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マイティストライク
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2014/07/18
作:ブルー
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 この間のことだ。
 仕事が早くきりあがったので、ひさびさに瑞穂の大学に遊びに行くことにした。

 瑞穂の大学は、電車を乗り継いだ先にある。
 緑が目に染みる広大なキャンパスを、私服や白衣や剣道やアメフトの格好をした大学生たちとすれ違い、テニスコートを目指して歩いていると、タイミングよく瑞穂がサークルのクラブハウスから出てきた。
 ラケットを手に、高校のときと同じ白色のテニスルックに着替えていた。

(そういえば、よく稔とテニス部の練習を覗いてたなあ)

 青空にはえる瑞穂のテニスウェア姿に、悪友とバカばっかりやっていた高校時代を思い出した。
 ヘアバンドをした栗色の長い髪が背中でさらさら風に揺れている。スッとした物静かな立ち姿。愛らしい瞳がぱっちりとして、スカートから伸びた肉付きの良い色白の太ももが夏の砂浜みたいにとてもまぶしい。腰がモデルみたいにくびれてお尻がプリンとしているので横だけでなく、後姿もすごくキュートで色っぽい。スタイルがいいのでどんな服装も似合うが、瑞穂はやっぱりテニスウェア姿が一番って気がする。高校のときからその清純な容姿と明るい性格で学園のマドンナとして男子に人気があったが、大学入学と同時に俺のボロアパートで半同棲生活(もちろん瑞穂の両親公認だ)をはじめたせいか、いまではグッと大人びて誰もが認めるミスキャンパスとして立派に成長している。

「よお」

 俺は背中に声をかけた。
 長い髪をなびかせて振り向いた瑞穂は、俺を見て目を丸くして驚いていた。
「健太郎くん?? どうしてここに??」って言ってた。
 当たり前といえば当たり前だ。俺も瑞穂を驚かせるつもりで連絡なしで大学を尋ねたのだから。

 ラケットを大事そうに抱えた瑞穂はあわてた様子で、髪に手を当てて、それからテニスウェアの乱れを直していた。そういえばどことなく顔が上気していて、薄っすらと汗ばんでいるようにも見えた。まるでもう運動したあとかのようだった。
 クラブハウスはそんなに暑いのか、と思った。

「いまから練習だよな?」
「ええ、そうだけど……」
「だよな。なあ、見学してていいか?」

 クラブハウスの前で立ち止まって話しかけていると、後ろのドアが開き、中からよく日焼けした若い男が出てきた。
 あれって思った。そこは女子専用のクラブハウスだと思っていたからだ。もちろん部外者なので大学の詳しい事情などはわからないが。
 男は俺を見て、うざったそうな顔をした。眉が細く目つきが悪かった。浅黒い体にTシャツとスポーツメーカーのハーフパンツを履いてて、耳にはピアス、首には金のネックレスをしていた。髪型は茶髪のリーゼントで、見るからに頭の悪そうなドキュンという感じにしか見えなかった。その男が「どうかしたのか、瑞穂」と、瑞穂を呼び捨てにしているのを聞いてムカッとした。

(やけに馴れ馴れしいな、このヤロウ)

 俺も高校の頃はかなりヤンチャだったので、こういうチャラチャラした輩を見ると一発ぶん殴ってやりたくなるのが正直な気持ちだった。さすがに社会人になって我慢を覚え、大学でそんなことできるはずもないが。

「だれだ、こいつ」と瑞穂に尋ねた。瑞穂はどちらに先に答えるか迷っている感じだった。

「……えっと、サークルのD先輩よ」
「先輩?」
「うん」

 勉強のできる瑞穂と同じ大学に通っているふうにはとても見えなかったので意外だった。(あとから聞いた話だが、Dは近隣にある偏差値の低い三流大学の学生で、サークルだけ瑞穂の大学にモグリできてたらしい)

「あの、先輩……健太郎くんです」

 瑞穂がDとかいう先輩に俺のことを紹介した。

「へえ、こいつが例の男か」

 Dがジロジロと見てきた。ムカついていたのでガンを飛ばすと、ニヤニヤ笑ったのでさらにムカついた。だいたい”例の男”ってなんだ!!

「あの……健太郎くんに見学してもらってもいいですか?」
「あー、いいんじゃねー。それよか時間まだだし、茶でもいくべ」

 なんかドキュンな外見そのままのバカっぽいしゃべり方だった。

 とにかく俺と瑞穂とDの3人は大学の構内にある喫茶店に行くことになった。
 なんでDが一緒にいる必要があるのだろう。俺はブツブツ文句を言っていた。しかもDは喫茶店へ向う道のり、まるでいつもそうしているかのように瑞穂の腰に腕を回して、テニスウェアのスカートの上からお尻を触っていやがった。瑞穂は気まずそうな様子で、さすがに相手が先輩ということもあり何も言えないふうだった。

 喫茶店に着くと瑞穂の隣にDが座り、恋人の俺がテーブルを挟んだ向かい側に座るというふざけた配置になった。なにからなにまで先輩風を吹かす強引な男で、後輩の意見を聞くという感じがしない。俺はコーヒーで、瑞穂は紅茶、Dはコーラを注文しました。まあでも、横にウンコハエがたかってるだけだと思い、Dを無視して瑞穂と大学やサークルのことについて話していた。

「そういえば稔のヤツ、また美夏さんとケンカしたらしいぜ」
「へ、へぇ~……そうなんだ……んっ」

 調子良く話していると、途中で瑞穂の反応がやたら生返事になっていたのに気づいた。両手をテーブルに置いて、ややうつむき加減でプルプルと肩を震わせて、顔がすこし赤らんで見えた。

(い、いまはやめて……先輩……健太郎くんに気づかれる……)

 よく聞き取れなかったが、そんなふうな声がわずかに聞こえた気がした。

「どうかしたのか、瑞穂?」

 そう尋ねると、瑞穂は顔をあげて小さく首を左右に振った。ぎこちない笑顔をしていた。

「ううん、なんでもないの」
「顔が赤くないか」
「ちょっと昔のことを思い出して恥ずかしくなったの」
「ハハ、なるほどね。……あ、週末だけどさ、なにか見たい映画でもあるか?」

 俺が週末の出かける予定について尋ねると、瑞穂は困ったふうの顔をした。隣のDをチラリと見て、「えっと……」と言葉を濁した。
 Dは俺と瑞穂の会話には興味がないようにずっと逆を向いてマンガを読んでいた。でも、片腕だけは瑞穂の座っている椅子のほうに伸びていた。

「んっ……そ、その、予定が入って……」
「友達と遊びにでも行くのか?」
「うん……」
「どこへ?」
「新しいテニスの道具を買いに」
「なら俺もついていってやるよ。帰りにどっか食事でもしようぜ」

 また瑞穂がうつむいて肩を震わせているのが見えた。今度は小さく首を振って、シャンプーの香りとともにさらさらと髪を揺らしていた。気のせいか、(ダメ、先輩……いまはほんとにやめてっ)とヒソヒソとした声がしたような……。テーブルに置いた両手をぎゅうと握りしめ、耳まで赤くして下唇を噛みしめていた。前髪のかかるひたいがじっとりと汗ばんでいた。

「……ご、ごめんなさい。その日は大学の友達とだけで行きたいの」
「そうか。残念だなあ。瑞穂の友達も見たかったのに」
「ごめんなさい」
「べつにあやまるようなことじゃないだろ。また行けばいいさ」
「ええ……」

 沈んだ様子の瑞穂の手を握ろうとした拍子に、肘がスプーンに当たり床に落としてしまった。
 拾うために身をかがめて、テーブルの下に落ちたスプーンを探していると、目の前に膝をパッカリと開いて座っている瑞穂の下半身が飛び込んできた。
 スラリと成熟した女子大生の生脚、椅子の横にはラケットを立てかけられていた。育ちが良くて上品な瑞穂は、普段ぜったいにこんなふうに脚を開いて座ったりしない。電車に乗ってるときも勉強しているときも、かならず両足を斜めに揃えて膝をピッタリと締めて座っている。それだけにすごくギャップがあって扇情的なポーズだなと思った。風があるわけでもないのに不自然にテニススカートの前がお腹のところまでめくれ、ムッチリとした肉付きの良い太ももと膝頭、それにヒラヒラのついた純白のアンダースコートが丸見えになっていた。
 膝が小刻みに震え、薄っすら汗ばんでいた。驚いたことにDの手が瑞穂の太ももに置かれ、前後にねちっこくさすっていた。

 コイツ! と怒りがこみあげてきた。自分の彼女の太ももを触られていたら誰でも激怒する。もし人目のある場所でなければ胸ぐらを掴んで殴っていた。瑞穂のアンダースコートは小さくコンモリとして、端からピンク色をした細いコードのような物が伸びているように見えた。
 俺は、あれは何だろう?? と首をひねった。ショーツかナプキンの紐の類なのだろうと勝手に想像した。

 スプーンを拾い上げると、Dがマンガを読み終わったらしく背伸びをして大きなあくびをし「しょんべん行ってくるわ」と席を立った。
 うまく逃げやがってと舌打ちすると同時に、追いかけてトイレでボコッってやろうかとも考えたが、あんなバカをまともに相手をするのもアホらしいので見逃してやることにした。ようやく瑞穂とふたりきりになれてせいせいしたのもあった。もう戻ってくんなと手を振ってやった。
 Dが消えると瑞穂が気恥ずかしそうに微笑み、「驚いたでしょ、D先輩、あんなふうだから」と落ち着いた口調で話しかけてきた。俺はようやくいつものように会話できると安心した。

「なんだあいつ。ほんと大学生なのか。まるでヤンキーじゃないか。昔ならとっくにボコボコにしてやってる」
「ふふふ。懐かしい。そういうの健太郎くんらしいわよね。でも、ダメよ。ここは大学だし、乱暴なことはしないでね」
「瑞穂は暴力が嫌いだからな。昔ならいざ知らず、俺もそこまでガキじゃないよ」
「お願い、約束」
「はいはい、わかったわかった。けどさ、どうして瑞穂はあんなヤツと仲良くしてるんだ」

 その質問に瑞穂は視線を伏せて、すこしだけ暗い表情をした。

「それはサークルの先輩だし……それにああ見えて優しいところもあるのよ。練習もよく見てくれるし、終わったあとは家まで車で送ってくれるの」
「あいつに送ってもらってるのか」
「うん、練習遅くなることもあるでしょ。ひとりだと危ないし」
「そっちのが危なくないか。電話してくれれば俺が迎えに行くのに」
「だめよ、健太郎くんは……仕事が……はう、うくぅ」

 話していると、瑞穂が急に苦しみだした。顔を真っ赤にして下を向いて、両手を膝のほうに置いてモジモジしてた。尿意か腹痛を我慢しているように見えた。眉間に深い溝を作った。

「おい、大丈夫か、瑞穂」

 俺が肩に触れようとすると、瑞穂は体を大きく斜めに捩って避けた。どこかで、ブーン、ブーン、ブーン、ブーン、というミツバチの羽ばたきにも似た低いモーター音が聞こえていた。俺は後ろか隣の席の誰かの携帯電話がマナーモードで鳴っているのかなと思った。

「大丈夫、心配しないで……ん、はあ……」
「でも、体調が悪そうだろ。もしかして熱でもあるんじゃないのか」
「ち、ちがうの、レポート提出の講義が続いてて疲れてるだけよ」
「なんだ勉強のしすぎかよ。あまり根を詰めて無理するなよ」
「うん。平気っ――っっ!!」

 急に瑞穂が椅子の背もたれに寄りかかって仰け反り、まるで電気に打たれたように目を閉じてビクンビクンと体を揺らしはじめた。ん、んんーーーー!! と声を塞ぎ、さらさらの長い髪を後ろに垂らした。後ろに反ったせいで瑞穂の着ているテニスウェアにプックリと尖った乳首の陰影が浮き上がっているのが見えた。

(あれれ、瑞穂のヤツ、練習なのにノーブラなのか)

 ただでさえ瑞穂は胸が大きいだけにすごくエロかった。はあはあ、と肩で息をして、汗ばんで突き出した白くて細い喉もととか色っぽくて、ヘンな方向に勘違いしそうだった。

「やっぱり保健室に行ったほうがいいんじゃないのか」

 心配して瑞穂に話しかけると、Dがリーゼントをかきあげながらトイレから戻ってきた。

「そろそろ練習いくっぺ」

 ぐったりとしている瑞穂の肩を抱えて強引に立ち上がらせる。瑞穂は腰が砕けたみたいにフラフラだった。
 なんか釈然としないものを感じながらも、俺と瑞穂とDはテニスコートに移動することになった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 サークルの練習がはじまると、俺は邪魔にならないようにテニスコートのはじに立って眺めていた。はじめてきたときもそうだったが、さすが大学だけあってたくさんの大学生がいろいろな服装で思い思いに練習していた。テニスコートもバカみたいに広い。
 瑞穂に聞いた話によると、大学にはテニスサークルもいくつかあって、本格的な体育会系をのぞいた中では瑞穂の所属しているテニスサークルが一番人数が多いらしかった。それぞれのサークルが時間をずらしてコートを利用しているらしい。
 女子はほとんどがテニスルックをしていた。ボールをポーンとバトミントンのシャトルみたいに打ち上げている女の子もいた。男子はジャージやハーフズボンスタイルが多かった。何組かのカップルらしき男女がパートナーを組んで練習しているのも見られた。そんなわけだから終始キャーキャーワイワイとにぎやかで騒々しい。まるで夏のプールか海水浴場みたいだった。

 別にこれはこれでいいのだと思った。むしろこっちのが健全な大学のサークルって感じがした。男子と女子の比率は同じぐらいでたくさんの女子がいたが、その中でもやはり瑞穂が飛びぬけて目立っていて一番可愛かった。高校のときもそうだったが瑞穂は大勢の中に混じっても1人だけ特別に輝いて見えた。1人だけレベルもランクも違う別の大学の女子大生が混じっているようだった。
 唯一気に食わないのは、Dが瑞穂に付きっ切りで練習を指導していることだった。どうやらDが瑞穂のパートナーらしかった。いまは俺から離れたコートの横で、Dがうしろから瑞穂を抱きしめるように密着してフォアハンドのフォームのチェックをしていた。
 ラケットを持つ瑞穂の手を握って、もう片方の手をお腹あたりに当てて、腰をねじってスイングするようにラケットの軌道を教えていた。
 ラケットを振るたびに長い髪が揺れ、Dの腰が瑞穂のお尻に当たっていた。俺の位置からは瑞穂の表情もDの表情も見えなかった。
 でも、鼻息を荒くしてスケベ心丸出しで瑞穂に抱きついているのはあきらかだった。腰をやや落とした瑞穂の背中にピッタリと密着して、何度も何度もスイングしていた。そのたびに何度も何度も瑞穂のお尻にDの股間がグリグリ当たっていた。
 腰を使ったスイングと股間が摩擦するせいで、テニススカートのうしろがめくれて、ヒラヒラのアンダースコートが見えそうになっていたぐらいだった。執拗に太ももやお尻にタッチしていた。見ようによっては熱血な先輩による熱心な指導だともいえなくもない。

 唇を噛んだ瑞穂の横顔が夕日のように赤くなっているのが見えた。じっとり汗ばんだ表情で、かなりまいっている様子だった。それでも嫌とは言わないのは人目を気にしているからなのか、相手が先輩だからなのか、それともDにいつもこんなことをされているからなのか、俺にはわからなかった。
 瑞穂に両手でラケットを握らせてレシーブ体勢をさせる。もう一本のラケットを使って、グリップエンドで瑞穂の股間を捏ねくるように当てていた。耳元に一言二言囁いている。お腹に当てていた手がスルスルと動いて、瑞穂のテニスウェアの胸を持ち上げるようにユサユサ揉んだ。ノーブラの乳首を摘んで弄っていた。露骨にアンダースコートのお尻に自分のモッコリパンツを押し付けていた。

(あのドキュン野郎、俺を挑発してやがるな)

 後先を考えないドキュン男らしい低脳な態度に腹が立った。Dがニヤニヤ笑っているのが容易に想像できた。格好にビビッて文句をいえないとでも勘違いしているか、ケンカになっても勝てる気でいるのだろう。俺は苦虫を噛み潰したような気持ちになった。

(瑞穂も瑞穂だ、いやならいやってはっきり言えよな。らしくもねえ。叫べばすぐに助けてやるのに)

 俺は近くにいたサークルの女の子にDのことについて尋ねてみた。ソバカスのある子で、膝にタオルをかけてベンチに座って、スポーツドリンクのストローを口にしていた。

「あー、D先輩ね」

 なんかいかにもっていう反応だった。

「見たまんまかなあ。手は早いしスケベだし、まさに女子の敵って感じよね。女たらしでうちのサークルでも泣かされた子多いみたい」
「そんなにひどいヤツなのか」
「うん。D先輩って女の子と寝るのが目的でサークルにきてるようなもんなの。ほら、うちって女子が多いでしょ。とくに結城さんはずっと狙われてるみたい。練習中も練習が終わってもべったりだもん。彼女ミスキャンパスで目立ってるし、目をつけられちゃったのね。かわいそう」

 どうやら俺が瑞穂の彼氏ということを知らないようだった。説明するのもめんどうなので、そのまま話しにのっかることにした。

「あんなヤツ、サークルから追い出せばいいのに」
「まあねえ。女子はみんな賛成すると思うわよ。でも、べつに警察沙汰を起こしてるわけではないし、さすがにね……それに見ちゃったのよ、わたし」
「なにを?」
「結城さんが、クラブハウスで先輩とキスしているところを」

 突拍子もないその発言に俺は苦笑いで否定した。

「見間違いだろ」
「うーん、でも、この目で見たのよ。まだ練習がはじまる前の時間だったから他に誰もいなかったけど、忘れ物を取りにいったらね、結城さんとD先輩が抱き合ってキスしてたの。あれは普通の感じじゃなかったわ。だって自分で先輩の首に腕を絡めて、背伸びしてたもの。すっごい熱々だった。先輩は先輩で結城さんのお尻を触ってたし、どう見てもただならぬ関係って感じよね」
「ありえないよ、あの瑞穂が」
「わたしもそう信じてたけど、最近よくない噂も大学で流れてるの知らない?」
「よくない噂?」
「うん。ミスキャンパスの結城さんがね。D先輩と付き合い始めたって。車で胸を触られて、スカートに手を突っこまれてるのを見たって人もいるのよ」
「ふ~ん」
「あとね、ラブホテルの駐車場からD先輩の車に乗った結城さんが出てくるのを見たとか、練習がはじまる前のクラブハウスでいつもエッチしてるとか」
「アホらし」

 軽く聞き流しておいた。この手の噂というのはわりとよくあるのを知っているからだ。とくに大学のような閉鎖された空間だと根も葉もない噂が駆け巡り易い。さらに相手がミスキャンパスだとみんなこぞってありもしない噂を流すだろう。それがセンセーショナルであればあるほど噂という物は広がり易い。そもそもあの瑞穂が、見た目もドキュンなDとラブホテルに行くなんて天地がひっくり返っても絶対にありえない。

「なかなかユニークな情報ありがとう」
「あー、信じてないでしょー」
「いやあ、信じてる、心から信じてる」

 俺が笑いながらその女の子の前で頭をかいてると、テニスコートから瑞穂の姿が消えているのに気づいた。あたりを見回した。やっぱり瑞穂はいなかった。ついでにDの姿も見えなかった。

(あれ、トイレにでも行ったのかな)

 俺はそう思い、テニスコートに近いトイレに様子を見に行った。トイレから出てきた女の子に中に人がいるかと聴いてみた。
 その女の子はまるで不審者を見るような目つきで俺を見て、怯えた様子でいいえと小さく返事をした。そそくさと小走りに逃げていった。
 サークルのクラブハウスにも行った。誰もいなかった。食堂や売店や喫茶店や自動販売機のところにも行ったけど、瑞穂の姿はどこにもなかった。
 そうやってしばらく探していると、テニスコートの横の雑木林から瑞穂が1人で歩いて出てくるのを見つけた。

「探したじゃないか。どうしてこんなところから?」

 俺が声をかけると、瑞穂はドキッとした青ざめた顔をしていた。

「あ、あの……えっと……ボールがこっちに転がって、それを探してたの」

 どこがどうというわけではないけど、なんか挙動不審だった。ひたいの汗を腕でぬぐい、さりげなくテニスウェアのシャツを下に引っ張って服装の乱れを隠しているようにも見えた。
 よく見ると瑞穂の膝やスカートには草がついていて軽く汚れていた。それにシャツもスカートも派手にめくられたあとのようにシワが出来てヨレていた。顔はクラブハウスの前で声をかけたときのように赤く火照っていた。体力を消耗して疲れた様子だし、まるでついさっきまで激しい運動をしてたみたいだった。

「あれ、ここにヘンな汚れついてる」

 俺は瑞穂のスカートの後ろに何かドロッとした液体がこびりついているのを見つけて教えてやった。

「え、どこ??」

 瑞穂があわてふためいた様子で上体を捩った。
 ポケットからハンカチを取り出し、そこを何度も入念に擦って汚れを取り除いていた。その拍子にスカートがめくれ、いまさっき急いで履き直したみたいにアンダースコートが斜めにズレているのが見えた。しかもその下に身につけているはずの下着を履いてないようにも見えた。
 目の錯覚だろうか。まさかとは思うが、先ほどおかしな話を聞いたばかりだけに嫌な予感がよぎった。

「見つかったのか、ボール」
「あ、ああ、ボールね……ううん、見失ったみたい」
「……Dのヤツも見えないみたいだけど」
「え、先輩……さ、さあ……駐車場でタバコでも吸ってるんじゃないのかしら。ほら、キャンパスは禁煙でしょ」

 まるで周囲を気にするように大きな声でヤブのほうを何度も振り返っていた。あきらかに動揺した様子だった。話していても俺と目を合わせようとしない。髪に手をやりいじっている。いつも明るく元気でハキハキしている瑞穂らしくなかった。
 なんか微妙な空気が流れた。瑞穂は俺が話しかけるのを待っている気がした。
 瑞穂の背後に広がる樹木の生い茂ったヤブのほうを覗いてみたが、とくになにもないようだった。鬱蒼として日当たりが悪く、普段であれば誰も近づきそうにない。

「そろそろ帰ろうと思うんだけど、一緒に帰るか?」
「あ、うん。私、もうすこし練習あるから」
「わかった。先に帰ってるな。あんまり遅くなるなよ」

 俺は1人で大学をあとにした。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 その夜、モヤモヤとしてすっきりしない俺は、瑞穂がシャワーを浴びている隙に携帯をコッソリ見ることにした。
 真っ先にメールをチェックした。そこには俺の想像をはるかに超えるDからのメールがズラーッと並んでいた。携帯の画面が埋め尽くされるとはこのことだろう。一番古いのだと瑞穂が大学に入学した年からだった。
 それから見た。

【サークル慣れたか? わからないことがあったらなんでもこの俺に聴くように(w】

 まだ瑞穂がサークルに入ったばかりのようだった。時期を飛ばして次のメールを見た。

【今度、サークルメンバーで飲み会どうよ?】

 ちょくちょくというか、かなりしつこく瑞穂にメールを送っていたようだ。でも、まったく相手にされていないのが文面から伝わってくる。
 瑞穂がDなどを相手にするわけがないのだ。これはスパムメールみたいなものだ。さすがにサークルの先輩なので着信拒否にはできなかったのだろう。
 そういえば昔、サークルにすごくしつこい先輩がいて困っていると瑞穂から聞いたことがあるのを思い出した。深刻そうではなかったし、瑞穂が男から言い寄られるのはいつものことなので気にもしなかったが、たぶんDのことだったのだろう。いまになって合点がいった。

【1回だけ、1回だけでいいからドライブ行こうぜ!】
【俺、ずっと瑞穂のことを考えてる。これって恋じゃねえ(ww】
【高卒の社会人の彼氏より、大学生同士のが釣りあうよ、ぜってー!】
【夏祭り一緒に行こうぜ。花火のよく見える特等席が取っといてやるからさ】
【ズバーっと高速かっ飛ばしてさ、瑞穂の水着見せてくれよ。海、いいぜ、海】
【ちーす。わかってると思うけどサークルの合宿100%来いよ? 先輩命令な】
【こんだけ頼み込んでるだろ。デートしろやあ、いいかげんよー】
【さすが瑞穂。ミスキャンパスやったな。俺も一票入れてやったからな。お礼は1回デートでどうだ?(ww】
【ラーメンどうよ。うまいラーメン屋知ってんだ、俺。ラーメンぐらいいいだろ?】
【瑞穂、スキー行くか? てか、滑れないなら俺がレクチャーしてやるぜ】
【うちでパーティするからこいよ。酒飲んでさ、パーッと騒ごうぜ】
【今年こそはもっと仲良くしようぜ。彼氏と別れたら一番に俺に連絡しろよ】

 季節を追って似たようなメールが並んでいた。ことごとく瑞穂に無視されていたみたいだった。
 どうにかして高嶺の花である瑞穂の気をひこうと、必死になってメールを打つドキュンなDの姿が浮かぶようで俺はゲラゲラ笑っていた。おかしくておかしくて腹がよじれそうだった。まさにいい気味だった。

(お前みたいなドキュン、瑞穂は永遠に相手にしないんだよ!)

 そう笑い飛ばしてやった。ところが、とある日のメールを読んで俺は一瞬で血の気が引いた。

【昨日はマジ感動した。まさかミスキャンパスの瑞穂とホントにヤレるなんてよ。さすが大学一の美人女子大生。スゲー気持ち良かったぜ。いままでヤッタ女の中で一番興奮した。約束通り彼氏には内緒にしといてやるよ。そのかわりまたヤロウな】

 シャワーを浴び終えた瑞穂が浴室から出てくる気配がして、俺は急いで携帯を戻した。
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