イラスト・小説投稿サイト
登録者数: 33
today: 1338
total: 1721721
lion
作品閲覧
アドベンチャーファーム
2
create
2017/12/02
today
1
total
767
good
1

「さ、そろそろ皆の所に戻りましょうタカ坊」

あれから私はこのみに前線を任せ、後衛でタカ坊を守りながら戦闘を続けた。

当初の予定通り私のレベルはあっという間に上がり、クラスチェンジ出来るまでに力が戻った。

あとはキャンプ地で、タカ坊にクラスチェンジの解放をお願いするだけ。クラスチェンジはキャンプ地でしか出来ない上に、私達女性だけでは実行出来ないのは不思議だが……今はそれを気にしても仕方ない。

彼の手を引き、前へと進めばタカ坊が笑っていた。

「タマ姉、早くクラスチェンジしたいの分かるけど、急かしすぎだよ」

このみを見て、と言われれば妹は少し疲れているようだった。

体力的には一度も攻撃を食らってはいないが、魔力をバンバン消費する魔法を使いすぎた為か、殆ど魔力が残っていないようだ。

「ごめんなさい、このみ。私のために頑張ってくれたのよね……」

妹の小さな身体を抱いてあげれば、胸の中でこのみが大丈夫でありますよ~と間延びした声をあげた。

「タマお姉ちゃんだって早く帰りたいもんね。このみもお母さんやちゃる達と合流したいであります」

顔をあげたこのみが、疲れを感じさせない笑顔を向けてくれる。

私はもう一度ありがとうと告げ、このみの身体を離した。

「このみ、一応回復しとけ。キャンプ地にはすぐ帰れるけど、念の為な」

タカ坊はこのみに小瓶を一つ手渡す。その小瓶は私も知っている魔力の秘められた聖水が入っている。

私も飲んだ事があるが、味はスポーツドリンクに近い甘みもあり、後味も悪くないものだ。

「了解でありますよ~! 帰りもおまかせであります!」

言うが早いか、このみは小瓶の中身を一気に飲み干す。ぷは~! と一息つくとこのみは元気にその場で飛び跳ねた。

「ふっか~つ! バッチリであります! 隊長!」

私とタカ坊に敬礼までするこのみを見て、私達は苦笑を返した。

「帰りも頼んだぞ、このみ」

「よろしくね、このみ」

二人でお願いしてみれば、このみは胸を軽く叩いて、おまかせであります! と力いっぱい返事を返してくれた。

何とも頼もしい妹分を褒めてあげたくて、頭を撫でる。

このみは気持ち良さそうに、えへへ~!と顔を蕩けさせた。

「じゃあ、行こうか。二人とも」

タカ坊が私達の前を歩こうと、背を向ける。

私はこのみから、タカ坊へと視線を向けた。



ーーその時だった。


ーーシュッ。と僅かに風を切る音が聞こえ、鈍い光を放つ何かが、彼の正面から襲い掛かったのは。

……ゾワッと私の全身の毛が逆立ったような感覚。私はこのみを離し、感覚のままに前を歩こうとしたタカ坊を突き飛ばした。

ーーその、刹那。




ーーザシュッ! と私の左腕に鈍い感覚。そのまま無様に転げ落ち、私は自分に何が起きたのか一瞬理解出来なかった。

「た、タマ姉ッ!?」

「タマお姉ちゃんッ!?」

前と後ろから、悲痛とも言える二人の声。

慌てて駆け寄ってくる気配も感じ、私は痛みから無意識に閉じていた瞳をゆっくり開けた。

「……大丈夫? タカ坊?」

怪我はない? と訊ねると彼は怒ったようだった。何言ってんだ! と彼らしくない感情のままの怒りだ。

彼は懐から、体力回復用の聖水を出し、私の左腕に掛けていたようだ。

それは体力を回復させるもので、傷口にはあまり効果はないと思うのだが、彼は必死ですぐに包帯を取り出し、慌てて私の左腕に巻き付けようとしていた。

「タマ姉ッ……! くそ、誰が、こんなッ!」

私は焦るタカ坊と裏腹に自分の左腕を冷静に見てみた。そこには太い矢が深々と刺さり、私の腕を貫通し地面に突きたっていた。

……これじゃぁ、包帯は無理ね。

ドクドクと血液が脈打っているのが分かる。自分の血をこんなに見るのは、小学生の時に遊んでいて怪我をした時以来かもしれない。

「タマお姉ちゃん! 待ってて! 今、このみが!」

妹は両手を私の左腕にかざす。そう言えば、このみは回復魔法も使えるのだった。

私の傍にしゃがみ、回復魔法を掛けようとした妹の手を……私は掴んだ。

え? とこのみが困惑した表情を見せるが、私の瞳は先ほどから感じる第三者の視線を捉えていた。

やがて、その人物は全く隠れもせず堂々と……私達の前にゆっくり歩いて来た。

「……ほう。戯れに射ったとはいえ、余の弓を防ぐとは……面白い雌もいたものだ。そこな男の頭を射抜くつもりであったが……面白い」

……男?

白い立髪の馬がまず姿を現し、それに跨る銀の鎧を身に付けた……人型の怪物。

ご丁寧に顔まで覆い隠す兜を被り、顔は見えないが体格や声は女性のものとは思えない。

優雅に、どこか気品のある態度で近づく姿は余裕の現れのようだった。

手に携えていた弓を飽きたように投げ捨てると、男の手を離れた瞬間、その弓が消えた。

……魔法? でも、こんなの……。

魔法に入る予備動作を全く感じさせなかった。気配もまるで感じないし、今だって目の前にいるのに、殺気どころか感情の一切が見えなかった。

ただ、この相手が私達を見下しているのは確かで……地べたに這いつくばって私に視線を向けているのは分かった。

「こんなモンスター、見た事ないよ……。初めて見る」

このみは私の傍で、震える身体を叱咤しながら杖を握る。

おそらく彼女も相手の不気味さ、異質に気づいたのだろう。

いつでも立ち上がり、魔法を使う事が出来るように心構えをしたようだった。

「……モンスター? 怪物に怪物呼ばわりされるとは、思わなんだ。貴様ら雌畜生こそ、異質の存在であろうに」

……え?

男が口にした言葉は、私達と同じものに感じた。

今までも会話の出来る魔物はいた。しかし、そうした輩は大抵が聞く耳持たず、問答無用で襲い掛かってくる。

しかも会話が出来ると言っても、結局の所共存は出来ず、また襲い掛かって来ないようにと……封印してしまうのが常だ。

タカ坊には戦う力こそ無いが、そうした封印術も使えるスキルがあり、彼に封印するかを委ねている。

それに……今までの相手は、自分達が魔物だと分かっていたし……自分達が異質の存在だと理解もしていた。

なのに……この男……。

「……もしかして、あなたも″人間″なの?」

私は思わず口にし、兜の男に訊ねる。

倒れていた身体を起こし、力無く垂れ下がった左腕を右手で支える。

「……あなたも、だと? 貴様ら雌畜生と一緒にするな。余はこの世で唯一の″ヒト″、皇である。家畜風情と同じ視線で人を語るな、間抜け」

……やっぱり、人間? 私達以外に人間が居たの?

だったら、きっと話せば分かってくれる。私達の元の世界の話を聞けば、協力出来る……いや、

「このみ達は人間だよ! モンスターじゃない! この変な世界に飛ばされただけで! 普通の高校生! だから……」

「黙れ」

このみの叫びを無視し、男が軽く手を振った。

その振られた手の先から、突然幾数もの刃が出現し、このみに降り注いだ。

私は隣のこのみを庇うように、彼女を私の身体で覆い隠すように抱きしめた。

「……ほう」

衝撃が来るかと思えば来ず、ゆっくりと後ろを振り向けば、無数の短刀が空中で静止していた。

空中に浮いている刃達は、まるで主の号令を待つかのように私達を取り囲んだまま止まっていた。

見れば兜の男は、私達に手を向け、まるで刃達に静止の命令を降しているかのようだ。

「そこな赤毛。余の弓を見切った事といい、か弱き身でありながら、また余の刃より先に動いたな。分からん奴よ。触れれば折れそうな弱き存在でありながら、目だけはいいと見える」

弱い。おそらくこの男の言う通り、このみにも劣る私では、手も足も出ないだろう。

だけど、今までの戦闘の勘や僅かな殺気、気配の変化を感じる事は例えレベルリセットされようと無くならない。

弱くなった分だけ、危険に満ちたこの世界で生き残るために感覚が敏感になっているのだと思った。

額を流れる汗を拭いたかったが、それすらもこの男は許してくれないだろう。

こうして無数の刃に囲まれた状態では、このみの魔法も間に合わない。

私はそう判断し、この場で優先すべき事を口にしようとするが、

「……降参します。だから、二人の命だけは奪わないでください」

「タカ坊……」

彼が、降参を口にし、私達の前に立った。

両手を広げて立つ彼の背は、とても男らしいものに見えたが……同時にそれは、私達の無力感を知ら占めるものだった。

彼を助け、力に、盾になるはずの私達が……結果として足でまといになっている。

私が優先し、口にしようとしたのは……何に変えても、まずは彼の無事だ。

彼さえ居れば、キャンプ地に残った皆をまとめ、この男に対抗する力を集められるはずだ。

このみと一緒にあがけば、彼一人を逃がす時間稼げる、私はそう考えた。

「……タカ坊。ここはいいから、あなただけでも逃げて……! あなたさえ居れば……!」

考えを口にするが、タカ坊は私に首を振った。

……どうして……!

悔しさで唇を噛み締める。こんな時でも彼は、私とこのみの身の安全を第一に考えているのだ。

「たわけ。逃がすわけなかろう。しかし、余に平伏す判断の早さ、その決断の早さは認めてやろう」

兜の男が手を振ると、私達を取り囲んでいた無数の刃が消える。代わりに私達の足元に黒い首輪がどこからか降って来た。

「それを首にはめよ。余の牧場の家畜として飼ってやる名誉をくれてやる。断るならば、ここで肉塊に成り果てるがいい」

黒い首輪には、中心に赤い宝石が埋め込まれている。明らかに何らかの魔法の力が宿っている。

このみもタカ坊も、首輪を手には取ったが悩んでいるようだ。

かく言う私だって、家畜と言われてすんなり従うには人としての尊厳が邪魔をする。

「……ッ」

一番最初に首輪をはめたのは、タカ坊だった。私とこのみが目を見張るが、彼は重い表情で頷きを返すだけだ。

このみもタカ坊に習い、黒い首輪を身に付けた。二人の付けた首輪は赤い宝石部分が光り、何かの魔力が発動しているようだった。

二人だけに辛い思いはさせないと、私も首輪を手に掛け、首元へ当てがおうとすると、

「貴様は待て。もっと面白い余興を思い付いた」

私は軽々と兜の男に手を取られ、白い馬に乗せられた。

男は私の左腕に手を翳すと、僅かに淡い光を放ち、気付けば刺さっていた矢が粒子となって消え去り……私の左腕の出血が止まっていた。

痛みも無くなり、左腕は普通に動かせる。

「……どういうつもり?」

タカ坊とこのみは、黒い首輪を付けられたままだ。なのに、どうして私だけ付けず、さらには自分の後ろに乗せるのか。

私の腰には愛用の長剣だってある。隙あらば、簡単に切りつけられる距離だ。

「やめておけ。無駄だと理解しての奇襲は蛮勇だぞ。赤毛の雌よ。貴様にチャンスをやろう。他の家畜共と同列に扱うかどうかは、それが終わってからだ」

行動に移す前に読まれてしまえば、この男に従う他なかった。

しかし、私だけ馬に乗せた理由も、傷を直した理由もよく分からない。

タカ坊とこのみに駆け寄ろうと、馬から降りようとするが、

「やめよ。貴様はそこにおれ。従わぬのなら、その者達の首が飛ぶと知れ」

「……ッ」

そう制されてしまえば、二の句も告げない。

この男の先ほどの魔法ならば、いともたやすく実行されかねない。

渋々と、白い馬の背に捕まるように手を掛けた。

それに目を向けた男が、行くぞ、貴様らも付いて来い! と馬を歩かせながら、タカ坊達に指示を降す。

私が二人に目を向けていると、信じたくない事実を兜の男が口にした。

「ここに来る前、大量の雌畜生共を捕獲した。あ奴らも貴様らと同じように互いに庇いあっておったわ。怪物のくせに仲間意識とは、いやはや……見世物としては、あまり面白いものではなかったな」

……まさか……。いえ、違うわ。きっと久寿川さん達ではない。彼女達ならば、きっと逃げ仰せたはず。

軽口のように紡がれた男の話に、私は固く固く口を閉ざし、久寿川さん達の無事を祈った。

作品の感想はこちらにおねがいします
1
© 2014 pncr このサイト上にある画像・文章の複製・転載はご遠慮ください。
since 2003 aoikobeya