作者:しょうきち
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魅羅の指導員である先輩ソープ嬢『麗』が電撃的に結婚、そして20年近く続けてきた風俗業界からの引退を決めてから、一週間が過ぎた。
麗の馴染み客である『速水』による突然の
プロポーズを間近で見せられた魅羅は、あまりの唐突さ、理解しがたい急展開に呆気に取られ、その顛末を憮然とした表情で眺めていた。
しかし、麗が後日改めて店長の元へ結婚及び退店を報告しに来店したときには、魅羅は店長や他の嬢達と共に朗らかな笑顔で迎えていた。それは心の底からの祝福であった。
それは何故か。麗の未来は、ある意味で魅羅自信の未来でもあるためだ。
魅羅はソープ嬢となる決心をした時から、まともな将来、まして素敵な男性と出会い、恋をして結婚することなど、今後の人生には望むべくも無い事だと思ってきた。
しかし、麗のような素敵な大人の女性となり、速水のような(ちょっと変な人だったが……)イケメン俳優と恋仲になり、結ばれる。そんな将来だってあるのだ。少なくとも、あってもいいのだ。
その事実は、指導員を失い一挙にソープ嬢として一人立ちしなくてはならなくなった魅羅を、幾分か前向きにさせた。
「はぁ……はぁ……あっ……」
「ハァ……ハァ……あ……射精るっ……!」
「あうっ……!? あああ……ううっ……。 ……お客さま、沢山出ましたわね……。またのご指名をお待ちしてますわ……」
ソープランド『aquarium』の一室。
ギシギシと軋む瀟洒なベッドの上では、今日も男性客が魅羅の上で思う様に腰を振り、溜まりに溜まった精を吐き出しては満足げに帰ってゆく。
魅羅は幾多もの背中を、寂しさと虚しさの入り交じった哀愁漂う佇まいで見送っている。
麗が去って以降、魅羅は毎日フルタイム(10:00 ~23:00)でシフトを入れている。
新人だからという事もあるが、店長の計らいによりフリーの客を優先的に回してもらっており、お茶引きのような事態とは今のところ無縁である。
既に迎えた客の数は30名を優に超える。名も知らぬ男性客と肌を重ねて粘膜を啜り合う抵抗感もいつしか薄れ、その美貌にはソープ嬢としての営業スマイルが張り付いていた。
そんな週末のことであった。
この日、時刻は既に22時50分を迎えていた。来店客はまばら、魅羅は仕事を終えて帰り支度を始めていた。
「それじゃ店長、そろそろ上がりまーす」
「『ラミ』ちゃん、ちょっといいかい?」
「あら、何ですか、店長?」
店長の手には茶封筒が握られていた。
「はい、お給料。ウチは給料、週極めの手渡しにしてるからね」
魅羅へ手渡してきた封筒の中身は、これ以上紙幣が入れると茶封筒が破けるのでは……という程に限界までパンパンに詰まっていた。
「え、こんなに……!? 凄い……!」
「初回の給料はね、働いた分だけじゃあなくて、新人の子には入店の祝い金がつくからね。今回渡す額は多めになってるから。更に、君の場合は特別だよ」
「特別?」
「そう、特別。君と『玻璃』さんの二人分の入店祝い金だ。本来、一度も出勤してない子には入店祝いは出せないんだけどね。ラミちゃん、良く頑張ってくれているから。こういう形で済まないけど、お母さんを大事にね」
「店長さん……。ありがとうございます……」
こうして魅羅は、はじめて貰った給料袋を手に帰途についた。これは、言うなれば女としての尊厳そのものを切り売りすることによって得た金なのだ。あまりにも重たい給料袋であった。
魅羅は地下鉄に乗り、自宅の最寄り駅で降りた。
鏡家の所在地は駅から徒歩約25分。しかし、これは不動産屋の自称するカタログスペックでしかなく、魅羅の足では30分以上はかかる。都内としては些か交通の便がよろしくない立地にあるが、大家族である鏡家が住める広さ、そして家賃の安さを勘案した結果であった。
そんな自宅へ向かう道のり。駅から遠ざかるにつれて街灯はまばらで、年頃の少女一人が歩く夜道としてはいかにも心細い。しかしそんな自宅への道のりを、この日の魅羅はウキウキ気分で歩いていた。
多くの小・中学生の弟達を抱える鏡家にとって三、四月は物要りな季節である。ランドセルや体操着、制服、文房具……。新学期を迎える大家族にあっては、お下がりだけでとても賄い切れるものではない。また、弟たちはみんな食べ盛りなのだ。
魅羅はこの初めて得た給料で、弟達に新品の服やランドセル、おもちゃ、それとも進級祝いのケーキでも買ってあげようかしら……と、星空を見上げながらそんなことを夢想しながら帰途についていた。弟たちの笑顔が脳裏に浮かぶ。辛いソープの仕事も少しは報われるというものだ。
だが、自宅からほんの手前。距離にして数十メートル程度であろうか、そんな軒先で闇の中から迫る一つの影があった。
魅羅はもうすぐ家の前まで来ているということもあって、不穏な足音も気にせず歩を進めていた。
現在の魅羅は、これまでの人生において手にした事の無い額の現金を抱えている。
春風が舞い、冬の終わりを告げると共に、ひったくりや不審者も急増するこの季節。
ああ、魅羅がもう少し慎重であったなら。
女一人で歩く夜道に警戒心を抱いていたならば、この後の悲劇は回避できていたかもしれない。
しかし、もう遅かった。あるいは最初からこうなるよう運命付けられていたのかもしれない。
カツカツと音を立て、夜の闇に紛れて、一つの細長い影が魅羅の元へと近づく。流石に怪訝なものを感じた魅羅が振り向いた時には、それほ既に目と鼻の先まで迫っていた。
その影は魅羅の肩を掴むと、強引に引き寄せて魅羅を振り向かせた。
「……おい」
「きゃっ!?」
引き寄せる力があまりに強く、魅羅は勢い余って尻餅をついていた。のろのろと起き上がる魅羅へ男は告げた。
「お前、鏡魅羅だな?」
「痛たた……。な、何よっ? あなた誰ッ!?」
「ククク……、俺の事を覚えていないか? それとも暗くて分からないか?」
「あ、あなたはッ……!?」
男は、以前家へとやって来たヤクザの一人、スキンヘッドの男であった。あの時と同じ、黒スーツを羽織りサングラスを掛けている。胸の奥がズキンと痛み、忌むべき記憶が魅羅の脳裏に甦った。
「あの芋っぽい娘が、ほんの少し見ない間に随分とそそるオンナになったじゃねぇか。母親の代わりに、立派にソープで働いてるみたいだな」
「な、何のつもりよ、こんな時間に? まさか私に乱暴でもするつもり?」
「ヒヒっ、そんなつもりは無ぇよ。すっかり風俗嬢らしい匂いをさせるようになったなぁ」
スキンヘッドの男は、以前とは大きく変わった魅羅の容姿を舐め回すように観察すると、満足げに下卑た笑みをこぼした。
「怪我させるつもりは無ぇよ。金を払えば誰とでも寝る商売女、傷つけても一円にもならんからなァ。ククク……」
「……何か用でもあるっていうの?」
「ヒヒヒ……忘れたか? ウチの借金はトイチだからな。あれから10日、今日が利子の返済日ってわけさ」
「あ、あなたに払うお金なんて無いわよ。帰って、帰ってよ!」
魅羅は必死で虚勢を張っていた。
啖呵を切るも、その声はか細く震えている。
そして魅羅は遮る腕を振り払い、早足に家へと駆け込もうとしたが、男は音もなく回り込むと、その行く手を塞いだ。
「あッ!?」
「おおっと……今、嘘をついたな? 今日はそろそろ『aquarium』の給料日の筈だぜ? ウチへの借金、返してもらおうか。ま、利子分払ってジャンプするか、元金分も含めて返すかはアンタに任せるがな。ククッ」
「な、何故そんな事まで知って……? ……このお金は、弟たちや母さんの為に使うのよ! あなたに払うお金なんて一円も無いわッ!」
「ヒヒヒ……いいんだぜ、お前が払うつもりがないならな。お前の母親にも働いてもらうか、弟がちょっと行方不明になるだけだからな。大変だなぁ……母親は病気が悪化して死ぬかもしれないし、弟は手足を達磨にされてどっか外国の金持ちの愛玩物だ。日本人のガキは高く売れるんだぜ……」
「そっ……そっ、そんなの止めてッ!」
愛する弟のあってはならない破滅が脳裏に浮かんでしまい、魅羅は一瞬で青ざめた。
「おっと、そうなるかどうかはアンタ次第ってことさ。簡単なことだろ?」
そう言うと男は、魅羅に人差し指を向け、招き寄せるようにクイッと指を折り曲げた。いいから早く寄越せ、というジェスチャーであった。
そして魅羅は幾ばくかの逡巡を見せるも、やがて涙ながらに震える手で、鞄から給料袋を取り出して男へ差し出した。その唇は、きつく噛み締められていた。
「最初から大人しく寄越せばいいんだよ。オラっ!」
男はその手から強引に封筒を引ったくると、封を乱暴にこじ開け、一枚一枚紙幣の枚数を数えた。
「ひい、ふう、みい……。へへ……思った以上に稼いだじゃねぇか。頑張ったな。利子分を引いて、元金の返済額は30万ってところだな……。ホレ、残りはあんたら家族の生活費として残しといてやる。俺様は優しいからな」
男は、封筒の中から紙幣を三枚だけを引き抜き、地面に向けてばら蒔いた。
「ホラ、ひざまづいて拾えよ。暗いから気を付けろよ? 拾えた分は借金額から引いておいてやるぞ?」
「う、ううう~ッ!」
「ハハハハハハハ! いい眺めだなァ」
魅羅は唇を噛み締め、涙を浮かべながら落ちた紙幣を必死で広い集めた。男はその様を見て満足げに嘲笑していた。
「う、うう……鬼よ、あなたは鬼畜よ……!」
「お褒めいただきありがとうございます、お風呂のお姫様。また給料日が来たらお迎えにあがります。クククッ……」
男は恭しく皮肉たっぷりに頭を下げた。
魅羅は屈辱的な想いを噛み締め、せめてもの抵抗として顔を上げ、男を両の眼で睨み付けた。
「くっ……、こんな借金、一日も早く返してやるわ! 学校なんて辞めて働くッ! そうすれば満足でしょう!? だからウチにはもう来ないでッ!」
「おっと、高校を辞められると困るなァ。きちんと通うんだ」
「ッ……、どういう事……?」
「お前は自分で思っている以上に、風俗マニアの期待を集めているのさ。裏社会では『aquarium』には期待の新人が入店したと評判でね」
「それと高校辞める辞めないと、何の関係が 有るっていうの?」
「名門きらめき高校の現役女子高生だっていうだけで、風俗嬢としての人気は桁違いにハネ上がるのさ。ま、バレたら摘発だ。風俗マニア達の間でしか知られることの無い、暗黙の秘密ってやつだがな」
世の中に『現役JK 風俗嬢』という甘美な響きに招き寄せられる風俗マニアは多い。
しかし、未成年者による性風俗サービスの提供は風営法によって規制されており、警察の摘発を受けると嬢、経営者、客の三者は纏めてお縄となり、翌日のニュース一面を賑わす事となる。
しかしこうしたニュースが定期的に世を賑わせているという事自体が、裏社会においては現役JKの働く性風俗店が溢れているという事を証明している。
因みに合法的・脱法的な現役JK風俗嬢として『留年もしくは入学し直し』『18歳を迎えており学年の上では高校3年生と同等だが、中卒もしくは中退済み』という風俗嬢もいる(通っていなければ現役JKとは言わないのではないかと疑問を呈する者もいるが、ここでは目を瞑る)。
18歳かつ(通っていれば)現役女子高生でいられる期間は最長でも一年足らずしか無く、賞味期限が著しく短いという事もあってこのような嬢はJK風俗マニアからすれば垂涎の的である。
多くのリアルJK専門を吹聴する風俗店にあっては、こうした身の上で風俗業界へ飛び込んで来る少女は喉から手が出そうな程迎え入れたい存在であり、プロ野球のドラフトのようにこぞって自分の店へと迎え入れようとするのだ。
「私に……選択肢は無いってこと……?」
「察しが良くなってきたじゃないか。お前に選択権は無いんだよ。お前はこれから、昼は女子高生、夜はソープ嬢として知らない男に抱かれる。そういう二重生活をしながら借金を返していくって訳さ」
「断ったら……どうなるっていうの?」
「そうだな、ま、お前の母親や弟達が……」
「わ、分かったわよッ!」
半ばヤケクソ気味に魅羅は答えた。
「ま、仲良くやろうや……。俺達は組がケツを持つ風俗店で、より多くの人気嬢を抱えておきたい。お前は家族のため、より多くの金を稼ぐため、売れっ子風俗嬢となりたい。持ちつ持たれつって奴さ」
「そんなの、あんた達の勝手じゃないッ!」
「何とでも言いな。ま、せいぜい稼いでくれや」
そう言うと男は次の瞬間、最初からそこには誰もいなかったかのように夜闇の中に消えていた。
そして静寂の闇の中、魅羅は一人取り残されていた。
魅羅は自宅へ戻り、扉を閉めて玄関で一人すすり泣いた。
その翌日から魅羅は変わった。
必死になって男に媚びる仕草やファッションやセックスの研究をした。そして名前も知らない違う男に連日連夜抱かれた。
優しい母を、可愛い弟たちを、父の愛した家族を守るためである。
その甲斐もあって、ソープランド『aquarium』における新人マークが取れる頃、魅羅には一見のフリー客だけではなく、写真指名や裏返す客も付くようになっていった。
そんな矢先、桜舞う4月初旬。魅羅はいつものように、ソープランド『aquarium』へ出勤して仕事の準備を進めていた。
ファッション雑誌を読みつつ化粧を整えていると、店長からの呼び出しコールが入った。
「ふぅ。そろそろ指名の時間かしら……? はーい」
魅羅が呼び出された先、応接間では店長が待っていた。
「店長さん、ご指名かしら?」
「『ラミ』ちゃん、ちょっと話をしようか。短い間に随分プロのソープ嬢らしい風格が出てきたね。初めてウチの店に来たのが遠い昔のようだよ」
「そうね……。もう何だか……ほんの一月前が何年も昔のように感じられるわ」
「ところで、最近ちょっと目元が暗いけど、ちゃんと眠れてるかい?」
「え、ええ……。心配には及ばないわ」
「それなら良かった。それでね、ウチの店としては長年の稼ぎ頭だった『麗』が辞めちゃったから、新たな店の看板嬢、カバーガールになるような娘をプッシュしていきたいと思ってるんだ」
「それが……、私ってこと……?」
「ああ。一月足らずでルックスもスタイルも見違えるように綺麗になってきたし、お客さんのアンケートでも軒並み好評だ。どうかな?」
「あの、それって具体的にはどういう事をするのかしら……?」
「ああ、まずはHPのキャスト一覧のページで、お客さんの目に付きやすいように左上に配置する。あとトップページや提携サイトは『ラミ』のグラビア写真やPVを載せていくような感じかな。出来れば、顔出しもしてくれると嬉しいんだけど……」
「グラビアは兎も角、顔出しはちょっと……。それに私、4月からは学校が始まるから出勤数も短くしないといけないわ」
「ああ、そういえば学生さんなんだっけか。大学? 専門? それとも短大なんだっけ?」
「え……あの、私高校生で……」
「え”……!?」
「え……?」
部屋に、しばしの沈黙が流れた。
やがて意を決したように、五十嵐が恐る恐るといった風情で口を開いた。
「ふ、ふぅ~ッ。良く聞こえなかったんだけど、聞き間違いかな? 高校生って言ったように聞こえたんだけど。あ、それとも何か理由があって高校に通えず、後から入り直した口かな?」
「あら……言ってなかったかしら……? 私、現役の高1で」
「お前……マジか……!?」
「いけないの……?」
「お姉さんお姉さん、ウチはソープランド。風俗店。18歳未満は来店禁止。それは分かるよね?」
「当たり前じゃない」
「じゃあ『ラミ』。君の本当の年齢は一体幾つなんだ?」
「じ、15歳よ。でも、入店禁止っていうのはお客さんがって事よね?」
「ンな訳無いだろっ!! ……参ったな。『玻璃』さんの保険証で済まさずにちゃんと身分証を確認しとくんだった……。もしバレたら、ウチなんて一発営業停止を喰らうぞ……」
「わ、私……クビってこと? それは困るわ……!」
「あー、弟達の生活費やお母さんの手術代……だったっけ?」
「それもあるし、死んだ父さんの借金をヤクザに返さなきゃいけないわ。クビになるのも、ましてお店が潰れるのも御免だわ」
「あー……古菜実組の紹介だもんね……。きっとあいつら、この事は全部承知の上で仕組んでるな。責任だけ私に取らせようって魂胆か……」
「あの、店長さん……? やっぱり、ダメかしら? 私、辞めないといけないの?」
「いや、古菜実組みたいなヤクザは、何時だって面子を重要視する。その紹介でやって来た娘をすぐに辞めさせると、『面子を潰しやがって!』とか難癖をつけて来るんだ。最悪店が潰れてしまう。物理的にね。だから、おいそれと辞めさせる事だって出来ない」
「だ、だったら……」
「おっと、だからと言って私は未成年がここで働くのは反対だよ。警察にバレて目をつけられたら、遅かれ早かれ営業停止だよ」
「じやあ、どっちにしろダメじゃない」
「そうなんだよ。だから困った……」
「……」
「……」
二人の間に、暫しの沈黙が流れた。
恐る恐るではあるが、静寂を破り声を上げたのは魅羅の方であった。
「あの……店長さん。警察とヤクザ、どっちが怖いのかしら?」
「嫌なこと聞くね。赴きは違うけど逆らったら終わりの強権には変わり無い。どっちも怖いよ」
「……質問を変えるわね。逆に、もし店長さんが自殺志願者だとしたら、どっちに逆らった時の方が早く破滅できるのかしら?」
「それは……ヤクザだろうね。やつらは面子絡みなら何時だって迅速だ。所詮地方公務員の警察とは違う」
「じゃあ、決まりじゃない。不本意だろうけど、ヤクザに従うのよ。私はお金が必要、店長さんは店を潰さず、繁盛させたい。これで三者両得、アウフヘーベン……だったかしら テレビで偉そうなオバサンが言ってたわ」
「今時の子は変な言葉を使うね……。三者は良くても、警察はどうするつもりだ? ヤクザよりマシでも、バレたら店ごとおしまいだよ?」
「そう、そこよね? だから、私の売り出し方なんだけど、逆でお願いしたいのよ」
「逆?」
「そう。さっきはPVやグラビアを載せて、露出をガンガンに増やしていきたいって言ってたじゃない? その逆に、情報を絞るの。会員限定とか、プレミアムとか、お得感をつけるの。人は見えないものにこそ恋い焦がれるんだって、ファッション雑誌のモテ女テク特集に書いてたわ」
「……それは眉唾っぽいけど、考え方は悪くない。品薄商法みたいな事か。ただ、一つだけ超えなきゃいけないハードルがあるね。そういったプレミア嬢を好んで指名するのは、金持ち、風俗マニア、権力者といった一筋縄ではいけない相手が多いよ。そんな海千山千の男達を満足させる自信はあるかい? 出来ないようなら、それは諸刃の剣になる」
「……どんなお客さんでも、満足させてみせるわ。かつて伝説のソープ嬢と呼ばれた母さんや、こんな私の面倒を一から見てくれた麗さんの名に懸けて、ね」
「……そこまでの覚悟か。分かった。来週からは『ラミ』はプレミアム嬢仕様にしよう。その代わり、オプションはオールNG無しだ。いいね?」
「わ、分かったわ……」
「良し。宣材パネルやイメージ・ビデオは顔だけ映らないよう、扇情的に見えるような感じで撮ろう。明日には撮影だ。スタジオには連絡しておく」
「ありがとう、店長さん。それで、万が一警察にバレた時なんだけと、『店長さんは私が現役JK だって事を知らなかった』って言えばいいわ。お世話になった店長さんやお店のみんなに迷惑はかけたくないから……」
「分かった。『ラミ』ちゃん、キミの実年齢は秘密にしておく。あと、表向きは18歳ということにしておくよ」
「ありがとう。宜しくね、店長さん」
「……おっと、そろそろ指名のお客さんが来る時間だね。それじゃあ宜しく、『ラミ』」
「ええ、行ってくるわ。店長さん」
こうして魅羅は、現役女子高生と売れっ子ソープ嬢という二つの仮面を使い分けながら高校生活を送ることとなった。
そして迎えた、きらめき高校入学式の日。
「おい、アレ……。スゲー胸」
(ヒソヒソ……、やべ……勃ってきた……)
「マジパねー、エロ過ぎっしょ。本当に同級生かよ……」
(ウヒョヒョ……。三年間見抜きし放題……)
「フン、あんなケバい女のどこがいんだか……」
この年におけるきらめき高校の新入生女子は、例年に無きレベルの高さを見せており、各校から数多くの個性的な美少女たちが入学して来たとの評判の年であった。
例を挙げれば、『完全無欠のパーフェクト美少女』藤崎詩織、『運動部のアイドル』虹野沙希などが有名どころである。彼女らは美少女ウォッチャー達の間では中学の頃から有名であり、中には何処からか彼女らの志望校情報を聞きつけ、自分もきらめき高校を受験しようという男子さえもいた程である。
しかし、こと容姿という一点において、美少女揃いの新入生女子の中で最も衆目を集めているのは藤崎詩織でも虹野沙希でもなく、鏡魅羅であった。
元々、中学三年まではきらめき市の外で過ごしていたために魅羅の事を知っている者はほとんどいない。
しかし、もし魅羅の事を元々知っている者であっても、春休みの前後におけるその変化は最早同一人物とは思えない程であろう。
高校入学を控えた一月弱の間、一日一日を目の肥えた男性客から指名を得るために必死で容姿を磨き上げ、数えきれない程の相手とセックスに興じてきた魅羅から醸し出される色気は、他の女子生徒とはモノが違った。
例えるならば近所の中古車店において、普通の軽自動車やコンパクトカーが並んでいる中、一台だけランボルギーニ・カウンタックが陳列されている、といったところであろうか。
体育館では入学式が行われていたが、ただただ長いだけの理事長談話などは最早誰も聞いておらず、新入生の興味は列の一角で凄艶な存在感を醸し出す魅羅へと向いていた。
男子は少しでもその艶態を目にしようと列から身を寄り出し、女子はそれを見て嫉妬の炎を燃やす。そうした、これから始まる高校生活におけるヒエラルキーが既に運命付けられていた。
そして入学式を終えた翌日。魅羅が下駄箱を開けると、その中には大量のラブレターが投函されていた。
これ程の美人と付き合えれば高校生活は薔薇色になる、そのように考える男子生徒は枚挙に暇がない。
ラブレターだけではなく、直接魅羅を呼び止めて告白を始める男子生徒も多い。
ある日の昼休み、魅羅が屋上でたそがれていると、見知らぬ男子生徒から声を掛けられた。
「か……鏡さん!」
「……あら、私に何か御用でも?」
「実は……」
「……何かしら?」
「俺と、付き合ってくれないか?」
「えっ……私と……?」
「やっぱり、駄目かな?」
「悪いけど、今日は本指名のお客様を待たせているの……」
「本指名!? お……お客様?」
「あ……お、男の子よ、男の子。ファンの。そ、それじゃあね、失礼するわ」
誰もが振り返る程の超絶美人へと成長した魅羅であったが、このように男子生徒からモテモテとなる事にはあまり免疫が無く、なるべくやんわりと断っていた。
以後も登下校中や休み時間などに、魅羅の前へ突然押し掛けては告白を始める男子生徒がちらほらと増え出していたが、やがて減少していった。 これは男子生徒達が魅羅への告白を諦めたというわけではなく、有志達が『鏡魅羅ファンクラブ』を当人の預かり知らぬ所で勝手に結成し、お互いに牽制を始めたからである。
そして放課後を迎えると、真っ直ぐに帰宅する魅羅は僅かな時間を弟達と過ごし、日が落ちる頃にはソープランド『aquarium』へと出勤する。
そして魅羅は、今日も見知らぬ男と身体を重ねている。
いつの日か家族、そして自身の人生を取り戻す事を夢見て。
高級ソープランド『aquarium』。
ホームページ上、会員専用ページにログインするとプレミアムコンパニオンの紹介ページが表示されるようになる。
プレミアムコンパニオン一覧の左上、即ちNo.1の指名数を誇る人気嬢の定位置には、毎月『ラミ』が位置している。
『ラミ』のページを開く。
紫のコルセットビスチェ、エレガントなレース付きTバックショーツとガーターベルト、そして黒のハイヒールミュールを履いた『ラミ』が、光射し込む部屋の中、柔らかそうなベッドの上で気だるそうに美脚を投げ出し、左手をかざして目元を隠している。
写真をスワイプしていくと、胸を寄せて谷間を強調した写真、脚をM字に広げしゃがみこむ写真、Tバックで強調された桃尻をぐいとカメラに向けた写真が写し出されている。
そのどれもが淫靡な風俗嬢然としており、顔の上半分が映っていない所が想像心をかきたて、より一層男達の歓心を買うのであった。
ーソープランド『aquarium』ー
コンパニオン紹介ページ
ご予約は△△×-○××△まで
名前:ラミ(18歳)
サイズ:B90(F cup)W60H88
身長:167cm
血液型:O型
出身:東京都
前職:学生
喫煙:喫煙しない
好きな男性のタイプ:優しい人、思いやりのある人
ボディータイプ:グラマー
タトゥー:無し
チャームポイント:おっぱい
得意プレイ:パイズリ
性感帯:おっぱい
姫からお客様へのメッセージ:はじめてなので緊張してますが、ご満足頂けますように一生懸命頑張ります。
お店からのコメント:業界未経験のスタイル抜群Fカップちゃんの入店です。ちょっぴりシャイで年齢にそぐわない大人びたフェイスの彼女は、実はとっても献身的。お客様と二人きりになると、股間をぐっしょりと濡らすH大好き淫乱娘へと変貌します。誰にも邪魔されない二人だけの贅沢な時間をお楽しみください。
可能基本プレイ:Dキス/パイズリ/玉舐め/アイマスク/全身リップ/フェラチオ/潜望鏡フェラ/69/ローションプレイ/マットプレイ/アナル舐め/本番(ゴ有)
可能オプション:コスプレ/イラマチオ/顔射/ゴックン/パンティお持ち帰り/ポラ撮影/AF/本番(NS)/中出し
ーソープランド『aquarium』からお客様へー
当店は厳選された泡姫による極上のサービスを提供するため、接客、マナー、サービス等徹底的に教育しております。ハイクラス美女と過ごす、極上の癒しと快感をお約束致します。
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