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ラーセニ―
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2016/04/09
作:ブルー
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 7月――。
 教室を出たところで木地本にばったり会った。
「よお、小笠原。いっしょに帰らないか」
「悪い。先約があるんだ」
「なんだなんだ、今日も森下といっしょか」
「まあな」
「おまえらほんと仲がいいな。ここのところ毎日だろ」
「おかげさまでな」
「ハハッ、がんばれよ」
「またな、木地本」
「ああ、森下によろしくな」
 木地本と別れると、急いで校門に向かった。

「森下さん」
 名前を呼ぶと校門のところに立っていた森下さんが明るい笑顔で振り返った。赤い(スカーフっぽい)ネクタイをしたセーラー服、長いポニーテールに黄色いリボンをしているので後ろ姿でも一目でわかる。
 森下さんは学校の男子に人気がある女子生徒で、立ち姿がスッとしていて映画のヒロインみたいに美人だ。バスケ部ではフォワードのポジションをしていてスタイル(体格)もいい。こうして森下さんと話しているだけでも他の男子の視線を痛いぐらい感じる。
「待った?」
「ううん。私もいま来たところ」
「今日は商店街のほうに寄り道しようよ。美味しいたこ焼き屋さんを見つけたからさ。きっと森下さんも気に入ると思うよ」
「うわー。すごく楽しみ」
 とても表情が豊かで、森下さんが喜ぶとこっちまで嬉しくなる。
 この間は夏祭りに2人だけで出かけた。今度は海に行く約束もしている。

「じつは、金山先生にモデルになってほしいって頼まれてるの」
 商店街への道を並んで歩きながら森下さんが話してくれた。
 俺と森下さんの距離は肩が触れあうぐらい近い。森下さんのいい匂いがしていた。
「金山って美術の?」
「うん。以前からいわれてたの」
「モデルって油絵のモデルだよねえ」
「今度のコンクールに応募する作品だって。どうして私なのかしら」
「決まってるよ、森下さんが美人だからだよ」
「私が? そんなことないわよ」
 森下さんはポニーテールを揺らしてぜんぜんというふうに笑っていた。
 そういう飾らないところも彼女の魅力の一つだ。
「引き受けるつもりなの?」
「うーん、小笠原くんはどう思う?」
「俺は森下さんの画を見てみたい気もするけど」
「ヌードモデルだったらどうしよう、な~んて」
「ヌ、ヌード!?」
「冗談よ、冗談」
「おどかさないでよ、森下さん」
「ふふっ、小笠原くんって面白い。そんなわけないでしょ」
「そうだけどさ。金山ってインテリっぽくて女子に人気があるだろ?」
「たしかにカッコイイわよね。大人だし」
「森下さんでもそう思うんだ」
「もしかして心配?」
「心配といえば心配かな」
「ふふっ、ありがとう。ちょっと嬉しいかも」
「嫌なら断ったら」
「でも、文化祭のときに手伝ってもらった恩もあるし、いまさら断りづらいわよねぇ」
 結局、森下さんは引き受けることにした。画のモデルぐらいたいしたことないって考えてたと思う。

 土曜日、俺は心配なので付いて行った。
 場所は美術室だった。休日なので廊下の端っこまで声が聞こえそうなぐらい静まりかえっていた。
 部屋の真ん中には白いシーツが広がったカウチソファーが置かれて、その正面にイーゼルと椅子があった。イーゼルには真っ白いキャンバスが立てかけられていた。他の椅子や机はすべて教室の後方に片付けられていた。
「美術室って音楽室と同じで独特の匂いがすると思わない?」
「トルエンの匂いじゃない」
「トルエン?」
「シンナーの一種だよ。油絵の絵の具を溶かすのに使う」
「もしかして吸ったことあるの?」
「あのさあ」
「うふふっ。冗談よ、冗談。ねえ、あの胸像誰だか知ってる?」
「ダビデ?」
「ざーんねん。ヘルメスよ。ギリシア神話の」
「森下さんって星とかそういうのに詳しいね」
「あっ、金山先生」
 準備室のドアが開いて金山が姿を見せた。シャツの袖を肘までまくってベージュをスラックスを履いていた。メガネをかけてて、わりとハンサムだ。女子に人気があるのもわかる気がする。
 森下さんの横にいる俺をいちべつした。
「君は……?」
「森下さんの付き添いできました」
「小笠原くんだったかな」
 金山はメガネのブリッジを指で押し上げた。なんとなく嫌味な感じだ。
「後ろで見学してていいですよね?」
「たしか美術は受けてなかったと思うけど」
「森下さんがどんなふうに描かれるのか興味があるんです」
「僕はべつにかまわないよ」
 一瞬メガネの下の目付きが不満そうな気がした。
「遅くなるといけないしはじめようか。森下くんはそこに座ってくれ」
「はーい」
 森下さんは両手は左右に置いて座った。上履きと白いソックスを履いた両足は揃えていた。
「硬いな。いつものはっちゃけた森下くんらしさはどこに行ったのかな」
「あたしはっちゃけてるかなぁ?」
「学校の男子たちがよく噂してるよ」
「ピースなーんて」
「ふざけないように」
「あはっ、先生に怒られちゃった」
「リラックスだよ」
「リラックスっていわれても」
 余計に森下さんが硬くなった気がした。
「肩の力を抜いて深呼吸してごらん」
 森下さんがゆっくりと深呼吸をする。
「君たちぐらいの年齢だと友達とカラオケに行くだろ」
「はい、よく」
「どんな歌を歌うのかな」
「いまはやりのアイドルの歌です。デュエットしたり、みんなで盛り上がるの」
 うまいなと思った。話題を変えたことで森下さんの表情に明るさが戻った。
「先生は他の女子も描いたりするんですか?」
「たまにね。描きたいと思えるモデルがいたらだけど」
「ふ~ん」
「すこし体を傾けようか」
「後ろ? 横?」
「ソファーに右肘をついて」
「こう?」
 森下さんは上半身を右に傾けた。ポニーテールも右に揺れる。セーラー服の肩にかかっていた。
「足をソファーにあげてもらえるかな」
 金山は右手に持った鉛筆を縦にして、デッサンのポーズを真剣に考えているみたいだった。
「自分の部屋でくつろいぐみたいに、こっち向きで寝そべるってわかるかな」
「ねそべる? ……こんなふう?」
 森下さんは右半身を下にしてソファーに横になった。
 金山が森下さんに近づいた。
「こっちの膝を曲げて、左足は伸ばしたほうがいいな」
「ちょ、先生の手が……」
 金山の手が足に触れて、森下さんが驚いた顔をした。
 俺も「おいっ!」と思った。
「まずかったかな」
「いきなりで驚いただけです」
「あとあまり笑わないように。写真じゃないよ」
「ですよね」
「ちょっと失礼」
「えっ??」
 金山は森下さんのスカートを半分ぐらいめくった。
 森下さんのバスケで鍛えられた太ももがあらわになる。色白でとっても健康的だ。
「やだぁ、先生っ」
 反射的に森下さんは手でスカートを押えるようにした。
 森下さんが俺をチラッと見た。俺は森下さんの太ももが目に焼き付いてドキドキしていた。
「勝手に動いたらデッサンにならないだろ」
「でも、下着が見えちゃう」
「こっちからは見えないよ」
「見えてないって」
「女性的な部分があったほうが画に訴求力が出てくる。眠れるヴィーナスっていう作品を見たことないかい? ジョルジョーネが描いた」
「うーーん、知らないかも」
「モデルならこれぐらい我慢してもらわないと」
 森下さんは渋々納得した様子だった。スカートを押えていた手をどけた。
 金山はさらにセーラー服の裾をめくった。森下さんの運動で引き締まった腹部が見えた。
「疲れた表情をできるかな。頭は耳をそっちの腕に乗せる感じで」
「えっと……こう」
「左手はスカートの腰のところに置いて。指先は握るんじゃなくて緩めて」
「ここに?」
「もうちょっと顎は引いた感じで、こう。脚は崩したほうがいいな」
 金山がさりげなく森下さんの太ももに触れた。
 さっきのことがあるので森下さんは何もいわなかった。顔だけが赤くなっていた。
「とても綺麗な脚をしているね」
「……太くないですか? バスケをしてるから気にしてて」
「これぐらい肉付きがあったほうがいいよ」
「肉付きって」
「悪い意味じゃなくてね」
「う、うん」
「ポニーテールを後ろに。これで放課後の女子高生っぽくなった」
「ふふっ」
「森下くんも自分の内面をさらけ出してごらん。油絵は絵描きとモデルの対話でもあるんだよ」
「えー、いきなりむずかしいなぁ」
 森下さんはノリもいいし期待に応えようとしているのだろう。バスケでも個人プレイよりチームワークを重視している。俺はよくバスケ部の練習を見学(覗き)しに体育館にいくので知っている。
 金山が赤いネクタイをずらして、セーラー服の胸元緩めても森下さんはじっとしていた。
 その感じからしてモデルの扱いに慣れているのがわかる。
(うわー、なんかモデルをしてる森下さんって見てるだけでドキドキしてくるな)
 いつもの清純で活発な森下さんとは違う一面を見ている気がした。

「そのまま動かないように。いいね」
 金山はキャンバスの前に立った。
 鉛筆でデッサンを始めた。スラスラと指先を動かしただけで真っ白だったキャンバスには森下さんの姿がどんどん浮かび上がってきた。
(すげええ、だてに美術教師をしてないな)
 素直に感心した。たしかに座っているより、こっちのほうが画に引きつける力がある。
「先生、まだ?」
「書き始めたばかりだよ」
「あとで見せてもらえるんですよね?」
「完成したらね」
「えええー、完成したらなんですか」
「未完成品は見せない主義なんだよ」
「はー、ずっとこのままの姿勢は辛いかも」
「待ってよ。右足は床に下ろしてみようか。あと左膝を立てて」
「えっ、でも、そうすると……」
 森下さんが言葉に詰まる。膝を立てれば、後ろで見学している俺にスカートの中を見られてしまうと思ったのだろう。
「あ、あの……」
「どうしたのかな?」
「小笠原くんが」
「なるほど。悪いけど君は廊下に出ててもらえるかな」
「俺ですか? べつに邪魔してないのに」
「モデルの気が散るそうだよ」
 森下さんは申し訳なさそうな表情で「ごめんなさい。小笠原くんは外で待っててくれる? すぐに終わると思うから」と言った。
 森下さんにそう言われたらどうしようもない。
 俺は「ジュースでも買いに行ってくるよ」と言って廊下に出た。
 売店のある1階には行かずにドアのすぐ側に立って中の様子を窺った。
「これでいいかな」
「はい……」
「もっと膝を立てて、視線はこっちへ。スカートは直さないように」
「……」
「窓の光で陰影がいい感じになってる」
 ドア越しに2人の会話が聞こえてきた。
「こうするよ」
「えっ?? 聞いてないっ」
「このほうが森下くんの魅力が最大限に引き出されるよ」
「でも……」
「僕の指示に従ってくれるよね?」
「う、うん……先生がそうしたいなら……」
(森下さんは何に驚いたんだ? 返事が弱くなった気がしたけど)
 声だけなので、どうなっているのか無性に気になった。
 ほんの少しだけドアを開けた。隙間から部屋を覗いた。
 思わず声が出そうになった。
 カウチソファーに横向きに寝転がって、言われた通り左膝を立てている森下さんの姿が見えた。
 スカートがほとんど下がって、太ももどころか純白のパンティーまで全部露わになっていた。さらにセーラー服もよりめくれてブラジャーの下半分が見えていた。
 森下さんはちょっと照れくさそうな笑顔を金山に投げかけていた。
(森下さん、どんどん大胆なポーズを取らされてるじゃん)
 興奮した。瞬きをするのも惜しいぐらいに。
 気のせいかわずかに森下さんの顔が上気しているように見えた。
「見違えたみたいだ」
「ほんとですか」
「もっと心が自由になった森下くんを見てみたいな」
「えー、いまでもかなりはずかしいのに」
「コンクールのためだよ」
「んー……」
 金山が森下さんに近づいた。
 森下さんの肩から腰ににかけてラインを優しくなぞる。
 そうして森下さんの耳元に囁きながらブラの胸を触っていた。
「せ、先生……」
「なにかな、森下くん」
「くすぐったい」
「脚だけじゃなくて、胸もいい形をしているね。僕の目に狂いはなかった」
「あん、はずかしいです」
「僕にまかせてごらん」
(俺でもまだ触ったことないのに、いつまで森下さんの胸を触っているつもりなんだ!)
 興奮しすぎて頭をドアにぶつけてしまった。2人が同時にこっちを見た。
 金山がこっちに近づいて来て、目の前でドアがしまった。内側からカギをかける音がした。
(なっ、カギをかけることはないだろ!)
 取っ手に手をかけてみてもドアはビクともしなかった。

 ドア越しに「森下さん」と呼んだ。
 森下さんの声で「ジュースを買いにいったんじゃなかったの」と聞こえた。心なしか突き放したような声だ。
「それはその……」
「覗くなんて小笠原くんらしくないわ」
「ごめん。俺は森下さんのことが心配で」
「図書室で待ってて、ね?」
「けど……」
「心配しなくても先生もいるんだし」
 だから余計に心配なんだと俺は思った。
 とりあえず「じゃあ、そうしてるよ」と返事をしてその場を離れる振りをしてすぐに戻ってきた。
 やはり森下さんのことが心配だ。ドアに耳をくっつける。

「いなくなったみたいだね」
「先生、すみません」
「べつに君が謝ることじゃないよ」
「彼も悪気はなかったと思うし」
「彼のどこが気に入ったのかな」
「……やさしいところとか」
「やさしいか」
「他にもいいところがたくさんあるんです」
「とにかくいまはデッサンに集中するんだよ、いいね?」
「はい」
 話し声が聞こえなくなった。
 金山はキャンバスに向かって下書きをしているのだろう。
 秒針の音が聞こえるような気がした。
「森下くん」
「はい?」
「……のみがあるんだけど……かな」
「なん……か」
「……ほしいんだけど」
「えっ、……って……」
(くそ、肝心なところが聞こえない)
 耳を澄ましても2人の声が小さすぎてところどころ会話が聞き取れなかった。
 ただ森下さんの声のトーンからして深刻そうな気がした。
 俺が飲み込んだ唾の音まで聞こえそうなぐらい重苦しい空気が流れる。
 なぜか衣擦れの音がした。まるで来ている服を脱ぐような。
(カーテンでも閉めたのか??)
 それだとカーテンがレールの音がするはずなのにしなかった。
「ぜん……ぎました」
「いいよ……ごく綺麗だ。こんなみりょ……だかははじめ……だよ」
「や……すご…はずかし……」
「…かしがらずに…んぶ……せて」
「…め、……をまともに見ら……わ」
「…っき…ポー……」
「はい……」
「…いたん…ざをた……ごらん」
 聞き耳を立てているだけでは我慢できない。
 周囲を見回して、美術室が覗けそうな場所はないかと探してみた。
 気づかれないように廊下を歩いて廊下側の窓(すりガラスで中は見えない)を見てみた。すべて閉まっていた。準備室のドアもしっかりと施錠されていた。
(外に回り込んで……って、ここは3階だった)
 つまり美術室は完璧な密室だ。金山の邪魔をする者はいない。
(まだ終わらないのかよ)

 美術室の中から物音が聞こえた。荷物が床に落ちるような(たぶんソファーの足が床に当たった)音がして、森下さんの小さな声で「いや、ダメですっ、先生っ」と切羽詰まった感じだった。それと密やかな音だ。絵筆の先でコップの水を優しくかき混ぜるような。
「……大きなこ……すと他のにんげ……かれるよ」
「で、でも……んなこと……ンっ」
「ちょっと……するだけだよ」
「ァ、ァ……」
「ほら、森下くんのちく……がなってきた」
「う、うそ……せ、先生っ……」
「……こを……すると……じるだろ?」
「あっ……んっ、やめてぇ」
「……感じだ……もっと素直に……のちからをぬ……ごらん……」
「ーーっ、……じられない……こんなのはじめ……ンン」
 弱くなっていった森下さんの声がついに聞こえなくなる。
 かわって艶めかしい息づかい。その息づかいもだんだんと荒くなっていく。
(おかしすぎる。森下さんの声が色っぽくないか??)
 ドアの向こうで大変なことが森下さんの身に起きているんじゃないかと心配になった。
 ドアを叩いて、「森下さん、なにかあったの?」と呼んだ。
 急に部屋の中がシーンとなった。
 間があって、森下さんが「へ、平気よ……なんでもないの」という焦った様子の返事があった。
「様子がおかしかったけど」
「えーっと……それは」
「ほんとのことを教えてよ」
「足がつって、先生に擦ってもらってたの」
「足がつった?」
「う、うん。慣れないポーズをずっとしていたせいね。もうおさまったわ」
「念のために鍵を開けてくれない? 森下さんの無事が見たいからさ」
「だ、だめよ……いま先生のデッサンが仕上げのところなの」
「けどさあ」
「あと少しだから、ね?」
「もし何かあったら俺を呼んでよ? ここにいるからさ」
「うん、ありがとう……」
 それでまた静かになった。
 でも、その後も水を混ぜるような音と、森下さんの「――アンッ」という吐息にも似た息づかいだけが聞こえていた。
 もしかして、森下さんは金山にいやらしいことをされているのでは――。妄想が次から次に浮かんだ。胸や大事な場所をあられもない姿で金山に舐められている?? 森下さんはそれを俺に見られたくなくて言えないのではないのか。金山ははじめからそのつもりで森下さんをモデルに指名したんじゃないのかと思えてきた。学校で一番美人な森下さんを狙って!
(まさか森下さん感じてるんじゃ)
 森下さんだって普通の女子高生だ。エッチなことをされると気持ち良くなることもあるだろう。
 だから、いままで聞いたことないような切ない声を……。
 そう考えると急に息が苦しくなった。
 ドアの前を一歩たりとも動けない。1分が1時間ぐらいに感じた。

 ・
 ・
 ・

 ようやくドアの鍵が開いたのは、森下さんの切ない息づかいが聞こえなくなってしばらくしてからだった。
 ドアを開けに来た金山を押しのけて教室に飛び入る。
 目にした先には、美術室を出たときと変わらない光景がそのままあった。
 森下さんはソファーに両足を揃えて座って、両手でポニーテールのリボンを結び直していた。
(なんだこの違和感……俺が入ってくる直前に制服を着たみたいな)
 セーラー服のネクタイも微妙に曲がっていた。それ以外はいつもの森下さんと変わらない。顔が少し赤らんでいるぐらいだ。
「森下さん?」
「え、あっ……小笠原くん、お待たせ」
「なんともなかったの?」
「べつに……? 私はここでじっとしていただけよ」
「……足がつったんだよね?」
「そう、そうなの! すごく痛かったんだから!」
 森下さんの反応がどこか変な気がした。妙にテンションが高いというか俺の目を見ていない。
(笑ってごまかそうとしている??)
 足が震えた。
 森下さんの明るさが逆にヌードになっていた事実を俺に突きつけている気がした。
 しかし、それを確かめる方法はない。森下さんが2人きりの美術室で金山に何をされていたかも。
「森下のおかげで今回はかなりの自信作になりそうだよ」
「いつぐらい完成しそうなんですか?」
「これから本格的に塗りもあるし、2週間ぐらいは先かな」
「そんなかかるんだ」
「モデルが頑張ってくれたから僕も頑張らないと」
「うふふっ、そうですね」
「気をつけて帰れよ」
「はい。お先に失礼します。
 ねえ、小笠原くん、帰りましょう?」
「う、うん……」
(いま金山の奴、森下さんのことを森下って呼び捨てにしなかったか?)
 2人の間にある空気感が変わった気がした。
 キャンバスには布がかけられていて画を見ることは出来なかった。
 美術室を後にしながら、あの布の下にはどんな森下さんが描かれているのかすごく気になった。
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