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2018/03/19
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……夢を見てた。タカ坊と、一緒の家に住む夢。

エプロン姿の私は、彼の寝坊を怒りながらも嬉しそうに笑顔を浮かべていた。

彼と一緒に、特別じゃない毎日を過ごせるだけで……とても嬉しそうだった。

例え彼が私を選んでくれなくても……彼の傍に居られるだけで、私は幸せなはずだった。

何故なら、妹分であるこのみの気持ちを知っていたから。

あの子とタカ坊を取り合いにでもなれば、私はきっと身を引く。

……嫌なのに。

……渡したくないのに。

……誰かに渡すくらいなら、いっそ……。






ーーコワシテ、シマエバ……。







ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ッ!? はっ、はぁ……はぁーッ……ふぅぅ……。夢……?」

重い体を起こせば、背中は汗でびっしょりだった。

辺りを見渡せば、どこを見ても真っ白だった。

壁には一点の染みもなく、家具なども一切ない。

あるのは私が寝ていたベッドだけで、他には何もない真っ白な空間だった。

どこかの部屋らしいが、窓も見当たらない。出入り口らしい引き戸が見えるだけだ。

「……どこかしら、ここ? 私、どうして……」

自分の姿を見れば、白い検査服の様な布を纏っただけの姿。

下着も付けておらず、何となく帯を引き締めた。

……私、何かしてた? 昨日は……昨日?

ーー思い出せない。まるで遠い昔の記憶を引っ張り出すように、何も出てこない。

記憶を辿ろうとすると、ズキズキと頭が痛む。

……どうして? 何で思い出せないの?ここはどう見ても、向坂の家じゃない。

私の記憶の中の、どの建物とも違う。

まるで……そう。病院の病室、それも窓一つない徹底ぶりを見ると……精神患者が入る病室のような……。

考えただけで身震いする。まさか、そんなと不安が過ぎり、自分の抜け落ちた記憶が不安を増長させる。

ーーとにかく、ここを出て、誰かに聞かないと!

掛け布団を捲り、裸足の足を床に下ろす、いざ一歩踏み出そうと下半身に力を入れるが、

「……あ、れ?」

力が入らず、前のめりに倒れてしまう。

下半身だけじゃない。手を握る、開くの動作がやっと。

身体中、力が入らなかった。

「そんな……どうして、私……?」

やっぱり病気か何かのせい? でも、昨日まで、私……?

『〇〇✕△ッ!! ダメだッ! 諦めるなッ!?』

「ッ!? っう!? 何……? 誰? 」

顔がボヤけた男の子が何かを叫んでいた。

全く見覚えが無いはずなのに、大切な事だったように思う。

……誰だろう? 何か、大事な事を忘れているような……?

記憶をもう一度辿ってみる。

私の名前は?

ーー向坂環。向坂家の長女。″一人っ子。親兄弟はいない。全員、幼い頃に亡くした。″

私は、今まで何をしていた?

ーー私は、高校に通っていた。それなりに友人も居たが、″親が残した借金に日々を追われていて……ついには……ついには……?″

「……? 私、こんな生活してたのかしら? 違う、気がするのだけど……思い出せない……」

頭の中で真っ白なモヤがかかっていた。記憶の糸を辿ろうとしても、雲を掴むようにすり抜ける。

床に座り込んだまま、立ち上がれずにいると……突然、部屋のドアが開いた。

「Wow! 起きてる! びっくりしちゃった!」

入って来るなり大声で騒ぎ出す女性……いや、おそらくは私と同じ年位の人だ。

黒髪の長髪。毛先にパーマを掛け、大きな瞳をこれでもかと見開いている。

両手を上げて、どうやら驚きを表現しているようだった。

しかし、彼女の格好を見た私の方が驚きのあまり、言葉を失う。

「床にへたり込んじゃって、新しい子はまだ寝ぼけてるのかな? それとも、動物さんの本能? ネコちゃんかな? それともワンちゃん?」

ゆっくりと近いてくる彼女は、素肌に白いエプロンをしただけの姿だった。

真っ白な肌が丸見えで、屈んでしまえば、彼女の大事な部分が丸見えになってしまうだろう。

「あなた、どうして……そんな格好を?」

何とか口に出すと、問うた彼女は満面の笑みを返した。

「ご主人様のために決まってるじゃない! ご奉仕は私達家畜の存在意義だワン!」

舌を出して、両手を猫の手にしてポーズを取る。犬なのか猫なのか、どちらなのか。

「家畜って……何言ってるの? アナタ、私と変わらない位の歳でしょ? 人間なのに、動物みたいな……」

「何言ってるのー? ご主人様以外は家畜でしょー? 家畜にも階級があるだけで、私はようやく服を一枚頂いたけど、いつでも使って頂けるように……ほらー」

「!?」

彼女は私の目の前でエプロンを捲りあげた。

その奥には、ピンクのハートマークシールが彼女の秘部を隠すように貼られていた。

そのすぐ側には、孕み頃♡ と書かれ、陰部の毛がシールからはみ出ている。

「ご主人様の性処理は、私達の務め。まあご主人様は、大体新品を使うんだけどね。新品を何度か試したら、また私達みたいな中古を気まぐれに抱いてくれるの! アナタも早く立派な牝になれるといいわね!

まだ新品なんでしょ? 」

彼女は自らの秘部を指差しながら、私に訊ねて来た。

新品、の言葉に一瞬意味が分からず言葉に詰まったが、すぐに彼女の言葉の意味を理解し……声を荒げかけた。

「にしても、アナタスゴいわね。もう目が覚めるなんて。あんなにぐちゃぐちゃだったのに……」

「……? 何を言ってるの?」

また意味が分からない。無遠慮な視線を私に投げかけては、一人で納得したように頷いている。

問い質そうとすると、身体をしゃがめた彼女が私に肩を貸してくれた。

「よっと。取り敢えず、起きたならご主人様の所に行きましょうか。まだ力入らないみたいだし、連れてってあげる」

「あ……ありがとう?」

笑顔を向けてくる彼女の反応に戸惑う。

肩を貸してくれて、歩かせてくれるのは良い。しかし、ご主人様とは誰のことだ? ここはどこなのか?

彼女の口からは全く説明がない。

聞いても良いかもしれないが、先ほどからの説明を聞く限り、変な答えが返って来たらと考えてしまう。

既に頭が理解し切れていないのに、ますます頭が混乱する。

せめてーーーー。

「あの……名前を聞いてもいいかしら? 私は、向坂環」

隣に立つ彼女に視線を向ければ、口元を満足げに曲げた笑みを浮かべる彼女の顔。

こちらを覗き込む、大きな瞳。青……いや、″碧眼″と言うべきか。

よくよく見れば、日本人離れした素肌やスタイル。もしかしたら、日本人では無いのかもしれない。

「goo! 人の名前を聞く時は、まず自分からって、ことね! 良く出来たわ! 偉いわね、アナタ!」

同い年くらいかと思ったが、言動は先ほどから子供っぽい。

いまいち掴みにくい相手だ。

私が黙って視線を向けていると、気付いた彼女が笑いかけながら自らの名前を口にした。

「″ハルカ″よ! よろしくね! 環!」

空いた手で握手を求めてくる彼女。私は戸惑いながらも手を差し出せば、勢いよく掴まれ、さらには上下に激しく振られた。

「環なら、きっと立派な家畜になれるわ! 早く使ってもらえると良いわね!」

……この子……。

明るい性格に惑わされそうだが、やっぱりこの子はおかしい。

言動一つ一つの歯車が、狂っているようだ。

本来綺麗だと感じるはずの笑顔も、目元が笑っていないからか……狂気にも似た何かを感じる。

エプロンだけを身に付けた彼女。

爛々と輝く碧眼で、一体何を見ているのか?

私は肩を貸してもらい、ゆっくりと部屋の中を歩きながらも……部屋の外に出るのに、足が竦んでしまいそうだった。

……この部屋を出たら、一体どうなってしまうのか?

もしかしたら、このままこの部屋に居た方が……安全だったのではないか?

私は後悔の念を感じながらも、隣で肩を貸してくれる彼女を呼び止める事が出来なかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ーーアンッ!? い、いいのおッ! もっと! もっと! 突いてぇ! 私、壊してぇッ!!」

「あひ! おアァッ!? かひゅ……おぉぉぉッ!? も、だめ……イグゥ!!」

「はへぇッ!? イッちゃう! イッちゃうからぁ! 許してぇ!」

……酷い。なに、これ……。

その空間は、異臭が立ち込めていた。乾いた破裂音が響き渡り、そこかしこで女性の歓喜に極まった声や悲鳴、阿鼻叫喚の地獄絵図。

至る所で、裸の女性達が身体中を辱められていた。

吊し上げられた女性も入れば、壁に固定されたり、椅子のような器具の上に括り付けられた女性もいる。

いずれも裸。ただ1点、真っ黒な大きい首輪だけを嵌められ、涙や涎を出し快楽に溺れていた。

その方法は様々。穴と言う穴に振動する機械を入れられていたり、胸を牛のように絞られていたり、棒状の機械を激しく打ち込まれていたり……凄惨な風景が広がっていた。

「あは! 皆幸せそう! ご主人様に使ってもらえたのか分からないけど、雌としての性は楽しんでるよね!」

前を歩く彼女が嬉々とした表情を見せ、舌を出して息を荒くしていた。

はぁはぁと荒い呼吸を繰り返し、ついには頬を赤く染め、自らの秘部を指で慰め始めた。

私は他人の自粛なんて見た事がないし……この場で凌辱を受けている人達のような女性経験もない。

そもそも私、自分で慰めたりすら……。

経験は無い、けれど周りの淫靡な声や行為に充てられてか……私の下半身が疼く。

ともすれば、両手が私の秘部を慰めてしまいそうだ。

……おかしくなる。ここに居たら、私まで……!

意を決して、駆け出した。

後ろを振り向けば、地べたに座り込み、淫靡に悶えるハルカの姿。

聞き慣れない単語を口にしては、口から涎をダラダラと流してしまっていた。

やっぱり、彼女も狂っていた。もしかして、この部屋自体に細工が?

部屋に連れて来られた事自体が罠だったのか、今になっては分からない。

通路すら見当たらず、女性達が犯されている阿鼻叫喚の中を力の限り走った。

……が、


「あ……んッ!?」

不意に何かに足を掴まれた。振り払う事も出来ず、前のメリに倒れてしまう。

何とか腕で頭を庇ったが、走った勢いのまま、転ばされたのは痛かった。

肘を僅かに擦りむき、痛みに顔を顰める。

掴まれた足を見、掴んで来た相手を視界に入れた。

「あ、ひひゃんッ!? あぎぁッ!? もう許しでェッ!? 私、おかじぐぅ!? こ、向坂、さ、ん……だずげでェ……」

涙と鼻水、汗にまみれた顔。そこら中の女性達と同様、快楽と苦痛に支配された表情。

長い金髪は煤汚れ、何とも言えない匂いが立ち込める。

見れば彼女は、下半身に何度も高速の振動する棒を打ち込まれ、身体の至る所に金のリングをハメられていた。

女性としては魅力的だったはずの身体も、所々に痛々しい傷跡があり、皮膚が爛れてしまっていた箇所もあった。

彼女は助けを私に求めていた。向坂さん、彼女は私の名前を知っていた。

私は痛々しい彼女を視界に収め、記憶の中の知り合いと合致させようと辿っていったが……

「……誰、あなた……?」

「……え、こ、向坂さん、わ、私ぃ……ささ……あへェッ!?」

彼女の両方の乳頭にどこからか機械のコードの束が集まり、先端の針が突き刺さっていく。

乳頭から血が滴り落ち、怪しく蠢くコードは彼女に何かの薬物でも打ち込んでいるようだった。

やがて彼女が、ゆっくり痙攣を始める。その表情は白目を向き、時折短い悲鳴を上げている。

見れば、掴まれていた私の足は解放されていた。彼女を助けようにも、私にはどうする事も出来ない。

周りの女性全てが、彼女と同じように身体を拘束され、弄ばれている。

「……ごめんなさい。今の私にはアナタを助ける事は出来ないの。けど、必ず助けを呼んで戻って来るから……!」

見た事もない機械に身体を弄ばれている彼女には、もう私の言葉なんて聞こえていないのだろう。

涙を流しながらも、すっかり快楽に染まってしまった表情を浮かべ、気持ちいい! と声を大にして叫んでいた。

おぞましい所業の数々に、腸が煮えくり返る。

これほどまでに怒りを感じた事はなかった。

知らない内に連れて来られた場所は、女性が一方的に嬲られるだけの施設のようで……相手はいずれも機械。

男性の姿が見えないのは、少し不思議に感じたが……彼女達の有り様を考えると、些細なことだ。

「……早く抜け出さないと……でも、出口が見えない……?」

そこら中から女性の悲鳴が聞こえ、壁に埋まったまま凌辱を受けている女性の姿もある。

壁は見える。しかし、前後左右、遠くに壁は見えるが……出口らしき物が見えない。

前後……? え? 私が入って来た入口は?

自らの目が信じられず、後ろをもう一度振り返るが入口らしき物もない。さらに言えば、先ほどまで近くに居たはずの金髪の女性も、ハルカも居ない。

そんなに走った? いえ、私の身体はまだ上手く動かない。長い距離は体力が持たないし、速くも無理。

だと言うのに、どうして風景が違うのか?

変わらないのは、そこら中からの女性の悲鳴や凌辱の数々。

……どうしたらいいの? こんな所に居たら、私までおかしくなる。それにあの変な機械に捕まったら……私も、きっと……。

寒気が走り、言いようのない恐怖を感じた。走り出したいが、目的地すら見えない。

ついには、諦めてその場にへたり込んでしまった。

私は、こんなに弱い人間だったかと自問自答するが……自らに問うた質問に答えは出ず、頭の中がかき混ぜられた気さえする。

「……私、こんなに弱かったの……? 思い出せない。ここは、どこなの?」

身体を抱きしめるが、とても冷たく感じた。恐怖心がすっかり頭を支配し、身体中に震えが走っていた。

私、なんで……全然分からない。これは現実なの? それとも夢?

頭を抱えて戸惑っている間にも、女性達の悲鳴や金切り声は響く。

ついには目を閉じ、耳を両手で塞ぐ。
抜け出せない迷宮から、ただただ逃避した。

情けなく、みっともない姿なのは理解している。しかし、ただでさえ私の理解を超えた出来事ばかり続き、私自身……頭の中にモヤがかかっている。

自らの立ち位置さえ、はっきりしない私に……何が出来ると言うのか。

周りの悲鳴も歓喜の声も、獣のような咆哮も……耳を塞いでも聞こえてくる。

やめて! もう、入って来ないで! 私の中に……身体に……刻み付けないで……ッ!!

必死に願うだけの私は、その場でしゃがみこんで目を背けるしか出来ない。

私、こんなに……。


『ーー無様だな』

「ーーッ!?」

唐突に……本当に唐突に、頭に誰かの声が響いた。

肉声ではない、どこか濁った声音。全てを見透かしたような台詞に苛立ち、かぶりを振って、目を見開くと……。

「……え?」

真っ白な空間が広がっていた。壁も天井も、シミひとつ無い白さ。

輝いて見えるような完璧な白さは、一瞬、この世の物では無いかのような錯覚すら起きる。

「なんて顔をしておる。獣が如き姿をどこにやった」

先ほど頭の中に響いた声と同じ、どこか濁った声が聞こえてきた。

声の主を探せば、すぐ正面に仰々しい豪華な装飾の施された椅子に腰掛けた鎧の人物が座っていた。

獅子を模しているであろう銀の兜。さらには白銀の鎧に身を包んだ人物が、つまらなそうに頬杖を付いて、こちらを見ていた。

数メートル離れてはいたが、声が届く距離だ。兜に覆われた顔は見えないが落胆しているように見える。

「……つまらぬ。すっかり覇気を失いおって、何処ぞの雌と変わらぬではないか」

「……誰、なの? アナタ、ここが何処か知ってるの?」

恐る恐る声を掛けるが、相手の反応は冷たいものだった。

見るからに落胆の色を示し、こちらへ吐き捨てるような台詞を吐く。

「……これも一興と戯れに中身を塗り替えたのは失策であった。見世物にすら劣る、壊れかけの人形ではないか」

兜越しに睨まれているようだが……言葉の節々から感じるのは、軽蔑や非難に近い色だ。

人形とまで言われた私は、無論腹も立ったが、こんな言葉も通じなさそうな鎧の相手に、下手に口を出していいか判断に迷う。

結局、私は口を噤む。下唇を噛むしかない。

「……戻すのは簡単だ。しかし、それもつまらぬ。余興として、獣を飼うのだ。見世物の一つでも、してもらわんとな……どれ」

先ほどから何を言っているのか、と訝しげに相手を見ていると……鎧の人物が座る近くに、音も無く突然女の子が現れた。

目の前で手品でも見せられたような感覚だったが、現れた女の子の姿を見て、とてもそんな楽しいものではないと感じた。

現れた女の子……小柄で小さな少女は、一糸まとわぬ姿だった。

さらには、あの狂った空間にいた女性達と同じ、黒い首輪だけをハメられ、身体中薄汚れていた。

おそらく両側で結っていた髪も、片方が解かれ、乱雑に黒髪が乱れていた。

虚ろな目は視点が定まらず、身体は軽く痙攣していた。

全身が燃えるような汗をかいており、さらには少女の秘部は透明な液体が止めどなく溢れ、座り込んだ地面を濡らす。

少女は、思い出したように深い呼吸を繰り返し、片手で小ぶりな胸を、片手で自らの秘部を指で弄り始める。

……酷い。こんな小さな女の子まで……。

「こやつを見て、何か思い出さぬか? 貴様のお気に入りだろう?」

「……なにを……?」

弾んだ声で、探るような物言いをされた。

兜の男は、軽々と少女の身体を持ち上げると、こちらに近づいてきた。

「見覚えはないか? 貴様の大事な妹であろうに」

「妹……?」

引き寄せられた少女は、男に吊り下げられても何の反応も示さない。

変わらず虚ろな目を向けるだけだ。

……私に妹なんて居ない。両親だって居ない。肉親なんてーー

「……ダメか。所詮は他人よ。試すだけ無駄であった」

「ッ!? やめッ!?」

男がそう言った直後、少女を持ち上げていた手を大きく振った。

見れば掴んでいた手を離しており、まるで投げ捨てるように少女の身体を離していた。

咄嗟に静止を呼びかけるが叶わず、放り投げれた少女の身体は一直線に地面へと、


「……え?」

ーー消えた。地面にも、壁にも触れず、音もなく。

また手品だろうか。とっくに私の理解の範疇を超えており、考えるのも馬鹿馬鹿しくなってくる。

改めて視線を兜の男に向けると、相手もまた落胆した様子を隠しもせず投げやりな様子で″次″を呼び寄せた。

「ならば、こやつはどうか?」

台詞と同時に、また兜の男の手に、新しい人物が現れた。

今度は裸の男性……男の子だ。兜の男に首を捕まれ、力なくぶら下がっている。

意識は無いのか、男の子は目を瞑ったままだ。生きているのかと、心配したが僅かに呼吸しているようだった。

……若い子だわ。私と同じか年下くらいの……。

先ほどまで女性が嬲られている場面に遭遇していたからか、男性を久しぶりに見た気がした。

しかし、まじまじと見ようにも男の子は裸だ。私は、男性の裸なんて見た事がなかったし……男の子のお股には男性器が生えていた。

当たり前だが、私にとっては気恥しく、直視は出来ない。

兜の男は見せつけるように、男の子を掲げるが正面からは見る事が出来ず、顔を背けてしまう。

「目を背けるでない。想い人同士、合わせてやったのだ。感謝せよ」

「想い人……?」

兜の男は明らかに私の反応を見て楽しんでいる。

先ほどの女の子も、この男の子も、私の知り合いらしいが……私の記憶の中に思い当たる人物は居ない。

……誰なの? 想い人って、私は……この男の子の事を……?

恥ずかしいとは言っていられず、首を捕まれている裸の男の子を見つめる。

彼はうわ言で何かを呟いているようだったが、声が小さすぎて聞き取れなかった。

それに、思い出そうとすればするほど頭の中で鈍い痛みが走り抜ける。

ガラスにヒビが入って行くような感覚。額に手を置き、痛みを我慢するが全く痛みは収まらない。

それどころか、心臓が早鐘のように脈打ち、男の子を見る度に胸が苦しくなる。

「どうか? 何か思い出せたか?」

兜の男の問いに、小さく首を振る。

頭や胸は痛いが、記憶に変化はなかった。

この男の言う通りなのだろうが、完璧に記憶から抜け落ちてしまっている。

「……所詮はその程度か。ならば、此奴を生かして置く価値はない。処分して構わぬな」

兜の男は、男の子の首を絞める力を強め、そのままか細い首をへし折ろうとしているように見えた。

「ま、待ってッ!? こ、殺さないでッ!」

私は咄嗟に静止を呼びかけ、鎧の男の足元に縋り付いた。

震える身体を叱咤し、必死に懇願する。

鎧の節々には鋭利な突起があり、ともすれば触れるだけで武器になる物ではあったが関係なかった。

私は自分の素肌に鎧の鋭利な突起が食い込むのを気にせず、相手に懇願した。

「貴方の目的は私でしょう? 確かに私は記憶が混乱してるみたい。でも、でも……彼を見ていると、何かを思い出せそうなの! 私に出来る事なら、何でもします! だから……だから、彼を殺さないでッ!」

早口でまくし立てる。余裕も無く、なりふり構わず懇願した。

兜の男は私と掴んでいる彼を見比べ、一瞬、考えを巡らせたようだった。

それに伴い、僅かに男の子を掴む力が弱まったようだった。

私はその様子を見て、ホッと息を吐いた。







……吐いて、しまった。








「……やはり、要らぬ」

ーーボキッ。

「……え?」

短く吐き捨てられた台詞に耳を疑ったが、僅かに聞こえた鈍い音の正体を探るより早く、

「あ……あぁ……ッ!?」

鎧の男に捕まれていた、裸の男の子の身体が……無残にも地面に落ちた。

重力に逆らえず落ちた身体を視界に入れれば、女の私から見ても細い首が……あらぬ方向へねじ曲がり、彼の至る所から血が吹き出していた。

ーー見るからに即死だ。助からない。
簡単に、いとも簡単に……彼の命は奪われた。

……どうして……私は、やめてと言ったのに。

「憐れな男よ。何もかも奪われた挙句、たった一人守った相手にさえ、記憶から忘れられ朽ちていく。無様よな」

淡々と吐かれた台詞。私は奥歯を砕かんばかりに噛み締め、全身がザワザワと総毛立つのを感じた。

身体中が燃えるような……血液が沸騰し、血管が異常な速さで脈打っているかのような気さえする。

……何で、何で彼が犠牲になってるの? 私ハ、何の……誰の、ために……ッ!!

「もうよい。貴様の腑抜けた顔も見飽きたわ。牧場で飼うとーー」

「ーーくも……ッ」

「ぬ……」

これ以上、その男の声を聞きたくなかった。

また勝手な言い分を宣い、また私で弄ぼうとした相手に……殺意のこもった眼差しを向け、

「ーーよくもッ! ″タカ坊″をッッ!!」

一足飛びに、地面を蹴り、兜の男目掛けて両腕を振り下ろした。

「ーーーーッ!」

即座に反応して見せた男は片手を上げ、私の方へとその手を向けた。

私との間に、見た事もない文字の羅列が刻まれた魔法の壁が現れていた。

キィィン……ッ! とまるで金属通しがぶつかるような音が響いたが、私も兜の男も一切関係無く、目の前の相手だけに集中していた。

「ーーく、クク……ッ! クハッ! 何だ貴様ッ! やれば出来るではないかッ!!」

私は両腕に力を込めて″振り下ろしている″のに、この男はまだ余裕がある。

湧き上がる感情のままにぶつけた怒りは、まだ足らない。

……もっと、もっと……ッ!

すぐさま地面に降り立ち、2撃目を振り払うつもりだった。

が、そこで……ふと、私自身の変化に気づいた。

「……なに、これ?」

私は全身を真っ黒なマントに身を包み、両腕には身の丈以上の大きな鎌。

まるで死神のような出で立ち。命を刈取る役割を担ったその姿は、私が願ったものだったのか。

「クラスチェンジ……したの?」

私の中の怒りは勿論消えていない。

しかし、それ以上に何故クラスチェンジ出来たのかと……自分の両腕に捕まれた大鎌に問いかけてしまっていた。





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