ速水様……、呑ませて。ラミのお口に一杯出してください……」
「うぅ……ああ、ラミちゃん、エロ過ぎるよ……。イクぞっ!」
艶っぽい声でのおねだりに、たまらず速水は鼻息を荒げ、魅羅の口内に一発目の大爆発を放った。
速水はバスタブにのんびりと浸かりながら、一度目の射精を終えた気だるさからウトウトとしつつ、マットの準備をする『ラミ』をぼんやりと眺めていた。
麗から『ラミ』の事は、つい最近までは風俗業界とは何の関わりもない普通の娘であったと聞いている。それがここまで大胆で淫靡な、立派な風俗嬢へと変貌を遂げるとは。
余程の覚悟を持ってこの業界へと飛び込んできたに違いあるまい。俳優として多くの人間の胸の内にあるものを読み取ってきたキャリアから『ラミ』の瞳の奥に何かただならぬものを感じ取った速水は、そう確信していた。
「それじゃ、速水様。マットの準備ができましたわ。滑らないように、私の手をとってこちらにいらして……」
「ああ、どうも。よい……うわっ!?」
エアーマットにローションを満遍なく満たした魅羅は、速水の手を取ってマット上へ移って貰おうとしたが、その際に足を引っ掻けて、二人揃ってローションの海にダイブする事となってしまっていた。
「う……、痛たたた……。は、速水様? お怪我はございませんか? 痛いところは無いですか?」
「うっぷ、ハハハ。大丈夫だよ。ちょっとローションが口に入っちゃったけどね。ラミちゃんもホラ、髪がローションでベトベトだよ」
「あっ……」
速水の手が魅羅のもみあげに触れる。速水はポタポタと垂れるローションを拭うと、魅羅の頬を優しく撫で、顎をクイッと掴み、魅羅の顔を引き寄せた。そのまま唇を重ねる。
「んっ……。あ……あの、速水様?」
「ラミちゃん。派手な外見だから気づかなかったけど、見た目よりも結構若いよね? ズバリ、まだ10代でしょう?」
「え……分かるんですか?」
「フフ……、素直だね。ラミちゃん」
速水の目が、怪しい淫欲にギラついていた。多くの女達を虜にしてきた瞳が、心を見透かすように魅羅の瞳を見据えていた。頭の奥がポウッと痺れたようになり、心臓を矢で射抜かれたような鼓動が魅羅の胸を通り抜け、頬が赤く染まる。男を前にして裸になり、全身をローションまみれにして絡み合うソープ嬢となった今でも、心の内はまだ恋に恋する初心な15歳少女のままであった。
「は、速水様……? あの、次は……、マットプレイを……」
「麗から教わったマニュアル外の事はまだ出来ないかな? いいかい、教えてあげよう。ソープランドっていうのはね、個室付きのお風呂でたまたま客と従業員が自由な恋愛関係になってセックスしちゃいましたって、そういう建前なんだ。だから、俺がキミに本気になって、キミが俺に本気で惚れても何の間違いも無いわけだ」
「は、速水様……? ん……、んんっ!」
マット上ではいつしか攻守が逆転していた。魅羅は真っ赤になった顔を両手で覆い、両脚を広げて速水のなすがままになっている。
速水は魅羅の身体を丹念に舌で愛撫すると、ローションをたっぷりとすくい上げた指で魅羅の秘所をまさぐった。まだセックス慣れしていないそこは、濃い目の秘毛がローション液にまみれ、熱帯雨林のジャングルのように濡れ輝いている。
やや肉厚の花唇は清楚な薄紅色をしており、捩れてピタリと閉じている。
そして速水の丹念な愛撫によって、そこはヴィーナスの誕生を迎えるかのようにヒクヒクと花開いてゆく。魅羅の意思とは無関係に。
「あ、あああ……。速水様……」
魅羅の陰部の入口3センチ手前には、さっき一発出したとは思えない程元気を取り戻した逸物が突き付けられ、ピタン、ピタンと恥丘を叩いている。
先程胸と手と口を使って一度目の射精へと導いたものの、全く衰えを知らないどころか更なる精の放出を求めてうねるそれを、膣内で受け入れる事が出来るようには思えなかった。
これを受け入れた瞬間、自分が自分でなくなり、後戻り出来ない娼婦としての奈落へ堕ちてゆくような恐怖感があった。
「さて、そろそろいいだろ。ラミちゃん、セックスしてあげるから、おねだりしてみるんだ。ホラ」
「あ、あああ……。でも、そんな大きいの……、怖いわ……」
「大丈夫だよ。こんなに気分出して濡れてるんだ。女のカラダは、何だって飲み込めるように出来てるんだよ。そらっ、イクぞっ!」
「ま、待って!」
そう言って腰を押し進めようとしてくる速水を、魅羅は官能と理性の狭間、すんでのところ押し留めた。
「どうして止めるんだ」
魅羅は速水の首回りに細腕を回すと、耳元にチロチロと舌をやり、掠れた様な小さな声で囁いた。
「速水様……今の私は、あなたの恋人です……。ホントの恋人って、こんなマットの上じゃなくて、ベッドの上で愛し合うんじゃないんですか? 私……速水様とはホントのセックスがしたいです……」
「ホウ……言うねぇ……。それじゃラミちゃん、ベッドに行こうか。」
洗い場を出て身体を拭き、二人で身を寄せ合ってベッドに座った。肩を寄せ合い、今度は恋人のように指を絡ませ合い、どちらからともなくキスをした。
「ラミちゃん、さっきは無理矢理で怖がらせちゃって、ごめんね。でも、キミは一人前のソープ嬢にならなきゃいけないんだろ? 俺なんかよりももっと巨根の客だって世の中にはいるんだよ」
速水に見つめられ、恋人繋ぎでキスをされると、速水の言葉が疑問の余地無く全てそのとおりに思えてくる。そう、私はソープ嬢。お金を貰ってセックスするのが生業。お客様はどんな殿方であっても最愛の恋人。
麗から心構えとして教わっていた言葉が、頭の中でリフレインしていた。
「はい……速水様。来て……ください」
「うん、いい娘だ」
速水はベッドに魅羅を押し倒して股を割り、止めどなく花蜜の溢れ出る中心へ肉塊を押し付ける。
「あっ……、いっ……痛……」
覚悟を決めてはいたものの、メリメリと音を立ててめり込んでくるそれは、愛情やら肉欲やらでは軽減しきれない程の痛みを与えてきた。処女喪失の時をも上回るかもしれない。
速水はしきりに「大丈夫?」「無理しないでね」等と口では優しい言葉をかけるものの、その実、ズンズンと繰り出される腰の動きにはまるで手加減というものが感じられないのだ。
魅羅の腰をガッチリと掴み、獣めいた息遣いとともに繰り出される肉柱は、やがて秘奥へと到達した。珠のような生汗が、ブァッと魅羅の額に吹き出た。
「うぅう……、アア゛ッ!」
魅羅はあまりの痛みに断末魔のような声を放ち、純白のベッドの上で白い裸身を仰け反らせていた。
「あ、あれ……。私……?」
「お、ラミちゃん、起きたかな?」
気づけば先程結合を試みようとしていた筈のベッド上、魅羅は裸のまま一人で寝かせられていた。手前にあるソファーでは、既にスラックスとジャケットを羽織った速水が煙草を燻らせていた。
「ラミちゃん、さっきはごめんね。無理に挿入しようとした所為か、痛くて気絶しちゃっみたいだね。今日はもう帰らせてもらうよ」
「そ、そんな!? 私、ちゃんと速水様を満足させないと……。さっきの続きを、お願いします……」
「気持ちは嬉しいけれど、さっきフロントに電話しといてあげたから、多分もうすぐ人が来ると思うよ。それにもうすぐ時間だよ。それとも、客の意思を無視して嬢が勝手に延長しようってのかい?」
「う……すみません」
気まずい沈黙が場に流れる。速水の言うことは確かに正論であった。よほどの性豪でもなければ、一度気絶して目覚めたばかりの女を相手に性欲を滾らせるものでもあるまいが。
暫く時間が過ぎ、ノックの後にプレイルームの扉が開かれた。扉の向こうから慌てて入室してきたのは麗であった。
魅羅に対しては一瞥をくれたのみで、麗は速水に対し、正面から四つ指をついて言った。
「速水様。この度はうちの新人の子が粗相をしてしまい、すみません。この埋め合わせは……」
「いや、新人にしては随分頑張ったと思うよ。つい此方も本気になりそうだったよ」
「そう言って下さりますと幸いですわ。今回のお詫びに、次回使えるクーポン券を差し上げ……んっ!?」
そこまで言いかけたところで、速水はいきなり麗の肩口を掴み、その唇を奪っていた。
「……んっ!? 速水様、ちょ……困……」
「麗。お前が手塩にかけて育て上げたこの『ラミ』ちゃんでも、遂に最後までセックスする事は出来なかった。つまり、やっぱり俺の相手を務められるのは、お前以外居ないって事だッ!」
妙なテンションで捲し立てる速水に、麗はやや狼狽気味に応えた。
「え、ええ……。ですから、次回の来店時は、是非私のご指名を……」
「いや、仕事だけじゃない。朝も昼も夜もお前と過ごしていたいンだ。一緒に寝起きしてメシを食って、夜になったら好きな女を抱く。そんな暮らしをしていたいんだよッ!」
速水は矢継ぎ早に続けると、懐からゴソゴソと小箱を取り出した。
「こ、これは……?」
「これが俺の気持ちだっ。受け取ってくれ、麗ッ!」
速水が手にした小箱を開くとその中には、中央にワン・カラットのダイヤモンドが輝く、プラチナ製の指輪が光輝いていた。
「え……ええ……!? あ、あの……」
「結婚してくれって事だよ」
「あ……私……その……」
思いもよらぬ展開に、百戦錬磨の筈の麗は、まるで田舎から上京してきたばかりの女子大一年生のように狼狽していた。頬が上気し、ソワソワとしている。
(え……ちょっと、何で麗さんがそんなに慌てて……? あっ、そうだわ。これは二人で示し合わせて、店外デートをしつこく誘ってくる客のあしらい方を私に見せてくれようとしているのね。そうだわ。そうに違いないわ)
固唾を飲んで二人のやり取りを見守っていた魅羅であったが、意外にも冷静に状況を考察していた。目覚めたばかりで血の登りきらない頭が、逆にそうさせていたのかもしれない。
しかし……。
「は、はい……。私みたいなオバサンでもいいのなら……」
「受けちゃうのッ!?」
思わず口をついて発せられた魅羅の突っ込みも意に介さず、麗と速水は既に二人だけの世界に突入していた。
速水は小箱を受け取った麗の手を、自らの胸元へと引き寄せて言った。
「夜景の見えるレストランを予約してるんだ。今夜は二人っきりで過ごそう」
「はい……。速水さん……」
麗はそう言うと速水の腕に自らの腕をそっと絡め、二人でソープランド『aquarium』を後にしていった。
部屋には魅羅がひとり残されていた。
あまりの急展開に頭が追い付かない。
言いたい事や聞きたい事が色々あったが、取り敢えず魅羅の脳裏に浮かんだ事は、「プレイ中はあれだけ本気になって惚れるだの何だのとのたまい、性欲に突き動かされた振る舞いをしておきながら、舌の根も乾かない内に違う女に求婚!?」という憤懣やる方ない想いであった。
魅羅はなんとなく、昔再放送で見たアニメ主題歌のワン・フレーズを口ずさんでいた。
「ああ……男の人って……、幾つもの愛を持っているのね……」
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