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彼女の後悔
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クマ紳士
ー4月8日ー


「初めまして、向坂環です。これからよろしくお願いします」

頭を下げて自己紹介した女に周りから、特に野郎連中から響かんばかりの拍手が贈られた。

クラスの女子共は、ひそひそと耳打ちしたり、綺麗とかスタイルいいとか口々に感想を述べていた。

かく言う俺も、その女の肢体を見て、興奮を抑えきれない。

……やべえ。すげえ美味そうだ。

上唇を舐め、目の前の極上の獲物に視線を這わせる。

少しキツめにも見える切れ長の瞳。流れていくストレートな長髪。真っ白な肌。

そして何より、その身体。


……でけぇ。制服のサイズ、合ってねぇんじゃねえの?

存在を強調するかのように、ツンと突き出た胸。女子の制服が拘束具のようにも見え、女が動く度に揺れているようだ。

……ミニスカもやべえな。尻もぷりぷりしてやがる。

突っ込み甲斐のありそうなケツ。叩きがいもありそうだと、自問自答する。

「……よろしく、向坂です」

さらに運の良いことに、コイツは隣の席だった。

俺の隣に座り、挨拶するコイツに教室がざわめいた。

誰か席変わってやれよ、転校したばっかだから知らないよなー、など周りが好き勝手に騒ぎ始めた。

「はいはい、静かに! 心配するのは分かるが、先生達が見てるから大丈夫だ。何か問題があれば、すぐに席を離す。これでいいだろ?」

担任の先公が、クラスの奴らを宥めた。

周りの奴らも、その言葉で納得し、それなら……まあとひそひそ声に切り替えた。

「矢口! 変な真似するなよ! 即効、席を離すからな!場合によっては、"また"停学だぞ!」

先公が釘を指して来た。うぜえと思いながら、おざなりに返事を返す。

「ういーす。大丈夫大丈夫。変な真似なんか、しませんって」

俺の返事に納得はしていないようだったが、時間だ、体育館に移動だ、移動! と声を張り上げた。

その声に、クラスの奴らが重い腰を上げて、めんどくさそうに移動し始める。

新学期の開会式。高3になって、めんどくさい学校生活がまた始まると思ったが……。


「なぁ、お前」

他の奴ら同様、隣の女も席を立った。俺はその女の尻を見ながら、一つ問いかける。

「俺の女にならねえ?」

その言葉に、女の目が鋭くなった。相手を射殺すような、嫌悪の視線。

何度も向けられた事のある、慣れた視線だった。

「……あなた、煙草臭い」

身体を翻し、女は他のクラスの奴らに合流する。

楽しげに声を上げながら、俺の誘いを無視しやがった。

くっくっく、と一人で笑いをこらえる。

気の強い女だ。落とし甲斐がある。

開会式なんか出る気はなかったが……。


『……よろしく、向坂です』

「向坂、だっけか? やりてぇなぁ……」

ゆっくりと立ち上がりながら、廊下をぶらぶらと歩く。

頭の中では、さっきの気の強そうな女は、泣き顔になっている。

"今までの女"と同じように、穴を掘られるだけの雌。

俺にとっての向坂は、そんな印象だった。


―――――――――――――――――――

「よお、ちょっとツラ貸せよ」

放課後。先公が居なくなり、クラスの奴らが教室を後にして行く中、同じく教室を出ようとした向坂を呼び止める。

教室の出口側に身体を置き、退路を塞ぐ。

周りの奴らがざわめき出す中、向坂は俺を睨み上げていた。

……勝ち気だねぇ。さっきまでお上品な言葉使いをクラスの奴らにしていたのに。

歪んでいく口元を隠さず、挑発するように向坂を煽った。

「まさか逃げねえよな? 俺は、話があるだけだぜ? 転校初日で、右も左も分からないクラスメイトに優し〜〜く、声を掛けてるだけだぜ?」

なあ? と力を込めて、向坂の席の机を叩いた。

背後で、何人かが短い悲鳴をあげていた。

先公が来たらトンズラするが、やっぱり唾は付けて置きたい。この女に、恐怖を植え付けて置けば、のちのち事を進めやすくなる。

ここで逃げるようなら、後は楽だ。教師連中に見えないとこでヤレばいい。

教師の奴らに言い付けたって同じだ。この女は、俺が飽きるまで使うと決めたのだから。

さあ、どうすんだ? 向坂?

「…………」

見ればコイツは、後ろを振り向き、教室の窓から学校の校門へと視線を巡らせていた。

……どこ見てやがる?

おい! と語気を荒らげて肩を掴もうとすると、

「……手短に済ませて。待たせたくないから」


……誰をだ?

―――――――――――――――――――


「……ここならいいだろ」

体育館裏へと移動し、後ろをほいほい付いてきた向坂を見る。

向坂はつまらなそうに、辺りを見回す。

しかし、この女馬鹿か? どう考えたって昼間の流れから、俺が何をするか分かるだろ?

大体、なんで助けを呼ばねえ。なんで眉一つ動かさねえ。

……気に食わねえ。

「……それで? 話って? 手短にお願い」

俺の顔すら見ず、そっぽを向いたまま、話を進める向坂。

コイツ、完璧に俺を見下してやがる……!

学校でも、それなりの不良で通って来た。

女だって、この学校や他の学校の奴らを何人か喰って来たんだ。

確かに身体は極上だが、傲慢な女はムカつく。

今日は挨拶だけにしとくつもりだったが、気が変わった。

先公が来ようが関係ねえ。この女に二度と舐めた口が聞けないようにしてやる。

恐怖で、醜く顔を歪ませて、懇願するまで……その綺麗な顔に消えない傷を付けてやる。

「……話あったがよぉ、まずてめぇの態度が気に食わねえ。この場で犯してやってもいいんだぜ、ゴラァ!?」

大声で怒鳴りつける。こうすれば大抵の相手は萎縮するし、身体を恐怖で震わせる。

この女も……、

「……そう。ごめんなさい、以後気をつけるわ。じゃあ」

「は?」

向坂は、何の反応もしなかった。

無反応。無関心。まるで、俺をそこらの石ころか何かを相手してるみてえにあしらい……背を向けた。

スタスタと、この場を立ち去ろうとしてやがる。

……は? あ"? はァァ!?


「てめぇ、馬鹿にしてんのか!? 話はまだ――」

肩を力任せに掴もうと右手を伸ばす……が。

「――――!?」

世界が、廻った。

気付けば、俺の身体が地に伏せられ、右手を捕まれていた。

投げられた、のか? 俺が、無様に?

「……話は聞いた。私の時間は割いたわ。無駄だったけど。"あの子達"を待たせたくないの。これ以上、私を煩わせないでくれる?」

いきなり饒舌に話し始めた向坂に、頭が混乱する。どうやら関節を決められてるらしく、ピクリとも動かない。

頭を地面に押さえつけられ、顔も見えない。

ふざけんな! ふざけんな!? 俺が、この俺が!?


「離せゴラァッ!? てめぇ、こんな真似して、マジでタダで済むと思うなよ!? ぜってぇ、タダじゃ置かねえ! 俺を誰だと――」

精一杯の威嚇をする俺。これだけ騒げば、誰かが来るだろうし、コイツだって内心ビビるはずだ。

いや、もしかして今も顔は見えねえが恐怖に怯えて……。

「……時間を取らせないで、って言ったわ」

――――ボキッ!

……あ? あ、あ、あ、あァ!?

「いでぇぇぇぇッ!? いでぇぇぇぇッ!?」

押さえつけられていた腕を離された。
しかし、全く右腕が上がらない。

「大袈裟ね。肩の関節を外しただけよ」

痛みに耐えきれず、のたうち回る俺に、ゴミを見るような視線を送る向坂。

涙目のまま、何かを言ってやろうと口を動かすが……言葉にならない。

ぱくぱくと、金魚のように虚しく口を動かすだけ。

「先生は呼んで置いてあげる。さっきまで私達を見てた生徒も何人か居たし、すぐに来るでしょうけど……」

向坂は、距離を取っていた俺に近づき、身体をしゃがめて俺の耳元で囁いて来た。

「これに懲りたら、二度と私に話しかけないで。もし私が不愉快だと感じたら、次はどうするか分からない……いいかしら?」

抑揚のない声で囁くこの女に、言いしれない恐怖を感じた。

身体の震えが止まらず、ガチガチと歯が鳴る。

無言で何度か頷きを無様に返した。

「……ありがとう。明日から、よろしく矢口君」

そう言い残し、今度こそ向坂は歩き去って行った。

あの女の言う通り、教師の奴らが何事かと俺に声を掛けて来た。

俺は無様に泣きわめき、泣き叫んだ。

しかし、女にやられたなんて言えるはずもなく。

……あんな化け物、二度と声を掛けねえ!

あれは、女の皮を被った何かだ。

今日1日で、俺の向坂に対する印象は大きく変わってしまった。

痛みに支配された俺は、向坂だけには手を出すのを止める。


これだけを、深く深く心に刻んだ。
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